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パウリーの悲痛な叫び声が響いたはずの室内の雰囲気はまるで変わらなかった。
ルッチもカクもカリファもブルーノも一切反応を見せずに無表情のままだ。
冷めきった瞳からは何の感情も読み取れない。


「パウリー…実はおれ達は政府の諜報部員だ。まァ謝ったら許してくれるよな…?」
「共に日々…船造りに明け暮れた仲間だおれ達は…突然で信じられねェならアイスバーグの顔でも…踏んでみせようか…!!


ルッチの言葉に麦わら船員達も息をのむ。
拳を握り締めたパウリーは俯きながら怒りで小刻みに震えている。
何かを振り切るかのように顔をあげたパウリーの表情は怒りと悲しみが綯い交ぜになり叫び声をあげた。


「ふざけんな…もう充分だ!!さっき聞いた牛仮面の声がお前の声と一致するからな。畜生てめェ…!!」
「やめろパウリー!!」
「ちゃんと喋れんじゃねェかよ!!バカにしやがって!!」


ナイフのついたロープをルッチに向かって放つ。
それはとても素早いものだったが、ルッチのスピードの方が数段上だった。
パウリーの放ったロープを軽く避け、パウリーの体に人差し指を突き刺す。
たった一瞬の出来事。
しかしパウリーがルッチに負わされた傷は非常に深いものだった。

ルッチの指先にパウリーの血が滲み、パウリーは床へ崩れ落ちた。


「まだ懲りないのか…パウリー!!」

「おい!ロープのやつっ!!」
「何で…お前ら!!」

「無駄に耐えるな…おれ達は人界を超える技を体得している。長い訓練を重ね人体を武器に匹敵させる武術、 ”六式”これを極めた一人の強度は百人力に値する」

「何でお前らが……!!」


荒い息を吐き血を流し重傷を負いながらもパウリーは膝を立てる。
パウリーの零す、”何で…”という言葉が痛かった。
信じられない現実と信じたくない事実。
崩れ落ちた体を無理やり立ち上がらせようとするパウリーの肩をルッチが掴んだ。


「まァいい、どの道消す命…悲しいが友よ…」
「ルッチ!!貴様ァ!!」
「やめろお前ェ!!」


右手を高く上げパウリーにとどめを刺そうとしたルッチの姿にアイスバーグとルフィの叫び声があがる。
叫びながら繰り出したルフィの蹴りはルッチを捕らえたはずだった。
しかし捕らえられたのはルフィの方でルッチに足を掴まれたルフィはそのまま勢いに乗り激しい乱打を繰り返す。
だが、ルッチはビクともせずルフィの拳を全て受け止めた。
言うならば、壁にでもなったかのような手ごたえのなさにルフィは首をかしげる。


「何だ!?全然効かねェ!!」
「うっとおしい」


首をかしげていたルフィの目の前からルッチが消える。
そして気づいた瞬間には既にルッチはルフィの前におりルフィの首元に指を突き刺していた。
ルフィの首がぐにっと曲がりくの字を描く。
その勢いに負けルフィの体は思い切り後方へ吹っ飛ばされた。


「生身なら首に風穴が開いて即死だったなゴム人間」


起き上がり苦しそうな息を吐いたルフィはルッチの足下に腕を伸ばした。
掴んだのはパウリーの体。
伸ばしていた腕を引き寄せパウリーをルッチから離した。


「何をしている…麦わら」
「お前こいつ殺す気だろ!!一緒に船大工やってたんじゃねェのかよ!!」
「――さっきまでな。もう違う…」
「本当に裏切り者か!!じゃいいよとにかくおれはこいつと一緒に!!アイスのおっさん殺そうとしてる奴等をブチのめそうって約束したんだ!!」
「…なぜお前がパウリーに味方するんじゃ」
「おれもお前らに用があるからだよ!!」

「おいロビン!!何でお前がこんな奴らと一緒にいるんだ!!出て行きたきゃちゃんと理由を言え!!」
「そうよ!こいつら政府の人間だって言うじゃない!!どうして!?」


ルフィとナミの叫びにロビンは怪訝そうな表情を浮かべ口を開く。


「……聞き分けが悪いのね。コックさんと船医さんにお別れは言った筈よ。伝えてくれなかったの?」
「…!!伝えたよ!!だけどおれだって納得できねェ!!何でだロビン!!」
「大体…誰かに伝えて貰おうだなんて、何故自分で言わない?わざとしこりが残るやり方をするなんてロビンらしくないな」


チョッパーが困惑の表情を浮かべて叫ぶ。
アイスバーグの前に座り込んでいたもロビンの目をしっかりと見つめながら言葉を繋げた。
しかしロビンの表情は冴えない。
厳しい視線をに向け、次いでルフィ達に向けて口を開いた。


「私の願いを叶える為よ!!あなた達と一緒に居ても決して叶わない願いを!!…それを成し遂げる為ならば私はどんな犠牲も厭わない」

「――それで…平気で仲間を暗殺犯に仕立て上げたのか?願いってのは何だ!!」
「話す必要がないわ」


険しい表情をしてロビンを睨みつけるように話すゾロにロビンも冷たい視線を送る。
打開策など見つからない。
その時、の後ろにいたアイスバーグが苦しそうな息を漏らし呟いた。


「正気の沙汰じゃねェ…!その女は…!!」


の後ろで倒れたまま顔を強張らせアイスバーグは言葉を続ける。


「気は確かかニコ・ロビン!!お前は自分が何をやろうとしているのかわかってるのか!!」
「やめろアイスバーグさん!」
「あなたにはもう…何も言う権利はないハズよ。黙っていなさい!!」


アイスバーグの言葉に更に視線を冷たくしたロビンがアイスバーグに向かって手を咲かせる。
慌ててが声をあげるがロビンはに一瞥をくれただけでアイスバーグから手を離さなかった。


「ロビン!!」
、あなたも邪魔するなら床に伏せて貰うわ」
「アイスバーグさん!!」

「誰にも邪魔はさせない!!」


目に映る光景は全て信じがたいものだった。
ロビンの冷めきった険しい表情、船大工達の裏切り、傷ついたとアイスバーグとパウリー。
破壊された部屋、それらが今の状況を物語っていた。


「おいロビン!!何やってんだ!!お前本気かよ!!」
「ロビンどうしちゃったんだ!?本当にもう…敵なのか!?ロビーーーーン!!!」


ルフィとチョッパーが叫び声を上げるがロビンは反応を見せない。
麦わら船員全員の間を戸惑いが支配する。


「悪いがそこまでにして貰おう。我々はこれから重要人物を探さなきゃならないんだ。急いでいる。この屋敷にはもう用はないし…君らにももう完全に用がない」

「カリファ、あとどれくらいだ」
「…2分よ」
「突然だが…後2分でこの屋敷は炎に包まれる事になっている」
「何だと!?」
「色々な証拠を消すのに炎は有効な手段だ。君達も焼け死にたくなければ速やかに屋敷を出る事だ。まァもちろん…」

「それが出来ればの話だが」


ルフィ達の前にカクとカリファとブルーノが立ちはだかった。
とアイスバーグの横にはルッチ、そしてその奥にはロビン。
まるで今のロビンの居場所はから手の届きそうな距離なのに永遠に手が届かない場所にいる、そんな気がした。








07.06.17

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