「現代社会の問題を糺し未来の扉を開く会」第二回シンポジウム要約(その2)

高齢化問題を考える−平野医師

先ずは皆様に貴重な連休中にこの会に足をお運びいただいたことに感謝申し上げます。 今日は少し軽い話にしようと思って、自分で少し真面目に勉強してみたところ、 やっているうちにだんだん頭にきました。結果、荒い話になると思います(笑)。 私はやっていることはごく平均的な町医者だと思っています。千葉先生から 「高齢化問題」というテーマが出され、何が一番問題なのかを考えました。 こういう仕事をしながら、実は深く考えたことがありませんでした。皆さんも 恐らくそうではないでしょうか。自分が高齢者であるか、お父さんお母さんが 高齢者であるか、そういう方以外は縁の遠い問題ではないかと思います。 最近、お茶の間のワイドショーではないですが、最近の話題について考えてみますと、 政権が変わって「後期高齢者医療制度」を廃止しようという動きがあるということです。 この動きは以前からあったことですが、政権が変わって話題になったということが あります。

それと、シャブ中のある芸能人が自分の罪を軽くしようと「介護の仕事がしたい」と 言ったことも話題になりました。これが裁判で勘案されることなのか、実際に 介護の仕事をされている人たちがどれぐらいムカついたのか、と考えさせられました。 また、認知症については、先ほど忠岡先生からお話がありましたが、認知症になった 芸能人だった奥さんの様子をマスコミに流した芸能人についても、そのことをめぐって 話題になりました。

うちのかみさんと話したら「私にはこういうことはしないでね」と言っていました。 こう考えるは当然だと思います。あと、うちの近所で最近あったことですが、 火事で寝たきりのお爺さんが焼け死んだ、それで出てきたのが結婚詐欺のおばさんの 話題でした。高齢化問題自体への関心はこの程度のことであって、本質的な問題は 出てきていないのではないかと思うのです。隠されているのかも知れないし、 避けているのかも知れません。

さて、いただいたことへの問題点を提起しますが、これはなかなか裾の広い問題です。 高齢者問題が問題になっている原因の一つは、社会の閉塞感・不安感・暗い雰囲気、 これが一つの要素になっていると思われます。じゃ、なぜこうなってしまったんだろうと 考えると、これは社会保障制度の重要さが初めて認識されてきたことからではないかと 思われます。

高齢者医療の一番の問題点は介護保険が導入されたことだと思います。今までだって お年寄りはいたわけです。日本の国が、お年寄りを放置してきたわけではありません。 老人福祉法と老人保険制度というもので社会保障制度のセーフティネットとして 機能してきました。老人福祉法というのは、生活が成り行かなくなった老人を 「お上」が助けてあげよう、という制度だったわけです。それと医療保険制度、 これは若い人もお年寄りも低いバリアでどこでも、誰でも均等な医療を受けることが 出来る制度でした。それがお金がかかるという一番の理由から、医療と介護を分離して、 65歳以上を区別(差別)天井を設けたわけです。これは65歳以上の方しか使えません。 皆さん全員が月額で3000円から4000円、年間3万円から4万円くらいのお金を納めて います。

ところが皆さん、それを知らないと思います。何故かと言いますと、 社会保険料に隠されているからです。これは2000年の10月から徴収するように なりましたが、年金受給者からも保険料徴取して、「年金ドロボー」と騒がれたことは 覚えておられると思います。それと「利用者負担の強化」ということで、 本来住民税を払っていない人は非課税なのに、(現在の制度は)収入の有無に かかわらず全員から取ります。目的は「公費負担の軽減」ということです。 皆様はお忘れになったのかも知れませんが、消費税はどこに行ったのでしょうか? 消費税が上がったとき、あのお金は福祉にまわるはずだったのです。どれくらい 消費税が使われているのか、誰も考えていないのではないでしょうか。一番の キーワードは「措置制度の廃止」ということです。「措置制度」というのは最後の 最後のセーフティネットなのです。 「措置」というのは、事業が破産してしまったとか、生活が破綻してしまった お年寄りとかへの「お上」が面倒見てやるという制度だったのです。それが 廃止されてしまったのです。

そこで出てきたのが、「選択利用制度」という言葉です。 「選択利用制度」、非常に耳障りがいいですよね。

介護保険が導入された時の問題点を考えてみましょう。措置制度廃止ということの 狙いは、選択利用性つまりかかるお金を減らそうという、国の公的負担義務軽減です。 「国民福祉税構想」という言葉を覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、その 「国民福祉税構想」(註1)の挫折ということです。あとこの「介護保険法」を 導入するときの実際の政策の立案者・設計者は、岡光(序治)という厚生省(当時)の 事務次官と和田(勝)審議官たちです(註2)。都合の悪いことに当時政権交代の どさくさがあって、この法案を国会に出したのは菅(直人・当時厚生大臣)さんです。 その後、自民党が政権を取って管さんが出した法案を否決できるわけがなく、 あっさりと国会を通過したわけです(註3)。どさくさにまぎれて通った制度だと いうことです。またマスコミの情報操作はいつものことですが、私は新聞は 一切見ないようにしています。これは時系列で考えてもらえれば分かることですが、 これは案が決まってから国会を通るまで3ヶ月しかなかったというとんでもない 制度なんです。

この間、厚労省が出した「大本営発表」を大手マスコミがそのままそっくり 流しました。覚えていらっしゃる方もおられると思いますが、そのとき試案も 無いのに「老人は社会で介護しよう」「介護の社会化」という言葉が使われました。 実に、耳障りがいいですね。ですがそんな中で、当時「家族介護賛美論」を唱えた 政治家がいました。亀井静香です。本気かどうか分かりませんが、警察官僚上がりで ありながらあの人は死刑廃止論者なんです。ですがそういう意見は無視されて、 政策を変えた結果、お年寄りのどんどん自助努力を削いでいったのです。本当のことを 流さない厚労省は情報の垂れ流し、法案の立案者は逮捕され、試案内容を明らかに しないまま審議会だけはだらだらと繰り返し開かれていました。明らかに インチキなんですが、政権交代のネタにされ見切り発車、オーライになりました。

その介護保険導入後の問題点ですが、まず介護認定。病気だったら医者に行きますが、 「どうもボケてきたから」と言っても介護保険は受けられません。 審査があります。ところが認定が杜撰なんです。急場しのぎでつくったものが、 コンピュータシステムの基になっています。認定調査の問題とインチキが横行という 問題が生じてきました。認定調査には公務員があたるはずだったのですが、 それが時間的なことから育てられなかったのです。そこで施設の関係者が 調査することになりました。

自分の施設に入所している人たちの調査ですから、当然「お手盛り」です。 軽めに調査して、施設から追い出されるようになると文句が出ますから、 施設を出されることがないように、重めに審査します。それをコンピュータに 入力します。ちょっと飛ばします。

生活介護は認定基準は心身の状態のみで、その人が一人で住んでいるのかとか、 どういう社会にいるのかとか一切勘案しません。認定基準は心身の状態のみだと いうことです。介護保険料は40歳以上、年金給付者でも保険料を天引きされて います。皆さん全員払っています。そしてそれを一生のうちで利用する人は 全体の20%ぐらいだと思います。ということはほとんどの人が利用しないと いうことです。それにもかかわらず、住民税や国民保険と違い減免がありません。 なおかつすごいことに、罰則規定があります。いざ認定を受けて使おう、 と思っても実はサービスが不足しています。そこで選別が起こります。 どういうことかというと、手のかかる老人は施設に入れません。お金がきちんと 取れて、手間がかからないお年寄りを優先するということです。また施設が 不足していて、限度額越えた場合、完全自己負担になります。給付水準に対して 非常に細かく網がかけられていること。利用しにくくなっていることがあげられます。 先ほど忠岡先生からも話がありましたが、「高齢者医療制度」の特徴というのは、 75歳以上を差別した安い診療報酬です。年寄りを差別したものです。 医学部に入ったとき、「差別はするな」「地位を利用してお手盛りは一切するな」と 教わりました。それが堂々と国の方が「差別しろ」と政策を変換しました。

さらに75歳以上を後期高齢者として差別を強化し、病院をどんどんつぶして いきました。未だに岡光さんにお金を渡して「特別養護老人ホーム」をつくり、 そこのあがりをどこかに回す、というようなことが行われているのです。 セーフティーネットとしての介護保険はほぼ完全に崩壊してしまっていると思います。 「医療改革」という言葉が叫ばれていますが、すでに「医療崩壊」が完了しています。 「医療崩壊」については細かくは言いませんが、結局のところ、差別化の 導入だったり市場原理の導入だったりなわけです。例えば市場原理を入れるんだったら、 一番儲からないところを減らすわけです。お産はやらない、小児科診ない、救急は しませんと。

こういうことをする医者はどんどん減っています。また個人的なことですが、昔の 病院の医局というのは、丁稚でして私の頃は月に一回休みがあるだけで3日間、4日間 病院に寝泊まりしているのは当たり前。その代わり、何か患者さんにあった場合、 「何故この患者さんの状態が説明できないんだ」とお叱りを先輩から受ける。 そういう所でした。結局、そういう職人集団として医者の集団が崩壊しました。

このスライドで言いたかったことは、措置つまり、お上の最終的なお助け、それを 国が放棄しました。そして公費負担軽減の手法が介護保険から医療保険に導入されて います。そして罰則がもうけられて、それは恐らく「メタボ検診」だと思います。 「メタボ検診」でだめなところはどんどん削られていくと思います。

千葉先生に言われたことと全然違う話になってきてしまったのですが、このような 現状に何か解決策はあるのかということを、私なりに結論を出さなければ ならないわけです。

医療だけで考えてはダメなんだと言うこと、社会保障として介護、医療、年金を まとめて考えるということだと思います。またこれは私の個人的な考えですが、 頑張れるところは個人と家族で準備はして頑張る!しかしダメと思ったら、 さっさと諦めて最後の保障としての"措置制度"を見直し、人心の不安を取り去る 必要があると思います。以上ですが、話が長くなってすみませんでした。
(拍手)

(註1)
国民福祉税構想
平成6年(1994年)首相細川護煕(日本新党)が未明に記者会見を行い、突如発表した 新税構想のこと。基本的には消費税の税率を当時の3%から7%に引き上げ、 福祉目的に充てるとしていた。当時何かと深夜の記者会見を行っていた 細川政権だったが、これはさすがに各方面にとって「寝耳に水」であり、 政権内部はもとより国民からの反発も激しく、翌日には白紙化浮上、 ついに2月8日白紙撤回。

2月3日の読売新聞には、「これは小沢戦略だ」という村山富市・社会党委員長の 記事や、「だまし討ち」だと批判したという与党である新生党の記事が 書かれている。当時非自民連立政権を組んでいた社会党には全く事前の相談がなく、 新生党・日本新党と社会党の仲はさらに急速に悪化。結果同年の社会党連立離脱、 自社さ(自民党・社会党・さきがけ)連立政権(村山富市首相)の誕生 (と社会党の崩壊)へと繋がっていく。

(註2)
「厚生事務次官収賄事件」
特別養護老人ホーム工事をめぐって、平成8年11月18日、警視庁と埼玉県警は 厚生省課長補佐の茶谷滋と社会福祉法人「彩福祉」グループ代表の小山博史を 贈収賄の容疑で逮捕した。更に翌19日、小山代表から6000万円を受け取っていた 疑惑で厚生省事務次官・岡光序治が辞任。12月4日に収賄容疑で逮捕された。 この3人は福祉を食い物にして「私腹を肥やす」という典型的な官僚−民間の 汚職事件を引き起こした(当時の首相は橋本龍太郎)。

また小山代表が主催する「医療福祉研究会」のメンバーだった厚生大臣官房審議官・ 和田勝も小山代表から94年100万円受領し、その後翌年返したと報道された (96年読売新聞11月29日)。その10日前の記事では、「勉強するのは必要。 でも染まっては・・・」という和田審議官の記事が同新聞で紹介されている。

(註3)
「介護保険法」
1997年(平成9年)12月9日の衆議院本会議で、自民、社民、さきがけなどの 賛成多数で可決。2000年度から新制度導入の報道がされた。「国民の不信感増幅の恐れ」 と97年12月10日の朝日新聞に書かれている。

なお、平野医師が話したように、岡光らが立案した当時の厚生大臣は菅直人、 可決したときの厚生大臣は菅氏の後任・小泉純一郎である。

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