[水晶発振回路のシミュレーションと試作実験]
  [水晶振動子の等価定数の測定]  [水晶振動子の共振特性の測定]

水晶発振回路のシミュレーションと試作実験

前に実験で手持ちの14MHzの水晶振動子の等価定数を測定しました。そこで得た等価定数を使って、出来るだけ歪を抑えたコルピッツ水晶発振回路のシミュレーション(PSpice)してみました。
その結果を参考にして発振回路を試作してみました。ほぼシミュレーションに近いような、歪を抑えた発振回路が実現できることが確認できました。
なお、ここに掲示したデータは、記録をのこすため、すべて自作計測器で得たものです。これらの機器は、信頼できる計測器で校正をしているものではありません。ここに掲示したデータは、「おおよそ」、または「傾向」を見ていただく程度と理解してください。

同調回路と出力Lマッチ回路の計算

発振回路の条件として、出力インピーダンス50Ω、出力を約100mW(約20dBm)と設定しました。
そのときの負荷抵抗Rlは、
Rl=(Vcc-Vsat)^2/2P=(12-1)^2/2x100=605Ω
これより、負荷抵抗は約550(Ω)と想定しました。
負荷抵抗Rl=550Ω、発振周波数14MHz、負荷Q=10における同調回路定数、出力Lマッチ・カップリングコンデンサ等を計算してみました。(参照:「トロイダル・コア活用百科」)
以下の通りです。

負荷Q同調コイル(μH)同調コンデンサ(pF)Lマッチ・コンデンサ(pF)
100.475(T37-6コア/12.6t)27272

PSpiceシミュレーション

上の計算をベースにして、シミュレーションを行ってみました。テスト発振回路とその交流等価回路です。
予備的なシミュレーションの結果、発振が安定するまでの所要時間は、700μS以上です。シミュレーションセッティングで表示開始時間は、800μSにしています。

テスト水晶発振回路
発振回路を起動させるために同調回路コンデンサに「初期電圧」をかけておきます。<拡大>
コルピッツ発振回路交流等価回路
水晶振動子(誘導性)および同調回路(容量性)とベースコンデンサで共振回路を形成しています。

発振回路の直流電圧・電流

テスト発振回路の直流電圧・電流
「バイアスポイント解析」で回路各ノードの直流電圧、電流を調べました。<拡大>
 

同調回路の検討

上の等価回路にあるように、コルピッツ発振回路では同調回路は容量性であることが必要です。
同調コンデンサを変化させたとき、同調回路のリアクタンス(同調回路電圧とコンデンサ、コイルに流れる電流)がどう変化するかを調べてみました。
▽マークが同調回路電圧、◇マークがコイルを流れる電流、△マークがコンデンサを流れる電流です。下は同調コンデンサ230pF、260pFの時の電圧、電流です。

同調回路電流(Ct=230pF)
コンデンサに流れる電流に比べ、コイルに流れる電流が大きく同調回路が誘導性であることを示しています。<拡大>
同調回路電流(Ct=260pF)
コイルを流れる電流に比べ、コンデンサに流れる電流が大きく同調回路は容量性であることを示しています。<拡大>

同調コンデンサを少しずつ変化させた時の電圧、電流データを整理してみました。以下の通りです。

同調回路を流れる電流
Ct=250pFを少し越えるあたりが共振点のようです。それより左の領域では、コイルに流れる電流の方が大きい、誘導性を示しています。右の領域は、コンデンサに流れる電流が大きい、容量性を示しています。<拡大>
同調リアクタンス
茶の線は同調回路のリアクタンス特性です。14MHzにおけるインダクタンス(緑)、キャパシタンス(青)を表しています。Ct=260pFで同調回路は約6pFです。<拡大>

上左図で黄色ラインは同調回路電圧です。電圧最大値より少し下げたところ、同調回路が容量性を示す同調コンデンサ260pFくらいが適当なようです。
なお、細かいところまでシミュレーションしているわけではありません。リアクタンスのピーク値は正しい値を示しているわけではありません。

ベースコンデンサの検討

同調回路に発生した電圧は、同調回路キャパシタンスとベース側コンデンサとで分圧されベースに与えられます。ベースコンデンサの最適値を調べるため、ベース側コンデンサを変化させたときの同調回路電圧の大きさ、歪等について調べてみました。下の図はベースコンデンサCb=120pFの場合のAC解析、FFT解析の例です。
FFT解析においては、表示時間は、できるだけ正確に発振周期の整数倍に設定します。ただし、コンデンサを変化させることで微妙に発振周波数/周期も変化しますので、理想通りにはいきません。

コレクタ電圧とベース電圧(AC解析)
コレクタ電圧(FFT解析)

ベースコンデンサを変化させた時の同調回路電圧、その歪の様子を整理してみました。
小さな波がいくつかありますが、ここでも細かくシミュレーションしたわけではありません。小さい波は気にしないで全体の傾向のみを見てください。

ベースコンデンサと波形歪
ベースコンデンサとコレクタ交流電圧、ベース交流電圧、基本波、高調波との関連と見たものです。<拡大>

全体に基本波出力レベルは一定です。ただし、150pFを越える辺りから、急激に低下します。ベースコンデンサを大きくするに従い、同調回路キャパシタンスとの分圧によるベース交流電圧が小さくなるため、トランジスタによる歪(高調波)は小さくなります。120pF辺りでは高調波は基本波の1/100位になるようです。ベースコンデンサは、120pFくらいが良いようです。

Lマッチコンデンサの検討

出力50Ω負荷に変換する最適な容量値を探し出します。
同調回路コンデンサ260pF、ベース側コンデンサ120pFと設定して、出力Lマッチング回路コンデンサを変化させたときの出力レベル、歪の様子を調べてみました。

Lマッチコンデンサ60pF(FFT解析)
LマッチコンデンサCc=60pFのときの出力歪の様子です。
<拡大>
Lマッチコンデンサと出力レベル
Cc=30pFからCc=100pFまで切り替えて、出力歪(基本波、第2高調波、第3高調波)をとってみました。出力レベルはmVpをdBmに換算して作図しています。<拡大>

60pF前後では出力レベル(基本波)最大で高調波は基本波に対し−40dBくらい得られるようです。

まとめ

以上のシミュレーションの結果から、同調回路コンデンサ260pF、ベース側コンデンサ120pF、出力Lマッチング回路コンデンサ60pFが適当なようです。その条件でデータを取ってみました。

発振回路の動作状況
コレクタ電圧は、5.6〜18.4V、コレクタ電流0〜48mA、コレクタ損失ピーク値で280mWです。<拡大>
発振回路シミュレーション結果(AC解析)
50Ω負荷の14MHz信号波形です。<拡大>
発振回路シミュレーション結果(FFT解析)
基本波(14MHz)+14dBmに対し、第2高調波(28MHz)は約−33dBmくらい、第3高調波(42MHz)は約−36dBmくらいのようです。<拡大>
電源電圧と発振出力
電源電圧を変えた(6V〜13V)時の出力と歪を調べました。基本波レベルは電源電圧低下に伴い、直線的に低下しますが、高調波はそれほど低下しないようです。<拡大>
温度安定度
温度を変化(5℃、15℃、25℃、35℃)させた時の出力レベルを調べてみました。高調波で小さな変化がありますが、基本波は総体的に安定しているようです。<拡大>

トランジスタは2SC1906を想定していますが、その絶対定格である、コレクタ電流50mA、コレクタ損失300mWに対しぎりぎりの線となっています。それらを注意して試作実験を行ってみました。

発振回路の試作

実際に発振回路を組み立てて、実験を行ってみました。抵抗、コンデンサの値はE24系列値に修正しています。

試作発振回路
 
 
発振回路出力波形
3.350Vpp(50Ω負荷)です。約14dBmです。
発振回路スプリアス特性
GigaStスペアナアダプタ(BW200kHz)で観測したものです。アッテネータ(20dB)を通して見ています。換算値で、基本波+11dBm、第2高調波-27dBm、第3高調波-43dBmです。<拡大>

GigaSt観測値で、基本波+11dBm、第2高調波-27dBm、第3高調波-43dBmで、高調波はそれぞれ対基本波-38dB、-54dB得られています。
出力レベルがオシロ観測値とGigaSt観測値で異なっていますが、オシロは高調波を含む値を示していること、目視読み取り誤差を含むこと、一方、GigaStのレベル表示値は校正していない、等によるものと思われます。

この発振回路を使ってツートーンジェネレータを試作してみました。

 

水晶振動子の等価定数の測定

手持ちの14MHz(HC-49/US)の振動子の等価定数のデータはありません。FRMSを使ってデータを取り、水晶振動子の等価定数を求めてみました。
水晶振動子の等価回路は左のように表されます。
R1:等価直列抵抗、L1:等価直列インダクタンス、C1:等価直列容量、C0:並列容量です。
ここで得られた等価定数は図の通りです。
定数算定に必要なfs等の測定には「水晶振動子の共振特性の測定」で用いた測定アダプタを使います。
なお、この等価定数測定は、PSpiceで水晶発振回路をシミュレーションするため、おおよその数値でも得られればと考え、試みたものです。

C1の測定

微小容量計を使って、コンデンサ容量を測定する要領で計測します。
  C1=3pF
でした。

fsの測定

あらかじめ、アダプタにショートバーを入れ、キャリブレーションを行います。Fsの測定には、アダプタに水晶振動子のみをセットします。(上左の「水晶振動子の等価定数の測定」を参照)上右の図のような共振特性(実線)が得られます。左の鋭いピークが直列共振周波数fsです。この周波数を読み取ります。合わせて共振点における損失の値も読み取ります。
  fs=14.149304MHz
  損失=-0.8dBm
でした。

fsLの測定

水晶振動子と直列に少量のコンデンサCLを挿入します。ここでは、手持ちの10pFのコンデンサを使いました。容量メータで測定したところ、11pF=CLでした。この条件にて共振特性を得ます(上右の図の破線)。共振周波数は、fsの測定の場合より高い周波数にずれます。このときの直列共振周波数を上と同じ要領で読み取ります。
  fsL=14.154929MHz
でした。

R1の測定

水晶振動子の代わりに可変抵抗器を入れます。可変抵抗器を調整して、先ほど計測した水晶の直列共振点における損失レベル(上の例では「−0.8dBm」を示しています。)に合わせます。その時の可変抵抗器の抵抗値をディジタルマルチメータで読み取ります。
  R1=10Ω
でした。
ただし、FRMSのレベル分解能は、0.4dBmです。計測したR1は、数Ωの誤差を含みます。ちょっと乱暴ですが、目をつぶっておきます。

C1、Q、L1の算定

日本電波工業(株)「アプリケーションノート>水晶振動子>概要」を参考にさせていただきました。
水晶振動子の直列共振周波数fsと、水晶振動子に直列にコンデンサCLを入れたときの共振周波数fLとの間に次のような関係が成り立ちます。

これより、C1は、次のように計算できます。単位は、Co/CL:pF、fs/fsL:MHz です。
 
ここで、上の測定で、fs=14.149304MHz、fsL=14.154929MHz、Co=3pF、CL=11pF ですから、
  C1=0.011pF
と、なります。
Qは、次式から計算できます。単位は、fs:MHz、C1:pF、R1:Ω です。

ここで、fs=14.149304MHz、R1=10Ω、上の計算から、C1=0.011pF
ですから、
  Q=96000
となります。
上の式からL1は次のように求めます。単位は、R1:Ω、fs:MHz です。

ここで、R1=10Ω、Q=96000、fs=14.149304MHz
ですから、
  L1=11mH
となります。

水晶振動子直列インダクタンス(mH)直列容量(pF)直列抵抗(Ω)並列容量(pF)Q
14.153120MHz(HC49/us)110.01110396000

等価振動子のシミュレーション回路
等価水晶振動子のPSpiceシミュレーション回路です。<拡大>
等価振動子の特性
PSpiceでシミュレーションして得た等価水晶振動子の共振特性です。直列共振周波数 14.468MHz、並列共振周波数 14.495MHz。<拡大>

 

 

水晶振動子の共振特性の測定

FRMSを使って、水晶振動子の共振特性を測定することができます。

測定アダプタ外観
FRMS−Out、Inを接続するBNC-Jコネクタ、3dB PAD、検査する水晶を接続するヘッダソケットを直接にラグ板に取り付けています。組立は短時間に簡単に出来ます。コンパクトで取り扱いも容易です。<構成>
共振特性の測定例
11.000MHz水晶振動子の特性です。