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現在、農耕地が最も欲しているものは堆肥です。化学化をその特質とする現代農業の最大の弱点は、炭素循環を無視していることにあるからです。作物の吸う養分だけに目を向ければ、作物が土中から吸収した養分量に相当する量を土に返してやれば収支がゼロで、何も問題が起きないようにみえます。でも作物は、養分のみで健康に生育することは出来ません。
作物の身体を維持し、光合成を行うのに必要な水と根の呼吸のための空気が欠かせないのです。病虫害が発生しにくいように、土中の小動物や微生物が豊かに生息していることも大切です。土のこのような働きを保護するのが堆肥なのです。
○生ごみ堆肥の良好な栄養バランス
高度経済成長期に入る昭和35年までは、全国平均1ha当たり10トンの堆肥が農耕地に投入され続けていました。それが現在、1トン前後までに落ち込んでいます。1ha10トンという祖先の血のにじむような遺産があるからこそ、堆肥を供給しなくても、農薬や化学肥料の力を借りて、かろうじて現在の収量が維持されているのです。この状態が続けば、いつの日か、土中の有機物量が限りなくゼロに近づき、地力が回復不可能なほど大幅に低下することが目にみえています。
でも、堆肥を自分で作るのには、素材が入手しにくいことに加え、労力と時間がかかりすぎます。合理的な価格で手に入る堆肥がどうしても必要です。生ゴミの堆肥化は、その重要な解決策の1つなのです。現在わが国で、家庭・レストラン・食品工場などから排出される生ごみの総量は約2,000万トン。そのうち堆肥などにリサイクルされているものは1割に満たず、残りは焼却・埋め立て処理されています。カリウムやカルシウムなどの植物養分を豊富に含む焼却灰は、埋立地に滞留し続けるのです。焼却に際し、ダイオキシンの発生も懸念されています。
一方、堆肥にされれば、生ごみのなかの作物養分は土にかえり、再び作物に吸収されることができます。しかも、生ごみを主成分とする堆肥は、素材が多様であるため、素材が単純な家畜糞堆肥やわら堆肥に比べて養分バランスが良いとされています。稲わら堆肥と生ごみ堆肥の施肥効果を比較した多くの実験の結果は、生ごみ堆肥の優秀性を裏付けています。
○分別の成否が成功の鍵
このような生ごみ堆肥の有効性にもかかわらず、農家の方々のなかには、それに拒否反応を示す方々が少なくありません。それには理由があります。昭和42年頃、生ごみ堆肥の大型プラントが、全国48ヶ所で稼働していたことがあります。しかし分別が機械でおこなわれていたため、できた堆肥は、重金属やビニール・プラスチックなどが混入し、とても使えるような代物ではなかったのです。生ごみの堆肥の成否は分別の良否にかかっているのです。人間の目による分別にまさるものはありません。住民の間で、分別についての徹底した話し合いが欠かせないのです。ですから、生ごみの堆肥化は、農家の方々と市民との自発的な運動から出発し、行政が後押しするかたちでないとうまくいきません。
良い堆肥が欲しいという農家の方々の要求と安全・安心・美味の農産物を食べたいという市民の願いがドッキングして、はじめてよい結果が得られるのです。こうして、生ごみの堆肥化は、地域内の安定な物質循環を保障するだけでなく、地域で生産されたものをその地域で消費するという、いわゆる地産地消にもつながっていくのです。
わが国の耕地面積は約500万ha。1ha当たり10トンの堆肥を投入すると、その総量は5,000万トン。生ごみをすべて堆肥化しても、とても追いつかない量です。わが国で排出される有機性廃棄物に含まれる養分は、化学肥料消費量を超えています。
わが国の地力を維持していくために、生ごみ以外の有機性廃棄物の堆肥化をも、みんなで考えねばならない課題です。
出典: 「新農家暦2004年」農林統計協会編 岩田進午
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