
化石は歴史を語る
生物はみな、共通の祖先から進化し、多くの種へと分化してきた。したがって多様な生物たちの間には、「近縁/遠縁」の関係が存在することになる。この生物どうしのつながりを、系統関係とよぶ。
古生物学者が化石骨を手にしたとき、彼らがもちいる武器の一つが解剖学である。様々な動物の体のつくりには、少なからぬ共通点が存在する。もちろん異なる部分も存在する。それらはどの動物どうしが近縁で、どれが遠縁なのかを示している。この考え方は絶滅動物にも応用可能だ。絶滅動物たちが、進化の物語の中で相対的にどの位置を占めるのか、読み解くことができる。その作業は様々な生物がいかに分化してきたかを示す、一本の「枝分かれ図」を描くことで完了するのだ。
この「枝分かれ図」には、特定の生物集団の中で共有される何らかの特徴が記されている。
(図3) 手の指を基準にして描かれた「枝分かれ図」
獣脚類の手に注目すると、タルボサウルスとティラノサウルスのように2本指のものもあれば、ヘレラサウルスのように5本指のものもある。「枝分かれ図」を描くには、まず最も原始的なものを決めなくてはならない。
今までの分析から、5本指が原始的であることがわかっている。ここで注目すべき点は、この図に登場する恐竜はヘレラサウルス以外、全て「第5指の喪失」という特徴を共有していることだ。始祖鳥・タルボサウルス・ティラノサウルスはさらに「第4指の喪失」という特徴を共有し、ティラノサウルス・タルボサウルスは「第3指の喪失」という特徴を共有する。最終的に、2本指のティラノサウルス・タルボサウルスが登場する仕組みなのだ。
また、この図では枝が分かれる分岐点を、分岐点につながる全ての枝(獣脚類)にとっての共通祖先として考えている。(注:マジュンガトルスは現在マジュンガサウルスに統合されており、属名としては無効である。)
(恐竜博2005 公式カタログ, 2005 をもとに作成)
進化という生命のダイナミズムを描き出すために、科学者たちは不断の努力を続けてきた。この数十年間、DNAやタンパク質の解析により「枝分かれ図」を描く作業は、確かに躍進した。その一方で、化石資料が与えてくれる情報の価値は、いまだに計り知れない。生命は、今日までいかなる道すじを歩んできたのか。その道は平坦だったのか、険しかったのか。あるいは、途切れかけることはなかったのか。それらを具体的な歴史記録として物語るのは、化石しかないのである。爬虫類と鳥類の系統関係は、DNAやタンパク質の比較分析により推定できる。だが、あの前肢をいかに翼へと変化させたのか。そして両者を結びつける生物が、なぜ今の地球にいないのか。これらの謎に迫るには、化石と向きあう他ないのである。
映画「ジュラシック・パーク」の公開以降、古生物学に対する社会の期待は日々高まり続けている。当Webサイトでは、恐竜を中心とした中生代の生物たちにスポットをあて、この学問の近年の動向をレポートしていく。めくるめく進化のロマンを、ぜひとも体感してほしい。
参考文献 堀田凱樹・井口泰泉・井尻憲一・田中一郎・都筑幹夫・藤原一繪・廣岡芳年・臼田浩一・本橋晃.
2009年発行.「生命の探求 生物U」 出版社:教育出版株式会社. (進化の定義について)
綿野泰行.2009年発表.「遺伝子の多様性を理解する "進化は善である”という視点」
掲載:milsil 第2巻 第5号 (通巻11号). pp.22-pp.25. (進化のメカニズムについて)
2007年発行.「見つめる生物 ファーブルEYE」 出版社:東京法令出版株式会社 (昆虫の多様性について)
Thomas Holtz ・ 真鍋真ほか.2005年発行.「恐竜博2005 公式カタログ」 出版社:朝日新聞社
(獣脚類の系統について)
2003年発行. 「ジュラシックパーク・インスティテュートツアー 公式ガイドブック」
出版社:Nakashima International (進化と解剖学の関係について)
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