理事長挨拶
(千葉)
| 私たちは6月1日特定非営利活動法人(NPO)として東京都から認証されました。 その役割・使命に、教育、家族、高齢化、医療、福祉、環境、等々、現代の社会が抱える 諸問題について正しく把握・分析し、一人ひとりが真の教養・知性を身に着ける 啓蒙的活動を行うということがあります。これに基づいて、本格始動の初めとして 今日のシンンポジウムに至りました。多くの方々のご参加に心から感謝申し上げます。 |
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| 総合司会挨拶 |
どちらにも共通にあるのは、 「問題という『問題』について」という部分です。
何故、単に「高齢化問題について」「年金問題について」としなかったのか、 といいますと、これらは遙か以前から問題になることは分かっていたことで、にわかに 生じた問題ではなく、先送りにしてきて、ついにどうしようもなくなってきた 問題だからです。
最近、大学を初めとする学校運営が問題だと言われていますが、少子化に伴って大学の 経営が難しくなるのは18年前に分かっていることです。平均寿命が延び、少子化が進めば、 高齢化問題が生じることも、したがって年金問題が生じることも、全部分かっていたことです。 すべて具体的に対策を考えてこなかったということが一つの大きな「問題」だという意味で、 二重にカッコをつけたわけです。
とは言え、社会保障の大きな問題として現実にあるこれらのことを、先送りにしてきたのが 「問題」だ、とばかり言っていても問題は一向に解決されません。 今日は、日頃の組織・あるいは枠組みを離れて、皆さんと一緒に問題を分析し、 考え、議論しあい、少しでも参考になることを持って帰路についていただけるよう、 非常に巨大な問題ですが、精一杯頑張ってみたいと思います。
第一部として「高齢化問題」について主として医療の面から考えて参りたいと思います。 ここで先ず高齢化とは何か、日本の高齢化の特徴を押さえておくことが必要だと思います。 65歳以上の方が全人口の中で占める割合を高齢化率と呼びます。この値が7%になると 高齢化社会と呼ばれるようになります。これが2倍の14%になると高齢社会、公式的に 決められたものではないのですが、3倍の21%になると、超高齢社会と呼ぶという考えがあります。 そういう意味では日本はすでに超高齢社会に突入いたしました。
| 7% | 高齢化社会 |
| 14% | 高齢社会 |
| 21% | 超高齢社会 |
さらに日本の高齢化の特徴は、急速という点です。 ヨーロッパ諸国は、すでに高齢社会に突入していますが、高齢化率が7%から14%になるまでに、 例えばドイツは40年掛かっています。イギリスは47年、スウェーデン85年、フランスは115年です。 「高齢化」というのは、これから高齢社会になるので準備をしていこうという、そういう警告な わけですが、それから40年ないしは100年も掛けて現在の状態に少しずつ調整してきたわけです。 ところが日本は1970年に7%だったのが、1994年にはもう14%になってしまい、そして 今21%になっていて、7%から14%までの期間は24年と、極めて早いわけです。 あまりにも早かったので、対応が間に合っていないというのが現状です。
| ドイツ | 40年 |
| イギリス | 47年 |
| スウェーデン | 85年 |
| フランス | 115年 |
| 日本 | 24年 |
このあたりまで押さえておいて、お二人のパネリストを紹介をさせていただきます。
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| 平野、忠岡両パネリスト(右から) |
お二人とも研究室あるいは机上の医学の研究とは正反対の、地を這うような医療の実践に 日夜取り組んでおられます。 お二人とも「人を健康な体にする」という目的のために、自分自身が過労で倒れるのではないかと 思われるような毎日をおくられています。毎日、数十人からもしかしたら100人を超える患者さんを 診察されておられます。私は二人をいつも山本周五郎の『赤ひげ診療譚』という小説に 書かれている、小石川療養所の「赤ひげ先生」こと新出去定的存在だと思っています。
はじめに平野先生について紹介いたします。内科医として地元に密着した医療を実践 されている傍ら、独居の高齢者に「おばちゃん、入るよ!」と声をかけ 往診、あるいは寝たきりの高齢者の往診をして家族に細かくアドバイスする。 毎週土曜日には、老人介護施設に足を運び、 約100人の高齢者の方々に一人ひとり大声で励まし、診察しています。 地元の、老舗のおそば屋さんの壁に飾っている江戸時代の地図に、「平野診療所」と書かれています。 お酒は一滴も飲まれない代わりに、おそばやうどんには目がなく、サーフィンを趣味とされる病院長です。
次に忠岡先生について紹介いたします。 末期癌,後期医療を専門にされる本来は外科医ですが、専門に関係なく、ほとんどあらゆる 患者の声・痛みに手を差し出してくれています。土曜日も日曜日も診察され、地域住民の方々に とってなくてはならない存在です。 この病気はこのように推移していく、という適切なアドバイスで患者の家族の方々も助けられています。 もの穏やかな口調で休む暇なく、実に多くの患者さんに対応されています。唯一の息抜きは 「テコンドー」で、日本テコンドー協会理事長に最近就任されましたが、自らイタリアでの 国際試合に出場され、残念ながら一回戦で敗退し、「黒人選手は強かった」と言っていたのが印象的でした。
それでは、忠岡先生に高齢化問題についての総論的な問題点をお話しいただきたいと思います。
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| 忠岡医師 |
私の役割は今回のテーマの火付け役であるとともに、「高齢化問題という問題」を 総括的立場から問題提起と議論の準備をするということです。駆け足になりますが、
先ほど千葉先生の話にもありましたように、私たち日本は、これから世界中かつて 経験したことのないようなハイスピードで高齢化社会に入っていく、それへの対応が 間に合わないということがすべての問題の根源とも言えます。 この死亡者数の推計表からお分かりになるように、団塊の世代の方々がその寿命を 終えるときになりますと、現在8割の方が病院でお亡くなりになっているということから、 まず病院のベッド数が足りなくなるという点からだけでも、高齢者問題が非常に切実な 問題となってくることが分かります。亡くなる方が倍ぐらいになると葬儀屋さん、 お坊さん、墓石屋さん等々青くなってしまうのではないでしょうか(笑)。
高齢者の死因はやはり第一は癌によるもので、統計の取り方によって異なりはしますが、 日本人の2人に1人あるいは3人に1人は癌による死亡です。脳血管疾患は血圧の コントロールの仕方が広く普及することによって、死亡者は急激に減っております。 一方、生活習慣の欧米化に伴って心筋梗塞が増えてきています。老衰は減っているように 統計上は見えますが、今は死亡原因をかつてのように「老衰」と書くことが 希だということも減っているように見える原因の一つと考えられます。
ここでいきなり結論に入りますが、医療における高齢化問題というのは 「医療資源の枯渇」ということです。医療資源とは国民が受けられる医療費のことです。 現在65歳以上の人で総医療費の半分が消費されています。それがやがて75歳以上の方で 総医療費の半分以上になっていく。高齢者の方の生活の質QOL(Quality of Life)・ 経済基盤については、後ほど鈴木先生から話があると思いますので、私からは 健康面についてもう少し話をしてみます。高齢者の方の疾患の特徴をいくつかあげてみます。
要するに老年疾患の特徴は、
次に認知症について少し詳しくお話しいたします。 子どものときから認知症という方もいますが、一般にいう認知症というのは、 いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知機能障害があるために、 社会生活に支障をきたすようになった状態と定義されています。 この「認知機能障害」というのは知的な能力(記憶能力、思考判断力、言語機能など)の 障害と定義されます。認知症というのは非常に「身近な病気」で、85歳以上の4人に1人が 認知症と言われています。現場でみていると4人に1人というより2人に1人というような 感じです。
ここでどこまでが「老化によるもの忘れ」なのか、どこからが「認知症による もの忘れ」なのかが問題になってきます。この問題は個人差が多く、非常に難しいのですが、 症状としては、機能障害の組み合わせによって、徘徊であったり、妄想であったり、 幻覚であったりします。認知症はなんといっても最初に「物忘れ」がひどくなったと いうことから見つかることが多いわけです。
「最近物忘れがひどい」という場合、ヒントを与えられると思い出せるという場合は、 認知症とは違います。時間や場所など見当がつく場合や、日常生活に支障はない、 もの忘れに対して自覚がある場合も認知症とは違います。「体験の一部分を忘れる」と いうのは健常者でもしばしばあります。
認知症の場合、記憶が飛んでしまいますので、忘れたということも気がつかないわけです。 しばしば家族に連れられて「うちのおじいちゃん、物忘れがひどくて」という場合が ございます。そのときは、おじいちゃん自身に「何か日常生活でお困りのことは ありませんか」と尋ねます。そうすると「ありません」とおっしゃる、大体そういうときは 認知症です。
このあと、駆け足になりますが、高齢者支援の制度について話をいたします。 「在宅医療」、「介護保険制度」、「後期高齢者医療制度」、詳しくはこの後、 平野先生からお話がありますので私からは紹介だけにさせていただきます。いずれも、 比較的最近導入された制度でございます。
「在宅医療」というのは、 訪問診療、訪問看護、療養指導、それに最近はターミナルケアというものがあります。 これから段々病院に入って最後を迎えるという方が少なくなってくると考えられます。 家族とともに時間を過ごすというプラス面もありますし、病院に入れないという マイナスの要素もあります。 「訪問診療」というのは所謂、往診とは違います。最初に契約をして、定期的に 巡回していくというものです。急変したときには診察してもらうというそういう システムです。 平成18年4月、在宅療養支援診療所が制度化されました。後でまた話があると思います。
「介護保険制度」は平成12年ドイツの介護保険制度をモデルに導入されたものです。 保険者は市町村です。介護保険給付の受給には、要介護認定が必要となります。 「要支援1」から「要介護5」の7段階に評価分類され、その評定をみて介護支援の専門医・ ケアマネージャーと言いますが、その人がどのような介護をするかメニューをつくって 決めるわけです。
実際の介護サービスは都道府県から認定された介護の事業者が行い、1割を利用者から 徴収し、9割を保険者(市町村)へ請求するというシステムです。
「後期高齢者医療制度」これは最近なので記憶にも新しいと思いますが、これは75歳以上は 独立した医療制度として、強制的に加入されるものです。しかも原則費用は天引きされて しまう。こういうところでいろいろな議論がでています。 財源は公費が5割、現役世代から4割、自己負担1割となっています。
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そろそろまとめに入りたいと思います。 人間誰でも「老い」という問題からは逃れられないわけです。健康な生活を送って、 充実した悔いのない寿命を迎えるというのが理想的な姿ですが、 それをサクセスフル エイディド(successful aged)といいます。 私の個人的な結論を言いますと、健康であれば、体さえ丈夫であれば、 心身丈夫であれば、まぁ他の問題は何とかなるのではないか。ちょっとナイーブな 結論ですが、私はそう考えています。 心の健康と身体の健康、勿論、経済基盤、Spirituality・魂のケアとも呼ばれるものも 大事です。準備の段階で、千葉先生から「老人力」という言葉をいただきました。 それを私なりに考えてみました。
「老師」という言葉があります。これは必ずしも老人を意味しないのですが、伝統的な 武術では指導者に高齢者がなられている場合が非常に多いのです。 身体の能力の衰えがあるにもかかわらず、永年の経験によって正確に相手の弱点を 見ている、また正確に攻撃し防御する。そういうことが経験で出来る。体の衰えを 経験がカバーして余りあるのです。 しばしば若者が高齢者に挑戦して、全く歯が立たないということが現実に起こりえます。 (そのとき)若者は何か特別な能力で倒されると思いがちですが、そうではなくて 経験から相手の行動を予測する。そういう「老師」は武術の世界だけではなく、 いろいろな分野にいらっしゃると思います。 今日は、高齢という言葉からネガティブなイメージが強いですが、「経験に 勝る力はない」ということを一言、加えたいと思います。(拍手)
(千葉)有り難うございました。
行政では医療と介護を切り離そうというのが、今回の医療制度改革と謳った改革ですが、
これは本来不可能なことではないかと思います。
「病院」とは元来、「傷ついて苦しむ者たちを臥床(がしょう)(臥して寝かせる)ために
つくった土垣を巡らせた家」が漢字の意味であり、また英語のhospitalは、
「手厚くもてなす」(hospitality)という言葉から生まれた言葉で、これが「旅館」
(ホステル)となりホテルとなったわけです。
ですが現状は、手厚くもてなすどころか、早く出てもらおうとする病院の話は
後を絶ちません。さきほど申し上げましたように、毎週土曜日、老人介護施設で
100名近くの入所者と接している平野先生の診察に私も何度か同伴しました。その光景を
今回DVDでお見せしようと録画いたしました。
ですが最近NHKでさえ、医療についてのショッキングな、視聴率を気にしたような映像を 流し、私たちはそれを見慣れているということもあり、ここでは録画の披露はやめて、 むしろこういう静寂な中で現況をお伝えした方がいいのではないか、という 結論に至りました。
そこで、私の或る老人介護施設の総師長さん、昔の総婦長さんへの2度にわたる インタビューの要点を掻い摘んでお話しいたします。
7つの質問とそれへのお返事をご紹介いたします。
| Q1 | 高齢者の家族の方へ一言ご意見を伺いたい |
| (総師長) | 入所者は孤独感を抱き、「迷惑をかけたくない」と言いつつ、 家族から癒されることを望んでいると思います。他の者が代わってやれない間柄が 家族です。愛情表現がとても大事だと思います。 |
| Q2 | これから高齢者になる人へ一言ご意見を伺いたい |
| (総師長) | 自分の意志で自らの終わりをどう迎えるか、 どう死んでいきたいかということをはっきりさせるべきではないでしょうか。 つまりチューブ、人工呼吸器をつけて生きたいのかどうか、はっきりさせるべきだと 思います。 |
| Q3 | 高齢者の方へ一言ご意見を伺いたい |
| (総師長) | 人間は生まれてくるということは亡くなるということで、 死は誰もが必ず迎えることです。介護を受けることに躊躇せず、潔く受けてほしいと 思います。 |
| Q4 | 親子の緊密さについて 欧米では、大体7, 8割が週に1回ぐらい以上は(子どもとその親が)連絡を 取っているという調査結果が出ています。元々若いうちから離れ離れに 住んでいることが多く、おそらく連絡を取るということが文化の中に 根付いているのでしょう。一方、日本はどうかというと、週に1回以上連絡を 取っている割合は、実は50%を割っているという結果でした。日本では 親子関係が非常に密接で、非常に敬老精神に富んでいるというふうに 言われていたのですが、この調査を見るかぎり、今の超高齢社会の親子関係に、 子どもも親も意識が付いていってないのではないかと推察するがどう思いますか。 |
| (総師長) | 一度入ったら安心だと考え、季節の着替えしか 持ってこないご家族もいます。ボタンが取れたままとか、紐が緩んだままのものを 持ってくる方もいます。以心伝心とよく言われますが、入所者は言葉を待っています。 洗濯物だけおいて帰る人もいます。情が湧かないのかなとも思います。 孫が来る機会も少ないです。元気なおじいちゃん、おばあちゃんは見せたいが、 そうでなくなると見せたがらないご家族もいます。核家族なのでご主人はご自分の 親を、奥様はまたご自分の親を、というふうに段々なってきました。お嫁さんが 来ることが少なくなってきました。そういう時代なのでしょう。ましてや お孫さんなどは・・・。人間が老いていく姿を孫に見せた方がいいのか否か。 はっきりと見せたくないというご家族もいらっしゃいます。しかし、そうおっしゃる 自分もそうなるのです。これからは4人に1人は高齢者になります。 親を看取るのは子供の仕事であり、親は老いて亡くなっていくのを子供に見せるのが、 最後の仕事ではないでしょうか。 |
| Q5 | 認知症の方のフロアが明るい感じがしまたがどうですか。 |
| (総師長) | 認知症の方には心が癒されます。嘘がなく、認知症の方から 感謝されたとき、あるいはその無心の笑顔を見たときは、神仏に 近くなっているような気さえします。 |
| Q6 | 最近の高齢者医療のあり方で現場で感じる問題点を |
| (総師長) | 最近の病院は、余りにも専門的になって、今日は循環器、明日は消化器と いうように人間を診るのではなく臓器を診ている感じがします。 検査結果のみだったり、画像を見ているのであって、その方の姿を診ているのでは ないような気がします。もっと全人的に診てくれる科があってもいいのではないかと 思います。死ぬと医療の敗北と考えるのではなく、医者も患者もどんな死を 迎えるべきかを考えるべきだと思います。 平野先生は、上からの目線ではなく高齢者と同じ高さで見ているので、皆、心が 打ち解けるのです。一人ひとりが声をかけられるのを楽しみにしています。 「認められたい」という気持ちは誰にでもあることです。薬だけでなく、 手を握り声をかけることがとても大事です。 |
| Q7 | 男性の入所者が元気がなく、女性が元気な感じがしたが |
| (総師長) | 男性は社会的動物で、老人と認められたくないという方が多いと思います。 とても脆(もろ)く、適応力がない方が多い。働き蜂で「元・・・」といったこれまでの プライドで生きるしかないような気がします。ここには好きで来たわけではないとか。 逆に言えば、男性はそこまで頑張る生き物とも言えましょう。 |
インタビューでは、介護の現状についても伺いましたが、この辺りから平野先生に 介護の現状、介護士の待遇、あるいは最近話題になった酒井某の介護士希望云々について ご意見を伺いたいと思います。