遠慮なんてしてません。むしろ拒否してるんです




【W7編模造話です。CP9の彼らが普通の船大工に戻るお話になっています】








嘗ては罪の証と気負っていた翼を広げ大空へと羽ばたくの口元は緩やかに弧を描く。
懐には一通の手紙。数日前、サウザンドサニー号で航海を続けていたの元へ届けられた手紙だ。

甲板で本を読んでいたの元へカモメが運んできた白い封筒には差し出し人の名前も無かった。
この世界に来てが誰かから手紙を受け取る事など初めだ。
最初は間違いかと思ったが宛先は間違い無く宛てになっており、もしかしてと思い心が躍る。
がこの世界に来て早数ヶ月。出会った人物で手紙を寄越して来るような人物など数人しか浮かばない。
丁寧に封を切って入っていた便箋にはたった一行の文が書かれていただけ。
『戻ったから会いに来い』という簡素な言葉は、どこにとも誰にともいつとも書かれていない。
だが思い浮かぶ人物と言えば一人しかおらず、しかしその人物がに手紙を寄越す等想像もしていなかった。
長い鼻の彼やしっかりものの秘書ならばわかるがまさか肩に鳩を乗せた男から手紙が届くとは。
彼らしい言葉と簡素な内容の手紙に思わず頬が緩み、いてもたってもいられなくなったはルフィに頼みこんで数日間船を空ける事にしたのだった。


彼らが、あの街へ戻った。
その事実はと直接関係は無いはずなのに何故か心が温かくなる。
風を切って海上を泳ぐように羽ばたくの脳裏に浮かぶのは彼らの彼ららしい表情。
彼らが、自らの意思で戻った。
遥か彼方、水平線間近に彼らの戻った街の形を見つけたが上機嫌で羽を大きく羽ばたかせる。
綺麗さっぱり元の様に…とはいかないだろうけれど、それでもきっと上手くやっているはずだ。
これから出会う彼らは海賊と政府の間柄ではなく、海賊と船大工として出会えるという事が余計にの気分を高揚させた。

もう敵対する必要は無くなったのだから。

その彼らに会いに行く為自分の羽を使う。
罪を忘れはしない。それでもこちらの世界に来て以来自分の中で意識が変わってきているのは確かだ。
が麦わらの一味と出会い触れ合って変わったように、彼らもまた大切な居場所を見つけたという事なのかもしれない。
嘗ての自分と非常に似た立場に置かれた彼らの行く末はにとって気になる事の一つでもある。


ウォーターセブンの突端にある人通りの無い岬を選んで降り立ったが羽をしまう。
ここからガレーラカンパニーや造船ドックがある場所までは歩いて三十分とかからない。
既に勝手知ったる街となったウォーターセブンの通りをは何となく感慨深い気持ちで歩いて行く。
ウォーターセブンはがこの世界に来て初めて降りた街だ。
正確に言えばロングリングロングランドが一番最初ではあるがあそこは本当に何もない場所だった。
初めて降りた街で、様々な事があった街。
既に出航し違う場所へも立ち寄っている今となってはそれも一つの思い出に変わっている。
決して良い思い出とは言えない部分もあるが悪くは、ない。

造船ドックが集まる通りへと抜けたを見つけた船大工達が威勢の良い言葉をかけてくれた。
どうやらの事を覚えている者も多いらしい。
色んな意味で騒ぎを起こした海賊団の一員なのだからそれもそうかと思いつつも微笑んで返事を返す。
相変わらず明るくて活気のある街だ。
歩を進めるがあちこちへと視線を彷徨わせていると背後から聞き覚えのある声が届いた。


「ンマー、もしやと思えばじゃねェか」


造船ドックが集まる通りを歩いていたの背後に現れたのはこの街の市長でもありガレーラカンパニーの社長でもあるアイスバーグだった。
離れて久しい声を聞いて嬉しくなり振り返ったの目に映ったのは以前と変わらぬアイスバーグの姿。
そしてその横に立つ一人の女性。
髪を結い眼鏡をかけ、誰かさんが見たらハレンチだと叫びそうな格好をした仕事が出来る切れ者の秘書。


「アイスバーグさんに……カリファ!」
「お久しぶりです、さん」


目を細め優しい笑みを浮かべるアイスバーグとカリファの顔を見たもまた同じように目を細めて頬を緩める。
カリファの表情はどこか照れくさそうで、嬉しそうだ。
アイスバーグはがウォーターセブンに訪れた意味を理解しているようで好きにドック内を回っていいと許可をくれた。
カリファから許可証を受け取ったがそれを首にかけ二人に別れを告げドック内へと入っていく。
木槌を叩く音、鉋で木材を削る音、威勢の良い掛け声が響き合いドック内は船大工達が起こす喧騒に包まれている。
活き活きとした表情で各々の職務に励む彼らの姿は見ていてこちらまで気持良くなる程だ。
作業の邪魔をしないよう隙間を抜けてドック内を歩いて行くが前方に見知った姿を見つけた。
その横顔には特徴的な長い鼻、そして帽子に立ち姿。


「カク、久しぶり」


掻き消されてしまうかなと思いつつかけたの言葉はどうやら目的の人物までしっかり届いたようだ。
振り返ったカクはまん丸な目を更に丸くさせ驚いた表情を浮かべてを見つめている。
カクの様子を見て苦笑いを浮かべたが近づいていけばカクの表情が驚きから喜びの表情へと変わっていった。


、お前さん何故ここに…」
「戻ったと聞いてな、会いに来たのだ。邪魔したか」
「そんな事はないがお前さん達は……そうか、は飛べるんじゃもんな」


ニ〜三瞬きを繰り返し直後ニッコリと笑ったカクの表情につられるようにしても目を細めて笑う。
の目の前に居るカクは、間違いなく「船大工」としてのカクだ。
それが何よりの心を温かくしてくれる。
出来る事ならば誰かといがみ合う事無く生きていきたいというのは贅沢な願いかもしれないが、そう思わずにはいられない。


「お前さんには感謝しとるよ」
「別に私は何もしていないさ。選んだのも行動を起こしたのも本人達だ」
「相変わらずじゃのう。―――お、やっぱり来おったか。見つけるのが早過ぎじゃ」


指で頬をかきながら笑うカクの視線はではなくの後ろへと向けられている。
その視線を追うように振り返ればそこにはムスっとした表情を浮かべた男と男の肩に乗っている鳩の姿。
をここへ呼び出した張本人、ルッチだ。


「久しぶりだッポー、。やっと来たか、遅かったな。一週間も待った」
「無茶を言うなルッチ。私の元に手紙が届いてから半日と待たずに出発したのだ。これでも早い方だと思うが」


の横に立ったルッチの肩でハットリが右翼を上げ存在を主張する。
その様子が可愛らしくてハットリへと伸ばした手はハットリへ届く前にルッチが掴んでしまった。
何かと思いルッチへと視線を向ければやはりムスっとしているような無表情を浮かべてに向かいじっと視線を向けている。


「ようやく船を下りて雑用を引き受ける気になったか」
「ちょっと待て何だその話は。私は会いに来ただけであり海賊をやめる気はほとほと無い」
「何じゃそうじゃったのか。アイスバーグさんも粋な事をするわい」
「カクまで……違うと言っているではないか。大体手紙をくれたのはル………!」


ルッチの名前を出そうとした瞬間の口をルッチが手で塞いだ。
言うな、という事なのか。もしかしたらルッチが手紙を出したなどという事自体が照れくさいのかもしれない。
しれっとした表情での口を手で塞いでいるルッチと首を傾げるカク。
その合間にも他の船大工達がルッチやカクに声をかけ、仕事はどんどん進められていた。
以前と変わらぬ「職長!」という言葉を聞いてが目を細める。
雰囲気はあの事件の前と差異の無いものでありギスギスとした様子も見られない事からして上手く収まったのだろう。

遠くにパウリーの姿を見つけ手を振ってみれば、パウリーもまた驚いた表情を浮かべ達の元へと駆けてきた。
葉巻を銜え「何しにきたんだよ」と言いながらもその言葉とは裏腹に表情は柔らかい。
そろそろ昼時かという頃になると今度は再びカリファとアイスバーグが達の元に訪れた。
手には大きなバスケット。ウォーターセブンでも指折りの料理店で仕出しを頼んでくれたらしい。
アイスバーグ達に勧められも御相伴に預かる事にした。
ドックの一角にシートを敷いてその上に並べられていく見事な料理達。
どこに座ったら良いものかとが悩んでいるとルッチがの右手を引いた。
それと同時にカクがの左手を引く。


、こっちに座れッポー」
「わしが面白い話をしてやるからこっちに座れ、
「――どちらでも良いのだが全力で引っ張るのをやめてくれないか。腕が千切れそうだ」


を挟んでカクとルッチがばちばちと目に見えない激しい火花を散らす。
間に挟まれたの視線は置かれた料理に釘付けだ。
何せウォーターセブンに来る為何日も飛び続けまともな食事を取っていない。
結局アイスバーグに宥められたカクとルッチは争うのをやめ二人の間にが座るという事で落ち着く事となった。

ルッチが「美味いから食ってみろ」と出し巻き卵を差し出せば、カクが「こっちの方が美味い」とローストビーフをの皿に乗せる。
対処に困り固まるを見てニヤニヤと笑うパウリー、苦笑いするカリファ、マイペースなアイスバーグ。
どちらも美味しいと言えば今度は別の物を進めてくる二人はおもちゃを取り合う子供の様に見えた。

食後にカリファが淹れてくれた紅茶もとても美味しく、各々の持ち場へと戻っていく彼等を見送ってさてどうしようかと思っていると再びの腕をルッチが引いた。
どうやら一緒に来いという事らしい。
特にする事も無いので大人しくルッチの後をついていけば材木が山程置かれた場所へと案内された。
邪魔にならないよう端っこに座りルッチの作業を眺め、改めてその手先の器用さに驚かされる。
木の皮をするすると剥がし鉋を使って寸部の狂い無く同じ形へと木材を整えていくルッチの集中力は目を見張るものがあった。


は……海賊が好きか?」


作業する手を止めず視線は木肌を削る鉋に向けたままルッチがぼそりと呟いた。
ルッチの肩に乗るハットリは興味が無いのか自分の羽を口ばしでこそぎ毛繕いをしているようだ。


「好き、かもしれないな」
「何だその中途半端な答えは」
「囚われるものが無く自由という意味では気に入っている。案外合っているのかもしれないな」


の答えを聞いたルッチは「そうか」とだけ呟いてまた作業へと意識を戻したようだ。
木を刻む音が心地よく響き無言である事が苦痛にならない。
その後もちょこちょこパウリーやカクが訪れては楽しい話を聞かせてくれて、あっという間にウォーターセブンの空に夕陽が映し出される時刻となった。
西日が眩しい中、一日働いた船大工達が次々に作業を終え帰路へついていく。
もそろそろ発つ頃かなと思い立ち上がった。
いつまでも居たいが、いつまでもはいられない。

だがの考えをお見通しなのか立ち上がった瞬間、パウリーとカクがやってきて飲みに行くぞと言い出した。
二人の言葉を聞いたルッチが頷きパウリーとカクに先に言っていろと告げれば二人は心得たとばかりに駆けていく。
がしっと強い力での腕を掴んだルッチがそのままドックの外へと足を向け歩き出した。


「ルッチ、悪いが私はそろそろ…」
「ダメだッポー。今日は朝まで付き合え」
「少しくらいなら付き合えるが私は酒は…」


有無を言わさぬ態度での腕を引いて歩いて行くルッチはやはり我ままを言う子供の様に見える。
そんなルッチの姿を見て、まあこの先なかなか会えなくなるのだからと思えば仕方ないかと思う。
こうしてどんな感情からかはわからないけれど少なくとも好意を持ってもらえているという事はにとって嬉しい事だ。


「酔わせて既成事実を作ってしまえば帰れなくなるな、なんてちょっとしか思っていないから安心しろッポー」
「ちょっと思っているのか!?」
「遠慮しなくていいッポー。一人くらいなら養えるッポー」
「遠慮ではなくむしろ拒否だ!」


言われた意味を理解したが赤面したのを見たルッチが口元に弧を描いて笑う。
遠くからカクの「二人とも早く来い」と呼ぶ声が聞こえ店の前から手を振っている姿が見えた。
日が落ち始めたウォーターセブンの水路には沢山の人達が笑みを浮かべ帰路へ着く姿。
街の中心部にそびえ立つ大きな噴水が夕焼けの色に染まる。
カク達が待つ店へルッチと共に向かいながら、やはりこの街が好きだなとが頬を緩ませた。




UP DATE : 2008.05.21



六花様から頂きました、ルッチとカクのお話です
素敵なリクエスト有難う御座いました!
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