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ゴーイングメリー号はルフィとロビンの体の安静の為ロングリングロングランドに四日間停泊した。
その後何の問題も無く出航。
今日は航海三日目の朝、空は快晴、天候は春時々夏。
ポカポカ陽気の中船は何の障害も無く穏やかに進んでいく。


「んヌワーーミさァーーーん!じゃがいものパイユ、作ってみたのですマドモアゼル。よろしければ」


甲板で心地よい風を浴びていたナミにサンジがくるくると回りながら皿を差し出した。
それを受け取って口に運ぶナミ。


「んん、おいしい」
「幸せーーー!!!」
「うるせェなてめェ!眠れねェだろ!!」


ナミの言葉にサンジが全身で喜びを表現しながら叫べば昼寝をしていたゾロがその大声にキレてつっかかる。
なんて事は無い、いつもの光景である。


「はいはい、すいませんでしたサボテン君」
「何だと?ダーツコラ!」
「ダ……、何つった今てめェ!」
「ダーツまゆげ」
「あァ!?」


よくよく勃発するこの諍いは既に日常風景であり誰一人止めようとするものはいない。
皆おやつを食べるのに必死だ。


「……あァ、てめェ何かにかまってる暇ねェんだ。ちゃんとロビンちゃんにもこの愛のパイユを届けなければ」
「勝手に言ってろ」


全くもって変わらぬいつもの風景。
外に出ていないのはロビンとだけである。
その二人はどこにいるのかと言えば、女部屋に二人して篭りっきりだ。
年長組であるこの二人はおかしく思われないよう巧みに言葉を使って二人で女部屋に残っていた。


「それで、錬金術師さんの聞きたい事って何かしら」
「ロビンに回りくどい言い方をしても無駄な事はわかっているので単刀直入に聞く」
「どうぞ」


先程までは二人並んでデッキ部分から楽しげに笑う麦わらの一味を眺めていた。
雰囲気はいつもと変わりなく、それでも互いの腹には別の物が潜んでいる。
向かい合って座るロビンとはどちらも表情はいつもと変わりない。


「何を、……考えている?」
「さあ、何かしら」
「自己犠牲は美しくもないし意外なほど誰も喜ばないし思いの他物事は上手く運ばない」
「それは経験かしら」


あの日からロビンの様子が変わった事には気付いていた。
その原因は間違い無く青キジだ。
しかし、根本が分からない故ロビンの気持ちを汲む事は出来ない。
けれど何となく、本当に何となくだがはロビンに対し不安を抱いていた。
ここ二日程、ロビンの笑みがやけに儚く見えるのだ。

まるでそれは諦めた笑みとでも言おうか。
自分と良く似た、そんな笑みだった。


「まあな。ロビン、これだけは言っておく」
「何かしら」
「軍人が正義で海賊が悪というのは必ずしも有効ではない。私はそれを身をもって知っている」


自分が悪か正義かでは無い。
ただこの短い期間の中で知り合った麦わらの一味という海賊達は少なくとも自分の物差し上で悪でも正義でも無いのだ。
あれ程の事を言われた直後だ。ロビンとて思う所は多々あるであろう。


「絶対的な恐怖というのは根本的に自分で作り上げた思考の中に存在すると私は考えている」


は言葉を切るとベッドから立ち上がって窓枠に手を掛けた。
窓の外は水面が太陽の光を受けキラキラと輝いている。
そう、誰も自分の中にある恐怖という感情に立ち向かう事は非常に難しい。


「私は一人というのを幾度か経験してきた。人間生まれる時も死ぬ時も基本的に一人だ。だから生きている間くらい誰かを頼って信じてみてもいいと思う」


青キジが最後に放った言葉。
いつか手に負えなくなるというのはどういう事だろうか。
聡明なロビンの事だ。青キジと接触し恐らく何かしらを考えているのだろうと予想する。
が何かするなんて事は出来ない。
でも、ロビンの何処か暗い表情を見ているのは嫌だった。
自分では無く麦わらの一味はロビンを一人にはしないだろう。
を信じろというのは土台無茶な話だ。この一味に交じってほんの数日なのだから。
けれどそれなりに付き合いがあるらしい彼らなら頼ってもいいのではないだろうかと思うのだ。
拠り所の無くなった人間程、悲しいものは無い。


「余計なお世話、だな。……そろそろ外へ出るか。おやつの時間だろう」
「ええ」


部屋を出た二人は特に何も話さなかった。
とてロビンが何を考えているか等確信も無い状態だ。
本人が喋りたくない事を無理に聞き出す事はない。
自分で無くてもロビンが誰かしら信頼しているのであればそのうち自分から話すだろう。
不安が的中しない事だけを祈りながらは先を行くロビンの背中を見つめていた。

ロビンとが甲板へ繋がる扉を開けると甲板はわいわいと騒がしかった。
その雰囲気にとロビンの雰囲気も少しだけ和らぐ。


「ロビン、
「ロビン!気分はどうだ?寒気はあるか?」
「お蔭様で……だいぶいいわ、ありがとう船医さん」


ロビンが笑顔でチョッパーにお礼を言えばチョッパーは嬉しくねェぞ!コノヤローと言いながら妙な動きを繰り返す。
ようやくの顔にも笑みが戻った。
あれだけの事があったのに誰一人悲壮感を滲ませたりなどしない。
そういう雰囲気がとても温かくて心地良かった。


「でも無理しないで、ロビンまだゆっくり休んでいいのよ。大体同じ目にあったコイツがこんなにピンピンしてるから気兼ねしちゃうでしょうけど」


ナミがルフィの頬を引っ張りながらロビンを気遣って笑う。
チョッパーはまだ踊っておりの興味は完全にチョッパーへ向かっていた。


「ロビンちゃん何か、体のあったまるもん作ろうか!食欲はあるか?」
「じゃあコーヒーを頂ける?」
「喜んでー!!ちゃんは何かリクエストは?」
「私もコーヒーを。ブラックで」
「わかりましたー!ちょっと待ってて下さいねェー!!」


ルンルンとスキップでも踏み出しそうな勢いでキッチンへ入っていくサンジを見送る。
視界を移し海を見つめたはある一点に釘付けになった。
何かが泳いでいるように見える。
波間を縫うようにして何らかの生物が近づいてきているようだ。


「ロビン」
「あら、どうしたの?」
「海で生物が泳いでいるのは極自然な現象だよな」
「ええ」
「それはわかっているのだが、人間以外がクロールで泳ぐというのは如何なものかな」
「あら、ホントね」


とロビンの視線の先には確かにの言う通りに巨大なカエルがクロールで泳いでいた。
そのフォームの美しさはなかなかのものである。
どうやら他の船員達も気づいたようだ。
おやつを頬張っていたルフィ達が俄かに色めき立つ。


「カエルだ!巨大カエルだ!!」
「クロールで海を渡ってるぞ!」
「あんな急いでどこ行くんだ!?」
「おいルフィ、バカも休み休みに言え。カエルがクロールなんか……」
「してるぞ、ウソップ」


喜ぶルフィ達の言葉を聞いて鼻で笑うウソップだったがの言葉に対し訝しげに視線を海へ向ける。
ウソップの口から乾いた笑いが漏れ、一瞬の間を置いて目を見開いた。
事実本当にいるのだから仕方ない。


「追うぞ野郎共!オール出せ、漕ぐぞ!!」
「船体2時の方角へ急げー!」


どうやらルフィはあのカエルを追いかける気満々の様だ。
も確かに興味がある。
水の生き物であるカエルが海上を泳いでいたところで然して興味は湧かないが、泳ぎ方が問題だ。


「あんた達何勝手に進路変えてんのよ」
「それがおい聞いてくれよナミ!でっけェ体中ケガしたカエルを見つけたんだ!おれ達は是非それを丸焼きで食いてェんだよ!」
「食うのかよ!!」


珍しいから追いかけるという訳ではなくルフィはカエルを食べたいらしい。
食用として売られるものもあるが切迫している状況で無いならばあまり食べたくはなかった。
何よりもが見た事の無い程の大きさのカエルだ。
食べてしまうのは勿体無い気がする。


「カエルを食べるのは少々遠慮したいな」
「何でだよ!丸焼きだぞ!」
「鶏肉に近い味がするらしいがあれだけ珍しいカエルを食べてしまうのは勿体無いじゃないか」
「そういう問題かァ!!」


確かにあのカエルを丸焼きにすれば無尽蔵に思えるルフィの腹も膨れるかもしれない。
どうしても、というのであれば食物連鎖上致し方ないと諦められなくもないが、やはり勿体無い気がする。
早く捕まえようと意気込むルフィにもう一度進言しようとした所で双眼鏡を覗いていたナミが何かに気づき声を上げた。
ナミが言うにはこの先に灯台があるらしい。
カエル云々よりもナミの意識は既に灯台へ向けられている。


「カエルも灯台を目指してるわよ」
「ちょっとロビン!」
「ああ、灯台向かってまっしぐらだ。クロールにキレがあるな、あのカエル」
まで!!」


灯台のある方向を臨めば同時に勢いよく泳いでいくカエルの姿も目に映った。
遠くを眺めながら呟くとロビンの言葉にナミが、余計な事を言わないでと呟く。


「あまり食べたくないな、カエルは」
「そうね。あまり気持ちいいものではないわね」
「大丈夫ですよプリンセス達。この一流コックが美味しく仕上げますから」
「和んでるんじゃないわよっ!!」


その間にもカエルはぐんぐんと距離を伸ばし灯台へ近づいていく。
サンジからおやつであるじゃがいものパイユを受け取ったはそれを齧りながらカエルの行く先を眺めていた。
パイユはとても美味しく、隣にいたロビンもほんの少し嬉しそうに微笑んでパイユへ手を伸ばす。
ナミが目を吊り上げて怒ってもはただ笑っていた。
ゴーイングメリー号は一致団結した男達の力によってどんどん進路を変えていく。
目指すはカエルが向かう灯台。






何か会話ばっかり。後ちょっとでW7行っちゃいそうですね。

07.04.15
修正 10.04.03


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