16
間一髪の所でブルックに助けられたウソップが地面に降ろされる。
ウソップが助けられただけでは無く、大量の塩まで手に入るとは風向きはまさにこちらへ向いてきたという所だろうか。
「ブルック、お前動けるのか!?」
「確かに……重症だったこの私。体を引き摺り厨房へ塩を探しに行きました処牛乳を発見しまして美味しく頂きこの通り!」
胸を張るブルックだったが元々が骨だけな為にまず重症かどうかの判断がにはつかなかった。
というかもう普段の姿が見たまま重症としか思えないような状態である。
まあ何はともあれ無事ならばそれで良いのだが。
「イヤ、どんだけカルシウム効いてんだ!」
「牛乳で骨折治りますよね、さん!」
「……私に聞かないでくれ。常識で測れない物事はもう十二分に頂いた」
こういう事は深く考えたら負けだ。この世界に来てからそれを嫌という程体感している。
そもそも牛乳を飲みました、はい骨折していた箇所が治りました、であれば医者など当然必要無い。
恐らくブルックなりの気遣いから来た発言だと思うがそれはそれで置いておく。
大ボスともいえる人物達と対峙している今、少しでも援護が欲しいところだ。
薄明るくなり始めた空が告げているよう夜明けまでの時間は残りあと僅か。
厨房への道は閉ざされ、目的が敵に知れてしまった今そう簡単に達成させてくれるとは思えない。
とれる作戦はたった一つのみ。
全員で出来る限りオーズを弱らせ、ブルックの持ってきてくれた塩を無理矢理にでもオーズの口に押し込む事。
勝敗を分けるのは如何にしてモリアの邪魔を防ぐかだろう。
既にその作戦をとると決めたらしいゾロとサンジがいち早く駆け出していく。
二人を傍目にして、真正面にオーズとモリアを見据えはただじっと考えていた。
オーズの体内に乗り込むからには何処かしら出入り口があるのだろうか。
あるとすればそれは口であろうという事は想像がつく。
だとしたらばオーズの口に塩を押し込んで、はたして効果が出ると言えるのか。
それこそ体内に乗り込んでいるモリアに塩を渡すだけになりそうな気がする。
ふと、疑問が一つ。
影を取られた人間は日の光に当たると消滅する、ブルックが以前目撃したと言っていたのでそれは確かなのだろう。
ではその場合残された影も同時に消滅するのだろうか。
本体が無ければ影は存在しない、だからこそモリアは本体を殺さずに生かしておく。
生かされた人間は当然死にたくないので日陰に籠り生活する。
だが、リスクが大きすぎるのではないだろうか。
影を取られた人間は大抵二日程度意識を失い、そのままスリラーバークから流される。
起きた時に影が無いと気付いたとして日向に出れば消滅すると知っていれば別だが、知らなかった場合簡単に出てしまうのではないだろうか。
そうすればせっかく強い人物の影を取っても没人形に戻ってしまう。
かと言って日の当らない場所に居続け彷徨うスリラーバーク内に残しておけば己の影を取り戻さんと強襲を受ける事は確実だ。
モリアの目的は一体何なのか。
強者の影を没人形に入れて最強の軍団を作ったとしてもそれは「いつ何時壊れるか」予測不可能な軍団である。
それこそ本体次第、その本体に予期せぬ不幸が舞い込まないとも言い切れない。
両刃の剣ともいえる軍団を作り上げ、果たしてモリアはどうしたいのかにはわからなかった。
考えている間にも仲間達が次々にモリアとオーズへ攻撃を仕掛けていく。
ウソップの放った特用油星にフランキーの炎が乗り、大きな炎の玉となってオーズの体を包み込む。
炎を防ごうと怯むオーズに向かい、今度はゾロが斬った塔をサンジの脚力でオーズへと飛ばす。
一発目はオーズの腹へ当たったが二発目以降は全てオーズに弾き返されてしまった。
塔を斬るゾロもサンジの脚力も見上げたものだが、それをいとも容易く弾き返すオーズの力もまた嫌になるほど凄い。
弾き返された塔の瓦礫を防ごうとが両手を地面について巨大な盾を錬成する。
傍にいたロビンとチョッパーを匿い衝撃に備え身を伏せた。
「まるで羽虫程度の扱いだな。今なら蟻の気持ちがよく理解出来る」
「本当ね。……あら、今度はウソップとフランキーが何か仕掛けるみたいよ」
ロビンの言葉に顔をあげたが辺りを見回せば確かにウソップとフランキーが何やらしているのが見えた。
随分と横長に大きいゴムバンドのようなものをウソップが引き、その中心にはフランキーが腰を据えている。
一体何をするつもりなのかと思っている間にウソップがゴムバンドから手を離しフランキーの体が豪速で宙を舞った。
どうやらウソップがいつも使用しているパチンコの巨大版らしい。
しかも弾丸はフランキーだ。
「自身を弾丸に見立てて決死の特攻か。捨て身とは泣かせるな」
「殺しちゃかわいそうよ、」
腕に仕込んである迫撃砲を構えたフランキーが豪速でオーズの腹部にいるモリアへと飛んでいく。
腹部を覆う部分が強化ガラスやプラスチックの類で出来ているとすればまず間違いなくフランキーの迫撃砲で壊れるはずだ。
だがあのオーズの巨体の中心に据えられており、尚且つあれだけ動き回って壊れないのだから相当な強度といえるだろう。
その事からして特殊な物を使っていてもおかしくはない。
しかし、フランキーの迫撃砲も海王類等に対し使える程の威力を持っている。
きちんと当たれば壊れる確率は五分五分といったところだろうか。
フランキーの体がどんどんモリアへと近づいていくが、モリアの表情はニヤニヤと薄笑いを浮かべているまま変わらない。
そんなものはオーズやモリアにとって全く脅威になどならないと余程の自信があるのだろうか。
勢いをつけて飛んだフランキーの体がオーズの腹部にあるモリアの正面に躍り出て、迫撃砲が放たれる。
距離はわずか数メートル。
だがしかし、フランキーの放った迫撃砲がオーズへ届く事は無かった。
たった数メートルしか離れていない場所から放たれた弾丸が届くまでにかかる時間はほんの数秒。
そのほんの数秒でオーズはひらりと軽やかに身を捩り、迫撃砲から逃れたのである。
「何て身のこなし……!時々忘れるぜ、あいつがルフィだって事!」
まさか避けられる筈等無いと思われる距離からの攻撃を逃れたオーズに対し仲間達から驚愕の声が漏れた。
そうだ、失念しかけていたがオーズはルフィの影を入れられて動いているのだ。
ルフィならば避けられても別段驚くような事ではないかもしれない。
ひらり、と身をかわしたオーズに驚いていたは妙な感覚に囚われ慌てて後ろを振り返った。
後ろには瓦礫と建物、どんよりと重いが薄明るい空、それ以外何も見えない。
だが、確かに何かを感じたのだ。
射抜くような、背中の一部に突き刺さるようなこの場にいない他者の視線を。
「どうかしたの?」
「いや……、正面ばかり見ていると飽きるからな。たまには後ろも見ないといけないだろう?」
首を傾げるロビンに対し、何でもないと笑ってみせるが足元に妙な緊張感が残った。
気のせいだと思ってしまいたいが、己の感覚が鈍っていないのであれば気のせいではないはずだ。
ごく最近同じ感覚を別の場所で味わっている。
スリラーバークに来る以前、ロビンがいなくなった直後にウォーターセブンで感じた視線に似ているのだ。
監視者の視線、とでもいうべきだろうか。
オーズとモリアを前にしても尚感じる程なのだから……、そこまで考えては緩く頭を横に振って前へ向き直した。
余計な事を考えている余裕など今の自分にはないはずだ。
忘れろと念じて再びオーズとモリアへ視線を移せば体を捩ったオーズの足がフランキーを捉えているのが見えた。
声を上げる間も無く、フランキーの体がそのまま建物に向かって蹴り潰される。
「フランキー!!」
オーズによって建物に叩きつけられたフランキーの体が瓦礫と共に地面へ崩れ落ちていく。
更にもう一度踏みつぶそうとオーズが右足を振り上げた瞬間、とゾロが同時にフランキーの元へと駆け出した。
は羽を出し、ゾロは刀を構え険しい表情を浮かべてフランキーへと急ぐ。
もう既に意識を失っているであろうフランキーが自らオーズの攻撃を避けることなど不可能だ。
幾ら鋼鉄の体を手に入れたとは言え半身は肉体、いや、肉体でなくてもあれだけの体格差があるオーズの攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。
後ろからとゾロを呼ぶ仲間の声が聞こえたが、構って等いられない。
だが、次の瞬間とゾロはその場で立ち止まる事となった。
今まさにフランキーへ足を振りおろそうとしていたオーズの体が突如強烈な雷に襲われバランスを崩したのである。
自然発生したとは到底思えない程の雷がオーズを襲った理由は一つしかないだろう。
まさかと思いオーズの頭上を見上げてみればそこにはオーズの頭部程である大きさの雷雲が発生していた。
「んナミさぁーーーーん!!」
「ちょっと呼ばないでよ!気づかれるでしょ!!」
サンジの声に続き、聞こえてきた声は勿論ナミのものであり、ナミの声が聞こえた瞬間は危機的な状況であるにも関わらず心底安堵の感情に包まれている自分に気付いた。
しかしとにかくナミの姿を探すのは後にして今は急いでフランキーを移動させなければならない。
動けなくなっているオーズの足元を掻い潜り降り立ったがフランキーの体を引きずって再び羽を動かした。
気を失っている人間というのは存外重い。
元々フランキーとでは体格差があるので飛ばなければ移動させる事も敵わないだろう。
「ゴムゴムのー」
フランキーの体を引き摺って移動させているその時だった。
雷の衝撃から立ち直ったオーズがルフィの様な言葉を発し、高台に向かって腕を構えている。
オーズは確かにルフィの影が入れられているので発言は同じような事が多い。
だが悪魔の実の能力というのはルフィ本体にしかないオリジナルのはずだ。
恐らくオーズの視線の先にはナミがいるのだろう。
しかしオーズから高台までの距離はかなり遠く、いくらオーズとはいえその距離から拳を叩きつける事は出来ないと予測出来る。
そう高を括りオーズの意識がフランキーへ向く前に移動させてしまおうとが動き出した瞬間、オーズの腕がルフィと同じように伸びたのだった。
あまりに予想外な出来事に誰も彼も対応が遅れナミのいた高台が脆くも崩れ落ちていく。
いち早く立ち直ったはこちらへ駆けてきていたウソップにフランキーの腕を掴ませてその場から飛び立った。
叫び声をあげて落下するナミの姿を見つけ全速力で羽を動かし飛んでいく。
瓦礫と共に礫がを襲ったが怯んでいる暇などない。
ナミが居た高台の横、かろうじて崩壊を免れた場所からロビンの手が咲きナミの体を支えている。
その手を掴みナミの体を抱えたは今度こそ本当に安堵から胸を撫で下ろした。
09.09.23
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