僕は今、剣菱で魅録の秘書として働いている。

たまに豊作さんをフォローすることもある。

それまでは医者として働いていたが、悠理との結婚が決まった魅録が

僕のところへ来て、自分を手伝って欲しいと頭を下げたので、ここは応えないと

男がすたると思い快諾した。

あっさりと医者を辞めたことに回りは驚いていたが、僕の中ではさほど問題ではなかった。

魅録ほどの男に請われる喜び、そして興味がある仕事、この二つが重要だった。

僕は情緒障害とか言われるが、仲間はとても大切で、魅録は昔から男としてライバルであり、

尊敬している部分もある。

普段それを表に出すことは無いが。

なので決断は早かった。

さすがの悠理も少し心配していたが

「これで魅録は僕に一生分の借りを作りましたからね。悠理も妻として覚悟して下さいよ。」

とにやり笑いながら言うと、ケッという顔をした。

魅録は僕の決断に対して多くは言わなかった。

医者の仕事は大丈夫かとかそういうことは一切口にしなかった。

ただ「本当に悪い。恩に切るぜ。」と土下座したので、もう十分すぎる。

実際非常にやりがいのある仕事で、忙しいが充実した毎日だ。

以前ちょっと首を突っ込んだことがあるので、内部の様子も分かるし、

豊作さんが僕に魅録と同じレベルの優遇を色々してくれるので、動きやすい。

出張の時などは悠理も同行することも多いが、悠理の扱いも慣れているし、

正に僕は適任だろう。

魅録夫婦と僕は当然、部屋は別だが、結局一室で雑魚寝になってしまうことも多い。

夫婦の間に割って入って仕事を進めなければいけないのも、

この夫婦なら気兼ねいらないので楽だ。

友人夫婦とのこの不思議なバランスも、自然なもので取り立てて意識していないが、

傍から見ると変なんだろうか?

時として僕と悠理が一緒に、魅録とは別に行動することもあるが、魅録も悠理も

そして僕も何も気にしていない。

そんな時の僕の頭にあるのは、とにかく悠理を上手く引率して何事も無く終了させること。

それだけだ。

ただ僕の恋人は少し違うようだ・・・・。

 

「あんたけっこう満更じゃないんじゃないの?昔っから悠理のこと気に掛けて

ばかりだったもんね。あたしのことなんか何にも見ていなかったでしょう?」

それは・・・否定できない、確かに。

高校時代、彼女を取り立てて意識していなかったし、そういう意味ではずっと悠理の

ことを意識していた。

でもそれは恋ではない。

「あいつは手が掛かったので。ただそれだけですよ。もっとも今も掛かりますが。」

「そうかしら〜?」

「やきもちですか?ならもっと妬いて下さい。」

僕は彼女の腰をグイッと引き寄せた。

彼女はプイッとそっぽを向く。

そんな仕草が可愛くて、無理にこちらを向かせキスを落とす。

この年になって彼女は益々艶やかになり、男の視線を一身に浴びて輝いている。

それは彼女の隣に立つ僕にとって、嬉しくもあり、心配でもあり。

悠理ならこんな心配はしなくていいんですけど。

・・・・・そう。こんな風にすぐに比べてしまうのがいけないようだ。

以外だった。彼女がそこまで悠理を意識していたなんて。

確かに今は彼女と過ごす時間以上に悠理と過ごしている。

でも二人きりでないことのほうが多い。

しかも仕事で。

彼女は仕事とプライベートの区別がなってないと言う。

これもまた否定できない。

魅録も悠理も親友なので、仕事とスッパリ切ることは難しい。

実際、会長代理としての仕事に昼夜無いこともあり、秘書の僕も付き合うことになる。

何もかもが疑う原因になるようだし、疑いやすい状況にあるのは分かるが・・・。

最近、やや面倒になってきた。

どうしたら彼女に分かってもらえるのか・・・。

 

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