そこに愛はあるのかと問えば愛に似たものはあると君は答えた
海流が発生する原因は諸説あるが、大きく分けて表層循環と深層循環がある。
メカニズム的に言えば海面での卓越風によって起こされる摩擦運動が元になって出来る風成循環が……
「てめェはすっこんでろ!」
「んだと?てめェこそどっかに行きやがれ!!」
そこまで文字を追ってペンを置く。
しんと静まり返ったサウザンドサニー号の図書室にの動かすペンの音だけが響いていたのは最早数分前までの話だ。
の前には海洋学の本と研究ノート、いつも使っているペンが乗っているテーブル。
そしてそのテーブルを挟んでへと威圧的な視線を送る二人の男達。
一人は金髪の料理人、もう一人は緑色の髪の剣士。
「さァちゃん選んでくれ!おれを選ぶかこのクソマリモを選ぶか」
「遠慮なんてしなくていいんだぜ。おれか、ぐる眉か」
ぐいっと顔を近づける二人に比例しても少しだけ身を引く。
サンジとゾロの間には見えない火花が散っており一触即発の状態を保っていた。
何故こんな事に巻き込まれなくてはならないのか。今日は至って普通の一日だったはずなのに。
新手の嫌がらせだとすれば随分手が込んでおり、且つ有効的な手段だなと思ったが口にはしない。
この船でに嫌がらせをする人物など居はしないのだから。
眉を顰めたまま黙り込むの前に立ったサンジとゾロはなかなか返ってこないの答えを今か今かと待ち望んでいるようだ。
「いいんだぜちゃん、こんなクソマリモに気ィ使わなくったってよ」
「黙ってろこのダーツ!、別にこいつを選ばなくてもお前の生活は何一つ変わらないから安心しろ」
んだとこらァ!やんのか!と罵り合う二人の言葉を聞いたの表情が更に顰められていく。
喧嘩をするなら余所でやって貰いたいというのがの本音だ。
ここは図書室であり闘技場ではない。
どうしてこういう時にいつも一人取り残されるのだろうか。
時刻は夜、既に周りはどっぷりと闇に包まれておりそろそろ就寝する仲間もいるだろう。
だがまだ起きている者もいるはずだ。ロビンかナミ辺り気を利かせてここまで来てくれないものか。
「選べと言われてもだな、何を基準に選べば良いのかがわからない以上…」
「ちゃんの好きな方を選んで貰えればいいんです」
「いや、だからだな、その好きな方というのが…」
「気に入ってる方でいいんだよ」
そんな事を言われても一言で結論を出すのであれば「困る」この言葉に尽きる。
好きも気に入っているも順位をつけるものではないのではないだろうか。
困惑するの心情を知ってか知らずか、考え込むに対し二人が口を開いた。
「じゃあこうしようぜちゃん、恋人にしたい方って事で」
「あァ?……まァいい、で、はどっちを選ぶんだ」
余計に難易度が上がってしまったのは気のせいだろうか。
睨み合う二人を前に逃げ道を模索するが困った事にまるで浮かんでこない。
「ト、トニーという事で…」
「それは答えになってねェだろ」
「おれかマリモのどっちかで聞いているんです、ちゃん」
言いかけた言葉もすぐにぴしゃりと遮られてしまう。
身を乗り出して凄みを利かせるサンジとゾロにが体を引いて乾いた笑いを漏らした。
どちらと答えても角が立ちそうであり、そもそもそういう対象として見た事がないのだから答えようなどないのだ。
サンジもゾロも勿論仲間として大切だがこういう質問は心臓に良くないので切実にこの場から逃げ出してしまいたい。
からかわれているとしたっておいそれと選べる選択肢ではない。
「酒と寝る事と戦う事くらいしか能がねェマリモなんて嫌だろ、ちゃん」
「んだとこらァ!そういうてめェこそ飯作る事しか能がねェし女とあれば見境ねェじゃねェか!」
「いや、だからな二人とも落ち着い…」
「おれはレディに紳士的なだけだ!てめェみたいなレディファーストも出来ねェようなクソ野郎に言われたくねェな!」
「女を見てヘラヘラすんのがレディファーストか?とんだ紳士だな」
互いの襟首を掴みいがみ合うサンジとゾロの言い争いはヒートアップしていく一方の様だ。
目の前で繰り広げられる争いを視界に入れつつ、さてどうしたものかとが解決策を考える。
どちらも、では駄目だろうか。もしくは平和的にジャンケンで……無理だな…。
「何故私に聞くのだ。ナミやロビンでは駄目なのか?」
の言葉にサンジとゾロが動きを止めへと視線を向けた。
頼むからその迫力ある視線でこちらを見ないで欲しいと思ったがやはり口にはしない。
ナミやロビンならばさらりと切り抜けてしまうであろうこの展開もにとっては非常に難解な問題だ。
じっと待つ事数秒、気が合っているのかいないのか二人は「じゃなきゃ意味が無い」と口を揃えて答えた。
何もこんな時だけ意気投合してくれなくても良いのになという呟きは有耶無耶のままに消えていく。
「悪いがその質問に対する答えは持ち合わせていない。他をあたってくれ」
深い溜息と共に吐き出されたの言葉を聞いたサンジとゾロが更に身を乗り出して迫ってくる。
勘弁して欲しいというのは贅沢な願いなのだろうか。
このままでは逃げられると思ったのか、いつの間にかの両側へ回ったサンジとゾロに腕を掴まれて、の眉間に皺が寄る。
時折勃発する厄介事は所謂思春期、青年期と言われる年齢だからなのだろうか。
そういえばこういう事柄は大抵が年下組の起こすものであり、やロビン、フランキーとは無縁のものだ。
「ちゃん、おれの作った飯とマリモが作った飯どっちが食いたい?」
「それはサンジだな。ある意味ゾロの作った料理も気にはなるが」
「じゃあ、組んで鍛練するならおれとそこのぐる眉どっちがいいんだ」
「それはゾロだろうな。サンジは同性以外と組み手をしてくれないし」
を間に挟んで睨み合うサンジとゾロの勢いは止まりそうに無い。
時間はどんどん過ぎていく。人間に与えられた時間などある程度決まっていて貴重なものだというのに。
早く海洋学の本の続きが読みたい。の頭の中にあるのはそれだけだった。
その間にも二人はに対しさまざまな質問をぶつけていく。
スーツが似合うのは?だとか、酒が強いのは?だとかどう考えてもどちらかに有利な質問しかないが。
図書室の壁にかけてある時計を見たの表情が更に渋くなり始めた。
気づけばもうこんな事を始めてから一時間が経過している。
サンジとゾロに腕を掴まれたままのはその手を強引に引いてテーブルに置いてあったノートとペンを引き寄せた。
このままでは埒が明かない。どちらか決めれば良いだけだ。が、ではなく二人に決めてもらえば平和的だと思いついたのだ。
突然動き始めたにサンジとゾロもから手を放しその様子を見守っている。
ペンを取ったはノートを一枚破り、縦に二本の線を引いた。
そして適当に横線を引いていき、一本の線の下に丸を書いてサンジとゾロの前に突きつける。
それは所謂あみだくじというものであり、サンジとゾロが揃って首を傾げた。
「私は運の強い男性が好みだ。という訳でこれで決めたいと思う」
の言葉を聞いたサンジとゾロが呆気に取られた表情を浮かべ、まじまじとその紙を見つめた。
運が強い男性が好みだなんて適当にも程があると思ったがあながち嘘でも無いだろうと自分に言い聞かせる。
何事も弱いより強い方がいい。
納得いかないといった表情を浮かべるサンジとゾロの顔を見たがニヤリと口元だけで笑う。
「運に賭けてみる男らしさもプラス、だな。理由云々よりずっと男らしい決着のつけ方ではないだろうか」
その言葉を聞いた瞬間、サンジとゾロの表情が強気な笑みに変わった。
どうやらのってくれたらしい。じっと穴が空きそうな程紙を見つめる二人の視線を受けながらが胸を撫で下ろす。
もうじき解放されそうだ。やはりこういう質問は苦手である。
どちらかが先に選ぶとすればまた揉めてしまいそうなので同時に指さす事で決める事にした。
妙な緊張感がサンジとゾロの間を行き来する中、の合図で二人が一斉に紙を指さす。
サンジは左側でゾロは右側と綺麗に別れる事が出来、ほっとする。
二人がじっと固唾を飲んで見守る中、がペンでサンジの選んだ左側の線をなぞり始めた。
の持つペンは右へ左へと折れ下へ進んでいく。
「―――決まり、だな」
ペンがなぞる線の先には丸の印。つまりあみだくじが導き出した答えはサンジ、という結果に終わった。
狂喜乱舞するサンジの横でゾロが肩を落とす。
何故そこまで落胆が激しいのか、どーんと影を落とし落ち込むゾロの心境などには知る由もなかった。
顔全体を緩ませての手を取ったサンジが嬉しそうに手の甲へキスを落とす。
「これはもう…!運命ですね、プリンセス!」
「いや、ただの運だ」
「ちゃんが作ったクジをおれが引き当てたんだからこれはもうちゃんが選んだも同然!」
「確率は二分の一であり選んだのは二人だ」
自分で選ばなくて済んだ事に安堵するの言葉はサンジに届いていないようだ。
二人の反応は対照的であり、ゾロを見ていると何だかかわいそうな気までしてくるがここで慰めでもしたら長引きかねない。
結局何だったのだろうと思いつつ、早く解放してくれと願うの手を引いたサンジがニッコリ笑う。
「これはちゃんの俺への愛という事だよね、ね?」
「……まァ愛に似たものはあるかもな」
面倒臭そうに答えるの言葉を真に受けたサンジが舞いあがり、ゾロが「んなもんねーよ、たまたまだろ」と呟いた。
それを聞いたサンジがゾロに対し「負け惜しみを言うな」と煽れば不機嫌そうな表情を浮かべたゾロがサンジの襟首を掴む。
再び始まった乱闘を背にが椅子に腰かけて本を開いた。
今度ウソップに耳栓でも作って貰おうかと思いながら再びペンを手に取ってノートを広げる。
「選ばれたのはおれだ!さっさと諦めやがれこのクソマリモが!」
「うっせェ!納得いかねェ!もう一回だ!」
何がそんなに悔しいのか。まあ元々ライバル意識のある二人だから仕方ないかとも思い自分の意識から二人を切り離す。
恐らくナミのものであろう足音を遠くに捉え、数秒後訪れるであろう怒号に備えは両手で耳を覆った。
UP DATE : 2008.05.30