18
「…ガス臭くないか?」
「え?何」
「ガス?どっかでガス漏れでもしてんのか?」
「んなわけねェよ。おれが管理してんだぞ?キッチン」
「だから言ってんだろうが」
「んだとォ?このクソマリモ」
「……ウソップの必殺系でアレがまだ出てないな。となれば当然ガスであれば……まずいな」
「どういう事?」
「火器系統」
のぽつりと零した一言に、ギャーギャーと言い合っていた全員がピタリと止まった。
背中に冷や汗が伝う。
ウソップはパチンコを使って手裏剣をルフィに撃ち続ける。
その鋭い刃先はルフィ向って無数に飛び交い避けるだけでもかなり大変そうだ。
「ハァ…!!くそ…!!くせェし辛ェし……痛ェ…」
「言ったろ!おれはお前に効かねェ攻撃はしねェぞ!!一瞬もスキは与えねェ!!」
全ての手裏剣を避け切って荒い呼吸を繰り返すルフィ。
ウソップと戦う事に対する気遅れからか、本来の動きは出ていないように見えた。
だが、それはルフィが決めた事。
は黙って二人の戦いを見つめていた。
どちらが勝ってもどちらが負けても結果は変わらない。
体も心も傷つき、仲間を失うのだ。
この戦いを治める方法も、仲違いを解消する方法も見つからない。
が匂いに気づいて数秒後、ルフィの周りが煙に包まれている事に気づいた。
声をあげようとした時、ルフィもその異変に気づく。
「え?煙?」
「風貝だ。卵のせいで匂いに気づかなかっただろ」
「そこにガスが充満してるなんて」
ウソップの言葉に達の顔色が変わる。
やはりがかぎ取った匂いはガスだったのだ。
「ガス」
「まさか…!!」
「考えたな。ガスは空気中の酸素と混合されて急速な熱膨張によって…」
「そんなのはいいのよ!どうにかしてよ!!」
「可燃性の気体が一定の濃度にならないと爆発は難しい」
「いいから!!早く!」
「だからな、ナミ。あそこは既に充満している状態だから突風でも吹かない限り」
「何よ!?」
「もう手遅れだ」
「あの手袋で爆風を起こして飛ばせばいいんじゃねェのか?」
「そんな事したらその時点で大爆発だ!!」
「悪ィな!!くらえ!!」
ウソップがルフィに向かってパチンコで何かを投げつけた。
それは小さな球体でルフィの真ん前に飛んでいく。
――その球体は炎に包まれていた。
「火炎星!!」
「伏せろ!ナミ!トニー!」
「え?え?」
「早く!!」
はナミとチョッパーの腕を無理やり引っ張って床に倒れこんだ。
その瞬間、空に赤黒い煙が巻き起こり、爆発音が大音量で響き渡った。
爆風と爆発音が船をビリビリと揺らし海面が波立つ。
伏せていても尚わかるほどの爆発は達の体の中にまで振動を起こした。
「何て爆発だ!!」
爆風と共に舞い上がった煙や塵が船から視界を奪う。
相当な規模の爆発が起こったのだ。
室外での小規模な爆発程度に収まるだろうと踏んでいたの予想ははずれた。
つまりウソップはそれだけ本気だという事だ。
ようやく爆風が収まってきた所では体を起こした。
もうもうと立ち上がる煙の中で、ルフィは仰向けに横たわっている。
その体は爆発によって土と血で汚れていた。
それでもしっかりと目を開き、ルフィは上空を見上げている。
爆発によって波立った海水がメリー号の船首部分から流れていた。
ポタポタと流れる海水は、まるでメリーの涙のように見えた。
ルフィとウソップの戦闘を悲しんでいるかのように。
ここまで運んできた二人のすれ違いに心を痛めているかのように。
メリーの目の部分からはポタリポタリと雫が零れ落ちる。
はそっとメリーの頭に手を乗せた。
その瞬間、突然目の前が真っ白に変わる。
ぼんやりと映像が浮かんできた。
それは直接の脳裏に焼きついたかのように離れない。
ルフィとウソップが大口を開けて喜んでいる顔。
ルフィとウソップが船首を取り合って笑っている顔。
ウソップとチョッパーがニコニコしている顔。
ルフィとウソップが肩を組んで喜んでいる顔。
が手を離すとその映像はピタリと止まって消えた。
あまりの事には自分の両手の平を見つめた。
(何だ今のは?…メリーの記憶?まさかそんな非科学的な事があってたまるか。感化されすぎだ)
頭の中では否定の言葉を出すものの、あまりに鮮明なビジョンに完全に否定する事が出来ない。
確かめるような気持ちではもう一度メリーの頭に手を置いてみた。
今度は触れても何の映像も浮かんでこなかった。
気のせいかと思いつつ自分の頭を疑いながら手を離そうと思った時、何かの声がの頭に響いた。
耳からではない。直接の脳内に話しかけてくるような、そんな声だった。
は慌てて辺りを見たが、誰一人を気にかける者も、おかしな表情をしているものもいない。
つまり、この声は間違いなくだけに聞こえているのだ。
は目を閉じて意識を声に集中させた。
≪、キミはまだ日が浅いから彼らの事、よく知らなくても当然だよね。でも僕は見てきた。
彼らの冒険の日々を。彼らのキラキラ光る時間を。僕がこんな事になってしまったから二人は……≫
≪僕の代わりに助けになってあげて欲しいんだ。あの二人だけじゃなく、みんなの…≫
言葉はそこで途切れた。
時間にすればわずか1〜2秒程度。
誰かが代わりに喋ったなどとは到底思えなかった。
未だに事態が飲み込めないは両手の平とメリーを交互に見つめ、視線を戻した。
の視線の先には立ち上がる煙に包まれたルフィとウソップの姿。
二人の決闘はもうじき終幕を迎える。
07.05.17
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