『ばあやのひとり言』


   パリの冬は早い。

   まだ11月初旬だというのに、この寒さ。
   また厳しい冬がやって来る。
   でも、冬にはクリスマスがある。
   そしてそのクリスマスは、オスカルお嬢様のお誕生日だ。

   ジャルジェ家に仕えるメイド、ばあやはこの季節になると、胸がワクワクする。

   「あぁ、こんなドレスを着せたら、どんなにお美しいだろう。」

   とあるパリの洋装店の前で、ばあやは溜め息をついた。

   「よし!」

   ばあやは、その洋装店に入って行った。
   そして、一着のドレスを注文した。

   「13歳のお嬢様にお似合いになるドレスを作って下さいまし。」

   「はい、ジャルジェ家のばあやさん、ご注文ありがとうございます。ところで、去年のドレスは、
   お嬢様のお気に召しましたか?」

   実は、ばあやは毎年、クリスマスにはオスカルお嬢様にお似合いになるようなドレスを
   作っていたのだ。

   でも・・・
   毎年のように聞かれる店主の質問には嘘を言うしかなかった。

   「ええ、そりゃあもう大変お気に召しておいでです。」

   何故なら、オスカルお嬢様は、産まれた時から男として育てられたのだ。
   ご主人であるジャルジェ将軍には男児が恵まれず、末のオスカルお嬢様が後継ぎのため、
   そうせざるお得なかったのだ。
   でも、ばあやはずっと男としてお育てする事に疑問を感じていたし、反対もしていた。
   しかし、一介のメイドにすぎない彼女に、旦那様に逆らう事はできない。
   だから、こうしてドレスを作るという、ささやかな抵抗をしているのだ。
   たぶん、着る事のないドレスであるのだが・・・。

   パリへのお遣いのついでに洋装店に寄ったばあやは、帰る途中、風に舞う枯れ葉を見ながら、
   いろいろな事を考えていた。
   こうやって一人で考え事をするなんて、忙しい毎日の中では滅多にできない事だ。
   お屋敷に帰れば、また忙しい。

   ばあやには、一人娘がいた。
   でも、数年前、不運にも短い生涯を終えてしまった。
   一人ぼっちになった孫息子アンドレを、同じジャルジェ家へ引き取っていただいた。
   今は、オスカルお嬢様とは兄弟のようにしていだだいている。
   でも、所詮はアンドレは召し使いだ。

   オスカルお嬢様は、近々、フランスにお輿入れなさる、マリー・アントワネット様付きの
   近衛兵に御成りあそばすのだろう。
   そしてアンドレは、そんなオスカルお嬢様の護衛をするようになるだろう。

   老婆心ながら、二人の行く末を案じていた。
   どんなに男のように生きていても、オスカルお嬢様は女性であることには変わりないのだし、
   いつも側にいるアンドレは・・・
   自分の肉親だけに、孫の考えている事はなんとなく分かるような気がするのだ。

   「ふうっ・・・心配のし過ぎね。きっとこの冷たい風のせいだわ。風邪をひかないように
   早く帰らなければ・・・。」

   ばあやは歩く速度を速めた。
   彼女の手には、アンドレの真新しい冬のコートがあった。

   「今のコートはもう小さくなってしまったわ。アンドレも、来年は15歳だからねぇ・・・。」

   ばあやには、孫のアンドレも、オスカルお嬢様も、可愛くて仕方が無いのだ。

   パリの冬は早い。

   今年も素晴らしいクリスマスが迎えられますように・・・。


〜Fin〜