もしかして、もしかすると、もしかしなくても、照れてる?




一枚処か三枚位上手な彼女との関係をどうにか形勢逆転させてみる事は出来ないだろうか。
隣を歩くを横目で盗み見しつついつも被っているテンガロンハットに指をかけてエースは必死に考える。
大抵何をしたって軽く避わされてまるで本気にして貰えない。
鈍いのもあるかもしれない。けれど彼女の場合鈍いというよりは一線を張っているだけの様にも思える。
その一線はエースだけではなく一緒の船に乗っている仲間達に対してもだが、それにしたって悔しい。
たまにはその壁を崩した所が見てみたいと思うのは好意を抱いているのだから極自然な事のはずだ。

それが、なかなか出来ないってだけの話で。


「なァ、腹減らねェか」
「……先程空になった皿をテーブルに積み上げ店主を驚かせた男の発言とは思えない言葉だな」
「あれはその…」
「先に自分の分は支払ったというのにも関わらず何故私まで食い逃げの汚名を被らなくてはならないのか甚だ疑問だな」


眉根を寄せてじとっと睨むの視線と言葉に返せる言葉も無くエースは乾いた笑いを漏らして明後日の方向を向いた。
弟が船長を務める麦わらの一味の船の針路と自分の針路を照らし合わせて上手い具合に会う事が出来、一人で買い物をしているを見つけて。
何気ないふりを装って食事に誘ったのはエースの方であり、しかし大枚を持ち合わせているわけでもなく。
久々のまともな食事を口一杯頬張りながら目の前に座り軽食を口にするを眺めて、思案する。
どうしようか、誘ったはいいが持ち合わせの金額と支払いの金額は桁が違う程に足りない。
結局が自分の分をテーブルに置いた所で何の説明もしないままを抱えて店を後にしたのだ。
つまり、食い逃げ。しかもを巻き添えにして。

後ろから罵倒の声が飛んで店主が追いかけてきたがそれを振り切って、何とか逃げたのは良かったが今度はに思いきり怒られた。
耳を引っ張られたまま店まで引き返しおれは強制的に土下座させられは持ち合わせから何とか全ての代金を支払い店主に頭を下げて。
の真摯な態度からかおれの土下座も効いたのか、店主はそれ程怒らず許してくれた。


「反省してるって」
「それは良い事だな。反省を次に生かす事が出来てこそだが」
「わかってるよ。ほら、あれ食おうぜ」


未だ納得いかないようで表情を渋らせるの手を引いて丁度すぐ傍にあった屋台へと向かい小走りで進んでいく。
屋台のおっちゃんに金を渡し串刺しのフルーツを二つ受け取って一つに差し出せば戸惑った表情でそれを受け取った。
片手でそれを持ちもう片手は手を繋いだ状態なので二人とも両手が塞がっている。
それが何か嬉しくて、手を離そうとしたの手を強く握って知らんぷりして歩き出す。


「エース、手を放してくれないか。このフルーツの代金を…」
「いいっていいって、さっき奢ってもらっただろ」
「しかし……」


不満を訴えようと少しだけ困ったような表情を浮かべているの口元におれが持っていた串刺しのフルーツを突きつけてみた。
一番上に刺さっていたパイナップルがの唇を押して数秒、諦めたのかそれを齧り取って咀嚼し始めたを見てまた嬉しくなる。
の口元に寄せていた串を自分の方へ持ってきてパイナップルの下に刺さっているメロンをかじれば瑞々しい甘味が口一杯に広がった。


「うめェだろ」
「……全く、エースはいつでも強引だな」


呆れたように苦笑しが自分の持っている串をエースに差し出した。
一番上に刺さっているのはパイナップル。どうやらさっきエースの分を食べてしまったのが気になっているらしい。
いいから食えよと言っても串を引っ込めようとしないの串から仕方無くエースはそれを受け取って口に含んだ。
食べ物は基本的に何でも好きだがから貰ったというだけでいつもより美味く感じる。
自分の分であるフルーツの串を銜えたままエースがポケットに手を突っ込んでありったけの持ち金を取り出し繋いでいたの手に握らせた。


「まァさっきのに比べたら全然足りねェけどよ、その分何かで返すからさ」
「あれは別にそういうつもりで支払った訳では無く私が勝手にした事だ。故に返して貰おうだなんて思っていない」


驚いてエースに金を返そうとするの手をそのまま上からもう一度握り直して歩いて行く。
奢られっぱなしだなんて男として格好悪い。
けれど持っていないものは仕方無いし今すぐ調達してくるのも無理だ。
それこそに呆れられる様な行動を取らなくてはならないし、第一一緒に居られる貴重な時間を割くのは勿体無い。


「エース、これはいらない。先程のはこれを奢ってもらった事で…」
「何だよおれそんなに貧乏じゃないっつーの。今日はたまたま持ち合わせが無かっただけで」


散々渋っただったがエースが取り合わないのを悟ったのか渡された金をポケットへねじ込んで「では有り難く頂いておく」と呟いた。
昼時を過ぎたこの時間、頭上の太陽からは肌を刺すようにじりじりとした熱が降り注がれる。
初夏の陽気を持つこの島の街はあちこちに街路樹が植えられており新緑の黄緑が日の光と相まって眩しいくらいに輝いていた。
少々暑いといえる街を一緒に歩くの肌は自分と比べて驚くほど白い。
それもそのはず。上半身裸でハーフパンツを履いているエースとは違いの格好は上下とも長袖に長ズボンと完全防備状態だ。
日焼けするのが嫌なのかと聞けば、そうではなくあまり日焼けする環境に慣れていないのだと言う。


「元々は内陸地に住んでいたからな。一度日焼けしたら肌が腫れてトニーに心配をかけてしまった故気をつけているのだ」
「そういやは何でルフィの船に乗ったんだ?内陸って言ったら海なんかねェんじゃねェのか?」
「……偶然出会い誘われた、という所だ。強引さは兄弟揃ってだな」


会話をしつつ出来るだけ木の枝が伸びて出来る日陰を選んで歩いて行く。
目尻を下げて微笑するの表情は柔らかいけれど言葉は残酷だ。
兄弟揃って、それは暗にエースをルフィの兄としか見ていないという事なのではないだろうかと落ち込みたくなる。
それにしても偶然出会い誘われたのであれば自分が先に出会っていればもしかしたらは自分の所へ来ていたのではないだろうかと思うと非常に残念だ。
何故先に出会えなかったのだろうか。そうすればいつもの隣にいられるのは自分だったかもしれないのに。

繋いだままの手を心持強く握りもやもやとした気持ちを静める為に深呼吸。
過去を悔やんでも今更仕方の無い事だ。大切なのはこれから。


「でもさ、おれがルフィの船に乗ってくれて良かったって思う」
「そうか」
「あァ、だってさ、がルフィの船に乗ってなかったらおれもに会えなかったかもしれねェし」


黒ひげを追いかける為にエースも様々な島へ足を運んできた。
もし未だがルフィの船に乗っていなかったとして、この先どこかで会う事はあったかも知れない。
だがの言うの故郷は内陸地なのだから海を中心として動いているエースと出会う事はやはり可能性としては相当低かっただろう。


が乗った船がルフィの船で良かった。じゃねェとおれ、思いっきり敵になっちまうし」
「そうかもしれないな。私も良かったと思っている」
「だろ?おれの事大好きだしさ、この先もと過ごす時間が欲しいしやっぱり正解だよな、ルフィの船に乗ってさ」


頬を指でかきながら前に向かって足を踏み出すエースの手が引かれる。
正確に言えば手が引かれるというよりはと繋いでいた手が離れそうになったのだ。
何かと思って振り返ればがその場で立ち止まり顔を伏せていた。


?」


振り返って声をかけてみてもが歩き出す様子は見られない。
一体どうしたというのだろうか。顔を伏せているので表情すら知る事が出来ない。
の前に立ってみれば今度はが思い切りエースから顔を背けた。
背けた瞬間、一瞬の頬が赤く染まっているのが見えた気がする。


「もしかして……」


繋いでいるの手の平がやけに熱い。
もう片方の手で口元と頬を押さえ横を向き俯いているの視線が地面を彷徨う。
その様子はまるで……


「もしかすると……」


必死でエースの視線から逃げようとするの顔を覗き込むようにしてそれを確認する。
やはり見間違いなどではなかった。
俯いているの顔は赤く染まっており幾度も瞬きを繰り返している。
それを見たエースの心臓も突然大きな音を立て始めた。


「もしかしなくても、照れてる?」


エースの言葉は疑問を含んでいるがの顔と態度を見ればそれは日の目を見るより明らかだった。
まさかが照れるとは、信じられないものを見るような目で見つめるエースの口元が勝手に緩んでいく。
今まで何を言っても軽く避わされていたというのにどうした事か。


「おーい
「―――ずるいではないか、エース」
「何が?」
「不意打ちは卑怯だ」


顔を覗き込むエースの視線から逃れようとがそっぽを向いたまま歩き出す。
それは明らかに照れ隠しであり、が何に照れているかと言えば勿論エースの言った言葉。
つまりはエースの言った大好きという言葉に照れているのであって…。


「なァ、おれの事大好きだぜ」
「何度も言わなくても理解している」
「照れんなよ
「別に照れてなどいない。気温の上昇と共に体温が上がっているだけであり顔が赤いのは体温の上昇によるものだ」


振りほどこうとする手が離れないようにぎゅっと握って包み込む。
前を歩くの足は早くて、風を切って歩いて行くの全身がその感情を大いに表現していて。
張られていた一線がほんの少しだけ緩められた気がして、との距離が少しだけ縮まった気がした。
それはエースにとって何よりも嬉しい事であり気持ちはぐんぐん上昇の一途を辿る。
嬉しさで緩んでしまったエースの頬と口元はしばらく戻りそうになかった。




UP DATE : 2008.04.23



海智様から頂きました、エースのお話です
素敵なリクエスト有難う御座いました!
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