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晴れて仲間になってみてわかった事がある。
海賊というのは意外と面白そうだという事。
そして、この船のクルー達は非常に個性的だという事。


「この船の大修繕をするのか」
「そう、だいぶ痛んできたからね」
「錬金術師さんの力では直せないの?」


キッチンにて全員が集まって朝食を取っている時だった。
ふとした会話から船を修繕した方が良いのではないかという意見が出たのが始まりだ。
ロビンの言葉に全員の期待の視線がに集まる。


「無理だ」
「何でだ?だって割れた食器とか直してたじゃねぇか」


仲間になった暁に、の能力を見せてくれと仲間達に迫られ、昨晩割れた食器を錬成したのだ。
論より証拠。百聞は一見にしかず。
彼らは皆一様に驚き次々に皿を割っては直してくれとせがんだ為ナミとサンジにこっぴどく怒られていた事を思い出す。


「あれは全ての素材があったから。1からは1しか生まれない。この船を全て直すのは不可能だ。何故なら元々あった部位の素材がもうここには存在しない。
 違う素材を継ぎ足して直す事はある程度までは可能かもしれないが、私はこの船の事をまだよく知らない。それならば専門家に頼むのが良いと思う」


数日だが軽く見て回った所、どうにもこの船は錬金術で補修するには無理がありそうだと判断した。
圧倒的に材質が足りな過ぎるのだ。
そもそもこの船のイメージは恐らく乗っている全員が違う。
材料を継ぎ足し錬成し直したとして、元の船に戻す事など既に不可能な事なのだ。


「そう、残念だわ。じゃ…それにいくらかかるかわかんないから宝の山分けは保留ね」
「そうだな、ウソップのツギハギ修理もさすがに限界だし」
「言っとくがなおれは!!「狙撃手」だ!!」
「ああ…本格的に造船ドックに入れて本職の船大工に修繕して貰ったほうがいい…」
「へー!!ウソップより直すのがうまい奴がいるのか」


テーブルの上のサンドウィッチはどんどんなくなっていく。
サンジの料理を食べて、目からうろこが落ちるとはこの事かと思った。
まさかサンジがこんなに料理が上手いとは思ってもみなかった。


「考えてみりゃ東の海のおれの村からずっとおれ達を乗せて航海してくれてんだ。たまにゃあしっかりと労ってやんねェとバチがあたるってもんだぞ」


東の海という場所をは知らないが、話しによれば相当長い期間航海を続けてきたのだという。
物は使えば痛んでいくのは当然の事だ。
ましてこれは人を乗せ海を走っている物、海のド真ん中で壊れでもしたら大変な事になってしまう。
ウソップの言葉を聞いてルフィが立ち上がった。


「だったらよ、”船大工”仲間に入れよう!!!」


ルフィの言葉にその場にいた全員が驚いた表情でルフィを見つめた。
言う事はまさに的確。


「旅はまだまだ続くんだ。どうせ必要な能力だし。メリーはおれ達の”家”で!!”命”だぞ!!この船を守ってくれる”船大工”を探そう!!」


彼は何も考えていないように見えて意外に物事をしっかりと考えているようだ。
船の修繕にはきちんとした専門職に見てもらうのが一番。
錬金術は錬金術師、航海は航海士、船の修理は船大工。


「…コイツはまた」
「ホントまれに核心をつくよ…」


呟かれた言葉にルフィが得意そうに笑う。


「そりゃそれが一番だ!そうしよう!!」
「じゃあその線で!!」
「いー奴が見つかるといいなー!!」
「あと音楽家とな!!」
「いやそれはおいとけ」
も仲間に入った事だし、楽しくなってきたなー」


まるで宝探しにでも行くような湧き上がる雰囲気にの表情も自然と柔らかく解れていく。
この船に乗っている彼らはとにかく陽気で明るい。


ちゃんおかわりいかがですかー」
「ありがとう、サンジ。どれを食べてもとても美味しい」
「ああー!ちゃんに褒められるなんてこのサンジ幸せです!」
「ラブコックが」


我先にとサンドウィッチを頬張るルフィ、チョッパー、ウソップ、ゾロ。
ナミとロビンは優雅に紅茶を飲み、サンジは女性陣の間で忙しく給仕をしている。
そんな様子を見て、は一人微笑んだ。


食事の後はロビンに頼まれ甲板のティーセットで錬金術のプチ講習会になった。
とロビン以外の人間は皆思い思いの過ごし方をしている。

ナミは部屋で海図描き。
ゾロは甲板で鍛錬中。
ルフィとチョッパーは船首近くで釣り。
ウソップは自分のスペースで何かを製作中。
サンジはキッチンでおやつを製作中。


いい船だと思った。


のいたアメストリスでは錬金術は一般的な物だったのかしら」
「いや、一般的ではないな。”錬金術師よ、大衆のためにあれ”なんて言葉があるくらいだ」
「じゃあ相当特殊な技能なのね」
「錬金術は高度な理論に基づいており、学べば誰でも使えるというものではない。という事は確かだな」
は何故錬金術師に?」


ロビンの問いには一瞬逡巡し、言葉を探した。
単純な問いだとはわかっている。
だが、それはにとってあまり話したくないような、複雑な気持ちを生み出す一言だった。
ロビンがそんな事を聞いているわけではないという事くらい百も承知だ。
それでも強制的に思い起こされるのは幼い頃の記憶。


「両親が錬金術師だったんだ。だからもう物心ついた頃から生活の一部だった。私が両親から一番最初に与えられたプレゼントは錬金術の指南書だったはずだ」
「英才教育だったのね」
「どうだろうな。研究熱心な人達だったからあまりこちらに興味がなさそうだったが」


もう顔すら覚えていない両親の面影。
覚えているのは背中と最後に見た光景。


「それでロビンは何が知りたいんだ?言っておくが私は人に教えるのは苦手だからあまり期待した答えは出ないと思うぞ」
「昨晩お皿を直した時に何かを描いていたでしょう?円の中に模様や文字を。あれは?」
「ああ、あれは錬成陣と言って、錬金術の力を発動させる際に必ず必要となる円状サークルだ」
「でも確か彼に攻撃されそうになった時何もしていないのに貴女の指に武器が現れたわ」


そういってロビンは甲板で鍛錬をしているゾロを一瞥した。
数日前のやり取りを思い出す。
ゾロがに対し刀を向けた際、は確かに一瞬でナイフを錬成した。


「……真理を見た錬金術師は錬成陣なしで錬金術が使えるようになるんだ。だから本来私は錬金術なしで錬成が可能だが、昨晩は分かり易くする為に錬成陣を描いた」
「真理というのは?」
「世界の理とでもいうのかな。それに関しては説明が難しすぎるのでパスだな」


が両手を挙げてお手上げのポーズを取るとロビンも笑った。
とロビンの間に影が映る。
そこにはいつの間にか現れていたサンジがニッコリと笑っていた。


「ロイヤルミルクティーにチェリーパイなんて如何ですか?お姫様」
「すまない、頂こうか」
「ありがとうコックさん」


とロビンが礼を言うとサンジは「どうぞお姫様方」と言ってとロビンの前に宝石のような美しいフォルムのチェリータルトを置いた。
本当に彼の作るものは細部に至るまで気を使われており、食べるのが勿体無いほどだ。
その匂いにつられたのかルフィとチョッパーが釣竿を放り投げて走ってくる。
その二人の顔面をサンジが蹴り上げ、集まってきた男性陣の前に大皿を置いた。


「いいか、ちゃんとロビンちゃんの分に手出したら晩飯抜きだからな」


そう言ってサンジはナミの元へおやつを届けに行った。
甲板ではチェリーパイの争奪戦が繰り広げられている。

こんな時間がいつまでも続けばいいと心から思った。
この船の居心地はとても良い。
くだらない権力争いも騙し合いもない。何も心配しないで仲間と笑い会えるなんて、何て幸せなんだろうか。

アメストリスにいる仲間達の顔が一瞬の脳裏に浮かんだ。
彼らにもこんな幸せな思いをする日が来る事を願いながらは食べかけのチェリーパイをつついた。







07.03.18


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