庭の垣根に朝顔が咲き乱れている。
そう、まさに咲き乱れているのだ。今年は。
野梨子は水をやり、色とりどりの朝顔を見つめた。
昨日と同じはずなのに、昨日とは何かが違う。
水滴が夏の朝日にキラキラと輝いている。
思わず笑みがこぼれる。
その笑みがこそばゆくて、思わず両頬を手で覆った。
「野梨子、ここにいたのか。」
振り向くと、魅録がまだ眠そうな顔で近付いてきた。
「おはようございます。」
「おはよう。・・・・すげーな。朝顔。」
「ええ。今年はとてもたくさん咲いて・・・・。」
そう言って、野梨子はうつむいた。
魅録の顔もまた、輝いて、眩しくて、見ていられない気がして。
魅録は野梨子の横に来ると、その細い腰に手を回してそっと抱き寄せた。
「起きたらいねーから驚いただろ。」
「ですって・・・よく寝ていたんですもの。」
「・・・・嫌われちまったかと思っただろ。」
「なぜ?」
「昨夜の事後悔してるかもって・・・・。」
「まあ、嫌ですわ、魅録。」
「・・・・・・・・。」
野梨子は再び朝顔を見つめた。
「わたくし、今朝はとても気分がいいんですのよ。
周りがあまりにも輝いていて、なんだかくすぐったいんですの。」
「そっか・・・・。」
その時、野梨子が上を見上げ手を振った。
魅録もその視線を追って見上げると、隣の家の二階の窓の向こうに
清四郎の姿。
清四郎が窓を開けた。
「おはようございます。」
先に野梨子が声をかけた。
「おはようございます。今朝も綺麗に咲いていますね。」
「ええ。毎朝、とても楽しみなんですの。」
「僕も楽しませてもらっていますよ。」
そして清四郎と魅録の視線が合った。
魅録は片手を挙げた。
「よう。」
「おはようございます。来ていたんですね。」
「ああ。」
「・・・・では、朝食に呼ばれましたので。」
そう言うと清四郎は窓辺から消えていった。
「・・・・・いいのかよ。」
「なにがですの?」
「親父さんとお袋さんが居ない時に俺が泊まったって清四郎にバレて。」
「それがなにか・・・?他の殿方を泊めたのなら問題かもしれませんけど、
魅録ですもの。清四郎だって安心こそすれ、心配なんてしませんわ。」
キッパリと言い切る野梨子に魅録は少し嬉しかった。
「なあ・・・・。」
「魅録もお腹が空きました?今用意しますから。」
「いや、そうじゃなくて。」
「?」
魅録は野梨子の手を取って、母屋へと歩き始めた。
「部屋へ戻ろう。」
「部屋へ?」
「もう一度抱きたい。」
「まあ・・・!」
頬を真っ赤に染めた野梨子を真夏の日差しが照らし、綺麗に輝いている。
そんな野梨子を魅録は目を細め、眩しそうに見つめながら、
足は先へ先へと急いでいた。