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ロビンを捕らえていた手錠が音を立ててはずれた。
それを確かめるようにロビンが両手を交互に見つめ、気が抜けたかのように体をふらつかせる。
倒れ込みそうになったロビンの体をフランキーが支え、今度は二人を守る様にが前に立った。


「こちらフランキー!おい長っ鼻!ニコ・ロビンの手錠は外したぞ!!」
「長鼻くん…ありがとう!も」
『礼なら全てが済んでから必死に鍵を集めた者達に言いたまえ!君は紛れもなくルフィ君達の仲間だ、もう思うままに動けば良い』


電伝虫から響いたそげキングの声にロビンが顔を拭っていつもの笑みを浮かべた。
ようやくロビンらしい表情になった所でも口の端を上げてみせる。
本当の反撃と勝負はここからだ。
既にかかってしまっているバスターコールをどうやって乗り切るか。
まだ姿の見えないルフィがルッチに勝てるかどうか。
フランキーに支えられていたロビンがしっかりと自分の力で地を踏み両手を胸の前で交差させた。
前方で既にボロボロになっている長官の体からロビンの腕が咲き、長官の顔を思い切り張り倒す。
こちらまで聞こえてくるほど小気味の良い頬を張る音と長官の悲鳴がためらいの橋に響き渡った。


「存分に…!やらせて貰うわ!」
「ようやくロビンらしくなったな、いい事だ」
「オシ!おめェら急いでこっちへ来い!脱出の準備は整えておく!」


フランキーが電伝虫に向かって叫び、電伝虫からも勢いの良い返事が返ってきた。
ロビンの手錠がはずれた事で再び騒ぎ出した衛兵達がてんやわんやと動きまわっている。
前に立っていたが口角を上げ混乱する衛兵達の間をすり抜け長官へとめがけて駆けていく。
衛兵達が止める間もなくはロビンの張り手によって頬を二倍以上に腫らした長官の前に立った。
長官が息を飲む音が聞こえる。
仰向けに倒されたままの長官との視線がかち合うと、は長官を見つめニッコリと微笑んだ。
長官が口を開こうとした瞬間、の右足が思い切り振り上げられそのまま長官の顔面目掛けて振り下ろされる。
叫ぶ間もなく振り下ろされたの右足は長官の顔をぐりぐりと踏みつけ、の表情は一層楽しそうに歪んだ。


「随分と酷い真似をしてくれたものだな。お前に直に接触する機会があったら是非顔を踏みつけてやろうと心に決めていた」
「お…おれをこんな風にしてタダで済むと……」


長官を救おうと武器を手に構え襲いかかる衛兵達を軽く追い払いつつ踏みつける足に力を入れる。
の顔からすっと笑みが消えていき、長官を見下ろす視線は酷く鋭いものになっていた。


「そのままそっくり返してやる。我々をこんな風にしてタダで済むと思うな。何なら今この場で頭蓋骨粉砕してやろうか」


踏みつけている足に力を加え地面にゴリゴリと押し付ければ声にならない悲鳴が長官の口から漏れ聞こえてくる。
やめてくれと叫ぶ長官の腹に一発左足で思い切り蹴りを入れ黙らせ、今度は右足を顔から放し渾身の力で長官を蹴り上げた。
に蹴りあげられた長官の体が更に後方へと吹っ飛んでいく。
慌てて長官の元へと走っていく衛兵達の間を抜けロビン達の元へ戻ってきたの表情は非常に清々しいものだった。


「少しだけスッキリした」
「……おめェを怒らせるのだけはやめようと思ったぜ」
「是非そうして貰いたいものだな」


いつものように笑うロビンの表情にも微笑んだ時だった。
背後から突然爆音が轟き炎と煙が撒き上がりエニエス・ロビーを取り囲んでいた柵の一部が吹き飛んでいく。
達は勿論の事、衛兵達や司法の塔から橋を見つめていたゾロ達もまた驚いて正義の門の方向を見つめる。
気付けば海を轟々とうねっていた渦潮も消え波が穏やかになっていた。
どうやら島を取り囲んでいた渦は正義の門という巨大な仕切りがそれを阻み生み出されていた海流だったらしい。
爆発を起こした砲弾は正義の門の方角から放たれている。
つまりそれは、バスターコールで招集された船が正義の門を通りこちらへやってくるという合図でもあった。

開かれていく正義の門と放たれた砲撃による爆発に気を取られている時だった。
もう一発の砲弾が正義の門付近より放たれ司法の塔にぶち当たりあっという間に司法の塔が崩れていく。


「司法の塔が…!」
「長鼻くん!!」
「そげップ!サンジにゾロ!!」


一瞬にして上階部分を破壊し谷底へと崩れ落ちていく司法の塔の大半部分を見てその場にいた全員が息を飲んだ。
司法の塔の内部にはゾロとサンジが、そして屋上にはそげキングがいる。
慌てて飛び立とうとが羽を出そうとした瞬間、フランキーの持っていた電伝虫から声が響いた。


「フランキー、ロビンちゃんにちゃん!こっちは無事だ!今すぐそっちへ向かう!」
「よかった…」
「心臓に悪いな」


響いたサンジの声にとロビンが顔を見合せて安堵の溜息を吐く。
絶望的な状況でも何とかしてしまう所が彼ららしいというか何というか。
そうこうしている間にもロビンを再び捕らえようと武器を手に向かってくる衛兵達がどんどん近付いてくる。
負けじと武器を構えたの横でロビンも自信を取り戻した笑みを浮かべ力強く立った。


「じゃあこの場を何とか…おめェ戦力に数えていいのか!?」
「勿論」
「では反撃しつつあの護送船を頂かないか?後ろには引き返せない事だし」
「そうね、あの船を奪う他に助かる道はなさそうね」


ためらいの橋の先にあるのはロビンを連行する為に用意された護送船。
ロケットマンで帰るという事は望めそうにない上、後退する事すら出来ないのなら前に進むしかない。
脱出する術は一つ、護送船を奪って逃げる事。
立ち向ってくる衛兵などCP9と互角に戦ってきた達の敵ではない。
三者三様体に傷を負った状態でも充分に戦える程度だ。
問題は、護送船を奪った後、どう逃げ切るか。

三人で大勢の衛兵達を蹴散らしながら橋を進む達の先にいた衛兵の一人が突然顔を真っ青にし震え出した。
衛兵の指さす方向へと目を向け、達の動きも止まる。
深い霧の奥から正義の門を潜りこちらへと向かってくるとてつもなく大きい艦隊の数々。
全身を冷たい何かが走りぬけるような感覚に思わず体を震わせる。


「軍艦の艦隊だ!バスターコールが始まるぞーっ!!」


一人の衛兵の叫びに武器を手にしていた衛兵の何人かが武器を投げ捨て走り去っていく。
霧の向こうから現れた巨大な軍艦はまさに力の証。
巨大な大砲をいくつも搭載した軍艦の群れは圧巻で底知れぬ恐怖が湧き上がるほどだ。
ためらいの橋や司法の塔など一瞬にして押しつぶせそうな程巨大な軍艦から砲弾が次々に放たれていく。
あちこちから爆炎が上がり瓦礫が崩れていく音や土煙りと共に人々の悲鳴が聞こえた。
達のいるためらい橋の両脇を巨大な軍艦が悠々と厳かな雰囲気を醸し出しながら通る様はの体も震わせる。


「何て…大きな船なんだ、これが……この世界の軍隊の持つ権力の証か」


船と言えば麦わら海賊団の船にフォクシー海賊団の船、そしてロケットマンとパッフィング・トムしか見た事がないにとって非常に衝撃的な光景だった。
正確に言えばすれ違った船などもあるが、この規模はさすがにない。
アメストリスは四方陸地に囲まれた国だったので海がなく、船は勿論軍艦など所持していなかった。
そのあまりの巨大さにロビンの恐怖が少しだけにもわかった気がする。
これが何隻も攻めてくる様を見ればトラウマにもなってしまうだろう。


「バスターコール発動!標的海賊、麦わらのルフィとその一味約60名!」
「――尚、大将青キジとの内約によりためらいの橋に確認済み罪人ニコ・ロビンのみ標的外とする!」
「現状把握不要!司法の島、エニエス・ロビーその全てを破壊せよ!」


軍艦から響いてきた通信の声には喉をごくりと鳴らし震える体を叱咤するよう叩いた。
現状把握不要という言葉がバスターコールの恐ろしさ全てを物語っている。
爆発音で耳がおかしくなりそうな程打ち込まれる砲弾の数々。
地下に居るはずのナミとココロ達やサンジ達はともかくとして、ガレーラの彼らやフランキー一家の彼らは無事だろうか。


「……何てイカれた光景だ」
「これは少々手厳しいな」
「少々どころじゃねェよ!」


ふとロビンの姿が視界から消えた事に気付いたが視線を走らせる。
ロビンはしゃがみ込み肩を抱き、震えていた。
近づいたはそっとロビンの肩に手を置きそのままロビンの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。
ロビンに触れた自分の手も共に少しだけ震えを感じた。
恐怖は伝染するのだ。
だが、ここで恐怖に負ければ全てが終わる。


「トニーは自分の体を犠牲にしてまでCP9と戦った。ナミも怪我を負っているしゾロもサンジもウソップも同様だ」
「……
「ルフィは未だルッチと格闘中、本島ではガレーラの職人やフランキー一家、駅で会ったココロさん達までこの島に来ているんだ、ロビンを迎えに」
「私の為…」
「ここには私もフランキーも、そしてロビンもいる。必ず逃げ切れる」


ロビンに触れていた腕を放しはロビンの前に立った。
ロビンはまだ座り込んだままだが構わない。
絶対に、この恐怖に打ち勝ってくれるはずだと信じていた。
すぐ近くの軍艦の上で先程からルフィとルッチが格闘している姿が確認出来る。
巨大な軍艦の艦隊、目の前で武器を構える衛兵達、未だ決着のつかないルフィと戦うルッチ。
どこを見ても敵だらけだ。
勝って逃げ切るか、負けて死ぬか二つに一つ。
武器を握り締める手に力を込めはじっと前を見据えた。








08.01.08

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