野梨子はパチパチと燃える暖炉の炎を眺めていた。
スウェーデンの冬は深い。
以前仲間たちと来た時には感じなかった冬の静けさを今回は楽しめている。
「野梨子、レモネードが入ったよ。」
「あら、ありがとうございます。」
小さな北欧家具の丸テーブルの上に2つ置かれたティーカップからは
甘酸っぱい匂いを含む湯気が立ち上っている。
「いい香り。」
野梨子は思わず顔がほころんだ。
「美童が入れてくださったの?」
「うん。気持ちがほぐれるよ。」
美童が野梨子に優しく微笑みかける。
「まあ・・・。」
「だって野梨子こっちに来てからちょっと元気ないんじゃない?」
「そうですかしら?」
「うん。そうだよ。やっぱり無理に連れて来ちゃったかな。」
「そんなことありませんわ。美童こそわたくしなんか連れてきて、
スキーもしませんし、つまらないのでは?」
「だったら誘わないよ。野梨子にゆっくりと僕の国を見て欲しかったんだ。」
美童はゆっくりとカップを口に運んだ。
野梨子も同じようにレモネードを口にする。
レモンの爽やかな酸味と蜂蜜の優しい甘味。
温かい感覚が口から胸に流れ思わずほうっとため息をつく。
「ねえ美童。本当に静かで真っ白ですのね。」
「寂しい?」
「いえ。ただこの世界に引きずり込まれそうですわ。」
「嫌がっているの?」
野梨子は首を横に振る。
「そうではないんですの。上手く言えませんけど・・・・
美童の一面を見た気がしますわ。そしてそれに・・・・。」
「引きずり込まれそう?」
美童は野梨子が持っているカップに手を掛け、野梨子はそっと手を離した。
少し冷めたそのカップをソーサーに戻すと、
野梨子が座っている椅子の横に立膝で寄り添う。
野梨子は美童の青い瞳を見つめた。
「美童はきっと真っ白なんですのね。本当は。」
「本当はって?」
「だって美童のイメージは世界の恋人・・・でしょう?
そのイメージでは白は不釣合いですわ。でも今は白。」
「もう返上したからね。じゃあ野梨子は?」
「何色に見えます?」
「濃いブルー。紺って言った方がいいかな。」
「なぜ?」
「清清しい決心が見えるよ。」
「美童のはなんでもお見通しなんですのね。」
野梨子の白い手がそっと美童の両頬に添えられた。
瞳を閉じ、ゆっくりと美童の唇に自分の唇を近づけていく。
美童も瞳を閉じて、野梨子のキスを受け止めた。
唇を離した野梨子は少しだけ微笑み言う。
「今宵は美童の部屋へわたくしがお邪魔するのかしら?
それともわたくしの部屋へ美童がいらっしゃるのかしら?」
静かな静かな北欧の夜。
美童は野梨子を見上げて
「だったら僕は僕の部屋でお姫様を待っているよ。
その方がドキドキする気持ちを楽しめるからね。」
野梨子は微笑んだ。
「では後ほど伺いますわ。
ふふ、わたくし自分でも驚くぐらい落ち着いていますの。」
野梨子は立ち上がり、窓の外に目を向けた。
一面の銀世界。
森と雪と月明かりと古城と・・・・幼い頃読んだ幻想的な物語を思わせる、
野梨子にとっては異空間。
「この静けさと気持ちを浄化させるような雪の白さのせいですかしら。」
「それと僕の優しさと愛もだよ。」
美童はそっと後ろから野梨子を抱き締めた。
小さな野梨子はすっぽりと美童の腕の中に収まる。
「早く野梨子を感じたいよ。」
「わたくしも・・・。」
「やっぱり待てない。」
そう言うと美童は野梨子をさっと横抱きに抱いて、踵を返した。
「ドキドキを楽しむ余裕なんて今の僕にはないみたい。
このまま僕の部屋へ連れて行くからね。」
「ええ。」
野梨子は腕をしっかりと美童の首に巻きつけ、瞳を閉じた。