ニューヨークの今日の空はいかにも降りそうで、どんより曇り湿気っぽい。

「今日のプレゼンはなかなか良かったですよ、魅録。あちらも言葉に

詰まっていましたね。」

「おまえの資料に色々書いてあったからな。ちょっと突っ込んでみたのさ。」

「上等上等。強気に出ないとやや押され気味ですからね。」

「なあ、ちょっと飲んで行かねえ?」

「しかし明日の準備が・・・でもまあいいですかね。行きましょうか?」

「そうこなくちゃ。車止めて。ちょっと寄ってくから。帰りはいいよ。」

車を降りた二人はすぐ近くのバーに入った。

「あー疲れた。」

「おや魅録が弱音を吐くなんて珍しいですな。」

「ああいう場はやっぱ苦手だな。俺、技術屋だし。一人暗〜くメカいじってる方が良いよ。

こんな若造がいきなりトップに座るなんてなあ。」

「それを言うなら僕も技術屋ですけどね。」

「おまえはオールマイティだからなあ。」

「明日には豊作さんが到着しますから、少し楽になりますよ。」

「まあな。けどおまえの仕事は増えるんだよな。」

「元々予定されていたことですから、別にどうってことはありません。」

運ばれてきたウイスキーのグラスを合わせた。

ガラスの澄んだ音が響く。

「俺より清四郎の方が合ってるんだろうな・・・。」

「何を言ってるんですか魅録。適材適所ですよ。僕は黒幕のほうが合ってるんです。」

「幕僚、軍師ってやつか。」

実際、魅録が族仲間やその他の仲間たちから慕われてきたという人柄が、仕事をする上でも

徐々に効果を発揮してきていた。

清四郎は魅録に付いて何度かアメリカに出張に来ていたが、ここでも魅録の交友関係の

広さに驚いた。

留学していたたった2年の間に魅録の世界は広がっていた。

本人は嫌がっていた千秋に引きずられるように出ていた社交界でも顔が知られており、

非常に仕事がやり易いことがある。

そういう部分を魅録に任せ、ひたすら戦略を練ることに没頭できるのも楽だと清四郎は思っていた。

「ま、始まったばかりですよ。何もかも。・・・さては悠理が恋しくなりましたか?」

「バーカ。」

カランッ

魅録はグラスを傾けた。

「なんなら今夜は僕が添い寝してあげましょうか?」

「おまえ、俺に引き金を引かせたいのか?」

清四郎はおどけて両手を挙げて見せた。

「でも悠理を連れてこなくて良かったんですか?」

「・・・・ああ。今回は一週間だけだし、パーティーもないしな。」

「悠理は寂しがりやだから今頃泣いているんじゃないですか?」

清四郎が微笑む。

「んなことないだろ。」

「魅録がアメリカにいた2年間、大変だったんですよ。あいつのお守り。」

「そっかー?のわりには遊びにも来なかったぜ。」

「行けなかったんですよ。自分の知らない所で魅録が自分の知らない魅録に

なっていたら・・・って。」

魅録は左の薬指にはめられている指輪をいじった。

シンプルな、本当にシンプルな指輪だった。

「こんなのデザインもへったくれもないじゃない!」

そんな風に可憐が怒った指輪だ。

「ますます恋しくなりましたか?」

清四郎は意地悪い笑みを浮かべて魅録を見ている。

魅録は無言の返事を返した。

「さてと・・・そろそろホテルに戻りますかね。」

「ああ。」

魅録は椅子から立ち上がり、思いの外自分が酔っている事を知った。

魅録のふらつく足元を見て、清四郎は眉をひそめた。

タクシーでホテルに戻り、清四郎は魅録を部屋まで送り届ける。

ベットにドサンと魅録を下ろすと、そのネクタイを緩めた。

清四郎は魅録の横に腰を下ろすと、自分のネクタイも緩める。

タクシーに乗る前、魅録は空を見上げていた。

雲の切れ間から月が覗いていた。

魅録が清四郎に体を預けながら言った。

「俺さ・・・こっちにいる間に空見る癖が付いちまった・・・。

空ってつながってるからさ・・・・。」

清四郎は魅録が日本に帰ってくる前に、悠理が空を見上げながら

言っていた言葉を思い出した。

「魅録もこの空の下なんだよな・・・・。」

二人はつながっている・・・・。

清四郎は携帯を取り出し、潰れている魅録の顔の横に自分の顔を寄せ写した。

悠理に写メを送る。

『うらやましいだろ』

しばらくして悠理から返事が来た。

『この変態!魅録襲うなよ!』

清四郎はもう一度メールを送る。

『男山と悠理のツーショット撮って魅録の携帯に送れ』

清四郎はしばらく返事を待っていたが、そのまま夢の世界へ引きずり込まれていった。

翌朝、目覚めた魅録は一瞬固まった。

横には無防備な清四郎の寝顔。

「なっ?!えっ?!」

清四郎が目を覚ます。

「おはようございます魅録。気分はどうですか?」

そう言いながら体を起こす。

「僕もそのまま眠ってしまったようですね・・・。」

魅録はぽりぽり頭を掻いた。

「俺、昨日けっこう酔って・・・。」

「あんな魅録はなかなか見れませんからね。役得ですな。」

「うげ。そういう使い方すんな。」

「シャワーでも浴びてきたらどうですか?」

「ああ。清四郎もな。」

「魅録からのお誘いとあっては断れませんね。では一緒に・・・。」

「だーかーらーっ!!そういう冗談はやめろ!部屋に戻れ!」

清四郎は一通り笑い終えた後、部屋を出て行く途中で振り返った。

「そうだ。悠理からメール来ていませんか?」

「ん?・・・ああ来てる。」

魅録は携帯の画面を凝視している。

「何て?」

「あっ、いや、メールじゃなくて・・・。」

清四郎が覗き込んだ。

そこには画面いっぱいの男山に頬を寄せた笑顔の悠理。

「ほほ〜これは魅録には堪らないツーショットですな。」

清四郎は横目で魅録の頬が緩んでいるのを確認して、満足げに頷いた。

魅録はしばしその写真を見つめる。

愛犬と愛妻。

そこに自分の姿がないのが少々切なかった。

でも口元が緩む。

清四郎が魅録の肩に手を置いた。

「悠理に魅録の写真を送っておきましたから。」

「えっいつの間に撮ったんだ?」

「昨夜ですよ。寝顔をね。」

魅録は清四郎をギロリと睨む。

「大丈夫ですよ。変な写真じゃありませんから。」

「見せろよ。」

「帰ったら悠理に見せてもらって下さい。」

「怪しいぜ・・・・見せろ!」

魅録は清四郎が握っている携帯を取ろうと飛び掛る。

「おっと・・・危ないですね。」

もう一度魅録は手を伸ばす。

清四郎はひらりとかわす。

「では僕もシャワーを浴びに部屋へ戻ります。その後、豊作さんを迎えに

空港へ行きますが、魅録はホテルに残りますか?」

魅録は顔を上げて明るく言った。

「俺に運転させろ。」

「了解。後ほど。」

清四郎が部屋を後にした。

魅録は小さなバルコニーへ出て煙草に火をつける。

海外でのビジネスには煙草はご法度と清四郎に釘を刺されているのだが。

携帯を覗く。

男山と悠理。

今日は昨日と打って変わって青空だ。

結婚する前に悠理に言った言葉を忘れたわけではない。

でも現実は悠理と遠く離れた空の下だ。

それでも大丈夫だと思える・・・・・自分も悠理も。

 

〜〜伝えきれぬ愛しさは花になって街に降ってどこにいても君を”ここ”に感じてる〜〜

 

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