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「おぅ凛ちゃん!活きの良い秋刀魚入ってるよ」
そう声をかけてきたのは魚屋の主人のおじさん。
士郎と付き合い始めてここに良く来るようになった頃は、この商店街の人たちと士郎の関わりの深さにはホント驚いたな。
行くにしても通りかかっただけにしてもそれぞれの店のおじさんや、おばさんが士郎に声をかけくるし。
士郎曰く『親父が死んでからずっとこの商店街の人たちがまるで親代わりだったからな』だそうだけど。
料理の知識や技術なんかも肉屋や魚屋なんかで教えて貰ったらしいし。
それで士郎と買い物に行き始めた頃はからかわれたりもしたけど、今では通りかかったりすれば私にもこうして声をかけてくれるようになった。
「今日は衛宮君の当番の日ですし、別件で来たので遠慮しておきますね」
「そうかい。ならまたよろしくな!凛ちゃんは可愛いからうんと、サービスするからさ」
いつの間にか私もそのことが当たり前になってる。
「そんなこと言ってたらおばさんにまた怒られますよ」
魚屋のおじさんは違いねえなんて笑い、じゃまたななんて見送ってくれた。
こんな温かい幸せ、魔術師としては間違ってる。
そう、判ってる。
でも、知ってしまったから。
女の子として士郎を好きになって、藤村先生や桜に囲まれた心落ち着く場所を、こうして温かく接してくれる人たちを。
ただこういう時、ふと思う。
魔術師遠坂凛はこれでいいのだろうかと。
遠坂家の当主として、一族を継ぐ者として。
そんなことを考えながら、私は目的であった花屋に向かった。
「こんにちわ、これだけ分お願いします」
そう三千円程渡すと花屋のおばさんは、じゃちょっと待ってねと花を選びだし包んでくれた。
今日は九月五日は私にとって大事な日の一つ。
そして、来年からは倫敦に留学する。だから多分当分の間は行くことは出来ないだろうし。
花を受け取り、おばさんにお礼を言って店を出ると。
「遠坂」
そう後ろから呼ぶのは私のよく知る声。
「あら、士郎じゃない。何、買い出しにでも来たの?」
と士郎は、なぁ遠坂、何かあったのか?なんて聞いてきた。
「どうして?私どこかおかしい?」
「いや、そのなんていうか寂しそうって言うかさ」
寂しそうか…
いつもと同じように振る舞ってても、こういう時の士郎はほんのちょっとしたいつもとの違いを見つける。
普段は髪型変えたり、香水変えても気づかないくせに。
ほんと、こういう時だけは士郎はやたら敏感なんだから。
「その、俺に相談できることならして欲しいんだ。俺、少しでも遠坂の力になりたいから」
それに、こういう時の士郎は本当に嬉しいことを言ってくれる。
一緒に来る?そう言い私は目的地へ歩み出した。
すぐに士郎は追いついて私の隣に並んだ。
私の隣には士郎が居てくれる。
食事の時も登下校の時も、私の隣は士郎の、士郎の隣は私のポジション。
いつまでもそうであってほしい。
私が手を繋いでいい?と聞くと士郎は、あぁと手を差し出してくれた。
時々いつか士郎も私の側から居なくなってしまうんじゃないか、そう思ってしまう。
そう思うと心が苦しくて私はその辛さに押しつぶされそうになる。
ちゃんと隣に士郎が居る、その実感が欲しいから私はその手をぎゅっと握る。
桜が養子に出された時も、お父様が死んだ時も私は魔術師だからと自分に言い聞かせ私は気丈に振る舞った。そしてあの時も…
でも士郎に桜のことを話した時、士郎は
『魔術師だから悲しくないなんて言うのは嘘だ、だから悲しかったら泣いてもいいんだ。そうまでして強がる必要はないんだ』
そう抱きしめられた。
その時私の中でせき止めていた何かが一瞬で崩れ、士郎の胸で私は泣いた。
そんな私を士郎は泣き終わるまで優しく抱きしめていてくれた。
あれ以来私は大切な人を失うことが恐くなった。
それは魔術師としては持つべきでない感情…
と、もうそこは目的の場所だった。
「ここに用事があるの」
繋いでいた手を離し士郎に告げる。
教会への道の途中にある墓地。
前回来たのは聖杯戦争直前だったな。
一つの墓標の前にしゃがみ花を供える。
ここはお母様のお墓。
そして今日は…
「今日ね、お母様の誕生日なの」
士郎ははっと息をのんで深刻な顔してる。
私は家族のことは桜のこと以外は詳しく話してないし、士郎も無理に聞いてこようとはしないでくれる。
話すようなことでもないし、話すべきではないと思ってきた。
それに話したら私自身どうなるかわからくて…
士郎には、そんな弱さを見せてもいいのかな…
「お母様もね、聖杯戦争で犠牲になったの。まぁ遠坂に嫁いだ時から覚悟は出来てたんだろうからね」
前回の聖杯戦争のあの日、家を出て行ったお母様が帰ってくることはなかった。
見つかったお母様は以前のように微笑んでくれることはなかった。
でも、そう魔術師の家に嫁ぐとはそういう覚悟はできていたはず。
そして、私も魔術師の家庭に生まれた時からそういう覚悟は出来ている。
だからあの日以来お母様が脳障害で、過去の世界に閉じこもってしまった時も私は毅然と振る舞った。
士郎は、そんな私が唯一魔術師でなく、一人の女の子にしてくれる人。だから士郎には話そう。
温かい笑顔で、私達を見守っててくれたあの人のことを…
「最後はね、本当に綺麗な笑顔だった」
そう最後のお母様の顔は、まだ桜もお父様居た頃の幸せそうな綺麗な笑顔だったな。
そして、今日ここに来た目的。
「こうしてね、私は元気ですって報告しに来るの。後桜のことをね。それと何より今日はもう一つ報告することがあったしね」
そう今日は報告しておくことがあったから。
聖杯戦争の後色々忙しくて来れなかったし。
立ち上がって士郎の方へ振り向く。そう愛しい人の方を…
普通の女の子みたいに、恋なんてすることはないと思ってた。
そう、私がこんな女の子みたいなことを考えたり、思ったりするなんて絶対ないと。
お母様、でも私しちゃったんです。
するわけがないと思ってた恋を。そして…
「お母様、彼が私の最愛の人です。お父様と違って頼りなくて、危なっかしいけど。でもお母様がお父様を心から愛したように私も士郎を愛しています」
私に女の子としての幸せを教えてくれた、心からかけがえのないと思えるそんな人。
士郎は驚いたようにこっちを見て
…そうかと呟くと、私の肩に腕をまわし引き寄せてきた。
「し、士郎!?ちょっ!!」
いきなり何よ!?
お母様達の前で変なことしたらダメなんだから!!
「俺もちゃんと言わなきゃな」
「え?何を?」
言うって?
士郎は私に微笑むとお母様のお墓の方を見てふぅと深呼吸をし、
「初めまして。衛宮士郎と言います。まだまだ未熟者で、遠坂には迷惑かけてばかりですけど、絶対に遠坂を…いや凛を幸せにしますから」
えっ!?えぇぇぇぇぇぇぇ!?
「ちょ!?何言ってんのよー!」
驚く私に士郎はまた微笑んでる。
ほんとこいつの考えたり、思ったりしたことをストレートに言う癖は相変わらずね。
「これは俺の心からの誓いだから。遠坂を絶対幸せにするっていうさ」
こいつこういう時はほんとやけに自信満々なんだから。
でも、本当に嬉しい。
「えぇと、うん。ありがとね。でも、士郎初めましてじゃないわよ」
最初わけが分からないようだったけど、気づくと恥ずかしそうに頬をかいてる。
「後言うけど。ここはお母様だけのお墓じゃないし、士郎が私を愛してるってことは前にばれてることよ」
士郎は恥ずかしそうに照れてる。ふふ、分かったのかしら?
そう、ここにはお母様だけじゃなくお父様のお墓もあるのよ。
それに、士郎が聖杯戦争の時に私に好きと言ってくれたのもここだったんだから。
「でも、嬉しかった。お父様とお母様の前で幸せにするなんて言ってくれて」
士郎に抱きつくと、あぁと照れながらもしっかりと抱きしめてくれた。
それにさっきの言葉…
「えへへ。でも、お父様の前で幸せにしますってまるでこれってプロポーズね」
士郎は真っ赤になって焦ってる。
うん、いつもの士郎だ。
「プロポーズって!?いやその、まだ俺達学生だし。そのそういうのはちゃんと指輪とかもさ」
そっか、ちゃんと考えててくれてるんだ。
「うん分かってるよ。だから待ってるね」
お母様、私今本当に幸せです。これからも士郎と共にこうして歩んでいこうと思います。
桜のことも出来る限りは支えていきますから。ですから、どうぞ安心してください。
お父様、私魔術師として弱くなったのかもしれません。
でも、この道は間違ってないと信じてます。ですからこいつと歩んでいきます。
倫敦でも遠坂の名に恥じぬよう頑張ってきます。
そして、士郎。
士郎がこうして私を幸せにしてくれる分、絶対士郎のこと幸せにしてあげるからね。
だから二人で幸せになろうね。
士郎といつまでも歩んでいきたいから…
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