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「じゃあわかった、帰るがその前にさっき寝ながら聞いてたんだ。……あんた」
「ん?」


ルフィに帰れと言われた青キジは意外にも素直にその要求を聞き入れると寝転んだままトンジットを指差した。
突然指差されたトンジットは突然名指しされたからだろうか、不思議そうな表情を浮かべている。


「おれは睡眠が浅くてね。話は大方頭に入ってる。すぐに移住の準備をしなさい」
「おいおっさん!こんな奴の言う事聞く事ねェぞ!こいつは海兵なんだ!!」


青キジの言葉にルフィが噛みつくよう異議を唱えると一瞬辺りは静まり返った。
トンジットとルフィは顔を見合わせ、呆然と辺りに視線を巡らせる。
両者の言い分を脳内で反芻したはぽつりと、海賊と海兵なら味方は海兵じゃないのかと呟いた。
トンジットは一般の民であり、自分達は海賊、青キジは海軍だ。
まず一般的に考えるのであれば普通に住まう民の味方は海賊で無く海軍である。
一瞬の間を置いてルフィの顔をじっと見ていたトンジットが口を開いた。


「いーんじゃねェのか?」
「いーんだ!そうだよいーんだ!普通海兵が味方でおれ達の方が悪者だよ」


あっけらかんと笑うルフィの頭にウソップが勢いよくチョップを入れる。
ルフィの言う事は尤もであるがは悪者にされるのは何となく嫌だなと思った。
世間一般にして海賊は悪者であり現在は海賊と共に行動をしているのだから致し方ないかもしれないが。


「あいつおっさんを助けてくれるって」
「んなコト言ってもムリだろそれは」


先程トンジットの言っていた話を思い出す。
潮の満ち引きで10の島を渡り歩く民族であり、移動手段は現時点で何一つ残されていない。
仲間達の場所へ辿り着く手段は潮が引いた際に歩いて移動するのみだ。


「要するに留守中に移住しちまった村を追いかけて3つ先の島へ行きたい。引き潮を待ち馬で移動したいがその馬が足にケガを負っちまったってんだろ、違うか?」
「……それがわかってんなら今は移住なんてできねェのわかるだろ」
「大丈夫だ」
「説得力ねェよ!!どうしても」


ゴロゴロと寝転んだまま話を続ける青キジは確かにウソップの言う通り説得力がなさそうだった。
しかし後方でまだ地面に膝をついたままのロビンは青キジの言葉を肯定する言葉を零す。


「……確かに、その男ならそれができるわ」


呆けているような、けれど言葉にはハッキリと確信めいたものがあるロビンの口調に全員が不可解な顔をした。
ロビンは青キジの事をよく知っている。そんな言葉である。


「じゃああんた、荷物纏めなさい。それが終わったら海岸へ移動する」


青キジはトンジットにそう言って再びぐったりと体を横たえたまま目をつぶってしまった。
様子からして本当に今の所ロビンにも麦わらの一味にも手を出すつもりは無いらしい。
とりあえず青キジの言う通りに麦わらの一味とトンジットとシェリーは海岸へ移動する事にした。
ロビンが出来るというのだから出来るのだろう。
トンジットの家に荷物はそう多くはなく、皆で手分けしてすぐに荷物は纏まった。
大きな荷車に荷物とシェリーを乗せ、全員で海岸まで歩く。
その間とロビンの表情は冴えなかった。
二人とも何かをじっと考えるような顔で俯いている。


「たまには労働もいいもんだ」
「ほんとだ、いい気持ちだ!お前なかなか話せるなー!」
「いやすまんな、手伝って貰って」


潮が引く場所へ辿り着いた時にはもう先程まであったルフィの厳めしい雰囲気はすっかり消え去っていた。
それどころかだらだらと歩く青キジに対し友好的な言葉までかけているではないか。
確かにトンジットを助けるという意味ではルフィの好意を煽る部分もあるかもしれないが、如何せん早過ぎである。


「結局打ち解けちゃった……」
「ナミ、いいのか?」
「……仕方ないじゃない。いざとなったら頼むわよ、
「無茶言うな」


ルフィだけではなく他の仲間達にも先程までの緊張感は感じられなかった。
わいわいと話し、笑い声すら聞こえてくる。
とロビンとナミはそれを少し離れた場所から静観していた。


「で?どうすんだ?このままおめェが馬も家も引っ張って泳ぐのか?」


ルフィの問いに青キジは、んなわけあるかと呟くとスタスタと海辺へ向かって歩いていく。
波打ち際にしゃがみ込んだ青キジはゆっくりと海面に手を触れた。


「少し離れてろ……」


青キジは海面に手をつけたまま、何かのタイミングを探しているようにみえた。
一体これから何が始まるというのか、全員が固唾を呑んで見守る。
じっと黙り込み全員の視線を一手に受ける青キジが海面に手をつけ始め数秒が経った時だった。
突然海面からとてつもなく巨大な海王類が顔を出したのである。

出現した海王類のあまりの大きさにの目が見開かれる。
がこの世界に来てから見た海の生物と言えばシーモンキーくらいのもので、シーモンキーも確かに巨大ではあった。
しかしこの魚類は違う。
シーモンキーはまだどこか可愛らしさを残していたがこの魚類は敵意を剥き出しにして襲い掛かろうとしているではないか。
海王類は鋭い牙をギラつかせ、しゃがみ込んでいる青キジ向かって大きな口を開けながら突っ込んでくる。
その鳴き声はまさに怪物と言ってもおかしくないほど恐ろしいものだった。


「何だあれは!?あんなに大きいのが浅瀬にいるのか!?」
「いかん!!この辺りの海の主だ!!」
「何だおい!お前逃げろォ!!」
「危ねェぞ!!」


ルフィ達が必死に青キジに呼びかけるも、青キジは全く動じる様子を見せなかった。
の背筋にゾクリと悪寒が這い上がってくる。
あの化け物のような生物に見向きもせず、じっとしていると言う事は青キジにとっては行動を取るに値しないものという事になる。
その事実が恐ろしかった。


「――――氷河時代」


青キジが一言呟き海面に拳を突っ込んだその一瞬。
見渡す限りの海面と海王類は一瞬にして凍りついた。
そのあまりの光景に誰もが大口を開け唐突に訪れた光景に驚きから言葉が出ない。


「海が……凍った!」
「自然系、ヒエヒエの実の氷結人間!これが海軍本部大将の力よ……!」
「過冷却……」


がぽつりと零した言葉に反応したのか青キジがちらりとを見つめた。
青キジの指先までもが凍りつき、真っ白い息を吐き出している。
は目の前で起こった現象が信じられなかった。
錬金術の比ではない。
規模が大きすぎるのだ。
仮にこれが過冷却現象だとしてもそこに至るまでの過程、至った結果はあまりに強大な力。
つまり青キジとはそういう男だという事だ。
その事実にはただただ背中に這い上がってくる恐怖をひしひしと感じていた。


「一週間は持つだろ。のんびり歩いて村に合流するといい。少々冷えるんで温かくして行きなさいや」
「夢かこれは……!海が氷の大地になった!!なぁシェリー、海を渡れる、村の皆に会えるぞ!!10年ぶりだ!!」


一面に凍りついた海を見て、トンジットは信じられないといった表情で喜びの言葉を呟いた。
麦わら船員達もまた、ただの海だった氷の大地を驚愕の表情で見つめるほかなかった。






過冷却についてはもうちょっと先のお話で詳しく説明が出る予定です。
07.04.03
修正 10.04.03


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