9/5 〜士郎〜

 
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二学期もいよいよ始まり、周りの友人達はみんな受験戦争の真っ最中。

そんなある日俺は、食材の買い出しに商店街に来ていたんだが。

 

前方の花屋から出てきたのは俺のよく知る女の子。

 

「遠坂」

 

でも、振り向いた遠坂は俺のよく知るいつもの遠坂じゃなかった。

いつも強気で明るい女の子はどこか暗かった。

 

「あら、士郎じゃない。何、買い出しにでも来たの?」

 

そう答える声にもいつもの明るさはないし、微笑む顔も作ってるようにしか見えない。

いつもの遠坂じゃこんなの絶対あり得ない、何があったんだろか。

その、何かあったんなら相談して欲しい。

だって俺はそ、その遠坂の彼氏なんだしさ。

 

「なぁ遠坂、何かあったのか?」

 

 

「どうして?私どこかおかしい?」

 

答える遠坂は平静を装ってるみたいだけどやっぱり違う。

 

 

「いや、そのなんていうか寂しそうって言うかさ」

 

そう、遠坂から感じたのはそんな感じのもの。

 

「その、俺に相談できることならして欲しいんだ。俺、少しでも遠坂の力になりたいから」

 

「うん。ありがとう士郎。ね、一緒に来てくれる?」

 

そう歩き出した遠坂を追いかけ隣に並んだ。と、

 

「ね、士郎?手、つないでもいい?」

 

その言葉は、いつもみたいにからかっているものじゃない。

 

「あぁ」

 

だから俺も素直に手を差し出す。

遠坂は、ありがとうとその手をぎゅっと握る。

 

そうして遠坂と歩む道はよく知ったあの教会への道。

遠坂はただしっかりと俺の手を握りしめて歩みを進めている。

 

聖杯戦争からもう半年以上が過ぎた。

それでも、この道は今でも良く覚えている。

まだ、何も分からなかった頃、遠坂に教会へ連れて行って貰ったのに始まり何度も通った道だ。

あの頃に比べれば、俺は遠坂のことをだいぶ分かったつもりだ。

 

いや、だったか。

ただそんな気になってただけ…

だってそうじゃないか、今こんなにも元気のない遠坂にどうしてあげれば良いのか俺には全く分からない。

こうして遠坂の手を握ってやることしかできないんだ…

こんな情けない自分にとても腹が立つ。

 

と、不意に遠坂が握ってた手を離した。

 

「ここに用事があるの」

 

そこはバーサーカーと戦ったあの外人墓地。

前を歩く遠坂が一つの墓標の前で立ち止まった。

 

「今日ね、お母様の誕生日なの」

 

その瞬間俺は言葉を失ってしまった。

今日の遠坂の様子がおかしい理由、それがやっと俺は判ったから。

俺は遠坂のお母さんのことを全く知らない。

というより遠坂の家が代々続く魔術師の家で、冬木の管理者ということ以外遠坂の家のことを知らない…

遠坂も家族については桜が実の妹だということ以外はほとんど話そうとしないし、俺も無理に聞こうとは思わない。

だから、隣でしゃがんで墓標に花束を添え墓標を見つめている遠坂が今どういう思いでいるのか分からない。

 

なんて無力なんだろうか…

 

「お母様もね、聖杯戦争で犠牲になったの。まぁ遠坂に嫁いだ時から覚悟は出来てたんだろうからね」

 

遠坂はぽつぽつと母について喋り始めた。

とても優しく綺麗であこがれだったこと。父や桜、そして遠坂のことを本当に愛していたということ。

そして、聖杯戦争の中で犠牲となりその後遺症で脳に障害が残り、それからしばらくして亡くなったこと。

それは、これまで決して話そうとしなかったことだった。

 

「最後はね、本当に綺麗な笑顔だった」

 

そう話す遠坂はいつか父について話した時のようにやはり気丈に振る舞っていた。

それは遠坂凛が魔術師だから。

でも、こうして魔術師であろうとすればするほど、遠坂は自らの女の子としての部分を抑えつけている。

 

…遠坂。

 

 

「こうしてね、私は元気ですって報告しに来るの。後桜のことをね。それと何より今日はもう一つ報告することがあったしね」

 

遠坂はそう立ち上がって、こっちを見て優しく微笑むと

 

「お母様、彼が私の最愛の人です。お父様と違って頼りなくて、危なっかしいけど。でもお母様がお父様を心から愛したように私も士郎を愛しています」

 

正直驚いた。でも、そんなことよりも嬉しかった。

俺を愛していると、彼女はもっとも大事な人の前でそう告げてくれたことが。

 

「…そうか」

 

なら、俺のすることは一つだけなんだろう。

俺は遠坂の肩を抱き寄せる。

 

「し、士郎!?ちょっ!!」

 

隣で顔を真っ赤にして驚いてこっちを見上げてる遠坂に微笑み、

 

「俺もちゃんと言わなきゃな」

 

遠坂は、え、何を?と首をかしげてる。

そう、俺も彼女の大事な人に言わなくちゃいけないんだ。

 

「初めまして。衛宮士郎と言います。まだまだ未熟者で、遠坂には迷惑かけてばかりですけど、絶対に遠坂を…いや凛を幸せにしますから」

 

遠坂は一瞬驚いたような顔をした後、何言ってるのよ〜!なんて耳まで真っ赤にしてこっち見てる。

でも、ちゃんと言わなきゃいけなかったんだ。

 

「これは俺の心からの誓いだから。遠坂を絶対幸せにするっていう」

 

そう、遠坂が俺を愛してくれると誓ってくれたように。

 

「えぇと、うん。ありがとね。でも、士郎初めましてじゃないわよ」

 

確かに言われてみれば、そうだな。

ここであんなに派手に戦闘したんだ、そりゃ嫌でも記憶に残るだろうな。

 

「後言うけど。ここはお母様だけのお墓じゃないし、士郎が私を愛してるってことは前にばれてることよ」

 

確かに…ここが遠坂のお母さんのお墓なら親父さんの墓もあって当然。って俺なんてことしたんだよ!

ていうか、その前に…

前にばれてるって、なんでさ?なんかあったっけ?

 

 

あっ…そうか、そうだった。

俺が想いを遠坂に伝えたのもここだったんだ!

 

…ってことは俺、遠坂の両親の前で告白してたのか。さっきのことといい、なんて大胆なことしてんだよ俺…

 

「でも、嬉しかった。お父様とお母様の前で幸せにするなんて言ってくれて」

 

と遠坂は抱きついてきた。

そして俺を見上げて、

 

「えへへ。でも、お父様の前で幸せにしますってまるでこれってプロポーズね」

 

そう微笑んでる。

 

「プロポーズって!?いやその、まだ俺達学生だし。そのそういうのはちゃんと指輪とかもさ」

 

遠坂は焦る俺を幸せそうに見上げて

 

「うん分かってるよ。だから待ってるね」

 

そう笑う遠坂は可愛かった。

あぁ俺はこの笑顔を守らなくちゃならない。

そして、絶対遠坂を幸せにしなくちゃいけないんだ。

何よりもかけがえのない大切なこいつを…

 

だからもっともっと遠坂のこと知らなきゃいけない。

遠坂がこうしていつも、いつまでも笑顔でいられるように。

 




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