High-Jitter DAC: Profound
1. はじめに
前回製作したASRC・DACで十分満足しているのですが、久々にフィリップスのポータブルCDP
AZ6829を引っ張り出して聴いてみたら、その深々とした幽玄のサウンドに魅了されてしまいました。オールマイティーではありませんが、古い録音の悪いものや女性ボーカルなどには威力を発揮します。
CDだけならAZ6829を使えば良いのですが、もう古いので音飛びもあり、いつまでもつかわかりませんし、PC音源のソースも聞きたいということもありますので、AZ6829のような幽玄のサウンドを奏でるDACを作ってみたくなりました。
名づけてProfound。
2. 構想A
どこのホームページだったか見つからないのですが、AZ6829の音の秘密はクロック用のセラミック発振子ではないかと書いてあった記憶があります。これを水晶に取り替えると後継機種のAZ6826の音になるともあったように記憶しています。
一般にセラミック発振子はジッターが多く、水晶の方がジッターが少なく音が良いというのが常識です。ただセラミック発振子はポータブルCDPなどの低価格品に使われており、そうしたものはDACのクオリティーも低いので単に音が悪いと思われているだけかもしれません。
低ジッター・クロックの方がクリアな音が出るのは承知してますが、高ジッター・クロックと良質のDACを使用すればまた音は違ってくるのではないかと考えました。何しろ今回目標とする音はクリアなサウンドではなくベールに包まれたような深遠なサウンドなのですから。
セラミック発振子を使うことで本当に望みの音が出せるかどうかはわかりませんが、とりあえずやってみるしかありません。時代に逆行した高ジッターDACへの挑戦です。
さて、そのセラミック発振子をどこに入れるかが問題です。
一体型のCDPならマスタークロックに使えばいい訳ですが、DAC単体では問題があります。PC用のCD-ROMドライブを使ったCDトランスポートならクロックはセラミック発振子で作っているのでそのクロックで同期リクロックでもすればよいのでしょうが、PCからも音源を送りたいので、この方法はボツです。
ちなみに、そのCD-ROMドライブからのデジタル出力信号はセラミック発振子のジッターを含むのでそれを単にDACに入れてやればいいような気もしますが、DACのDAIでクロックを再生するときに吸収されてしまうのか、TEACのDAC、D-T1につないでも、あまりCECのCDプレーヤーとの差がありません、というかセラミック発振子の効果が感じられません。
ちなみにシーラス・ロジックのDAIはジッター200psec以下、バー・ブラウンでは50psec(typ.)とうたっています。セラミック発振子のジッターがどの程度あるのかわかりませんが。(測定器が無く計れません。そんな状態でジッターをうんぬんするのもどうかと思いますが、まあ、それはそれで耳で勝負ということで。)
シーラス・ロジックのDAIでは普通に使うと内蔵のVCOでクロックを再生しているためセラミック発振子を使う場所がありません。古いタイプだと外部クロックを使う方法もあるようですが、また、バー・ブラウンは外付けの(水晶)発振子を使いますが、いずれもサンプリング・レートの整数倍の周波数が必要であり、これらの周波数のセラミック発振子はネットで探してみたのですが見つからず、これもボツ。
となると、残るのは非同期リクロックしか思い浮かびません。それにしてもセラミック振動子は最大でも20MHzまでしか売っていません。非同期リクロックには周波数が低すぎるので4逓倍して80MHzでリクロックすることにしました。これでも20MHzのオシロスコープしか持っていない私には手探り状態です。
ではブロック・ダイヤグラムです。

DAIはASRCキットを買ったときに実験用にと一緒に買っておいたものを使用します。
リクロックは前述の通り、セラミック発振器で20MHzを発振させた後、ロジックで4逓倍した80MHzで信号を叩き直します。
DACはどれを選ぶか大きなポイントです。AZ6829と同じSAA7341GPを使えば近道なのでしょうが、個人では手に入りそうも無く、またモーター制御まで入った複合ICで単なるDAC用には使えないようです。では何を選ぶか、といっても良くわかりませんのでPCM1716にしました。最新のDACより何となく古めの物が良さそうな気がして、また、ソフトンの真空管バッファDACにも使われておりバリバリのクリア・サウンドでもなさそうだし、ネットでも評判が良かった様だし、若松で売っているし、と他力本願な理由で決めてしまいました。
アナログ段は、本来なら真空管が良いのでしょうが、どんな音になるか見当もつかないのでとりあえず安直にOPアンプでいくことにしました。結果がよければ真空管化も考えましょう。
今回はケースに幅430mmのBSチューナーをゲットしたし、ASRCが無い分、基板面積も小さく済むので、内部スペースには余裕があるので拡張性は十分です。
電源は元々付いていたトランスが使えそうだったので、デジタル・ロジック系の+5Vとアナログ段の+12Vを作っています。DAC
ICのアナログ電源はチョーク・コイルでデジタル電源とアイソレートしているだけです。
3. 回路A
本体の回路図です。
画像をクリックすると大きな図が開きます。

DAI部は私の設計ではありませんので詳細は割愛させていただきます。
ただしデフォルトの出力フォーマットは24bit Rigth Justifiedですが、これはPCM1716では受けられませんので24bit
I2Cに改造してあります。
また、エラー表示としてNV/RERR端子から信号を取り出しています。これはNVERRモードでparity,
bi-phase, confidence or PLL lock errorを出力します。
リクロック部はセラミック発振子とインバータで20MHzを発振し、EX-ORを使った2逓倍回路2段で80MHzを得ています。このクロックで、Dフリップ・フロップにより各信号を叩き直しています。本来はビット・クロックだけでいいような気もしますが、一応全部叩いています。
DAC部はPCM1716のデータ・シート通りです。ただ、パスコンにはOSコンデンサと積層セラミックを使っています。
ミュートは常にオフに設定していますが、ノイズが出るようならNV/RERR端子とつなげばよいのでとりあえずオフでいきます。エンファシスもオフです。
ソフトウェア・モードではデジタル・フィルターにスロー・ロールオフも選べますが、ハードウェア・モードではシャープ・ロールオフのみです。
PCM1716は電圧出力なので、アナログ段はOPアンプで利得2倍の多重帰還型ロー・パスフィルターだけで、カット・オフは100kHzにしてあります。
次につながるプリ・アンプがDCサーボ無しのDCアンプ(OPアンプの利得は1で使用)であることもあり、DCオフセットを切ったほうが無難なのでAC結合にしています。DCカットの電解コンデンサにはDCバイアスを掛けた方が良いだろうと思い、電源は+24Vの単一電源としました。
部品としては、抵抗はタクマンのオーディオ用カーボン・フィルム抵抗のREX、DCカットのコンデンサは手持ちのMuse
ES(無極性)を使用します。電源のバイパスは手持ちで、今は貴重となったBlack
Gateです。フィルターのコンデンサはポリエステルの方が良さそうなのですが、定数が小さいためポリプロピレンとなりました。この定数を大きくすると抵抗値が小さくなりすぎOPアンプでドライブしにくくなるため、仕方ありません。今回は入手上の問題からパナソニックのECQPになりましたがどんなもんでしょうか?
OPアンプはとりあえず無難な5532にしてありますが、これは様子を見て差し替えてみるつもりです。
4.
試聴A
製作を飛ばしていきなり試聴に来るのは、失敗だったからです。
当初、変なノイズが出るだけで音声は出ませんでした。あちこち当たって行ったらマスター・クロック(RMCK)のリクロックがうまくいっていないようです。オシロで見ると所々Hレベルがつながって周期が乱れています。11.2896MHzの周期は88.577μsec、80MHzの周期は12.500
μsec、88.577μsecを12.500μsecで叩くと87.5μsecか100μsecになるだけで、Hレベルがつながることは無いと思うのですが、何故かうまくいきません。かといってマスター・クロック(たぶんデジフィルおよびΔΣ変調用)が無いとPCM1716が動作しません。
そこでマスター・クロックをリクロックせずにDAIからDACに直接接続すると音声はうまく出ました。しかし求めていた音ではありません。WolfsonのWM8741と同傾向の音でこれでは意味がありません。リクロック回路を飛ばして全信号をDAI-DAC直結にしても音の差がわかりません。私の耳が糞耳なのか、マスター・クロックにもジッターを加えないと音は変わらないのか。
ということで、PCM1716はあっさり断念しました。
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