「ねえ清四郎、あたいのこと好き?」
悠理は新聞を読んでいる清四郎の顔を横から覗き込んで聞いた。
「はい!?なんですか?突然。」
「ねえ、好き?」
「それは・・・・今ここで答えなくてはいけませんか?」
清四郎は目だけ新聞の上から覗かせ、辺りを窺った。
興味深げにキラキラと輝く8つの瞳。
清四郎は再び新聞の陰に隠れ、悠理を見た。
「嫌いなの?」
悠理の顔が曇る。
「嫌いなわけないじゃないですか。」
「じゃあ好き?」
「ですから、それは今答えなくてはいけませんか?」
「なんで今答えられないの?」
「・・・・・・・・・・。」
「わたくし達に遠慮なさらなくてもいいですのに。」
「あれじゃあ半分答えているようなもんだと思うけど。」
「なんかこっちが恥ずかしくなってきたぜ。」
「二人とも可愛いよね。」
「では、悠理は僕のことをどう思っているのですか?僕のこと好きですか?」
「うん!好き!」
「おっとぉ。さあ、どうするのかしら!?」
「女性にあそこまで言わせておいて、そのままというわけにはいきませんでしょう?」
「なにを躊躇ってるのかなぁ。」
「俺、なんか・・・・・・。」
「あら、焼きもち?」
「ちげーよ。そうじゃなくて・・・・・なんかなぁ・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「で?清四郎は?」
「それは・・・・・その、まあ、好きですけど・・・。」
「だよね?!だよね?!あたいのこと好だよね!!よかった〜。」
「そう・・ですか?」
「もっちろんだじょ!」
「なんかちげー気がする・・・・。」
「違う?何が?」
「な、な、清四郎。じゃあさっ。英語の宿題と物理のレポートよ・ろ・し・く♪」
「はあ?なんですか、それは?」
清四郎の顔が見る見る間に曇っていく。
魅録はテーブルに突っ伏した。
「やっぱり・・・・・。」
「どういうことですかしら?」
魅録は顔を上げると話し始めた。
「今日の休み時間さー。珍しく悠理がクラスの女子の恋愛話に首突っ込んでたわけ。
で、なんか男は好きな女の子の望みを何でも叶えてあげたいと思ってるみたいなこと
しゃべってて。あいつ熱心に聴いてたんだよなぁ。やっぱり勘違いしてやがったぜ。」
「ええ?・・・・・・・・・・バカね〜、悠理。」
「悠理らしいけどね。」
「貴方という人は・・・!僕がこんなことでそんなことをするとでも思っているんですか!」
「えぇ〜!?だめなの?」
「だめに決まっているでしょう!!」
「だって〜、みんな言ってたじょ・・・。」
「誰が何を言っていたんです!!」
「”男は好きな女の望みを叶えてくれる”って・・・・・。」
「それは、そうは思いますよ!ただ悠理は勘違いしている!
あなたの望みはそんなに小さなくだらないことなんですか?!
そんなことにそのチャンスを使ってしまうんですか?!」
「え〜〜〜だってぇ。大きなことだじょ・・・・宿題・・。」
「はぁ・・・・。」
清四郎は頭を抱えてしまった。
「ちょっと清四郎が気の毒ですわ・・・。」
「ん〜。そうは言ってもなあ。こればかりは・・・。」
「でも、あの清四郎が悠理の言う事に振り回されてるって、なんかちょっと可愛いわね。」
「ふふ、本当可愛いよね。悠理も清四郎も。」
清四郎はおもむろに顔を上げた。
「悠理、望みを叶えてあげますよ。」
そう言うと清四郎は立ち上がり、瞬間、悠理の唇をふさいだ。
「「「「えっ?!?!」」」」
悠理は目を開けたままで、相当驚いたのか固まっていた。
ゆっくりと唇を離した清四郎は意地悪い笑みを浮かべて
「あなたが望む究極の願いは”僕が欲しい”でしょう?
なんだかんだ宿題だのレポートだの僕の気を引いて、
家に呼びつけたり、僕の家に押しかけたり。
ならば僕ごと全部あげますよ、悠理に。」
「ど、どんな理論・・・?!」
「清四郎がついに壊れましたわ・・・・・。」
「あれ、口説いてる・・・・んだろうなぁ。」
「清四郎なりに頑張った結果なんだよ。皆温かく見守ってあげようよ。」
「清四郎を・・・全部くれるの?全部?本当に?」
悠理はニマ〜っと笑って目を輝かせた。
「本当ですよ。」
「じゃあ一生あたいの面倒見てくれるの?やったー!!!超ラッキー!!!」
「本当に素直に喜んでくれているんですかねぇ。」
清四郎は訝しげに悠理を見た。
「あれってどこまで本気の喜びなのかしら?」
「恋愛ネタとして喜んでるんだろーな!?」
「なぞですわ・・・・。すごくはしゃいではいるようですけれど・・・。」
「たぶん大丈夫だと思うけどね・・・。」
「じゃあじゃあ今日から清四郎はあたいのもんだね!!」
「えっ、ええ・・・・・。」
「ぐふふふ・・・。これで宿題もレポートももう怖いものなし!」
「まぁたそんなこと考えてる〜。」
「今のところ、悠理にとっての清四郎の必要性ってその程度ということですわ。」
「清四郎も苦労するぜ。」
「でも何がきっかけになるか分からないよ。特に悠理はね。」
バシッ
清四郎は新聞をくるくると丸めると、それで悠理の頭を叩いた。
「なんだよう!」
「本当に、なんだか、もうですね・・・・。」
「なんだよ清四郎。あたい清四郎のこと好きだから喜んでんのにさっ。」
「だからですね。本当に僕のこと好きなんですか?」
悠理はエッヘンと胸を張って答えた。
「もちろん好きだじょ!」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「なんか・・・エンドレス。」
「俺、分かんねー。」
「悠理がそういう嘘をつくとは思えませんけど・・・。」
「そう。きっと素直な気持ちだと思うけどね。キス嫌がってなかったしね。」
「そうね。でもあの人は複雑そうだけど?!」
「あいつの悩んだ顔もたまには良いもんだぜ。」
4人の視線の先にはどうにも納得できない不審げな顔をした清四郎と、
ニッコニコの笑顔で清四郎を見る悠理がいた。