大広間の正面にある赤い絨毯が敷き詰められた階段を
悠理は魅録にエスコートされ、静かに下りてきた。
母・千秋のお陰で女性をエスコートすることには慣れている魅録は
いたって自然に、生まれながらに大財閥令嬢である悠理を導いていた。
黒のスーツ姿の魅録と赤い肩を出したワンピースの悠理は、
会場にいた誰もが思わずため息を付くほどだった。
二人がそのままひな壇に進み、席の後ろに立ったとたん
多くのフラッシュが光る。
魅録は一瞬眩しそうに目を細めたが、すぐに表情を戻した。
記者会見が始まり、あれこれ質問を受ける魅録は難なく捌いていく。
時には英語を交えながら。
時には悠理のフォローをしながら。
「やるわね魅録。」
「堂々としていて立派ですわ。」
「それに比べて悠理は落ち着きないわね〜。」
「魅録の英語、すごく上手くなったね。とても聞きやすいし、
なかなか洒落た会話をしてるよ。」
「まあ。美童に褒められるなら本物ですわね。」
「清四郎、ちょっと焦るんじゃない?魅録があんなに良い男になっちゃって。」
可憐は少し意地の悪い笑顔を清四郎に向けた。
清四郎は首を軽く振った。
「元々良い男でしたよ、魅録は。僕がライバルと認めたやつですからね。」
可憐は肩を竦めて
「相変わらずね、あんたも。」
「でも清四郎、よく魅録の補佐をするために剣菱に入ることを決めたよね。」
清四郎は視線を魅録に固定したまま答えた。
「魅録ほどのやつに頭下げられてはね。男冥利に尽きるとは正にこのことですな。」
「でも清四郎は自分の夢を諦めてもいいの?」
「僕の夢ですか?あいにく夢を見るほど僕はロマンティストではないので。」
「せっかく医者になったのに、あっさりとその椅子を捨てるの?」
清四郎はククッと笑った。
「いいんですよ。正直どうしても医者になりたくてなったわけではないんです。
何をするか決めかねていたので、一番身近な職業を選んだだけですから。
どうしようもないモラトリアム人間ですな。僕は。」
「贅沢なモラトリアムですこと。」
「魅録も清四郎に頼むなんてよほどの事なんだろうね。僕には分からないけど・・・。」
「そりゃそうでしょう?!天下の剣菱だもの!」
「それに魅録は素直なんですわ。自分には手助けが必要と思ったら、
意地を張らずに頼めるって何処かの誰かさんとは大違いですわ。」
野梨子はわざと清四郎から視線を外したまま言う。
「もしかしてあの時、魅録に助けを乞うていたら違う結果になっていたでしょうね。」
清四郎はやれやれといった顔で
「ならあれで良かったんですよ。でなければ今の二人の幸せは無かったかも
しれないわけですから。」
記者会見は終わり、二人は退場して行った。
この後、一時間ほどで婚約披露パーティーが始まる。