命を祝福する魔法




麦わらの一味が無人島で食料を探していた時の事。
ルフィとがペアになって欝蒼とする森を探索していると、ルフィが足下にある何かを見つけた。
直径わずか数センチ程度のそれは所謂卵というものであり一つだけぽつんと取り残されたかのように地面へと転がっている。
一瞬戸惑った様子を見せ、そっと拾い上げたルフィがそれを掲げ下から不思議そうに眺めた。


「なァ、これ卵だよな」
「ああそうだ。巣から落下したのかもしれないな」


呟いて二人一緒に上空を見上げてみるが木々が生い茂っているだけでそれらしき物は何も見る事は出来ない。
卵を眺めるルフィに少し待っていろと告げが羽を出し枝が広がる場所へ飛んでいく。
食べ物を探しているとは言え既にある程度を収穫した後であり切迫した状況では無い。
卵に触れればそれはまだ温かく、地面に落ちてそう時間は経っていないと思われる。
ならば親元へ帰してやるべきかもしれない。
だが通常ならば親が探しに来てもいいもののそういった姿は確認する事が出来ずもしやと思う。
程無くして予想通りもぬけの殻となった鳥の巣を見つけ、はそれを持ってルフィの待つ場所へと降りて行った。

木の皮や藁などで作られたからっぽの巣を見たルフィとが巣と卵に視線を巡らせる。
巣の中には破れた殻が散乱している所を見れば、恐らく他の卵は既に孵化しているのだろう。
一つだけ残されたこの卵が何らかの原因で取り残されてしまったという所か。


「有精卵だとしてもこのままでは直に死滅するだろうな」
「えー?何かかわいそうじゃねェか」
「それが自然の摂理だ」
「あっためれば生まれるかな」


そう言って両手で卵を包み込むルフィの言葉にが考えを巡らせる。
状況からして鳥の卵である事は間違い無く、真新しい卵の殻があった事からしてこれも恐らく有精卵だろう。
人工孵化する事も不可能では無いかもしれない。


「きちんとした設備を作れば可能かもしれないな」
「じゃあよ!おれ達でどうにかしてやろうぜ」
「では船に戻るか」


キラキラとした瞳で卵を見つめて頷いたルフィが足早に船へと駆けて行く。
嬉しそうに駆けて行くルフィの背中を見つめながら追いかけるもまた口元に笑みを浮かべていた。
食べようではなく、孵してやろうという考えを持つルフィの純真さが羨ましい。



船に戻ったルフィとの周りには収穫を終え戻ってきた仲間達が集まっていた。
全員の視線を一身に受けるのは勿論ルフィが両手で持っている一つの卵。
とりあえず新たな巣を作ろうという事になり、ゾロとサンジが枯草や藁を集めに走った。
ナミとロビンも卵が気になるようで左右からルフィの持つ卵へと視線を向けている。


「いつ生まれるかな」
「他の卵は既に孵化を終えている状態だった事からして数日以内だと思うが」
「あんたが食べない選択肢を出すなんて思わなかったわ」


目を爛々と輝かせ卵を見つめるルフィの傍でナミが感心したように呟いた。
その横ではチョッパーととロビンがあれやこれやと議論する。
実際設備の整っていない状態での人工孵化を成功させる事は非常に難しいだろう。
ゾロとサンジが枯草と藁を集めてきた所で、フランキーが鳥の巣箱を完成させルフィの手から特製の巣箱へと卵が移される。


「後はどうすればいいんだ?」
「巣箱の中の温度と湿度を保たなければならない。温度は37.5度から38度、湿度は70%程度といった所かな、トニー」
「多分その位だと思う。でも孵化はすごい難しいから少しでも間違えたら生まれなくなっちゃうぞ」
「ウソップなら装置を作れると思うが頼んでもいいか?」
「勿論任せとけ!おれ様に作れないものはなーい!」


胸を張るウソップがから説明を受けあっという間に装置を作り上げた。
灯貝という光を蓄えておける貝と熱貝という熱を蓄えておける貝で温度の調整をし、
水貝という水を貯めておける貝を使い発生している熱の力によりかすかな蒸気を生み出すものだ。
この世界には何て便利なものがあるものかとは舌を捲く思いだった。
巣箱に入れられた卵の周りには期待に胸膨らませる仲間達の姿。
かくして麦わらの一味による卵を孵化させよう計画が始まった。


巣箱の前でじっと卵を見つめるルフィとウソップとチョッパー。
既に一時間が経過しているというのにも関わらずひたすら見つめているところを見ると相当楽しみにしているらしい事がわかる。
巣箱はダイニングに置かれており、とロビンは読書に勤しみナミはダイニングのテーブルで海図を書いていた。
ゾロはダンベルを持ち込みトレーニング、フランキーは図面を引きサンジはキッチンでおやつ作り。
全員がこの場を離れる様子はみられない。


「なァ、まだ生まれねェのか?」
「まだ一時間程度しか過ぎていないからな。上手くいったとしても時間がかかるだろう」
「何が生まれんのかな。恐竜とか生まれねェかなァ」
「……卵の大きさと巣の状況からして恐竜を望む事は難しいだろうな」
「そうね、でも何かおもしろいものが生まれるかも知れないわよ」


ページを捲りながらロビンが穏やかな笑みを浮かべて続けた言葉にルフィ達の顔がぱぁっと明るくなる。
確かに木の上にあった巣だからと言って鳥だと決まったわけではない。
それこその常識が通用しない世界なのだから何か奇抜な生物が生まれても何ら不思議な事ではないのだ。


「生まれた瞬間に一味が全滅する程の威力を持った生物…だったりしてな」
「ちょっと!変な事言わないでよ」
「卵の大きさからは想像出来ない程の凄まじいものが生まれる可能性だって捨てきれないわ」
「ロ、ロビンまで怖ェ事言うなよ!ま、まァおれ様は全然怖くねェけどな!」
「ウソップすげー!!」


本から視線を外さずに呟くとロビンの言葉にナミとチョッパーが震えウソップが強がって胸を張る。
ルフィはおもしれェもんが生まれるといいなーと言いつつ卵から視線を外さず期待の眼差しで見つめていた。


「……くだらねェ、どうせ鳥だろ」
「マリモにはロマンっつーもんがねェな」
「あァ?じゃあてめェは何が生まれると思ってんだよ」
「素敵な美女とか生まれるかもしれねェだろ!」
「いや、スーパーなメカとかかもしれねェぞ、案外」


眉間に皺を寄せてくだらねェと吐き捨てるゾロ、ハートを飛ばし体をくねらせるサンジ。
図面を引きながらその様子を楽しんでいるフランキー。
何だかんだ言いつつも全員がちらちらと卵に視線を向け、今か今かとその時を待つ。


おやつを食べ、夕食を食べどっぷりと日が暮れても卵には何の変化も起こらなかった。
卵を拾ってから早半日。それでも全員がダイニングから離れずその様子を見守っている。
誰から言い出すでもなくいつの間にかダイニングには毛布やら枕やらが持ち込まれていた。
巣箱を中心にして円状に仲間達が取り囲むように寝転がっている。
その中心に置かれた巣箱の中の卵が変化を見せ始めたのは日付が変わってからの事だった。
卵の一部に亀裂が走り始めたのである。


「卵が!!」


一番最初に卵の変化に気付いたのはルフィだった。
ルフィの大声にうたた寝をしていた仲間達もガバっと飛び起き巣箱の周りに顔を寄せる。


「生まれるか!?」
「上手くいけばいいが」
「楽しみだなァ!!」


九人全員の視線を一身に受ける卵はゆっくりとその体に亀裂を走らせていく。
新しい生命の誕生を待つというのは何故こんなにもわくわくとした気持ちにさせてくれるのだろうか。
卵の半分まで亀裂が渡った所で天辺の殻が崩れ落ちた。
ごくりと喉を鳴らし卵の一挙手一投足を全員が固唾を飲んで見守る。
誰も一言も発さず静かに呼吸をする音と卵の中にいる雛の出す音だけがサニー号のダイニングに響いていた。


卵が変化を見せ始めて数時間。
そろそろ夜が明けてくるであろうという時間に差し掛かった時、ようやく卵全体に亀裂が行き渡った。
目を輝かせるルフィ、ウソップ、チョッパー。
微動だにせず見つめるサンジ、ゾロ、フランキー。
その時をじっと待つナミ、ロビン、

卵の殻が割れ始めたと思った瞬間、その時は一気に訪れた。
殻の両側が割れ可愛らしい頭が顔を出し、鈴を転がした様な高く細い鳴き声が囁く様に零れ落ちる。
現われたのはふわふわと柔らかそうな濡れた毛を纏う小さな小さな鳥の雛。


「う、生まれたァー!!」
「サンジ!宴の準備だ!!」
「ちっちぇえ!」
「可愛いわね」


殻から出てきた雛をそっと両手に乗せ包み込むようにして抱き目を爛々と輝かせるルフィ。
九人全員の表情が柔らかく微笑みを映し出す。
それはまるで新しい命を祝福する魔法のような一時。

早朝だというにも関わらず甲板の上には酒や料理がずらりと並ぶ。
誰もが寝不足だが、誰もが幸せに満ち足りた笑みを浮かべている。


「じゃあ、新しく生まれたこいつに!」


ルフィが両手に乗せた鳥の雛を頭上に掲げ、仲間達がそれに合わせてジョッキを傾け宴が始まった。
朝日が昇り始めたグランドラインの無人島に顔一杯の笑みと賑やかな声が響き渡る。
ルフィの手の中で生まれたばかりの新しい命は精一杯の喜びを表現するように綺麗な声を囀らせていた。




UP DATE : 2008.05.04



千幸様から頂きました、麦藁の一味が鳥の雛を孵すお話です
素敵なリクエスト有難う御座いました!
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