「綺麗ですよ、野梨子。」

すっかり仕度が整い、花婿の到着を待つ花嫁を前に

清四郎は静かに座っていた。

「ありがとう。なんだか恥ずかしいですわ。」

「いやいや。野梨子の白無垢姿にぼくも感慨無量です。」

「清四郎・・・・。」

「しかし、花婿より先に花嫁姿をぼくが見てしまって、なんだか悪いですね・・・。」

「清四郎は家族も同然ですもの。こうやって早くに来てくれて嬉しいですわ。」

「野梨子・・・。これから先、もう家族のようには・・・。野梨子は自分の家庭を持つ

わけですから。やはりぼくは他人です。白鹿家では本当に家族同然に接してもらい

感謝しています。ですが、これからは親友、それ以上でもそれ以下でもない。

家族のような幼馴染はもう卒業です。そうでないと野梨子のご主人にも悪いですから。」

「そんな寂しいことを言わないで下さいな。」

「寂しいですけど、野梨子の晴れの日だからこそですよ。ただし、ぼくたちの間の信頼は何の

ゆるぎもありません。野梨子、ぼくは心から野梨子の結婚を祝福しています。」

「清四郎・・・、今までありがとうございました。私は幸せになりますわ。」

そこへ野梨子の母が顔を出した。

「今、花婿さんがお見えになりましたよ。」

足音が近づいてきた。

清四郎は花婿を迎えようと立ち上がった。

「よう、清四郎来てたのか。」

「おめでとう。魅録。」

「おう。ありがとう。」

清四郎は右手を差し出し、魅録に握手を求めた。

魅録が清四郎の手を握る。

野梨子を頼みましたよ、魅録。幸せにしてください。

言葉には出さなかったが、眼差しに乗せて、魅録に伝えた。

魅録もしっかりと清四郎を見つめ返す。

言葉は無くても伝わるお互いの思い。

背後では野梨子がそっと涙を拭っていた。

 

披露宴会場での清四郎は口数少なく、物悲しげだった。

心から祝福していると野梨子に言った言葉は本当だ。

二人の結婚は素直に嬉しい。

野梨子の相手が魅録でほっとしてもいる。

魅録なら間違いない。安心して野梨子を任せられる。

(娘を嫁に出す父親の心境ですかね・・・・これは。)

そんな清四郎の様子を他の三人は静かに見守っていた。

「可憐、向こうでの暮らしはどうなんだよ。」

料理をほうばりながら悠理が聞いた。

「う〜ん、やっぱり言葉がね〜。まあでも、概ね良好ね。」

「うん。可憐は頑張っているよ。ぼくも家を空けることが多いから心配だけど。

どこにだしても恥ずかしくない奥さんだよ。」と美童。

可憐は美童と結婚し、外交官の美童と一緒に今海外暮らしだ。

今日は親友二人の結婚式出席のために帰国していた。

ちなみに。

悠理は剣菱の手伝いをちょこちょこしている。

清四郎は医学部を卒業したが、臨床医にはならず、

有り余る探究心を満たすべく研究に日々熱心に取り組んでいる。

魅録は自衛官か、警察官か、と言われていたが民間旅客機のパイロットになった。

野梨子は母親を手伝い、茶道に精進している。

「野梨子、幸せそうね。」

「魅録だって。目尻が下がっているよ。」

「あいつったらさー。昨日の夜中に落ちつかねーって電話かけてきやがってさ。

さっさと寝ろって。」

「あ〜魅録はあまりこういう席得意じゃないよね。」

「野梨子は落ち着いていましたよ。」

「あの子はそうよ〜。それに女にしたら晴れ舞台ですからね。

喜びが大いから緊張なんて吹き飛ぶわ!」

「そんなもんですかね・・・。」

「清四郎、寂しいの?」

「なんというか・・・喜ばしくて、寂しくて・・・。複雑です。」

素直に気持ちを口にする。

「あんた達、兄弟以上だもんね〜。」

「清四郎、長年の野梨子のナイト役お疲れ様!」

美童はワイングラスを清四郎に向かって掲げた。

清四郎も微笑み、受ける。

「あ〜ら、これからは悠理のナイト役をすればいいんじゃない?

悠理を守れる男なんて清四郎ぐらいなもんよ〜。」

「はあ?あたいは平気だい!」

「悠理のお守りですか?体がいくつあっても足りませんね。

本当に今までどれだけ振り回されてきたことか・・・。」

清四郎はわざと大きくため息をつく。

「うるさいぞ!いつあたいが清四郎に守ってもらったよ!?」

「え〜?悠理、あんた守ってもらってばっかりじゃない!」

「そうだよ。悠理といるといつの間にか事件に巻き込まれていたよね。」

「うるさいうるさい!あたいばかりが悪いんじゃないぞ!」

「それでは、新郎の親友、そして新婦の幼馴染である菊正宗清四郎様に・・・。」

司会者の声に、清四郎は立ち上がった。

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