冬が近づいたある明け方。
可憐は消防庁からのホットラインを取った。
仮眠室へと連絡する。
「清四郎!中年の男性が激しい頭痛を訴えて倒れたって!」
「状態は?」
「心肺停止。」
「受けて下さい。」
救急処置室がにわかに騒がしくなる。
寝ぼけ眼の研修医たちが看護師と共に患者を受け入れる準備をする。
寮で寝ていた魅録も叩き起こされ、やって来た。
「すみませんね。ちょっと手が欲しくて。」
「ふわあ〜まあ今日は良く眠れたほうだな。」
左手には悠理の首根っこ。
「心肺停止じゃこいつも必要だろ。」
処置室の窓が赤いランプを写し始めた。
「到着だぜ。」
すぐに心臓マッサージを受けている患者が乗せられたストレッチャーが運び込まれてきた。
処置台に移され、心電図をモニターする。
皆の視線が集まる。
フラットだ。
「悠理!心臓マッサージ続けろ!」
「おっしゃ!まかせとけ!」
心臓マッサージは重労働だ。
若い男の研修医が2,3分で息を上げる。
そんな作業には悠理は持って来いだ。
もちろん魅録も清四郎もなんなくこなすが、何しろ他の処置で手一杯。
「うりゃ!」
悠理のマッサージは続く。
清四郎が救急隊の話しを聞いて、戻ってきた。
蘇生は研修医や若手に任せ、魅録は一歩下がってモニターを凝視していた。
「厳しいですな。かなり時間をロスしているみたいです。」
「ん〜だったら早目に切り上げた方が良いか?クモ膜下じゃない気がしてきた。」
「そうですねえ。」
「このまま行けば植物人間・・・かもな。」
「こらー!そこの二人!高みの見物してねえで手伝え!」
悠理が額に汗を浮かべて怒鳴っていた。
「おや、さすがの悠理もギブアップですか。」
「誰か変わってやれ。」
「いや、魅録・・・・。残念ですが、これ以上は・・・・。」
「よし、悠理終わりだ。」
「ええー!?ここまで頑張ったのに?!」
「時間のロスが大きいのです。もし蘇生しても、もう脳の方が無理です。」
悠理は患者から離れ、ガックリ肩を落とした。
清四郎がそんな悠理の髪をくしゃっと撫でる。
「頑張りましたな。」
「お疲れさん。」
魅録も声をかける。
「終わったら甘いもの用意するわ。」
可憐が慰めようとするが、悠理は首を振った。
「寮に戻るよ・・・・。」
「俺もシャワー浴びるかな。」
寮までの道を無言で歩く。
寮に着き、それぞれの部屋へ分かれて行こうとした時、
悠理が魅録のTシャツの裾を引っ張った。
「あたい・・・・分かってるんだけどさ。命を助けることが必ずしも正解ではないってこと。
分かってるんだけど・・・・。」
「うん。悠理の葛藤はみんなも同じだと思う。宣告を下した清四郎もな。」
「・・・・・・・・・・。」
「人間、悩まなきゃ進歩はないぜ。」
「・・・・・・・・・・・なあ、魅録。」
「ん?」
「フレンチトースト食べたい。」
魅録は微笑んだ。
「そうこなくちゃ。シャワー浴びたら作ってやるよ。」
「やったー♪魅録のが一番美味いんだよなあ、フレンチトースト。」
「んじゃ、後でな。」
「早く出て来てよ。」
二人はそれぞれの部屋へと消えていった。