消防庁のホットラインが鳴る。
「あいよ。どんな仕事?」
「交通事故です。バイクとトラック。バイクに乗っていた少年をお願いしたいのですが。」
「状況は?」
「スピードの出しすぎで自ら転倒し、そこを後続のトラックに轢かれたようです。
下半身を挟まれていまして、救出に時間がかかっています。」
「本人どんな様子?」
「バイタルは落ち着いているようです。頭部を強く打撲。挟まれている右下腿は骨折しているようです。
意識は二桁と報告が入っています。」
「救出次第すぐ連れて来て。」
魅録は受話器を置いた。
「事故ですか?」
清四郎が白衣を羽織る。
「そうだ。オペになりそうだぜ、野梨子。」
「分かりましたわ。」
到着した少年は思っていた以上に悪いということは無く、皆ちょっとホッとした。
「バイタルも安定していますし、意識レベルも一桁ですね。だが油断は出来ないので、
レントゲンとCT行きましょう。足はやはりオペですな。野梨子準備を。美童も呼んで下さい。」
「あたいが行くよ!」
悠理が駆け出す。
「よし、サッサと頭の中見ちゃおうぜ。」
少年のベットは窓際の日当たりのいい場所だった。
漫画を読んでいる少年のベットサイドの椅子に魅録は座った。
「よう!」
少年はちらりと魅録を見たが、また漫画に視線を落とした。
「君さ、無茶な走り止めろよ。」
「なんだよ、説教かよ。聞き飽きてんだけど。」
「今回、骨折だけで済んだのは単なる偶然だぜ。ラッキーだっただけ。」
「脅しなんて怖くねーよ。」
少年は漫画を目で追いながら答える。
「17だろ。若ーよな。でもよ。俺はそんくらいの時、もう少し大人だったぜ。」
「医者になるような奴とは住む世界が違げーんだよ。」
「ご両親見ると、そこそこの家庭環境に思えるけど。」
「関係ねーよ。」
「俺も昔走ってたんだよ。中房の時は族の頭やってたし。高房の時は
少し落ち着いてたけど、走るのは好きだったぜ。今でもそのときの仲間と走ってる。」
少年は魅録の方を向いた。
廊下を悠理が通ったのを魅録は気付いた。
片手を挙げると、悠理も同じ動作で返して、通り過ぎて行った。
「今の看護師さ。中房の時の喧嘩仲間さ。あのころは俺も血のっ気多かったからな。
あらゆる喧嘩場であいつに会ってさ。意気投合して、今でもダチさ。一緒に走るし。」
魅録は一息ついた。
「だから走る面白さは十分分かってるさ。走るなとは言わない。
ただ守ってもらいたいことがある。」
魅録の視線は少年の目を捉え、その眼光を放った。
「自分の命を大切にしろ。そしてそれ以上に仲間の命を大切にしろ。」
「・・・・・・・・・。」
「それが守れねーなら走るな。そんくらいのこと解るだろ?」
「・・・・・・・・。」
「大人ぶるな。大人になれ。」
「なーに真面目に説経してんだよ。」
いつの間にか悠理がすぐ後ろに立っていた。
「おまえな〜。今いいところだったんだぞ!」
「こいつだっておまえに言われたくねーかもよ。」
悠理が笑い、少年に話しかける。
「なあ、走ってるんだろ?こいつの名前知んないの?」
悠理は魅録のネームプレートを指差す。
「ばっ、余計なこと言うな!」
少年は凝視した。
「松竹梅・・・・魅・・録?!・・・・・・あ、赤い牙?!」
「すげー魅録!おまえまだ有名じゃん!」
少年の目は驚きで満ちている。
「えっ?あの、伝説の魅録さん?!」
「伝説だってよ〜。」
悠理が魅録を肘でこずく。
魅録が悠理を睨む。
「俺さ、おまえらみたいな奴が事故って、担ぎ込まれて、
助けられなかった時、本当へこむ。だけど多いんだ。助けられない奴。
走るの本当に好きだからな・・・・。」
「俺・・・・・・。」
魅録は立ち上がり、少年の頭を2回ポンポンと軽くたたいた。
「明後日退院だから。」
「良かったな。」
少年は二人を見上げた。
「そうだ。魅録書いてやれよ。」
悠理は魅録にマジックを差し出した。
魅録はキャップをあけ、白いギブスに文字を走らせる。
「治ったら一緒に走るか?こいつも一緒だけどよ。」
悠理をマジックで突きながら、魅録は病室を後にした。
少年は魅録の書いた文字を指でなぞった。
『気合入れろよ』