| 大陸の風 第一話 昭和16年 10月 戦争という暗雲が世界を包みつつある時代であった ドッガーン バラバラバラ 突然の爆発音とともに 何か自動車の部品のようなものが足元に転がってきた 土方は爆発音が起こった方向を見ながらつぶやいた 『面白そうな奴だな』 『ごほっ、ごほっ グ〜ン〜ソ〜 大丈夫〜』 『はい、何とか生きております』 『それにしても何が悪かったのかなぁ〜』 優美子は、ほんの五分前までは車の形をしていた残骸を見つめながら首をかしげていた 陸軍の小型四輪駆動車"くろがね四軌改"残骸になる前の名称であった 『やっぱりスーパーチャージャーは無理だったかなぁ〜』 『少尉、スーパーチャージャーは敵性語であります 強制加給機とおっしゃってください』 『あっ、ごめんごめん 敵性語よね』 『しょ〜う〜いど〜の〜』 研究所の方から木村上等兵が自転車で駆けてきた 『はぁ、はぁ 少尉殿 所長がお呼びです 至急 来るようにとのことです』 『うわ〜、もうばれたんだ〜 まずいなぁ』 優美子は後藤軍曹に後片付けを命じながら木村上等兵が乗ってきた自転車で研究所に戻った コンコン 『星野少尉 入ります』 ドアを開けた向こうには厳しい表情の島田大佐が所長席に座っていた 『すいません チョットやってしまいました』 『何の話だね』 てっきり"くろがね四軌"を壊してしまったことで雷が落ちるのを覚悟で来たのだが どうやら まだ 所長の耳には入っていないようだ 『紹介しよう 土方少佐だ』 そこで初めて白いソファーに座っている人物がいることに気が付いた 『はじめまして、星野少尉です』 『君が陸士始まって以来の女性将校か? 噂はかねがね聞いている』 『あまり良い噂ではないと思いますが』 優美子は直立したまま返答した 陸軍士官学校にいた時から 奇異の目でみられるのは馴れてはいたが 根も葉もない噂ばかりがいつも付いてまわっていた それでもここは女というハンデをあまり感じない部署ではあった 陸軍工廠 戦車研究所 文字通り戦車の開発、設計、研究をする機関である ただし 陸軍はあまり戦車の開発には熱心ではなくどちらかというと窓際な機関であった 『君には、少佐のお供として満州に行ってもらいたい』 『ま・ん・しゅう ですかぁ?』 予期せぬ言葉にすぐには言われたことが理解できなかった 『T34を関東軍が鹵獲したのだがそれの調査に行ってもらいたい』 『T34って、あのソ連の最新鋭戦車ですか?』 電撃戦によって破竹の進撃を続けるドイツ軍は現在ロシア侵攻を展開中であったが この戦車の登場によって進撃が停滞していた いわゆるT34ショックである 情報はドイツを経由して日本にも伝わってはいるが詳細は不明なのである 『故障しクリークで立ち往生しているところを拿捕したらしい』 そうであろう、日本の戦車がまともにやりあったのでは勝ち目などあろうはずが無い BT戦車にも苦戦しているのだ 『明日、0600に大連に飛ぶ連絡機があるのでそれに同乗し そこからは鉄道で行ってもらう』 『あじあ号ですか? やったー』 大佐がじろりと睨む 『すいません』 『大連からは軍人と悟られぬよう 民間人を装っていくこと この調査を元に隠密裏に新型戦車の開発を行う 護身用の拳銃は置いて行け』 確かにこの拳銃では目立ちすぎる 鈍く銀色に輝く小型拳銃父が守り刀として渡してくれた物だ 『丸腰では心もとないですが』 『一民間人 しかも女が拳銃など持っているのは可笑しいだろう この調査は陸軍内部でもごく一部の人間しか知らない 慎重に行動してほしい』 なるほど優美子が供と選ばれた意味がなんとなくわかったような気がした |
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| 第二話に続く | ||||||
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