冷たい春の雨に打たれて清四郎は空を見上げていた。
顔に降る雨粒をそのまま受けて・・・・。
ついさっき同じ傘に入っていた愛しい人に走って逃げられてしまった。
「愛しています」と告げたとたん脱兎のごとく雨の中に飛び出して行ってしまったのだ。
告白に”好きです”ではなく”愛してる”を使ったのは
清四郎の気持ちを極自然で素直に表現しただけだった。
何度も死の危険を二人潜り抜けてきて、毎日当たり前のように一緒に居る。
そんな二人の関係は恋、愛、友情、家族・・・・どれかに括るなんて到底無理だ。
これらを全て表現するのは”好き”ではなくて”愛してる”だった。
けれどそれが重かったのか・・・・清四郎は珍しく弱気で、落ち込んでいた。
雨の冷たさが告白で火照った体に心地良い。
あんな風に逃げられてはどうすることも出来なかった。
こうなってから始めて気付いた。
振られる事を想定していなかったことを。
自信があったわけではない。
魅録の存在も気になっていた。
ただ清四郎の中では自分と悠理が一緒であるということは、愛してるという言葉と同じ、
極当たり前の自然現象だった。
水が高きから低きに流れること、春から夏、夏から秋、秋から冬、冬からまた春へと
季節が移り行くこと、そんなことと同じだった。
それが今日からは違うのか・・・。
「どうしましょうかね・・・・これから。」
思わず心の内が口から出ていた。
悠理に拒否されたということは、もう清四郎は悠理の隣は友達としてしか歩けないのだ。
いや、友達として歩けるならばまだ幸せだ。
いつかはその場所を他の男に譲らなくてはならない。
悠理を守れるのは自分だけと自負していたのに。
他にいるとしたら魅録だ。
なら納得できるかもしれないが、魅録以外の知らない男なんて想像も出来ない。
傘は足元に転がったまま、清四郎は全身じっとりと濡れていた。
もうどのくらいこうしているのか?
清四郎は腕の時計を覗いた時、タタタ・・・・と駆けて来る足音が聞こえたと思ったら
どんっと背中にぶつかった。
悠理だった。
悠理は腕を前に回し、清四郎をぎゅっと後ろから抱き締める。
「悠理・・・・・。」
「さっきはごめん。急に逃げちゃって。あたいびっくりしちゃって・・・・。」
清四郎の胸の鼓動が高まる。
「あたい・・・・・あ、あ、あ、愛・・・とかなんとか分からないけど、おまえと一緒にいたいから。
あの、だから・・・・。」
清四郎は自分の腰に回されている悠理の手の甲の上に自分の手を重ねた。
「悠理・・・僕の気持ちを押し付けちゃってすみませんでしたね。
でもさっき言ったことは僕の正直な気持ちなんです。
悠理を愛してる。悠理のそばにいたい。悠理にそばにいて欲しい。」
悠理は今度は静かに清四郎の言葉に耳を傾けている。
シトシト降る雨。
「悠理も僕と一緒にいたいと言ってくれましたね。」
清四郎の背中で悠理はこくんと頷く。
「そこから始めましょう。一緒にいる・・・まずはそこから。」
「それじゃあ今と同じだじょ?」
「それでいいですよ。でもそれにほんのちょっとプラスしましょうかね。」
「?」
「普段以上にお互いが望むことがあれば、一緒に過ごしましょう。
例えば・・・・僕が夜急に悠理に会いたくなったら、用がなくても遠慮なく
会いに行ってもいいですか?」
「・・・・・・うん。」
「いつでも、用がなくても、会いたい時は時間が許せばそうしましょう。」
悠理は腕を解き、清四郎の前に回りうつむいた。
「清四郎は今まで夜急にあたいに会いたくなったことって・・・・あるか?」
清四郎は微笑んで答えた。
「ありますよ。数え切れないほどたくさん。そんな時は朝が来るのが待ち遠しくて。
悠理は僕に会いたくなったことないですか?」
「・・・・・・・あるよ。休みの日とかも。」
「同じですね、僕と悠理の気持ち。嬉しいです。」
悠理は顔を上げ、手を伸ばし清四郎のすっかり濡れている髪を触った。
「おまえビチャビチャだぞ。このままだと風引くぞ。」
「悠理もですよ。取り合えず悠理の家に行きましょうか、近いですから。
このままだと二人とも冷えて熱を出しそうです。」
「うん。おまえも風呂入っていけよ。」
「なんなら一緒に入りましょうか?」
「ばっっ、バカ!!!」
清四郎は楽しそうに笑う。
雨も悪くない・・・・清四郎は思った。
これからは晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、風の日も、雪の日も、二人は一緒。