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とナミはそれぞれ乗ってきたヤガラブルに飛び乗ると勢いよく手綱を引いた。
二人の表情は険しい。
「――とにかくお願いヤガラちゃん、最短距離でブル屋さんの方へ!」
「頼むぞ、急いでくれ。後で水水肉でも何でも買ってやるから」
二匹のブルはとナミの言葉に”ニー!”と返事をすると猛スピードで駆け出した。
1番ドックを背にとナミの乗ったブルは水路を進んでいく。
「!お金頼むわよ!2億返せって1億持って乗り込んだらカモにネギ添えに行くみたいな事になっちゃうわ」
「了解した」
「ゾロ達を連れてって思い知らせてやる!フランキー一家!!海賊から泥棒しようなんて最っ低!!」
「…海賊から泥棒するのはまぁ法的に問題はないだろうが、私達から物を奪おうとするとは許せないな」
「ウソップがうまく逃げてくれてるといいんだけど」
「ああ、金も心配だが……ウソップの身が心配だな」
とナミは顔を見合わせた。
ウソップはあまり戦闘に長けていないはずだ。
多勢に無勢の可能性もある。
二人は目線で頷くと手綱をぎゅっと握った。
猛スピードで水路を進んでいくブルは水門エレベーターを下り、裏町商店街へと差し掛かった。
賑わう商店街の水路をとナミの乗ったブルが辺りの人間を上手く避けながら進んでいく。
橋に差し掛かった時、が声を上げた。
「ナミ!あれを見ろ!」
「人集り……え…!?」
「「ウソップ!!」」
人集りが出来ている橋の下に走る路地に血だらけでボロボロになったウソップの姿があった。
完全に伸びている状態で体を横たえている。
とナミはブルから飛び降りるとウソップの元へ走った。
何事かと集まっている人達を掻き分けて目にしたウソップの姿は無残なものであった。
嫌な予感が的中してしまったのだ。
ナミももウソップの姿に表情を歪ませ怒りを滲ませる。
「ウソップ!!しっかりして!ちょっと…!!大丈夫!?ねェっ!!」
「ウソップ!しっかりしろ!」
「なァおい、君達もしや海賊か?」
「うるさいわね!ジロジロ見てんじゃないわよっ!」
ウソップの周りに集まっていた人々はウソップととナミを遠巻きに見つめている。
好奇心からか何からかはわからないが正直邪魔以外の何者でもない。
ナミがウソップを抱き起こすとウソップは荒い息を吐きながらも意識を取り戻したようだった。
薄っすらと目を開け、とナミの姿を確認したウソップは震える唇を開く。
「ウソップ!やったのはフランキー一家なの!?あいつら!?」
「そうだ…おれが弱ェもんで…!!……大金…全部奪られた……ナミ………」
「みんなに…会わせる顔がねェよ!!!」
とナミの顔を見て悔しさで涙をボロボロと流すウソップにとナミは息を呑んだ。
荒い息を吐き、大粒の涙を零すウソップの姿は痛ましくて二人の胸を締め付ける。
「やっとメリーを……!!直してやれるハズだったのに……!!みんなに会わせるカオがねェよ!!!……面目ねェ…チギショオ……」
大怪我をし、全身ボロボロになりながらも悔しさを口にするウソップにもナミも表情を一層険しくした。
「平気よ…ウソップ、お金なら必ずみんなで取り返すからっ!!」
「そうだウソップ。もう喋るな。傷にさわる」
「ひどいやられ方…きっと動かさない方がいいわ」
「ああ、ナミ。私はウソップの応急処置をしてから船に向かう。トランクを頼む」
「わかったわ!私急いで船に戻って加勢を呼んで来る。チョッパーも呼んで手当てして貰うから!」
「トニーに担架も持って来させてくれ」
「わかった。…この先にあいつらのアジトがあるらしいからそのまま叩き潰して終わりよ!!奪られたお金の事は心配しないで!!」
そう言ってナミはからトランクを受け取りウソップから離れると集まっていた人々に向き合った。
未だに人々は達をおっかなびっくりの表情で遠巻きに見つめているのだ。
ナミは唇を噛むと八つ当たり半分に叫んだ。
「ちょっとあんたら見せ物じゃないっつってんでしょ!?」
「そうだな。…お騒がせしてすまないが、あまり人に見られて気持ちの良いものではないので遠慮して頂きたい」
ナミの噛み付くような言葉との丁寧だが毅然と拒否を示す言葉に人々はゆっくりと場を後にした。
ナミが離れていき、路地に残されたは自分の上着を引きちぎるとそれを水で濡らしウソップの体に付着した血液を拭う。
そして残った上着の残骸を未だ出血を続ける部位に巻いてウソップを壁にもたれ掛けさせた。
手持ちの物が何もない状態ではと言えど治療のしようがないのだ。
治癒能力をある程度促進させる事が出来てもこの場合は意味がない。
ウソップはずっと涙を零しながらに「すまねェ…すまねェ」と謝り続けている。
はウソップの腕に布を巻きながら口を開いた。
「……ウソップ、ウソップは勇敢な海の戦士だ」
「…?」
「多勢に対し一人で立ち向かい、守れなかったものの悔しさに涙を流した。それは後の強さになり、誇りになる」
「……同情なら…やめてくれ」
「同情ではない。本心だ」
「…が……トランク持ってりゃ、奪られる事もなかったかもなァ……おれァみてェに…強くねェし……おれが強ければ…」
「ウソップ、……腕力や体術だけが強さじゃない」
「……?」
「
ウソップは強い男だ。
私は誰に聞かれても胸を張って言える」
「……」
「とりあえず少し休んでいてくれ。すぐにトニーが来るはずだ。ここにいてくれ」
布を巻き終えたはウソップに背を向けて走り出した。
止めておいたブルに飛び乗ると再び手綱を握って猛スピードで水路を抜けていく。
気がつけば手綱を握った手から血が流れていた。
いつの間にか強く握りすぎていたらしい。
手のひらに爪が食い込んでいた。
傷ついた仲間を上手く励ます事すら出来ない。
心についた傷の痛みを和らげる事すら出来ない。
彼らよりほんの少しだが長く生きてきた。
だがそんな経験は何の役にも立たないとはギリギリと歯をかみ締める。
ウソップの涙は今まで自分が流してきた全ての涙よりも重い気がした。
07.05.01
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