この世界に飛ばされてしまったからだとか。
軍人だったのに、とか。
世界が違うから、とか。
もう言い訳はしない。
私はこの世界で彼らと、麦わらの一味として生きていく事を決めたのだから。
これから私は、麦わらの一味の一員として胸を張って生きていく。
決意も新たに、地に足をつける。
彷徨う島、海賊船のスリラーバーク。
ブルックの乗っていた船にいたルンバー海賊団の骸もウソップとフランキーの手により無事葬る事が出来た。
ローラ達に渡すルンバー海賊団の船も既に修理を終わりいつでも出港可能な状態だ。
ついでにとサニー号のメンテナンスも行いこちらも準備万端。
仲間も誰一人欠ける事無く再び海へ出る時がやってきた。
「あれ、ゾロまた包帯取ったな!?ああー!もか!!」
「ああ動きづらいからな」
「動くと圧迫されるから苦しいしな」
「二人とも動かさねェ為に巻いたんだ!」
ぷりぷりと怒りを顕わにするチョッパーの頭を緩く撫でて大丈夫だと呟く。
強くなろうと決めたのだ。一日たりとも鍛錬を欠かす事は出来ない。
まだまだ思い悩む事は山積みであるが一先ずきちんと心を入れ替え頑張ると決めたのだ。
自分が今目指すものは、大切な人達を傷つけようとする者達から守る力を得る事。
自分の足でしっかりと今を歩く事。
「おめェらはブルックの船貰えよ。舵と帆を直しといた」
「ありがとう。何から何まで世話になるわね」
結婚してあげたいわというローラに対し、声をかけたフランキーが上手くそれをかわす。
ここ数日ですっかり意気投合したらしい彼らは達に別れ難いのでもう数日ここにいろと幾度も引き止めていた。
は別段急いでいる訳でも何でもないので構わないのだが船長が断固として出港すると決めているようだ。
曰く、次に行く島が楽しみで楽しみで仕方無いという理由らしい。
そういえばバタバタ続きで忘れていたが達は何もスリラーバークを目指してウォーターセブンを出港した訳ではない。
ココロの言っていた魔の海域はここであり、たまたまここで足止めをくった。
本来の目的地は魚人島、ココロの様な人魚が暮らす島である。
それはも楽しみにしていた。何せ人魚だ。神話の中にしか登場してこないと思い込んでいた生物が沢山いるというのだから。
「美しい人魚達とおれは戯れるんだァ」
「人魚さんのパンツ見せて頂いてもよろしいでしょうか……」
何やらルフィとは別の意味で楽しそうなサンジとブルックがうきうきと体を動かす。
すると話を聞いていたローラ達一団の一人がニヤニヤとした表情でバカな事を言うんじゃねェと突っ込んだ。
「人魚は……パンツなんか履かねェよ」
その言葉を聞いた瞬間サンジとブルックが勢いよく大量の鼻血を噴き出した。
全く、白骨の状態で鼻血を噴き出すとは一体どういう事になっているのだろうか。
そもそもパンツ云々の話は人魚に通用しないのではないだろうかと思う。
嬉しそうに踊り出すサンジ達を眺めながら横を見れば隣に居たロビンがの言わんとした事に気付いたのか小さく頷いた。
「下半身お魚じゃない?」
「人魚ならそうだろうな。魚人なら上半身魚で下半身人間かもしれんからパンツくらい履いているかもしれんが」
自分で言って想像してみるが、あまり愉快なものではない。
そもそも下半身が魚なのも上半身が魚なのもどういう進化を辿ればそこへ行き着くのか、不可解な事だらけだ。
魚と人の合いの子……、そこまで考えて頭を左右に振り否定する。
考えるのをやめておこうと思ったのは色々グロテスクな想像へ行き着きそうだったからだ。
いや、いるならいるで見てみたい気もする。所謂怖いもの見たさという感覚に近いが。
やけに魚人島に詳しい彼らの様子を不思議に思っていたがウソップの一言で答えは容易く知れた。
彼らは自分達と逆の航路を辿ってきたらしい。
「ローラ、あんた達新世界へ行ってきたの?」
「行ってきたんじゃなくて新世界の生まれなのよ。私のママが海賊やっててね、あ、そうだ。ねえもこっちに来て頂戴」
ナミと話していたローラがに向かって声をかけた。
そういえば彼女にまだ自分は雌雄同体でない事を言っていなかった事を思い出す。
だが、ナミが男でない事を知っているのだから自分は別にいいかとも思った。
そもそもゾンビとして活動していた頃の記憶は無いに等しい状態だと言っていたのだから覚えていないかもしれない。
どうせまともな体では無い。雌雄同体だろうが幽体だろうが実体だろうが然して問題無いだろう。多分。
がナミの隣に並んだのを確認したローラが懐から一枚の紙を取り出して端を小さく二つに千切った。
何をするのかと不思議そうに見つめるとナミにローラが千切った紙を差し出す。
「コレあげる。ママのビブルカード。特別よ?ナミゾウとは私の姉妹分だからね」
「紙?」
「ビブルカード?」
ローラから渡された紙きれを手にとナミが揃って首を傾げた。
ママのビブルカードとは一体何なのだろうか。
手渡された紙は真白で何も書かれておらず手触りも別段変った感じは無い。
そんなとナミを余所に外野からは驚きの声が幾つも上がる。
ローラ船長のママはスッゲー海賊なんだぜ、という声も聞こえる事からして何か特別な紙なのだろう。
「何?ビブルカードって。知ってる?」
「いや私も知らない。何なのだローラ」
「え?知らないの?」
ナミが知らないこの世界の物をが知っているはずも無く二人の疑問は当然だったのだが、ローラは達の言葉に酷く驚いている様子だった。
外野がまた、ローラ船長ビブルカードは新世界にしかねェんすよ!という声がかけられようやく三者とも納得する。
だがそもそもは新世界自体知らない。
偉大なる航路だとか赤い土の大陸だとか、個々の地名は勿論の事どうやらの知らない世界はまだまだ沢山あるようだ。
「これはただの紙じゃないのよ。濡らしても燃やしても平気なの」
ローラ曰く、このビブルカードという物体はとんでもない優れ物らしい。
自分の爪の切れ端を新世界にある「とある店」に持っていくとそれを混ぜて特殊な紙を一枚作ってくれるのだという。
別名、命の紙と呼ばれるビブルカードの出来あがりという訳だ。
自分の爪の切れ端、所謂遺伝子的な個人情報とでもいうのだろうか。
他者は決して同じものを作る事が出来ない。つまり完全にオリジナルな商品となる。
そのビブルカードを半分に切って引き離すと、引き離された片方の方向へ戻ろうとする力を発揮するらしい。
なので離れたカード同士は世界中のどこにいても引き合うから同じビブルカードを持った者同士は距離までは分からなくともいつでも互いのいる方角を知る事が出来る。
嬉しそうに話すローラの説明を聞いたは感嘆の思いで受け取ったビブルカードを見つめた。
全く本当にとてつもない技術があるものだと舌を巻く思いだ。
この紙自体も凄いがビブルカードを作り上げる能力を持つ者を是非この目で拝んでみたい。
その技術力はが知る技術力など遥かに凌駕している事だろう。
そんな話を聞けば俄然やる気が出てくるものだ。
魚人島もそうだがこの先の航海に対する期待も膨らんでいく。
「だが貴重な一枚なのだろう?私はナミが持っているのであれば事足りるし勿体無いから返そうか?」
「いいのよ。あんたには世話になったし私があげたいんだから貰って頂戴よ」
おずおずと紙を差し出したに対しローラがにっこりと笑っての手に自分の手を重ねた。
サインを入れておくからいつか何かに困ったらこれを辿ってママに会うといい、というローラがの手の中で踊る紙にさらさらと文字を書き込んでいく。
そして再びビブルカードを握らされたは数秒の逡巡を経て頷き手を引っ込めた。
他者の手の持つ温かみに、そしてローラの優しさに喜びが湧き上がる。
「珍しいものを前にしたがそんな事言うと思わなかったわ」
「む、失礼な。私だって遠慮する時は遠慮する」
「ナミゾウのにも書いておくわね。ママに会ったらその時は私も元気でやってたって伝えてね」
受け取ったビブルカードを胸ポケットにしまっておいた手帳に挟み収めておく。
ふと、自分の指に目をやり指輪を一つ外して地面に置き両手を合わせた。
頭の中でイメージを膨らませ、はて誰かの身を飾る為にこんな物を錬成した事はあっただろうかと思いつつ淡い光が溢れるのを待つ。
程無くして出来あがったそれは細いブレスレットに早変わりし表面に刻まれた模様と裏面に刻まれた文字を確かめてローラに向き合った。
「ローラ、お返しにこれを受け取ってくれないか?」
「え、いいの?」
ローラに手渡したのは先程までの人差し指に嵌っていた元指輪、現ブレスレットだ。
細く華奢な作りだが材質はかなり硬度があるのでそう簡単に壊れはしない。
何よりが元居た世界から持ち込んだ物質だ。同じ作りがあったとしても絶対に見間違えないだろう。
模様はローラの優しさや温かさから可憐な花をイメージし、彼女に捧げる思いを文字にして刻んである。
―― Perpetual friendship ――
少々恥ずかしいので裏面に刻んだがまじまじと見つめるローラはすぐに気付いたようだ。
満面の笑みを浮かべそれを右腕に通したローラがありがとうと言ってを抱き締めた。
「本当にありがとう!大事にするわ!もナミゾウも大好きよ!」
「…………苦し、い、息が……、助け……てくれ!!」
めきめきと嫌な音を立てて骨が軋み圧迫感が襲う。
今にも泡を吹き出しそうな勢いで顔色を真っ青に染めていくを見てナミが深々と溜息を吐きローラを止めてくれた。
あんた学習しなさいよというナミの言葉に勢いよく首を縦に振ってからその場でへたり込む。
二度ある事は三度ある、にならないよう気をつけなくてはならない。
「おれ、それ一枚持ってるかも」
いつの間にかの背後にやってきていたルフィが麦わら帽子を手にし、一枚の紙を取り出した。
ルフィの手には確かにとナミが受け取ったビブルカードと似たものが乗せられている。
だが、何故か端が焦げかけており不思議な事にそれは現在進行形でゆっくりとその焦げを広げているではないか。
その不思議な光景にもナミもルフィの持つ紙へ釘づけになる。
聞けばこれはルフィがエースから受け取ったものらしい。
「ちょっとこれ!……まだ言ってなかったけどこの紙は持ち主の生命力も啓示するのよ!これ、あんたの大事な人でしょ?」
「ああ、おれの兄ちゃんだ」
酷く焦った様な声を出すローラの言葉にがまさかと思い息をのんでルフィの手にある紙を見つめる。
持ち主の生命力を啓示する、その特性も驚く事ながら告げられた事実は驚きの一言では済ませられない。
エースから受け取ったそのビブルカードが焦げて小さくなりかけている。
それの指し示すもの。
「気の毒だけどこの人の命、もう……!消えかけてるわよ!」
ローラの放った言葉に達は顔を見合わせて言葉を失った。