もう十五年くらい昔の恋を引きずっている。
どうしてだろう?
忘れられない。
叶わぬ恋なのはその当時から分かっていた。
振られたのも必然で。
でも、今でも好き。
なんでだろう?
たまに夢に出てきて私を抱き締める。
その人が。
そう、一回だけ抱き締められたことがあった。
それを今でも体が覚えている。
ベットの隣では違う男の寝息。
その横で私は浮気をする。
想像の中で浮気をする。
そして横の男に抱かれたくなる。
それは罪の意識を誤魔化そうとするからなのか、はたまた叶わぬ恋の寂しさを
埋めて欲しいのか。
本当にどうしてこんなにあの人を求めてしまうのか。
忘れたいのに。
ただの仲間に戻りたいのに。
あの人に妻子がいるのはあまり気にならない。
ただ私のほうを向いて欲しいだけ。
夫と別れる気もない。
ただただあの人が欲しいだけ。
一度でいいからあの人を手に入れて、この気持ちに決着を付けたい。
心を手に入れたいわけではなくて・・・・抱かれて、そして終わりにしたい。
じゃないと辛過ぎる。
気持ちにピリオドを打ちたい。
それが・・・・抱かれることだと今の私は思っている。
抱かれることによってもっと思いが強くなってしまったら?
ううん、それはない。
だって私は夫を愛している。
それに・・・・やっぱりそんな思いは叶うはずがないから、だから
一回だけ抱かれることによって綺麗に終結するとそう考えている。
単なる想像。空想。
はぁ・・・・・・。
深い深い溜息がもれる。
「珍しいですね。貴女が僕を呼び出すなんて。」
穏やかな笑みを浮かべて清四郎は店の窓辺に座っていた。
コーヒーカップからまだ湯気が立ち上っているということは、
着いてからそんなには経っていないのだろう。
「悪いわね。悠理には内緒にしてくれた?」
「ええ。悠理は今お義母さんに付いてパリですから何の問題もないです。」
「美童にも内緒なの分かってるわよね?」
「もちろん。でも美童の浮気調査ならお断りですよ。
そういうことは魅録に頼んで下さい。」
「違うわよ。昔と違って彼は今私一筋だから。
・・・・・・今日は私自身の頼みがあって呼び出したの。」
「と言いますと?それはこの場所にも関係あるんですか?」
清四郎は窓の外を見た。
道路を隔てた向こう側には波が寄せては返している。
「ん〜まあね・・・。昔からデートで人気スポットでしょ。海って。」
「冬の海ですか?」
「そう。」
「で、用件は?」
「私をね・・・・抱いて欲しいの。」
私は躊躇わずに言った。
「はぁ?」
清四郎が驚くのも無理はない・・・が、本当に素直に驚いたので少し笑ってしまった。
「しーっ!もう一度言うわね。私を抱いて。」
「・・・・・なぜ?」
「貴方をね・・・・忘れたいの。」
「忘れたい・・・・・とは?」
「十五年前から・・・・時が止まってるの。私の中で。・・・・分かる?」
「ええ。何のことを言っているのかは・・・・分かります。」
清四郎がそのことを忘れていなかったことに安堵した。
「あの時からね・・・・離れないの。貴方のことが頭から。」
「そんなに衝撃的でしたか?」
「うん。清四郎に恋する私にしてはかなりの衝撃だったわ。」
「それは・・・・。随分と悩ませてしまったようで申し訳なかったですね。」
「決着を付けたいのよね。自分の中で。私だってまさかここまで引きずるなんて
思ってもいなかったんだから。なんでだか分からない・・・・。」
「で、それは一回だけ貴女を抱けば解決するんですか?」
「と思ってる。」
「ふむ・・・・。まあとりあえず場所を変えましょうか?ここでこれ以上話していても
感傷的になるだけですよ。冬の海は。」
清四郎は何か考えているようだ。
まあそれはそうだろう。
妻がいる清四郎にとっては無理な注文なんだから。
「任せるわ。」