「わりい。遅くなっちまって。」
野梨子は読んでいた本からゆっくりと顔を上げ、俺を見て微笑んだ。
「大丈夫ですわ。今日はエヴァン・ウイリアムズの新作を買いましたの。
もっと遅くても良かったんですのよ。」
ちょっと意地悪な顔をして見せた野梨子だが、
それがまた可愛くて俺は思わず表情を崩した。
ほとんどの待ち合わせに遅れてくる俺への気遣いが嬉しい。
「今日も忙しかったんですの?」
「ん〜今日はルーチンオペだけだったんだけど、開けてみたら
ちょっと面倒なことになっててさ。時間かかっちまった。」
「まあ、大変でしたね。」
野梨子は俺との待ち合わせには必ず本を二冊持ってくる。
長く待たされても良いように。
遅れる連絡すらままならない俺と、懲りもせずよく一緒にいるなと思う。
「お腹すいているんじゃありません?」
「ああ、ペコペコ。今日は何食べたい?」
「もし少し時間がかかってもよろしければ、わたくしが作りましょうか?」
「おっそれいいな!コロッケ食いたい。」
野梨子はくすっと笑い言った。
「では材料を買ってすぐに帰りましょう。」
途中のスーパーで材料を揃えて、俺のマンションに戻る。
マンションって言ってもワンルームで狭い。
勝手知ったる狭いキッチンで野梨子は手際よく夕食を作り、
俺はその間にシャワーを浴びる。
さっぱりとして出てくると、部屋中にいい匂いが立ち込めている。
「もうちょっと待って下さいな。」
野梨子が声をかけてくる。
「じゃその間に明日の確認でもしておくか。」
パソコンを開き、明日のオペの症例の確認をする。
家に帰って、シャワーを浴びて、
明日の仕事の準備をしながらコンビニ弁当を食べる・・・
そんな日常も野梨子がいると全然違う。
食事も手作りだし。
俺も作れないわけじゃないけど、
少なくても悠理よりは何十倍もまともな飯を作るけど、
普段は面倒でつい買ってきて済ませてしまう。
やっぱり男の一人暮らしは侘しいかな・・・。
まっ、結構それも嫌いじゃねーけど。
「さあ、出来ましたわ。よろしくて?」
「もちろん。」
野梨子が小さなテーブルに料理を並べていく。
俺の好きなジャガイモのコロッケ、千切りキャベツ、豚汁、切り干し大根、浅漬け、ご飯・・・・
どれもこれも美味そうで、なんだかワクワクする。
「お待たせしました。召し上がれ。」
「いただきます。」
コロッケにソースをかけて、キャベツと一緒に口に入れる。
そして続けて白米をほうばる。
「美味い!」
「それは良かったですわ。」
野梨子が微笑む。
「相変わらず野梨子の料理は美味いなあ。マジで。」
「魅録はいつもそうやって美味しそうに食べて下さるから、わたくしも
作り甲斐がありますわ。」
「だから言ってるだろ。マジで美味いって。」
「嬉しいですわ。本当に。」