秋も深まった頃。
僕は珍しく、学校帰りに野梨子と並木道を歩いていた。
最近、野梨子の通学路に変質者が出るらしく、今日用事があり
どうしても一緒に帰れない清四郎から、ナイト役を仰せつかった。
悠理や魅録のほうが適任だと思うけど、なんでだろう?
もちろん車で送るつもりだったが、野梨子に紅葉と落ち葉がとても
素敵だから並木道を一緒に歩こうと誘われ、今ここにいるのだ。
さく さく さく
野梨子は落ち葉を踏みしめて、その音と感触を楽しんでいる。
制服のスカートを翻しながら、野梨子は楽しげに跳ねていた。
幼子のようなその笑顔に僕も頬が緩む。
野梨子がはしゃぐ姿は珍しい。
可愛いなあ・・・・。
「きゃっ!」
落ち葉に足を滑らせた野梨子は尻餅をついた。
僕はクスッと笑って、手を差し伸べた。
「どうぞお姫様。」
野梨子はにっこり笑って僕の手に、手を重ねた。
「ありがとう、美童。ちょっとはしゃぎすぎてしまいましたわ。」
「今日は何かいい事があったの?」
「いえ・・・・。」
そう言いながら野梨子は少し微笑んだ。
立ち上がった野梨子は上を見上げた。
「美童からの景色はどんななんですの?わたくしより30センチほど高い
景色ってどんな風に見えるのですかしら?」
「見てみたい?」
僕は野梨子の返事を待たずに、野梨子を子供のように片腕に(縦に)抱き上げた。
「び、美童?」
野梨子はバランスを崩しかけて、僕の頭にしがみつく。
美しいブロンドヘアがグシャっとなったけど気にならなかった。
「どう?僕よりも高いんだよ。」
「すごいですわ、美童!地面があんなに下のほう。」
野梨子はぐるっとあたりを見渡す。
「美童はいつもこんな風景を見ているのですね。」
「清四郎も、ね。」
野梨子が僕を見下ろしている。
枯葉舞う並木道で美しい男に抱き上げられている大和撫子。
見つめ合う二人。
なんて絵になるシチュエーション!!!
このまま雑誌のグラビアに載りそうだよ!
「ねえ美童。重たくありませんか?もう下ろしてくださいな。」
「大丈夫だよ。女の子の望みを叶えてあげるために僕はいるんだからね。」
僕はウインクをした。
「本当に?」
「もちろん本当さ。」
やや間があって
「わたくしの望みも?」
野梨子はじっと僕の目を見た。
僕は嬉しくなった。
野梨子が僕を頼りにしてくれるなんて。
それはいつでも清四郎の役目なのに。
「野梨子の望み?当たり前じゃないか。何を望んでいるの?教えて。」
「あの・・・・・。」
野梨子はもじもじとしながら、言いよどんでいる。
「何?」
僕は思いっきり優しい顔を向けた。
「・・・・・・・美童と・・・・手をつないで歩きたいんですの・・・・。」
耳まで真っ赤だ。
ああ、もうなんて可愛いんだろう!
あの、男嫌いの野梨子が僕と手をつなぎたいだなんて!
引き攣る清四郎の顔が目に浮かぶよ。
僕はそっと野梨子を下ろした。
そして手を差し出す。
「どうぞ。お姫様。」
「ありがとう。」
野梨子が微笑んで僕を見上げ、手を重ねた。
さく さく さく
落ち葉の上を僕たちは進む。
これはどう捉えたら良い?
僕の思うとおりで正解?
「もしかして僕は野梨子にもっともっと望みを叶えてあげられる?」
僕は出来るだけ優しい声で言った。
「美童・・・・そう望んでもよろしくて?」
「もちろん。嬉しいよ野梨子。」
「あの・・・では・・・・ゆっくりとお願いします。」
今日で世界の恋人はお終いかな。
ちょっと残念だな。
でも清四郎に殺されるのは嫌だからな。
さく さく さく さく
明日からはこの並木道を野梨子とゆっくり歩こう。
僕に訪れた優しい時間を大切に大切に過ごしていこう・・・・・。