ずっと君のそばに…

 
 

   「……遠坂」

 

士郎にそう呼ばれたような気がして目が覚めた。時計を見るともう十一時を回ってる。

 

「暑っ」

 

カーテンを開けるとまぶしい夏の日差しが入り込んでくる。

夏休みに加え、最近徹夜続きだったとはいえ寝過ぎたな、と思いながらリビングに降りて冷蔵庫を開け牛乳をグラスについでいると電話が鳴った。

 

「はい、とおさ…」

 

「遠坂さん、士郎遠坂さん家にいる!?」

 

電話に出たとたん焦ったような声で私は名乗る暇さえもらえなかった。

 

「藤村先生、士郎ですか?いえ、来てませんけど。どうかしたんですか?」

 

「士郎がいないのどこにも。それで色々連絡してみてるんだけど柳洞君のとこにもどこにもいないくて」

 

「一度そちらに行きます」

 

そう告げると私は、すぐ準備を済ませ家を飛び出した。

心がざわっと波立つようなそんな感じがした。このまま士郎がいなくなってしまうんじゃないか。

そんな、心に浮かんだ不安をかき消すよう無我夢中で走った。

 

 

着いてすぐ居間へ上がると、そこにはいつもの明るさはなく、ただどうしていいか分からないという表情を浮かべている藤村先生がいた。

 

「遠坂さん…士郎がね、士郎がどこにもいないの…」

 

そう告げる先生の顔は不安に押しつぶされそうだった。

 

「昨日のね夕方まではいたの。それで私昨日は同窓会だったから夜は来てないんだけど、今日朝来たら土蔵が開いてたから土蔵かと思ったらいなくて」

 

士郎が何の連絡もせずに外泊したりするなんてまず考えられない。

考えられるとすれば、またあのお人好しのことだから何かやっかいごとに巻き込まれてるか,もしくは魔術絡み。

もし、後者ならここに藤村先生がいては多少やっかいだし、

 

「先生、今日午後から部活じゃないんですか?」

 

「うんそうだけど、でもそれよりも士郎が」

 

「私探しますから、それに見つかったらすぐに連絡しますから」

 

そう告げると先生は、終わったらすぐ帰るからお願いねと重い足取りで出て行った。

土蔵が開いていたということは、多分士郎は夜私の与えた課題をあそこでこなしていたんだろう。

結界も破られた形跡もないし。だったら一体どこにいったのよ。

言いしれぬ不安を抱えながら一度土蔵に行ってみると、確かに魔術行使した形跡があった。

ただそこにあいつの姿はない。目を閉じて士郎と通じているパスに意識を巡らせる。

しかしパスは途切れていて、パスを通じて呼び掛けても返事はなく、士郎の位置を辿ることも出来なかった。

 

「士郎…」

 

 

*******

 

 

「痛っつ〜」

 

気付くとそこはさっきまで遠坂に出された課題をこなしていた土蔵だった。

ただ違う、確かに同じ土蔵なのだがまるで長く使われてないようでほこりまみれ。

それに閉めた覚えのない扉は閉まってるし。

扉を開けるとそこはやはり我が家だった。分けが判らず戸惑っていると、縁側の方から聞き覚えある声が聞こえた気がした。

 

「…っ士郎、なんでよ!なんで」

 

恐る恐る近づくと、居間で一人の女性が、いや遠坂が泣いていた。

髪はツインテールでなく顔も大人びて美しかったが、それは間違いなく俺の知る遠坂凛その人。

 

「……遠坂」

 

今すぐ駆け寄って抱きしめてたい。

ただ状況が理解できない今はそんなことはできない。

   取りあえず今は、一度土蔵に戻り状況を整理しないと。

 

「確か俺は遠坂に出された課題をこなしてて…」

 

何度思い起こしても、そこからがどうも思い出せない。

 

「…お兄ちゃん?」

 

急にそう呼ばれて振り返ると、土蔵の扉には雪のように白く美しい髪をした女の子が立っていた。

えっと誰だ?こんなに可愛い子ならそう簡単に忘れないんだけど、てかお兄ちゃんてなんだ!?やばい本気で混乱してきた。

 

「そんなわけないか…でも、それなら兄ちゃんはここにいちゃダメだよ」

 

そう微笑みながら告げられたが益々意味が分からない。

 

「ここ?」

 

「そう、判りやすく言うとね。ここはお兄ちゃんの一つの可能性の世界。これで判った?」

 

そこまで言われていくら鈍感な俺でも判った。

 

「…平行世界」

 

「正解。よくできました」

 

俺が答えると女の子は微笑んでそう言った。

 

「そうだよ、だからここはお兄ちゃんの可能性の一つ。でもそっか、私のこと一目で分からないってことは…」

 

そこまで言うと、女の子は悲しそうに俯き黙り込んでしまった。

その表情を見て思い出した。自らがあの冬の城で、救うことが出来なかったあの少女を。

 

「……イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 」

 

「うん…そうだよ。お兄ちゃん」

 

俯いた顔を上げると彼女は微笑んだ。可愛い笑顔だった。

それと同時に、あの時この娘を救えなかったことへの悔しさが蘇ってくる。

 

「ごめん。俺は…」

 

謝ることしかできない。俺はこんな可愛い顔で微笑むこの娘を救えなかった。

 

「大丈夫だよお兄ちゃん。ありがとう。それと私のことは、イリヤでいいよこっちのお兄ちゃんもそう呼んでたから」

 

そう告げると、イリヤはこの世界のことを簡潔に話してくれた。

 

 

こっちの俺は、言峰とギルガメッシュをセイバーと二人で倒し聖杯を壊し聖杯戦争を終わらしイリヤを助けたこと。

 

その後、セイバーに胸を張れるようにしたいと凛に頼んで時計塔に一緒に留学したこと。

 

先月時計塔、そして遠坂の元から急に去ってしまったこと。

 

そして、アフリカのある国で起こった独立戦争の中で、ある小さな村を救うため戦い死んだこと。

 

今日が葬式であったということ。

 

 

「これがねこの世界。じゃ、次はお兄ちゃんの世界のこと教えて」

 

そう微笑むイリヤを前に俺は迷っていた。自分たちの世界のことを話す、でもそれは同時にイリヤにとっては…

 

「私は大丈夫って言ったでしょ、お兄ちゃん」

 

そう微笑むイリヤにねだられ俺は話した。

 

 

ギルガメッシュからイリヤを救えなかったこと。

 

自らと未来の可能性であるアーチャーとの死闘。

 

遠坂とセイバーと三人で聖杯戦争を終わらせたこと。

 

そして、遠坂と一緒に時計塔に行くこと。

 

             ..

「そっか〜そっちでもリンの一人勝ちなんだ」

 

話し終えるとイリヤは急にそんなことを言い、そして、

 

「なら、こっちみたいにリンを悲しませちゃダメだよお兄ちゃん。リンは、お兄ちゃんを離してしまったことを後悔しているの」

 

そう言うと、なんで私がリンのためにこんなこと言わなくちゃいけないのよ、なんて言っていた。

 

「あぁ分かったよイリヤ、約束する。でも俺ここにどうやってここに来たか判らないし、もちろん帰り方も判らないんだが」

 

第二魔法なんて使えるわけもない。一体どうすればいいんだなんて考えてると、

 

「う〜んそれならそのお爺さんがどうにかしてくれるんじゃないかな」

 

そうイリヤに指さされた方を見ると、腰を下ろし笑いながらこちらを見る老人の姿があるではないか。

 

「あなたがお兄ちゃんをこの世界に連れてきたんでしょ、宝石翁さん」

 

宝石翁…一瞬頭が真っ白になった。

そして理解した瞬間愕然とした。この老人が宝石翁ことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、遠坂が大帥父と呼ぶ彼の魔法使いなのだ。

しかし、益々分けが判らないその大帥父がなぜ?混乱する頭を必死にどうにかしようとしていると。

 

「ほぉ、お嬢さんはアインツベルンの者か。いや、坊主からおもしろそうなものを感じたのでな。まぁつい遊びが過ぎたかの」

 

などと笑っている。いや〜遊びで世界を渡るなんて凄いなぁ

なんて現実逃避しながらも、もう頭がついてこる次元じゃないってことだけは理解できた、しかし。

 

「のぉ、究極の一を手にする坊主よ」

 

その一言で現実に引き戻され、考えるより先に咄嗟に身を引いていた。

そして理解した。この人は自分が固有結界という究極の一を手にしていることに気づいているのだ。

 

「そうはやるな坊主。別にとって食おうというわけじゃない」

 

それにしても遠坂の系譜にのぉ。遠坂にはあまり期待してなかったんだが、この分だともしかするかもしれんなどと笑っている。

次の瞬間、何か詠唱を始めたと気づいたら目の前が真っ白になった。

 

「ありがとうお兄ちゃん。もう一度話せて嬉しかったよ。元気でね」

 

ただ、そうイリヤの優しい声だけがどこからか聞こえた。

 

 

******

 

 

思い当たるところには全て行ってみた。それでもどこにも士郎の姿はなかった。

恐い…

士郎がこのままいなくなってしまうんじゃないか、そう思うだけで酷く寂しく、そして苦しい。

その時だった、さっきまで何も感じれなかったパスを通して士郎の存在を感じた。

走った、パスの繋がりを辿って、早く士郎の存在をこの目で、身体で感じたくて。

着いた先は土蔵だった。中を見ると、居た駆け寄ってすぐに胸に耳を当てた。生きてる、そのことが本当に嬉しくて抱きしめた。

涙が止まらない、こうして士郎が居ることは当たり前だと思ってた。でもそのことがこんなに幸せで、大切で何より愛おしい。

 

「んっ…遠坂」

 

気づいたこいつに文句の一つでも言ってやりたいのに言葉が出てこない。

   でも今はいい士郎がちゃんといるそれだけで。

私は、こいつがもう二度と勝手に消えてしまわないよう強く抱きしめた。

 

 

******

 

 

気がつくと、俺は泣いている遠坂に抱きしめられていた。

 

「ゴメン遠坂。俺絶対遠坂を一人にしてどっかに行ったりしない、遠坂とずっと一緒にいるから」

 

その泣いている姿が、あの世界で見た遠坂と被って見えた。だから謝った。あの遠坂にもこの思いだけでも通じるように。

そして言った、遠坂を二度とあんな気持ちにも顔にもさせたくないから。

 

俺は遠坂の涙をぬぐい、キスをした。

そうこれは、もう二度と遠坂を悲しませないという誓いのキス。

 

 


後書き

皆さんはじめまして。

取り敢えずこの作品が自分の初SSとなります。

この作品は、もし逆に士郎が未来の凛を知ったらなんてちょっとした考えから生まれた作品です。

 

こんな未熟者ですが、どうぞヨロシクお願いします。

指摘・応援・リクエスト等ありましたら是非お願いします。

*一部修正08・04/08

 

 

SS置き場HOME