手を繋ぐくらいはいいでしょう? 後編




【シリアスな話で流血表現があります。苦手な方はご注意下さい】








上での騒ぎの所為か、船長は探すまでも無く見つかった。
船内は宛ら護送船の様な作りであり階段を下りた場所から部屋は大きく分けて二つしか無く、その内の一つは全て檻が連なる部屋だ。
檻には若い女性が数人手錠をかけられた状態で泣いていたり不安そうな顔を浮かべていたりと目を瞑りたくなる様な光景が広がっている。
そして、一番奥の檻にナミとロビンの姿を見つけようやく会えた事に安堵したかったが状況はそうもさせてくれないものだった。
船長と見られる男はが何の目的で侵入したかをわかっているようであり銃口をナミとロビンに向けて口元を歪め嘲笑っている。
一歩室内へ踏み入れたの体は既に返り血を浴びた状態でポタポタと血の滴が床に広がっていった。
の姿を見て檻に入れられた女性達は顔を引き攣らせ、の見つめる方向にいるナミとロビンも表情を強張らせている。


ナミとロビンの顔には殴られたような腫れがあった。


二人の顔に出来た腫れを見た瞬間の中に怒り、嘆き、悲しみ、憤りが一気に湧き上がり憎悪の感情が爆発的な早さを持って体中を駆けていった。
それとは逆に頭の中は妙にすーっと冷静な思考を巡らせて行く。
こんなに憤りを感じるのは久々の感覚だ。

ナミとロビンに銃口を向けている男が歪んだ笑みを浮かべたままに向かって口を開いた。


「こりゃァ大物がかかったもんだ。てめェは銀翼の幻術師だな?」
「そうだ」
「最近手配された中では最も高額な懸賞金がかけられてる上に女だ。いくらでも使い道はある」


男の顔を見ながらが記憶の中にある海賊の顔を思い浮かべるが誰にも当て嵌まらない。
勿論手配されている全ての人物を知っている訳でもないが、有名処はある程度記憶にある。
先程甲板にいた連中がボスはいないと言っていた。
ならば裏にいる人物こそが大物海賊である可能性もある。


「大方こいつらを助けに来たって所だろう?」
「ああ」
「じゃあてめェの首を置いてけ」


辺りの檻に入れられている女性達が震える姿を見ながらが必死に思考を巡らせる。
相手は恐らく大して強くないはずだが無茶をすればナミとロビンの頭に穴があく。
まず最初に行わなくてはならないのは男の銃をどうにかする事。
悩んでいる暇など無い。一か八か……。


「わかった。欲しければくれてやる」
!」


男の言葉に対するの返答を聞いたナミとロビンが顔を一層引き攣らせに向かって叫び声を上げる。
だがはそれを手で制しナミとロビンを見つめた。
の視線を受けたナミとロビンが不安そうな表情を浮かべ押し黙る。
男はが観念したと思ったのだろう。厭らしい笑みを浮かべたまま愉快そうにを見ていた。

武器を置けという男の言葉に従い持っていたナイフを放り両手を床についた。
その瞬間、が両手をついた床から淡い光が漏れ男の足元へと目掛けて床が波の様に盛り上がり襲いかかっていく。
わずか数秒とかからず男の足元まで到達した床の波が反応の遅れた男の体を反転させ、男は大きく体勢を崩し床へ倒れ込んだ。
錬成したと同時に走り出したが倒れた男の持っていた銃を蹴り上げそのまま男の手を踏みつける。
メキメキと骨が軋む音が響き、男が呻き声をあげた。


「どうした、私の首が欲しかったのではないのか。さっさと取ってみろ」


呻き声を上げる男の顔を見下ろすの視線は冷たく鋭い。
手を踏んでいた足をどけその足を男の胸に振り落とすと男は叫び声を上げて顔に恐怖の色を浮かべた。


「私の首を取らないのであれば私がお前の首を取ってやる」
「やめ……助け……!」
「人を売り物にした人間が真っ当な死に方を出来ると思うな」


左手の指にはめていた指輪で新たなナイフを錬成し男の首に向ける。
切っ先は真っ直ぐに男の首元へと伸びており振り落とせばすぐに男は息絶えるだろう。
酷く高揚している気持ちと冷静な思考はの行動を止めようとはしなかった。
同情する気は無い。


「私の仲間に手を出した結果だ」


自分の首を欲しがったからでも何でもない。
ただこの所業が許せなかった。
攫われたのは若い女性ばかりで、どう見ても海賊や犯罪者の類ではない。
冷え切った感情がの体中に行き渡りが腕を振り上げる。
鈍く光るナイフに視線を釘づけにしていた男が声にならない悲鳴を漏らし船内へ響いた。


「ダメ!!!」


の振りかぶったナイフが男の喉に刺さる直前、ナミの叫び声が響き渡りの手が止まる。
心臓の音が耳を劈く様に響き体の奥から震えが込み上がっての肩を揺らした。
口を開け大きく荒い息を吐き出して震える手でナイフを握り締める。
の下にいた男は目を見開いたまま気絶しており微動だにしない。


今、私は、人を、殺そうとした……。


冷静だったはずの自分がいつの間にか激情に突き動かされ、人の命を奪おうとしていた事実に気付いた。
その事実がを混乱させ血に濡れた腕が大きく震える。
数度深呼吸をしたがナイフを元の指輪に戻し、気絶している男の服を漁った。
胸ポケットから鍵を見つけ、動けないように男を縛り上げてから鍵を手にしたがナミとロビンの捕らえられている檻へと近づいて行く。
ロビンの腕に嵌っていた海楼石の手錠を外し二人の居る檻の鍵を外しては鍵をロビンへ渡した。

体の奥から震えが次から次へと押し寄せ止まらない。

ナミとロビンに背を向けたが顔についた血を手で拭う。
今は二人と顔を合わせたくなかった。


「………手を洗ってくる。悪いがロビンは皆の檻を開けてくれ。ナミは船を島へ、頼む」


返事も聞かないまま檻のある部屋を出てもう一つの扉を開け洗面所を探す。
歩きながらは自分の腕や体に目を向けて、そこに染まる赤色を見つめていた。
髪を触れば指に赤がつく。
顔に触れればやはり指に赤い液体が付着していた。

髪も顔も腕も服も何もかもが血だらけだ。
その血は自分の血では無く、他人の返り血。
ナミの言葉がなければ間違い無く自分はあの男を殺していただろう。
悪人だからと言って、言い訳をするつもりだった。
結局自分は昔と何も変わっていない。それをまざまざと見せつけられたようでの中に言いようのない感情が轟いている気がした。

洗面所を探してうろつくの背後で誰かの走る足音が近づいてくるのが聞こえた。
まだ、誰かいるのかもしれない。
拳を握りが振り返ると同時にの手に温かい感覚を感じた。

の後ろに居たのはナミとロビン。
二人は泣きそうな表情を浮かべての手を握っていた。


「……ナミにロビン、………汚れる」


二人の手を振り払おうとするだったが、ナミもロビンもの手をぎゅっと握ったまま離そうとしなかった。
手のひらから伝わってくる二人の温かさが苦しい。
何よりも他人の返り血で汚れている自分の手に触れられる事が、嫌だった。
再度離そうとが手を引いたがナミとロビンが手を離す様子は見られない。
の手に二人が触れる事で、二人が汚れてしまう気がした。


「手を繋ぐくらいは……いいでしょう?」
の手は汚れてなんかいないわ。でももし汚れるのなら一緒がいいの」
「私達の為に、ごめんね」


泣きそうな顔での手をぎゅっと握りしめるナミとロビンの言葉が心の中に温かみを持って流れていく。
何か言葉を発そうとするのに上手く言葉にならなくてが唇を噛み締める。
罪悪感、苦しさ、そして泣きたくなる程の温かさ。


「―――ありがとう」


ようやく発せた言葉は小さくか細い声になってしまったが、ナミとロビンの耳にしっかりと届いたようだった。
の言葉を聞いたナミとロビンが大きく首を横に振って「私達こそ」と続ける。
何か言いたげに言葉を探す二人に今度こそ、手を洗ってくるからと告げ二人の手を放して再び船内を歩き始めた。


程無くして見つかった洗面所に立ったは鏡に映る自分を見て拉げた笑みを浮かべた。
バシャバシャと水音を立てて冷水を頭から被りの髪から流れ出た血が排水溝へと吸い込まれていく。
上着を脱ぎそれも水に浸して血を抜き、顔や腕についた血を洗い流す。
鏡に映る自分からは血の色が消えていたが、それでも付着しているような気がしては何度も頭から水を被った。


誰かを助ける為に誰かを犠牲にしようとした。


滴り落ちる水も気にせず顔を上げたは自分の両手を見つめる。
肌色の手に見えない血の匂いが染みついてしまっているような感覚。
仲間を奪われたからという理由をつけ、いとも容易く他人の命を終わらせようとした自分の行動が憎くて堪らなかった。




UP DATE : 2008.05.06



周様から頂きました、ナミとロビンのお話です
どシリアス一直線になってしまいました…!すみません。
素敵なリクエスト有難う御座いました!
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