「ほら黒桐」
投げ渡された茶封筒を開けてみると、適当に突っ込んだように諭吉さん達が入っていた。
「橙子さん何ですかこれ?」
「何ですかってお金に決まってるだろ。それ以外に何に見えるんだ一体」
そんなことは分かっている。ただこのお金を貰う意味が分からない。今月はちゃんと給料も先日出たばっかりだし。
そうするとこれは仕事の経費か何かということだろうか。
「もしかして今から出張ですか?」
「あのな〜君はボーナスという言葉を知らないのか?」
今、何て?
え?…ボー、ナス?
「これボーナスなんですか?!っていうかボーナス出るんですか?」
っていうかいつそんなものが出せる臨時収入があったんだ?
先月までは今月の給料さえ出るか分からない。いや出そうにない状況だったって言うのに。
「本当に偶然だよ。偶然。それに必要なんじゃない?お・金」
橙子さんはニヤニヤとおもしろそうに笑い、煙草の煙を吐いた。
…確かに必要なのは必要な、はずなんだけど。うん、多分。
「どうした浮かない顔して?…ははぁ〜ん。そうか、まだどうするか決めかねてるわけだ」
「まぁ、だいたいは正解です…」
「だいたい?」
確かに当日どうするかをまだ決めかねてるって言うのもある。ただ悩んでるのはそっちが主ではない。寧ろもっと深刻な悩みがあるわけで…
「全く。大丈夫なのか?もうクリスマスまで一週間切ったんだぞ黒桐」
「えぇ分かってます」
そう。もうクリスマスまで5日しかないのだ。
〜クリスマスの日〜
4日前の去る15日僕は式にクリスマスについての話をしようとアパートの部屋を訪ねたわけなんだけど不在。
その後数時間ほど待ってみたもののどうにも帰ってくる様子もない。
で、両儀家を訪ねてみたんだけど、
「お嬢様は現在所用で出かけておられます」
なんていつになく厳しい秋隆さんに門前払いにされたわけで…
まぁ式が変なことに巻き込まれたりしてないってだけで取りあえずは安心したんだけど式の用事ってのが分からない。
いつ帰ってくるのか聞いても所用が済み次第
としか答えてもらえなかったし。
一体どうしたんだろ…
その時急にドアが開いた。
「こんにちは。って、あれ今日は式は居ないんですね」
「、、、なんだ鮮花か」
「悪かったですね私で。兄さんは一体誰をお待ちだったのかしら」
「まぁそう言ってやるな鮮花。黒桐は今切実な問題と向き合ってる最中なんだからな」
「…そう言う橙子さんが一番おもしろうですけど」
「まぁお前達は見ていて本当に飽きないからな」
橙子さんはそう笑い新しい煙草に火を付けた。
「お前、達?兄さんの悩みってまた式のことですか?!」
鮮花に橙子さんはこいつの悩みといえばそれくらいしかないだろうなんて意地悪い笑みを浮かべた。
確かに式のことで悩んでることは多いけど、それくらいっていうのは全く持って心外だ。
「外れてはいませんけど別にそれだけってわけじゃないですよ。他にも深刻な悩みはありますし。例えば給料がちゃんとでないこととか」
今月は良かったようなものを先月と先々月二ヶ月も連続して給料が出なかった時は本当に危なかった…
「別に出さないわけじゃないのよ。出したくても出せないの。急な収入もあれば急な出費もあるの。だから、ね・幹也君」
いつの間にか橙子さんは眼鏡を外してた。というか逃げた…
「それに良いじゃない。ここ最近ずっと式の手料理が食べれたんでしょ?」
「と、橙子さん?な、何故それを」
「それ本当ですか!!?ていうかどういうことですか兄さん!」
ニコニコとただ笑う橙子さん、一方は怒濤の勢いで言い寄ってくる鮮花…
全く何でこんなことになっているのだろうか。
確かに先々月給料が出ないと分かって資金工面に奔走してる時家に来た式に冗談のつもりでご飯を作ってくれないかい?なんて言ってみたら別にいけどなんて作ってくれ、それからほとんど毎日のように夕飯を作ってくれたのだ。
「で、肝心の式はどうしたの幹也君?」
「それが行方知れずなんです」
「「は?」」
「行方知れずってどういうことなんですか兄さん?」
「いやどうもこうも言葉のままだよ四日前から連絡が全くつかないんだよ」
四日前?
ということは15日…
あの日は橙子師に魔術を習う日だったから来てみると橙子師も幹也も出ていて居たのはソファーに腰掛けてる式一人だった。
「なんだ式あなただけなの?」
式は見れば分かるだろなんてだるそうに言い返してきた。
これ以上話すこともないし、寧ろ話したくもないから私は橙子師が帰ってくるまである作業をすることにした。まぁ時間をつぶすにはもってこいだし、正直完成を急がないともう時間もないし。
作業開始から少し経って急に式が何してんだなんてのぞき込んできた。
「見て分からない?」
「いや、聞き方が悪かったかだか「もうすぐそう言う時期でしょ?」
恐らく当日幹也が共に過ごすのはこいつだってことは予想できてる。だから少しでも私は虚勢を張る。
「そうか大変だなお前も」
そんな私にまるで興味なさそうに答える式の態度に多少なりの疑問を抱いた。こんなに余裕があるってことは相当の準備があるのか、それとも全く考えてないのか。
式のことを考えればほぼ間違いなくそれは後者なのだろう。
「式。あんたは何か準備してるの?」
「何を」
そんなとこだろうと思った。
「まぁ別にどうでも良いけど。良くないけど…」
「はぁ?なんなんだよ一体」
「式、癪だけどもうすぐクリスマスよ?」
全く何で私がこんなことを言ってやらなくちゃならないってのよ。
「あぁそういえばそうだったな」
そうだったって…
「全く…」
「まぁ貴女がそういうつもりならそれで良いわ」
「なぁ」
「何?」
「普通クリスマスってどういう風に過ごすんだ」
「は?一体どういう風の吹き回しかしら?」
「別にちょっとしたきまぐれだよ」
ふーん気まぐれね。
「そうねうちは家族で食卓囲んでご飯食べてテレビ見たりと普通に過ごしてたわね。しいていうなら料理がいつもより多少なりと豪勢だったかな」
「豪勢ってどんな感じだ?」
「例えばビーフストロガノフとか?」
「ビーフストロガノフ?」
私も家を出てからのことは分からないけど私がいた頃は何故だか毎年クリスマスにはビーフストロガノフが出ていたのだ。
「へぇそっか。他にはどうなんだ」
「そうね。まぁ大切な人と過ごすんじゃない?」
そんな話し確かあの日したけどまさかね…
〜五日後〜
結局あれから式から連絡もなく24日を迎えてしまった僕はいつもと変わらず伽藍の堂にいた。
「悪いわね幹也君こんな日にまでこんな日にまで仕事手伝わせちゃって」
「いいですよ。きゅうなしごとじゃしょうがないですし、結局式には連絡が付かずじまいですから。なによりそもそも今日平日ですし」
「へぇ〜じゃあどうするの?今日」
「一応後で家に行ってみようと思います」
「そう。じゃ後は私がやって置くからもう帰って良いわよ」
「いやでもまだ結構残ってますよ?」
急な仕事だったってこともあってまだ半分と少し済んだ位なわけだし。ここで帰るのは気が引ける。
「じゃまぁこれが私からのクリスマスプレゼントってことで」
「本当に良いんですか?」
「えぇその変わり年末まで忙しいと思っておいてね」
「了解です。それじゃ橙子さん失礼します」
「メリークリスマス幹也君」
取りあえずは一度家に帰ってから式の家と両儀邸行ってみるか。
家に帰ってみるとそこにはこの五日間探し続けてた人物がいた…
「式…?どうしてここに」
「は?どうしてって前にお前から鍵貰ったじゃないか」
「いや。だからそういうことじゃななくて」
まるでそんなこと無かったように式は何か作ってる。
「それ鮮花からか?」
式は僕の首を見てそんなことを言ってきた。
それは間違いなく僕の服装の中で唯一赤く目立っているマフラーのことなのだろう。
「まぁいいよ。そんなとこで立ち尽くしてないでさっさと座れよもうできるからさ」
できる?
「式一体何を作ってるの?」
「ビーフストロガノフ」
え?
「だってその今日はそういう日なんだろ?」
「式?」
「鮮花が言ってたんだよクリスマスはその…」
鮮花が何を言ったか何てことは分からないけど恥ずかしそうにあれは多分ビーフストロガノフを作ってる式はとても可愛かった。
「ねぇ式」
「なn」
式が答える前に僕は式を抱きしめた。たった五日会えなかっただけなのにこんなことをしてしまうなんてとは思うけど全てはこんなに可愛い式が悪いんだから。
「何、するんだよ幹也」
「ごめん。でも今は無性にこうしていたいんだ。式は嫌?」
「別に…嫌じゃないけど」
「こんなプレゼントをもらえるなんて本当に嬉しいよ」
「プレゼントって何だ?俺は何も用意してないし渡してもないぞ?」
「うんうん僕はもうもらってるよ式。だってこうして好きな人とこうしてクリスマスを過ごせるなんてこれ以上に嬉しいプレゼントはないよ」
そっか…なんて式もそっと手を回してきてくれた。
「ねぇ、式」
「ん?」
「メリークリスマス」
「黒桐さんもうその辺でやめた方が…」
「いいのよ!やけ食いでもしてなきゃやってらんないわよこんなの!ほら藤乃ももっと食べて」
部屋に用意されているのは大量に作られたケーキの山…
ホント何なのよあの二人は!
「あぁあもぅ!!ほらまだまだあるわよ藤乃!」
『先輩、私泣いてもいいですか…』
こうしてその後浅上藤乃は人生史上最悪のクリスマスを過ごすこととなってしまったことや秋隆さんのこの日のための頑張りはまた…
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