「上手く入りましたわ。」
野梨子が気管内挿管を終える。
「そのまま麻酔かけて下さい。すぐオペです。」
「分かりました。」
「MAP10単位、FFP10単位、至急!伝票後で書くから!えっ無理?
そこをなんとかしろ!」
悠理に内線電話の受話器を持ってもらっていた魅録は語気を荒げた。
それに呼応するように悠理が乱暴に受話器を置く。
「ったく!使えねー。悠理、日赤にも電話しとけ!」
「まあまあ、抑えて抑えて。」
可憐が苦笑しながら魅録をなだめる。
「清四郎!輸血部のこの融通の利かなさをなんとかしてくれ!」
「まあ管理の厳しい製剤ですから・・・。」
清四郎も苦笑している。
「でも魅録の言う通りですわ。この状態では一秒でも早く欲しいですもの。」
「確かに・・・・。」
清四郎も同意する。
「人工心肺は?」
「今準備中です。」
「急げ。」
「魅録、カリカリしない。」
美童がウインクをよこした。
「なんだ今日はおまえがオペ看かよ。」
「当たり前じゃないか。大変なオペになりそうなんだろ?交通事故でハンドルで胸部圧迫って。
エアバック出なかったらしいから、厳しそうだよね。可憐には任せておけないよ〜。」
可憐が美童を睨む。
「まっ、おまえに汗拭かれるよりいいか。」
「頼みますよ、美童。エコーを見ると心タンポナーゼのようなんですが、ちょっと・・・・。」
「清四郎!血圧が!脈もほとんど・・・。」
清四郎と魅録は一斉にモニターを見た。
「まずい!」
「悠理!輸血部に連絡!急げって言え!」
「ボスミン1A入れますわ!」
「メス。」
美童は清四郎にメスを手渡した。
「・・だから急ぐって言ってんだろ!!」
後ろで怒鳴る悠理の声。
「心破裂っぽいな。」
「そうではないことを願いたいですが・・・・。ビーバーナイフ。心膜切開。」
「「「「!」」」」
清四郎が心膜にナイフを入れるや否や大量の血液が堰を切ったように流れ出てきた。
「どこだ?!」
「ガーゼ!」
「こんなんじゃ間に合わないよ。」
そう言いながら美童も必死だ。
「血圧低下!」
「人工心肺はまだか?!工学士!」
「もう少しです!」
必死で押さえる。
「血液到着したわ!」
「すぐに繋ぎます!」
「野梨子!入っていかねーぞ!」
「血管が収縮してしまっているのですわ!他にもライン確保します!」
野梨子は腕、足、外頸あらゆる場所にラインを確保していく。
「悠理!押し込んで!」
「魅録!押さえていますから縫合お願いします!スピードがあったほうがいい!」
「OK。縫合糸!」
魅録はあっという間に破裂部分を縫い合わせていく。
清四郎の縫合は細かく緻密で、いかに自然に近い状態に近づけるか色々考えた上で縫っていく。
が、魅録は大まかで大胆に縫合していく。
もちろん他の人に比べれば、その腕はかなりのものだが、清四郎には劣る。
その分魅録の縫合はスピードがある。
清四郎はその性格上、魅録の様な縫合は無理だ。
だが時として時間勝負なことがある。
そんな時、清四郎は自分が執刀医でも、魅録に任せるのだ。
「よし!大きなところは終わり!」
魅録が一旦顔を上げる。
さっと可憐が汗を拭う。
「人工心肺オッケーです!」
「すぐに繋げます。野梨子、ヘパリン化は?!」
「もちろん大丈夫ですわ!」
「追加血液到着したぞ!」
「送血管挿入。脱血管挿入。大動脈遮断。」
人工心肺が動き始める
「完全体外循環に入りました。」
ホーッ
オペ室全体に安堵感が広がった。
「取り合えず一山超えたな。」
「ええ。でもまだ油断できませんから。この先の縫合は僕がやります。」
「じゃ、俺は助手に戻るよ。」
「はあ〜〜〜〜。」
皆、医局の椅子に倒れこんだ。
「一先ずICUに送り出せましたから良かったですよ。」
「今、何時だ?」
「もう夜中よ。」
「あたいの蟹鍋・・・・・・。」
「泣くな、悠理。」
「蟹は冷凍になっていますから大丈夫ですよ。」
「せっかく皆が揃ってたのに、残念だったね。」
「またありますわよ。そういう日が。」
コンコン。
ドアがノックされ開いた。
「みんなお疲れ〜。」
和子が大きな包みと共に現れた。
「なんですか姉貴。」
「なに嫌そうな顔してんのよ、清四郎。飲まず食わずで仕事をした貴方達に
差し入れを持って来たのに。」
悠理は目を輝かせて和子へ走り寄った。
「わ〜い!それお弁当?」
「そうよ。母さんがみんなにって。」
「まあ、おばさまが。こんなに沢山大変でしたでしょうに。」
「せっかくだから頂きましょう。もうお腹ペコペコ。」
可憐がお腹をさする。
「では頂きましょうかね。」
清四郎は和子から包みを受け取った。
「ね、寮へ戻ろうよ。」
「そうだな。早くここからズラかったほうが良いぜ。」
「じゃそうしますか。」
皆一斉に立ち上がり、それこそ疾風のごとく去っていったのでした。