大学卒業を控えたある夜、有閑倶楽部のメンバーは
剣菱邸で卒業の前祝と称していつものように飲んでいた。
「悠理が4年で卒業出来るなんて、驚きだわ。」
可憐が話を振る。
「なんだよ、それ!なんでその話するんだよ。」
「いやいや、僕もてっきり8年かかると思っていましたよ。」
清四郎が話しに乗る。
「本当ですわ。私たちの助力が無ければ、今頃悠理一人留年決定でしたわ。」
「だよなあ。なんで他学部の試験勉強まで付き合う羽目に陥ったんだか。」
「みんなひどいじょ!」
「ま、なにはともあれ良かったよね。みんなで卒業出来て。」
美童の助け舟に、悠理の顔が曇った。
「・・・・・でも寂しいじょ・・・。」
悠理の頭を可憐が撫でて言う。
「大丈夫。みんな近くにいるわ。これからも一緒よ。たくさん遊ぶわよ!
仕事一本の人生なんてつまんないじゃない。夜は倶楽部の時間よ。」
「息抜きは必要ですわ。何時だって。」
「あら、野梨子もそんなこと思うの?」
「あの世界はあの世界でいろいろあるんですよ。ね、野梨子。」
清四郎の言葉に、野梨子が曖昧な笑みを浮かべる。
「そうか!そうだよな!やっぱ夜遊びしないと体に悪いもんな。」
悠理が笑顔を見せた。
「まっ腐れ縁ですよ。僕らは。」
「あのさ・・・俺、みんなに報告することがあって・・・。」
皆が一斉に魅録の方を見た。
「なんですの?」
「まさか魅録が留年とか?!」
「あるかよ!・・・・・・えっとさ、俺、留学することにしたんだ。」
「「「「ええっ?!」」」」
「どこにですか?」
「アメリカ。マサチューセッツ。」
「工科大学ですか・・・・。」
「ああ。」
悠理の瞳が涙を溜め始めた。
「すごいね魅録!頑張ってきてよ。」
美童がワイングラスを掲げる。
「サンキュ。」
「喜ぶべきことなんでしょうけど、寂しさが先立ちますわ・・・。」
「なんで黙ってたのよ、魅録。まったくあんたって、こんなとこまで
スマートに決めなくてもいいじゃない。」
「悪い。言おうと思いながら、なんかタイミング外してばかりで。」
清四郎は黙って魅録に握手を求めた。
魅録はちょっと驚いた顔で清四郎見て、その手をギュッと握った。
「さすが魅録ですね。」
「おまえが言うと嫌味になるぞ。」
グスッ グスッ
悠理は溢れる涙の粒を膝の上に落としていてた。
「ヒクッ グスツ 魅録・・・。」
魅録が悠理のそばへ行き、跪いた。
「悠理〜、そんなに泣くなよ。たった2年だからさ。」
「グズッ う〜2年も?ヒクッ」
「おまえなら遊びに来れんだろ。待ってるよ。」
悠理は涙と鼻水でグチャグチャの顔を上げ、魅録を見た。
「あーあー、綺麗な顔が台無しだぞ。そんなんじゃ男出来ないだろーが。」
魅録はナプキンで悠理の顔を拭いて、笑った。
「魅録〜お世辞言うなよ〜。ヒクッもう会えないみたいじゃないか〜グズッ」
「バーカ。さっきも言っただろ、2年だけだって。」
「うえ〜ん、魅録ちゃ〜ん。」
悠理は魅録に抱きつきワンワン泣いた。
野梨子と可憐も思わずもらい泣きしていた。
「悠理と魅録、本当に仲良かったもんね・・・。」
「この中で魅録と一緒の時間を一番多く過ごしたのは悠理ですものね。」
清四郎が頷いた。
「そうですな。僕でも寂しいのに、悠理は言わずもがなですな。」
「へ〜清四郎でも寂しいのね。」
「そりゃそうですよ。それにこれから2年間、魅録のいない状況で
僕達は悠理の面倒を見なくてはならないのは辛い所ですな。」
「本当よね。」
清四郎の言葉に皆思わず笑みがこぼれた。
「魅録は清四郎を本当に分かってくれる数少ない同性の友達ですわ。」
「それでも僕も清四郎も男同士だからね。語らなくても分かり合える部分はあるよね。
悠理と魅録は男同士の付き合いなんて言っても、やっぱりどこか男と女なのかも。
それが例え友情だとしてもね。」
美童が誰に向かうでもなく、呟くように言った。
6人はその夜、一晩中飲み明かした。
卒業式が行われた日の午後、魅録はアメリカへと旅立った。