「とーとー」

学が青空に飛ぶ白い飛行機を指して言う。

「そうね。きっとお父さまが乗っている飛行機ね。」

「とーとー」

野梨子も学を抱きながら空を見上げ、学と一緒にその飛行機を追った。

大きく旋回していた機はゆっくりと高度を下げ、地上へ降りてくる。

学が足をバタバタさせ、下りたそうなそぶりを見せたので、野梨子はデッキへ下ろした。

おぼつかない足取りで飛行機の後を追って走る学に野梨子は思わず微笑む。

「学、あまり走らないで下さいな。転んでしまいますわよ。ああ、ほら。」

転んで手を付いている学は、しかし泣かず、野梨子がしゃがみ込み顔を見ると

ニコッと笑った。

「偉いですわ学。泣かないで。強い子。」

学はまた走り出す。

野梨子は見守る。

飛行機の到着アナウンスが流れた。

「学、もうすぐお父さまに会えますわよ。行きましょう。」

「とーとー」

野梨子は学を抱き上げロビーへと歩き始めた。

 

パイロットの制服に身を包んだ魅録が誰かと笑いあいながら

歩いてきた。

「あら清四郎ですわ。」

「野梨子!」

魅録が気付き、軽く手を上げ呼んだ。

「とーとー」

学も魅録に気付き、野梨子の腕の中で下ろせと足をバタバタさせる。

魅録との距離が大分近づいたところで野梨子は学を下ろした。

ヨチヨチと歩いていく学を穏やかな笑みで待つ魅録。

足元まで来た学を魅録は満面の笑みで抱き上げた。

「学!元気にしてたか?」

「とー!とー!」

学も嬉しそうに手足をバタバタさせた。

そして一歩下がってその光景を、同じように穏やかな笑みで見つめる清四郎。

野梨子もゆっくりと歩み寄った。

「魅録、お帰りなさい。清四郎も一緒でしたの?」

「お久しぶりですね、野梨子。学会の帰りなんですよ。せっかくですから

魅録の飛行機に乗ってきました。なにしろこの世で一番安心して乗れる

飛行機ですからね。」

「あらお褒めの言葉ありがたく頂戴しますわ。でも何も出ませんわよ・・・・

と言いたい所ですけど、ぜひうちに寄って下さいな。ね?魅録?」

「おう!一杯やろうぜ!」

「ふむ・・・・せっかくですから呼ばれましょうかね。今日はこの後は特に何もないですし。」

「では決まりですわね。悠理にも電話してみますわ。」

「せーせー」

魅録の腕に抱かれた学が清四郎に向けて両腕を伸ばした。

清四郎も腕を伸ばし、学を魅録から受け取った。

「学くん、こんにちは。覚えていてくれたようですね。」

「あまり会う機会はないのになついるようですわね。清四郎に。」

「賢い子ですよ。両親とも頭が良いですからね。

これで運動神経は魅録にだけ似れば完璧ですが。」

「相変わらず一言多いですわ。そちらだって同じような悩みをお持ちでしょう?」

「まあうちは悩みが逆ですけどね。運動神経はどう転んでも優れているでしょうが。」

「知能が悠理に似なければいいですけど。」

「ほらほらお二人さん。相変わらず、はこっちの台詞だぜ。仲良し幼馴染はそれくらいにしてくれよな。」

魅録が笑って言った。

「これは失礼。余計なやきもちを妬かせてしまいましたかね。」

「頼むぜ、清四郎さんよお。着替えてくるから野梨子と学をよろしく。」

「ええ。でもその制服姿は男の僕が何時見ても惚れ惚れしますね。

悠理には見せないようにしないと、浮気されそうです。」

「なんだよ気持ち悪いなあ。」

魅録は肩をすくめて、着替えに歩き出した。

「とー!とー!」

学が大きな声で魅録を呼ぶ。

「学、お父様は着替えに行くだけですわ。すぐに戻ってきますから。」

「とー!とー!」

清四郎の腕の中で足をバタバタさせている学のところへ、

魅録が引き返してきた。

清四郎から学を受け取ると、学の目をじっと見つめ声をかけた。

「父さんは洋服を着替えたらすぐに戻ってくるから、母さんと清四郎と一緒に待ってろ。」

「とー」

学は魅録の制服を引っ張り笑った。

「学はお父様のその制服が大好きですわね。」

野梨子は魅録の学を抱いているその腕にそっと手を添えた。

「わたくしも大好きですわ。魅録の制服姿。だからこうやってつい足を運んでしまいますもの。空港まで。」

「ふむ・・・・やはり危ないですな。魅録の制服姿は。」

「さあ。」

野梨子は学の前に腕を伸ばした。

「母さまのところへ。」

魅録の腕の中から学は野梨子へと手を伸ばした。

学を抱き取り魅録と微笑みあう野梨子を、さっきと同じように清四郎は穏やかな笑みで見つめていた。

 

深い悲しみを乗り越えた幼馴染と親友のこの幸せな時をそばで感じることができる喜び。

そしていつでも二人の胸にいるであろう会うことのできなかった子を思う。

清四郎なりの思いを、思う。

真っ青な空に向けて。

 

 

 

 

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