ポケモン大戦争 〜ボクらの起こした、小さな…〜

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製作:

これは…戦乱の時代を生きた、
“ボク”と仲間たちの、ちっぽけな戦いの物語…
もともと…ポケモンはすべてひとつの存在だった。
色々な場所に済むようになり、その場所に適応し、
姿を変え形を変え、今では…いくつだったかな?
とにかく、沢山の種類のポケモンが居る…

そして、そのポケモン達は…おおきく、“タイプ”で分けられている。

…そう、学校では習った。
皆、元々ひとつだったのに…何でだろう。 皆解ってるはずなのに。

「…“タイプに分かれての戦争”…か…
 何の意味があるんだ、そんなの…」

ボクはひとり、誰も居ない野原に寝転んで…
多分、色んな事を考えてたんだろう。
父がゴーストタイプで、母がエスパータイプで…
…ボクも、もちろんエスパータイプ…

友達も沢山居る。
でも、みんなタイプがバラバラで…

…結局、ひとつに纏めると…
戦争がはじまったら、どうなるんだろうって…それだけだった。
家に帰って…母さんに聞いてみた。

“なんで戦争が始まらないのか”

…母さんが言うには、“3すくみ”って事になってるらしい。

例えば、炎タイプが草タイプに強いからと言って、
安易に草タイプ軍を攻め滅ぼしてしまえば、
草タイプを弱点とする水タイプの軍勢に弱いから
そいつらに責め滅ぼされて、要するに漁夫の利で…

…よくわからないけど、しばらく戦争が始まらないって事はわかった。
戦争がはじまれば、いくら血が繋がってるとはいえ…

…それ以上のことは、考えたくなかった。
「もし戦争がはじまったら…君はどっちにつくの?」

なにげなく、友達に聞いてみた。

どっち…って言うのは、彼の2つのタイプ…“くさ”と、“どく”の事だ。

ちょっと聞いただけなのに、物凄い剣幕で怒られた。

後から聞いたけど…彼は両親とも同じタイプだけど、
父親が“くさ”につくと言い、母親が“どく”につくと言って…
…どっちにつくかで、毎晩眠れないほど悩んでるらしい。


戦争がはじまる前に、謝らないと…
父さんは、家に帰ってこなくなった。

母さんは、毎日泣いている。

タイプの違う友達は、口をきいてくれなくなった。



…ボクは…
学校が休みになった。

店も全部閉まった。

戦闘訓練が始まった。



結局…彼に謝ることは、できなかった。
母さんを慰めることもできなかった。
父さんが帰ってくることもなかった。

…ボクは… …なんて、情けないんだろう。
しなくちゃいけない事が沢山あったのに…
…全部、ほったらかしで…
結局、自分の事しか考えてなくて…


「おい、何やってる! 訓練をサボるな!」

…教官の声で、我に返った。
そう…今は、強くならなくちゃいけないんだ。

強くなって、生き残って…
訓練の合間の休み時間…
…僅かな時間だが、この上ない幸せを感じる…

「…ねぇ、聞いた?」

「うん、聞いた聞いた…」

…向こうで、誰かが話しをしている。
人の会話を盗み聞く趣味は無いけど、聞こえちゃったものは…仕方ないよ…ね…?

…でも…聞かなければ良かったかな…と、少し思った。

「炎軍が草軍に戦争を仕掛けたらしいわよ…」
「草軍もお仕舞いかしらね…」
「でも、水軍はどうするの?」
「それが炎軍、電気軍と同盟を組んだらしいのよ…」


…そこから先は、何も耳に入らなかった。
戦闘訓練の間も…夜、布団に入ってからも…

…“彼”のことが、頭から離れなかった。


恐らく、炎軍に攻め入られては…
どうしても眠れなかったボクは、不眠特性持ちの奴に催眠術をかけてもらった。


そして、次の朝…

…目覚めると、周りには誰も居なかった。



“彼”の事を考えてる余裕も無くなった。


…ゴースト軍が、攻めて来た…らしい。
ボクが寝ている間に、皆…
…生き残った人達が、集められた。

ボクを含めて…ざっと、20匹ぐらいだろうか…
フーディンさん達の必死の抵抗により、何とか追い返すことに成功したらしい。


…ボクは何度も何度も周りを見回した。
何度も何度も、首を左右に振って…
それはもう、気が狂うほどに…

…何度も何度も、確認した…けど…



…母さんの姿は、どこにも無かった…
皆、ボクと同じ事を考えてるんだろう。
あちこちで歓喜の声や、すすり泣く声が聞こえる…

「聞いてくれ…俺に起死回生の策がある!」

…それらを吹き飛ばしてしまうような、大きな…勢いのある声。
タイプ的に優位にある鋼軍につかず、エスパー軍についてくれたメタグロスさんだ。

「起死回生の策? …何です、それは…」
メタグロスさんの参謀、エーフィさんが聞く。
美しいと評判だった瞳からは、輝きが失せていた…
…この状況だと、仕方ない気もするが…

エーフィさんに続き、皆がメタグロスさんに注目する。
メタグロスさんは少しの沈黙の後、こう言い放った。


「オレのコネを利用して…鋼軍と同盟を組む!」
一種にして、全員の瞳から希望の色が失せる。

「考えてみれば、お前のは頭脳はエーフィだったな…」

フーディンさんが呆れたように言う。

「だが! 今はそれしか無いだろう!
 奴等の苦手とする格闘軍と戦うと言う名目で…」

…メタグロスさんとフーディンさんは、それから暫く言い争っていた。

そして…


…最悪の事態が、起こってしまった。
残った20人が、二つに分かれてしまったのだ。

フーディン派とメタグロス派…
ボクは、フーディンさんについていくことにした。


フーディンの考えは…とある洞窟の奥底で力を蓄えているという、
あの伝説のポケモン…ミュウツーに味方して貰う、というものだった。

当然、その考えも誉められるものではなかった。
一騎当千と言われたミュウツーだが…強すぎるあまり、
他のポケモンと協調できず…要するに引きこもっちゃったんだから、
今更仲間にならないか…と言ったところで…

…しかし…この案か、メタグロスさんの案か…
どちらかを選ばなければならない程、深刻な状況だったんだ。

…ボクは、ボクとフーディンさんを含めて10人になってしまった仲間と一緒に、
西の方にある洞窟へと歩いていった…
…奇跡とは、こう言うことか…


洞窟を目指す途中、炎軍の猛攻から逃げ延びた草軍と遭遇した。
5、6匹程度しか残っていなかった中に…“彼”…ロゼリアは居た。

「…っ!」

ロゼリアはボクを見つけるやいなや、走り寄り、抱きついてきた。
毒のトゲが刺さって死にそうになったが、痛みを感じない程に嬉しかった。
(ちなみにこの後、彼のアロマセラピーによって毒状態は回復した。)

…どうやら、彼もボクに謝りたかったらしい。
気にしていた事とはいえ、何も知らなかったボクに対して
あそこまで酷くあたった事を…

…そして…ボク達は、友情を再確認している間に…




おいてけぼりにされました…



− 第一章「戦争のはじまりと、ボク…」 完 −


置いて、行かれた…

…遅れたから置いて行かれたのか、
存在を忘れられただけなのか…

…いや、どっちでもいい。
とにかく今は、みんなと合流しないと…



ボクはロゼリアと二人で、仲間達が向かった思われる方へ歩いていった。
はぐれた時はじっとしているのが鉄則…なんだろうけど、
この辺りは夜になると野生のポケモンが出る。
日が暮れるまでに、仲間と合流するか…
…無理だとしても、どこかの町なり村なりにたどり着かなければならなかった。


ボクたちは、必死で歩きつづけた。
「ねぇ… ねぇってば!」

ロゼリアの声で、ふと我に返る。

「向こう… あれ、家じゃない…?」

ロゼリアの指す方を見る…

…確かに、家だ!

「…行ってみよう!」

ロゼリアの手(?)を引いて家の方に走る。
どんな人が住んでいるのかは解らないけど…


…とにかく、今は人が恋しかった。
「すみませーん」

1回、2回…

「すみませーん」

…3回、4回、5回…

「すみませーん!」

6、7、8、9…


「何だ、うるせぇな!」

10回… 

…あれ…?


「ボウズ… 初対面の人を殴るたぁ、良い度胸じゃねぇか…」

その人の両手の大きなハサミを見た時…
…ボクは一瞬、死を覚悟しました…
「…なるほどなるほど… よーするに、ボウズ共は仲間から置いてけぼり食らったってワケか。」

ハサミの人… いや、ハッサムさんは、話せば解る人で…
…ボクたちにスープを出してくれて、話を聞いてくれた。

「はい… もう、ボクたちどうしたらいいか…」

「…まぁ、この辺りは夜は危険だしな… とりあえず、今日は泊まってけよ。」

「あ…ありがとうございます!」

なんて親切な人なんだ…
ボクは何一つ疑わず、泊めてもらうことにした。

「…あのう…」

…と、ロゼリアが後ろから口を出す。

「ん…?」

「ハッサムさんは、戦争には行かないんですか…?」

“戦争”と言う言葉を聞いた途端…ハッサムさんの表情が険しくなった。
…正直、ボクが真っ先に心配したのは…
ハッサムさんが怒って、泊めてくれなくなる事だった。
「…戦争、か…」
「はい… ハッサムさん、お強そうなのに…」

ボクはとりあえず、これ以上ロゼリアがヘタな事を言わないか、内心ヒヤヒヤしていた。

「…行ったさ。」
「えぇっ!?」
「…負けたよ… 炎軍に攻め入られてな。」

炎軍に… と言う事は、炎軍は次々に色んな所を侵略して行ってるのか…

「…ん…?」

ここで、一つの疑問と…不安が生じた。

「あの… ハッサムさんは… “どこの軍に所属していたんですか?”」

…本当は聞きたくなかった。
帰ってくる可能性のある答えのうち… ひとつは、最悪の答えなんだから…


ハッサムさんは、少し下を向いて…言い辛そうに答えた。


…そして… 帰ってきた答えは

「“鋼軍”だ…」

…最悪のものだった。
「そんな…」

…鋼軍が、壊滅していた…

つまり、それは…




…ボクは、ショックと…積もりに積もった疲れのせいで、そのまま気を失った。
光が、まぶしい…
…すごく、いい気持ちだ…

いつ以来だろうか… こんなに、休んだのは…
…こんなに、気持ち良い朝を迎えたのは…

「…お、目ぇ覚めたか。」

「…ん…?」

…目が覚めると…そこにロゼリアとハッサムさんの姿はなく、
黄色と黒のポケモンが立っていた。

「あんた… いきなり倒れて、今の今まで寝てたんやで?」

「はぁ…」

…誰なんだろう、この人…
顔はかわいい…けど、頭についた大きな口…? みたいなのが、怖い…

「…あ… うちはクチートや。 よろしゅう。」

「…えっと…」

とりあえず、手を出されたので握手はして置いたが…

…聞きたい事と言うか、聞くべきことが多すぎて、
何から質問すればいいか…全く解らなかった。
…クチートから水を貰うと…ボクは、まるで封が切れたように、
次から次へと質問を浴びせた。

結構無茶をしたとは思うが…クチートは、それに一つ一つ答えてくれた。


…まず… クチートは、ハッサムと一緒に逃げ延びた残党らしい。
そして、ハッサムとロゼリアは食料の調達に行ったらしい。

他にも色々と聞いた気がするが、その8割位が無意味な質問だったように思う。
…とにかく…その時は、人と話せるのが嬉しかったんだろうな…


そういえば… 皆、どうなったんだろう…
それから… 掃除をして、料理を作って、
皆で話して… 遊んで…

…あっという間に、夜になってしまった。


とりあえず…今は、この人たちと一緒に居よう。

…多分、全員がそう思った…と、思う。




それは… 叶わない、事…だったんだけど…
…朝…


いや… 正確に言うと…
…真夜中… だったと思う…


ものすごい爆音で、目が覚めた。

…焼けた匂い…

…すごい煙…



…家が… 燃えている…!!
ボクはあわてて外に出た。

…と、同時に… 家が崩れた。

もし、取り残されてるなら… 炎に弱い、3人は…



…夢なら、覚めて…
「…何だ… 生きていたのですか。」

「…!?」

ボクは、声のした方を振り返る。

…そこには…一匹のムウマージが居た。


「…私が狙っていたのは、あなただったのですが… 残念です。」


「おまえが… やったのか…?」
…ボクは…

「…ええ、そうですよ…」
…ボクは、はじめて…

「なんで! なんでこんなことを!」
…はじめて…

「…あなたを…仕留める為、ですよ。」
…はじめて、人を殺したくなった。

「このやろぉぉぉッ!!」
無意識に放ったのは… 父から教わった、シャドーボールだった。

「むぅっ…!?」
ムウマージはよろめき… そして、舌打ちを残して…どこかへ消えてしまった。

「待てよ…」
…なんで…

「何で… 何でなんだよ…」
…どうして…?

「何で、こんな事するんだ…」
…なんで、こんな事になるんだ…


「父さぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」



−第二部 完−
…あれから、どの位経っただろう。


ボクは、とにかく…人を、町を…求めて、ただ、歩いた。


歩いて、ひたすら歩いて… 何も考えずに、歩いて…



…そして…


気がつくと、ボクは… ベッドの上で、寝ていた。

「あ… 目が覚めたんですね。 よかった…」

…聞き覚えのある声。

「…お久しぶりです。」

慌てて起き上がると… 目の前には、エーフィさんが居た。

「あれ…? エーフィさん、たしか…」

そう、確か…
…エーフィさんは、メタグロスではなく…フーディンに付いたのだ。
そして…ミュウツーを引き入れに、洞窟へ行ったはず…

「…引き返して、来ました…」

ボクの考えを察したのか… エーフィさんは、答えてくれた。
エーフィさんの話をまとめると、こうだ。


フーディンさんの一行は、洞窟へ向かったが…

洞窟に住む野生のポケモンはけた違いの強さだった。

アーボックやマルノームなど、タイプの上ではこちらの方が優位だったらしいが…

それを覆すほどのレベル差があったそうだ。

フーディンさん以外の人は皆、野生のポケモン達に食べられていった…らしい。


…仲間達がアーボックに頭から丸呑みされる姿が、未だに頭から離れないそうだ…



結局… フーディンさんも、メタグロスさんも…
…どっちとも、間違ってた…って、ことか…
ボクは暫く、エーフィさんと話をした後…家を出た。

…エーフィさんが言うには…この町は、戦いから逃れた人達の集まる町らしい。


戦いに敗れ、逃げ延びて来た人…

争いを好まず、平和な暮らしを望む人…

…そして、犯罪の経歴があり、軍に入れなかった人…


本当に、色々な人が住んでいるそうだ。


ボクは一瞬…ここに永住しようかと思った。
…しかし… あの時の“ヤツ”の言葉が、その思考を遮った。


『…私が狙っていたのは、あなただったのですが…』
ボクは、もう一度戻り…エーフィさんからお金と食料を分けて貰うと、

短い礼を言って、そのまま逃げるように町を出た。


…あの時みたいに… あの三人みたいに…

ボクのせいで、この町が…



…考えただけで、恐ろしかった。
ボクは、また歩きつづけた…


…何もかも失ってしまった今…
ボクの唯一の目的は、父を倒す事だった。


いくら自分の肉親でも…


…いや、あれが自分の父親だなんて、思いたくなかったのかもしれない。


とにかく… ボクは、ただひとつの目的を胸に、

敢えて敵地… ゴースト軍に乗り込む事を決意した。
ボクはひたすら歩いた。

前と違い、お金も食料も… そして地図もある。

…もう、心細くなんかない。


「待ちな!」


…急に、誰かに呼び止められる。


呼ばれた方を振り向くと… 

…そこには、二匹の黒っぽい犬が居た。
「な… なんだ、おまえら…」

一匹は小さいが… もう一匹は大きい。
と言うか、二匹ともどう見てもあくタイプだ。
ゴーストならともかく、あくタイプになんて…

「命が惜しけりゃ、有り金全部置いて行きな!」

「金を全部置いていったら許してやるって言ってるんだぞ!」

…うぜぇ、この腰巾着が… あ、いや、なんでもないです。

「ボク… 身寄りなくて。 お金とか取られると困るんで…」

「関係ねぇよ! 身寄りなんて俺らにもねぇよ!」

「アニキ…今は関係ないよ、それ…」


…なんとなく、完全に悪い人達じゃない気がした…
まぁ、それでもボクのピンチは変わらないんだけど…
それから… なんとしてもお金を手放すワケにはいかないボクは、
この二匹のイヌたちと下らない押し問答を繰り返した。

…しかし… どうやら、向こうもそろそろ我慢の限界のようだ。

「ぐぅ… ラチがあかねぇ! いくぞポチエナ!」

「へ? あ、はい、アニキ!」

…一斉に、ボクに襲い掛かってくる!

突然の襲撃に身体はついていかず、
元々強くも無いボクは、ポチエナと呼ばれていた小さい方のイヌに
いとも簡単に押し倒されてしまう。

「よぉし… いいぞ、ポチエナ…」

大きい方のイヌが、ゆっくり近づいてくる。

…もうだめだ。 こんな事なら最初っからお金を差し出しておくべきだった…


死んだら、何にもならないじゃないか…!
「うわ… うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ボクは力の限り声をあげる。

「うわっ!?」

「う… うるせぇな、クソガキ…!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

力の続く限り… 必死に、必死に…

…それしか、無かったんだと思う。

とにかく、必死だった。

「チッ… ポチエナ、そいつを黙らせろ! 誰か来ると厄介だ!」

「あ… は、はいっ!」

ポチエナは、ボクの首を前足で押さえつける。

「ぁ… ぁぁ…」

…ダメだ…




かあさん…
「…ちっ、これだけしか持ってねぇのか…」

「苦労した割にはたいしたこと無いですね、アニキ。」

…あぁ、そうか… お金、取られたのか…


ボクは… どうなったのかな…?


…いや… どうなっちゃうのかな…?


まだ、息はできるみたいだ。


これから、殺されるのかな…?


…死にたく… ない、なぁ…
……。





………。





…………。
「ねぇ…」


……。


「ねぇ、起きて…」


だれかが… よんでる…?


「起きてってば…」


聞き覚えのある、声…


「死なないでよ…」


…そうだ…



ボクは、まだ… 死ねない…!
「あぁぁっ!!」

…飛び跳ねるように、起き上がる。


「うわっ!?」


…そこには…


「よ… よかった…」


…見覚えのある、姿が。


「え…?」


「どうしたのさ、こんな所で倒れちゃって…」


聞き覚えのある、声が…


「…死んだかと思ったよ…!」



…いつものように、抱きつかれた拍子に毒のトゲが刺さった。
…ロゼリアが、生きていた。

ボクは嬉しくて… トゲの痛みも忘れ、
ただ、ロゼリアに抱きつかれて泣いていた。



…ロゼリアは… いわゆる、“夜型”だった。
あの日の夜… どうしても寝付けなくて、一人で外に散歩に出かけたらしい。

…そして… 予想外に帰るのが遅くなり、帰ってきたときには…


「本当に… 今の今まで、必死に探してたんですから…!」

「ゴメンね… ボク、ロゼリアが死んだと思って…」


…お金は奪われたけど… それ以上に大切なものが、かえってきた。
それが偶然だったのか、必然だったのかは解らないけど…


−第三部 完−


その頃、時を同じくして……


― 炎軍 本拠地 ―

炎軍の本拠地にある、闘技場での話……

観客席に設けられた高台に、三匹のポケモンが立っていた。

その下にある観客席には、炎と電気のポケモン達が集まっている。

「唯一神エンテイ様に絶対の忠誠を!」

「炎軍に逆らう者に絶望の死を!」

「エンテイ様万歳! エンテイ様万歳! エンテイ様万歳!」

「炎軍万歳! 炎軍万歳! 炎軍万歳!」

「唯一神万歳! 唯一神万歳! 唯一神万歳!」


どうやら、この高台の中央に立つポケモンが
群集から唯一神と呼ばれ、崇拝されている“エンテイ”らしい。
「……単純なもんだな……」

「……ああ。」

……その両脇にいる二匹のポケモンが、小声で話す。

「……。」

エンテイは…… ただ、虚空を見つめるだけだった。


「見せてやろう、愚かな反逆者達がどうなるか!」

エンテイの左に居るポケモンが叫ぶと、闘技場のゲートが開き……
炎軍との戦いに敗れ、捕虜になった戦士達が入って来る。

「さぁ、戦え! 奴隷戦士達よ!」

「生き残れるのはこの中でただ一匹のみだ!」

エンテイの両脇のポケモンが交互に叫ぶ。
……それを合図に、闘技場のポケモン達が一斉に動き出した。
「悪いなネエちゃん! 俺は生き残りたいんだ!」

一匹のポケモンが、両腕に花束のようなものがついたポケモンに飛び掛る。
……しかし……次の瞬間、飛び掛ったポケモンは左胸を鞭のようなもので貫かれていた。

「……それは、私も同じ事だ。」

毒軍の戦士、ロズレイド。 ……ロゼリアの母。

……彼女の目は、完全に死んでいた。


炎と電気の連合軍は草軍と鋼軍を壊滅させた後も侵略を繰り返していた。
ロズレイドの所属していた毒軍も……先日、炎と電気の連合軍に壊滅させられた。

炎軍は侵略した国の戦士を奴隷にし、己の国の捨て駒として使い、
服従しなかった者は、このように……

……“見せしめ”として、闘技場で戦わせられるのである。
「くっ…… これだけ敵が居ると、状況の把握が面倒だ……」

ロズレイドは注意深く周囲を見回す。

「……鋼軍、草軍…… そして水軍か……」

……どうやら、同じ毒軍の戦士は居ないようだ。

「後ろがガラ開きだぜ!」

背後から声がする。

ロズレイドは咄嗟に振り向くが……

「く……ッ!」

一歩間に合わず。 

……つるのムチで脚を取られ、逆さ吊りにされてしまう。
「お前…… どっかで見たと思ったら、ラフレシアの嫁か。」
声の主……ウツボのようなポケモンは、
つるのムチをロズレイドに巻きつけ、動きを封じながら言う。

「ぐ…… 貴様…… ウツボットか……!」
ロズレイドは睨みつけながら言うが……
しかし、ウツボットはその鋭い眼光には動じなかった。

「グフフ…… お前、前から美味そうだと思ってたんだ……」
ウツボットは口を大きく開いた口にロズレイドを運ぶ。

「南無三…… ここで終わりか……ッ!」
……ロズレイドが諦めかけた瞬間…… 

急に空が晴れ渡り、激しい日差しが差し込んで来た。

「ぐおっ!? ……な、なんだ……」
その光にウツボットは怯んだ。
当然、ロズレイドを放しはしなかったが……

……しかし……ロズレイドはその瞬間、勝を確信した。
「ククク…… はははははははっ!!」

ロズレイドは、いきなり笑いだす。

「あぁ……? 何だお前、恐怖のあまり狂ったか……」

「いや…… 正に恵みの太陽だな…… と思って、な。」

ロズレイドは余裕の表情で言う。

「……?」

ウツボットは一瞬考え込むがしかし、その言動を虚勢であると、
邪魔が入らない限り、自分の勝利は動かないと信じ込んでしまった。

……それがウツボットの敗因だった。
「悪いが…… この勝負、私の勝ちだ。」

「何をバカな…… お前が炎技でも覚えていれば話は別だが……」

そこまで言って、ウツボットはついに気がついた。

……しかし…… その時には、既に遅すぎた。

「“ウェザーボール”っ!!」

ロズレイドの目の前に、炎の弾が現れ……

「や…… やめ……」

……ウツボットに向かって、飛んでいった。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「……何が“うまそう”だ……」
ロズレイドは呟きながら、黒焦げになったウツボットを踏みつける。

「……おいおい…… 死人に鞭打つのはどうかと思うがな?」
……と、いきなり背後から声をかけられる。

「む……」
ロズレイドは周囲を見渡す……
……どうやら、残っているのは自分の目の前の敵だけのようだ。

「……俺はノクタス。 あんたは?」

「……これから殺し合いをする相手の……名前を聞いて、どうする。」
ロズレイドは飛び退き、距離を取りながら言う。

「おぉ、怖っ…… 顔は綺麗なのに、勿体無いな。」

「……黙れッ!!」

……ロズレイドの言葉が、合図になった。
「おぉぉぉぉぉぉッ!!」
ロズレイドは、日差しが強いうちにとウェザーボールを連発する。

「……随分と危ない嬢さんだ……」
……対するノクタスは、ウェザーボールをかわすだけで攻撃を仕掛けようとしない。

「まぁ…… そろそろ、打ち止めだろうがな……」
そして、空を見上げながら呟く。

先ほどまで眩しい程に照り付けていた太陽は陰り……
……ロズレイドのウェザーボールのPPは、底を尽きていた。

「く……っ!!」
こうなった以上、効果抜群の炎技は使えない。
その上、避けていただけのノクタスに対し……

……ウェザーボールを連発していたロズレイドは、疲れきっていた。
「この瞬間を待ってたぜ!」
ノクタスは、疲れて動けないロズレイドに向かって走ってくる。

「し…… しまっ……」
ロズレイドは避けようとするが……身体が付いて行かない。

そして、次の瞬間…… ロズレイドの腹に、ノクタスの刺だらけの腕がめり込んだ。

「がは……っ!!」
ロズレイドは口から血を吐き、力なく崩れ落ちる。
……しかし、ノクタスは休む事を許さなかった。

「おっと…… 悪いが、ここで寝かせる訳にゃいかないな。」
ノクタスはその刺だらけの腕でロズレイドを後ろから掴み、締め上げる。

「ぐあぁぁぁ……っ!」
ノクタスの腕や身体の刺が、ロズレイドの体中に突き刺さった。
それと同時に、締め上げによるダメージが身体を蝕む。

「これで…… 終わりだ!」

ノクタスはそのまま身体を後ろに反り、ロズレイドを脳天から地面に激突させる。

……ロズレイドは、あまりの衝撃にそのまま意識を失った。
……それから、どれぐらい時間が経っただろうか……

「……おーい。」

「……?」

誰かに呼ばれ、ロズレイドは目を開け……呼ばれた方を見る。

……目が覚めると、そこは広い草原の上だった。

「……わ…… 私は……!?」
ロズレイドは慌てて飛び起きる。

「あ、目ぇ覚めた?」
……恐らく、彼女を介抱したであろう、
黄色と黒のポケモンが微笑みながら言う。

「……すまない。 状況が把握できないんだが……」
ロズレイドは右手を腰に、左手を額にあてながら言う。

「……あんた、炎軍の闘技場で戦ってたやろ?」
「ん…… あぁ、そうだが……」
「そこを、あの人が空から助けたんや。」

彼女が指差した方には…… 紅い、両腕に鋏をもつポケモンが居た。
とりあえずは助かった…… しかし、ここでロズレイドに一つの疑問が生じる。

「……どうやって…… そして、なぜ私を?」

……これらは当然の疑問だった。 あの大群衆の中から捕虜を助け出そうとすれば、
火傷の一つ二つではすまないはずだ。 それを……

「方法か、それはな…… 簡単や。
 まずはラグラージっちゅーポケモンにひと暴れしてもらって、
 その隙に同じ鋼タイプ仲間のドータクンっちゅーヤツに壁になって貰ってやな……」

延々と説明する黄色のポケモンに痺れを切らしたのか、
紅のポケモンが割って入る。

「次に理由。 それは、あんたが…… 俺の友達の、母親だからさ。」

「……!!」

ロズレイドはその返答に驚いた。



……つまり、それは……

自分の息子、ロゼリアが……生きているかもしれない、という事だった。
「……ほな、行こか。」
黄色のポケモンが立ち上がる。

「そうだな。」
……それに続き、紅いポケモンも立つ。

「あ…… ちょっと待ってくれ。」
ロズレイドは、咄嗟に二匹を呼び止める。

「……ん?」
「どーしたん?」
ロズレイドに呼び止められ、二匹は振り向く。

「……これから行動を共にするんだ…… 名前ぐらい、教えてくれないか?」
照れくさそうに笑いながら……二匹に聞く。


「うちはクチートや。」
「……ハッサムだ。 よろしく。」

「ロズレイドだ…… ハッサム、クチート……よろしくな。」
握手を交わすと……三匹は、北の方角へ歩いていった。

……ロズレイドの目は…… いつにも増して、輝いていた。

−第4話 完−
そして、さらに時を同じくして……



「オラオラ退けぇ! ラグラージ様のお通りだぁッ!」

……闘技場は、突如現れたポケモンにより……大混乱に陥っていた。

「な…… 何て奴だ! オレの電撃が……!」

「ほ、炎も効かんぞ!」

炎軍と電気軍の戦士達が必死に応戦するが、誰一人としてラグラージには敵わない。

「どうしたどうしたぁ! 炎軍と電気軍は精鋭揃いって聞いたが……大した事ねぇな!」

ラグラージはわらわらと集まってくるポケモンをちぎっては投げ、どんどん奥に進んでいく。

その身体は次々に襲いくる電撃を通さず、うなる火炎をかき消し…… 集まる敵を弾き飛ばした。


……そして…… ラグラージは、ついに闘技場の中央へと辿り付いた。
「……!!」

高台のポケモンのうちの一匹が、はっと気付いたように動き出した。

「エンテイ様! お逃げ下さい!」

「おいおい、バシャーモ…… オレらはここに居るから平気だろ?」

片方のバシャーモと呼ばれたポケモンは必死にエンテイを逃がそうとするが、
もう片方のポケモンがその行動をバカにしたように言う。

「平気なものか! ……今からヤツが何をしでかすか、オレには解るんだ!」

バシャーモが言った時には、既に遅かった。


ラグラージが、闘技場の中央で…… まるで力士が四股を踏むように、地面を踏み鳴らす。

……すると、突如周囲の地面が大きく動きはじめた!
「な…… なんだ、これは…… うわぁぁぁぁぁっ!」

「……た、助けてくれぇぇぇっ!」

無数のポケモンが、地面から突き出した岩に串刺しにされ、
振動によって落ちてきた岩に潰され、そして地割れに落ちていった。

「くっ…… 遅かったか……!」

バシャーモは必死にエンテイを支える。

もう片方のポケモンは、既にラグラージの起こした地震の餌食になっていた。

「……もう、よい……」

「……え……?」

バシャーモは、エンテイの突然の言葉に驚く。

……そして、地震は……収まるどころか、更に勢いを増していった。
「い…… 今、なんと……」

「……もう……よいと、言ったのだ……」
エンテイはこの状況にも臆せず、落ち着いた口調で言う。

「そ…… そんな!」
「……お前はよくやってくれた……
 わしは、もう群集のさらし者になるのに疲れたのだ……」
「……。」
バシャーモは、黙ってエンテイの言葉に耳を傾ける。

「バシャーモ…… お前だけでも、生き残れ……」

「……くっ……」
バシャーモは、エンテイに向かって敬礼する。

「……エンテイ様…… わたしは、唯一神エンテイとしてではなく……
 一匹のポケモンとして、あなたを慕っておりました!」

「……ありがとう……」

……エンテイの流した涙が、地面に落ちた瞬間……
バシャーモは凄まじい跳躍力で跳び去り……


……そして、高台は崩れ去った。
「さぁて…… この位でいいかな。」
ラグラージは、降り積もった死体を見回して言う。

「それにしても…… 馬鹿だな、こいつらは……
 ……炎と電気。 どちらも地面には弱い。
 オレが来なくても…… 同じ事になってただろうな。」

「……その通りですな。」
……と、ラグラージの後ろから大きな鐘のようなポケモンが現れる。

「お…… ドータクンじゃねぇか。 作戦は成功したか?」
ラグラージは振り返らずに聞く。

「えぇ、成功ですとも……
 ……ヤツら、わしが炎喰らっても平気な顔してたら
 耐熱持ちと勘違いして炎を撃ってきませんでしたわ……」
ドータクンは自慢気に言う。

「……そうか…… それじゃ、とっとと帰るか……」

……ラグラージは結局、後ろを振り返る事なく歩いていってしまった。
「……さて、それじゃぁわしも帰るとしますかな……」

「う…… うぅ……」

「……ん?」
ドータクンは、呻き声を聞きつけて立ち止まる。

「……おや…… おかしいですな。
 捕虜は全員逃がしたはず…… 炎と電気の連合軍で、まだ生きている者が居るとは……」

死体の山に埋まっているのか、下半身しか見えていないが…… 
少なくとも、炎ないし電気タイプでない事は解る。

「……おや…… まだ捕虜が残っていたようですな……」

ドータクンが助け起こそうと近寄ると…… 突然、ノクタスの身体が宙に浮いた。

「……な……!?」

……いや…… 正確に言うと、浮いたのではない。
ノクタスは、巨大な“何か”に上半身を咥えられていて……
……そして、その“何か”が首を上げたのだ!
「ば…… バカな……」

巨大な“何か”は、ノクタスを呑み込むと……
……今度は、ドータクンに顔を向ける。

「……まさか…… あの地震で、呼び覚ましてしまったのか……!?」

ドータクンはゆっくりと後退し、距離を取る。

……しかし……巨大な“何か”は、ドータクンを獲物と見なさなかったのか、
そのままドータクンの横をすり抜けて行ってしまった。

「う…… うわぁぁぁぁっ!!」

……背後から、ラグラージの悲鳴が聞こえる。

恐らく、先ほどの化け物に襲われたのだろう。


「……これは、マズい事をしてしまいましたな……」

ドータクンは……恐怖のあまり、
それから数時間、その場所を動く事が出来なかった。
そして、炎と電気の連合軍の壊滅の報せは瞬く間に伝わり……



各国は守りに入り、攻める者は居なくなり、



世界に一時の平和が訪れた……





……かに思われた。



しかし…… 本当の戦いは、これからだったのだ。


−第5話 完−

暑い……
……いや、どちらかと言うと“熱い”と言うべきかもしれない。

「ダメだ、ボクもう疲れたよ……」
ボクは弱々しく言うと、そのまま地面に座り込む。

「た……確かに、この日照りは……」
ロゼリアも相当参っているようで、同じく隣に座り込んだ。
……ボクらを苦しめているのは、数時間前から続く激しい日照りだった。

「ど……どこかに、休めるところ無いの……?」
「えぇっと……この付近には炎軍の本拠地がありますけど。」
炎軍の本拠地…… ダメだ。
そんな所に行けば、すぐに捕まって捕虜にされるだろう。

「だ、誰か……」
……ボクがあれこれ迷っていると、
その炎軍の本拠地の方から、弱々しい声が聞こえてきた。
「ありがとうな、助かったぜ……」
とりあえずボクらは、このラグラージと言うポケモンを
持っていた救急セットで手当てしてあげた。

「それにしても、何でこんな所で傷だらけで……?」
ロゼリアが、ラグラージさんの腕に包帯を巻きながら聞く。

「そ……そうだ。 早く皆に知らせんと……」
「あ、無茶しちゃダメですよ!」
立ち上がろうとするラグラージさんを、ロゼリアが必死に止める。

「ねぇ、ラグラージさん。 何があったか教えてよ?」
ボクは立ち上がれずにいるラグラージさんに近寄って言う。

「む…… そうだな、先ずはお前等に話してやらないと……」

……ラグラージさんは座りなおすと、ボクらにゆっくりと語り始めた。

「伝説の地底獣、グラードン……?」
聞きなれない名前に、ボクは首を傾げる。

「そう言えば聞いた事がある……
 昔、陸地を広げるために、海底獣カイオーガと死闘を繰り広げたと。」
ロゼリアが何故か説明口調で言う。

「そう、そのグラードンが、どうも炎軍の闘技場の地下に眠ってたらしくてな。」
「それを、地震で呼び覚ましちゃったってワケですか。」
「……面目ない。」
ロゼリアが呆れた顔で言うと、ラグラージさんは小さくなって謝った。

「それにしても……よく生きてたね、おじさん。」
「こう見えてもまだ若いんだが……」
ボクの“おじさん”を、ラグラージさんは素早く否定する。 ちょっとかわいい。
「まぁ、ホント奇跡的だな。 一度呑まれかけたんだが……」
「ちょ…… ちょっとまって!」
「……ん?」
ラグラージの言葉を静止するように、ロゼリアが割って入る。

「“呑まれかけた”って、ラグラージさん、結構大きいですよね?
 それを一口で食べちゃえる位ってどれだけ大きいんですか!?」
ロゼリアは興奮した調子で聞く。
……そういえばロゼリア、怪獣とか好きだったっけ……

「ん…… まぁ、ざっと3m50はあったかな……?」

……え?

「さ…… さんめーとる……ごじゅう……」
ボクはそれを聞いて目眩がした。
ボクがだいたい40cmぐらいだから……
……その身長差、実に3m10……
比率にして、なんとおよそ9倍……ッ!

「……そ、そんなものが……」
「あぁ、地上に出て…… 今、どっかで暴れてやがる。」

気の弱いボクは……それを聞いた瞬間、気を失いそうになった。
「話をまとめると、ラグラージさんの起こした地震が原因で
 炎軍の闘技場の地下に眠っていたグラードンを起こしてしまい、
 数時間前からの激しい日照りはそのグラードンが原因、と言う事ですね。」
ロゼリアは、歩きながらボクに確認する。

「……うん……」
ボクは振り返り、別の方向に歩いていくラグラージさんを見ていた。
なんでも、グラードンとカイオーガの伝説について詳しい知人を訪ねるそうだ。

「責任、感じてるんでしょうね。」
やたらと後ろを気にするボクに気付いたのか、ロゼリアは言う。

「……見た目、図太そうだけどね。」
「ええ、確かに……」

ボクらは、ラグラージさんの別の知人の所へ向かう。
……ラグラージさんの名を出せば、暫く面倒を見てくれる……らしい。

今は…… それ位しか、すがる物が無かった。
ボクらは歩きつづけ…… そして、ついに目的の森に辿り付いた。

「く…… 暗いですね……」
「うん、しかも寒いよ……」

最初はあの日照りで丁度よくなると思ったんだけど……
流石に夜になると日差しは無くなって、本当に真っ暗になる。
……気温も、日中とはうってかわって寒いぐらいだ。

どうやら、“ラグラージさんの知人”の家は、この森の中にあるらしい。
なんでも、元々居た部隊で最強の強さを誇りながら、戦争が嫌で逃げて来たらしいんだけど……

「ウフフ……」
……ん?

「ね、ねぇロゼリア……」
「……今の笑い声なら、私じゃありませんよ。」
さすがロゼリア、ボクの気持ちわかってる……
……じゃない! ロゼリアじゃなかったら今のは……

「アハハ……」
「ヒヒヒ……」
「ククッ……」
……べ、別々の笑い声が聞こえる!
前から、後ろから、右から、左から……

「……囲まれてしまったようですね。」
「ぼ、ボク、お化けは苦手なんだけどな……」
「だ、誰です! 姿を見せなさい!」
ロゼリアは震えるボクを庇うように仁王立ちになって叫ぶ。

「ウフフ…… あら、ちっちゃい割にたくましいのね……」
首に紅い球をぶら下げた黒い影が。

「アハハ…… まぁ、その威勢もいつまで続くか……だけどねぇ。」
尖った角を持つ黒い影が。

「ヒヒヒ…… 白い方のガキはちょっと脅かしたらチビりそうだけどな!」
光る大きな目を持つ黒い影が。

「ククッ…… 味見していいか? なぁ味見していいか?」
長い舌をもつガス状の黒い影が……

……四方から、同時に現れた。

「くっ、これはマズい事になりましたね……」
いつもより気持ちかっこよく見えるロゼリアをよそに……

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
……ボクは、震えながら何か唱えていた。
「お前、甘そうだなぁ……」
ガス状のお化けがいきなり近づいて来る。

「ひ、ひっ……」
ボクは逃げようとするが、身体が動かない。

「あら、ダメよゴースちゃん、つまみ食いは。」
紅い首飾りのオバケがガス状のオバケ、ゴースを制止する。

「ヒヒ、かてぇ事言うなよムウマ。 アメじゃねぇんだからナメた位じゃ減らねぇよ。」
ダイヤ目のオバケが首飾りのオバケ、ムウマに言う。

「あはは、ヤミラミの言う通りじゃない?」
ツノのオバケはダイヤ目のオバケ、ヤミラミに賛同する。

「カゲボウズ、あんた……」
ムウマはツノのオバケ、カゲボウズを睨む。

「さ、さっきから何のつもりなんですか! 舐めるとか食べるとか!」
ロゼリアが叫ぶと…… 急に、周囲が暗くなった。
それが時間の経過の所為なのか、この四つの影の所為なのかは解らなかった。
四つの影が、森の中で蠢く。

「何のつもり……?」
「そんなの、決まってるよねぇ?」
「……お前等を、食っちまうつもりだよ!」
その言葉を合図に、四つの影が一斉に動きはじめた。

「うあっ!?」
突然、背後から何者かに羽交い絞めにされる。
恐らく、4匹の中で唯一手があるポケモン……ヤミラミだろう。
必死に抵抗するが、ボクの力ではかなわない。

「あぁっ……!」
そして、何者かに長い舌で舐め回される。
最初は気持ち悪いだけだったが…… 次第に、身体から力が抜けてくる。
ヤミラミはそれを感知したのか、ボクの身体から手を離す。

「んじゃ、僕はこっちの子を……」
「やめっ…… やめて下さいっ!」
ロゼリアも何かされてるのか……

あぁ…… 今度こそ、ダメかも……
……ボクは、完全に諦めてしまっていた。
その時だった……
聞き覚えのある声が、森の中に響く。

「“フラッシュ”っ!!」
……声のした方から、激しい光が放たれる。

「ぐわぁぁぁっ!?」
「何じゃこりゃぁぁっ!?」
「目が…… 目がぁぁぁっ!!」
「うぉっまぶしっ!?」
各自、それぞれ妙なリアクションをするが……
恐らく、この暗い中にずっと居た上に光には弱いはず。
そこにあの閃光……暫くは目が見えなくなるだろう。

「良かった、間に合いましたね……」
僅かに残った力で声のした方に首を向ける。
……額の紅い珠、引き込まれるように深い紺色の瞳……

「え…… エーフィ、さん……!」
……助かった。 心からそう思った。

「くっ…… アンタ達、やっちゃいなさい!」
体制を立て直したムウマが、他の三匹に命令する。

「了解だよッ!」
先ずはカゲボウズが物凄い勢いで飛んでくる。
「甘いぜ!“メタルクロー”っ!」
と、横から紅い閃光が走り……カゲボウズを弾き飛ばした。

「……助けに来たのは、エーフィだけじゃないぜ?」
光沢のある紅い身体…… 大きな二つの鋏……
「ハッサムさんも……!」

「くっ…… 何やってんの! とっとと行きなさい!」
ムウマの号令にあわせて、他の二匹も襲い掛かってくる。

「おらぁっ!“かみくだく”っ!」
「隙ありッ!“シャドーボール”だ!」
ヤミラミに“かみくだく”が、そしてゴースに“シャドーボール”が、それぞれ命中する。

「うちらも助けに来たったで!」
「まったく…… 情けないぞ、わが息子よ。」
「クチート…… それに母上も!」

……バラバラになっていたものが、完全に一つになった瞬間だった。
「さて…… 残るはあなた一匹のようですね。」
エーフィさんがムウマににじり寄る。

「く…… くっ……」
ムウマはゆっくりと後退し……

「お…… 覚えてらっしゃい!」
……捨て台詞を吐いて、どこかへ飛んでいってしまった。


「生きてたんだ、ハッサムさんも、クチートも……」
ボクは助かった喜びと、二匹に再会できた喜びで胸が一杯だった。

「母上、ずっと会いたかったです……」
「暫くだな、ロゼリア。」
ロゼリアは、ロズレイドさんと抱き合って再会を喜んでいる。


……そういえば……
母さんは、生きているのかな……?
それから、少し後……
……どこかにある、地下室での話。

「……失敗……?」
「も…… 申し訳ございません、ムウマージ様……」
ムウマが地面に額をつけ、それをムウマージがそれを見下ろしている。

「おかしいですね、二匹相手に四匹で敗退ですか?」
「そ…… それが、邪魔が入りまして……」
ムウマは顔を上げ、必死に訴える。

「邪魔、ねぇ……」
ムウマージはムウマの顔を見ながら、少し考え込む。

「……もういいです、暫くあなたの顔は見なくない。」
「は…… はっ! 失礼します!」
ムウマージの言葉にあわせ、ムウマは急いでその場から去る。

「全く、助けが入ったのでは意味がありませんね……」
ムウマージは、不機嫌そうに呟きながら奥の部屋に入っていった。
……しかし…… その口元は、僅かに緩んでいた。

−第六話 完−

その頃……

とある洞窟の、最深部での話。


「……よく来たな、フーディン。」

「ミュウツー殿…… 探しておりましたぞ。」

……そう。

ついに、フーディンがミュウツーの所へ辿り付いたのだ。
「成る程、な。 地上はそんな面白い事になっていたのか……」
ミュウツーは腕を組み、フーディンに背を向けたまま答える。

「あまりの強さに……あなたを追放して置いて、
 今更こんな事を頼みに来るのも、どうかとは思ったのだが……」
フーディンは申し訳無さそうに言う。

「……気にするな。 私は元々他者との関わりを好まん。」

「では……!」

「ただし……私は誰の指図も受けん。 勝手に暴れさせて貰うぞ!」
ミュウツーはそれだけ言うと、どこかへ消えてしまった。

「テレポート、か……」
フーディンはその場に座り込む。

「……仲間達よ…… お前等の犠牲、無駄にはしなかったぞ……」
そして、ゆっくりと目を瞑り……

「わしには…… もう、何も残っていない……
 ……仲間も、気力も、体力も…… すべて……」
それだけ呟くと、そのまま瞑想をはじめた。
自分が来るまで、ミュウツーがそうしていたように……
――洞窟前。

「久々の地上だな……」
ミュウツーはそう呟くと、深呼吸をする。

「……感じる…… 感じるぞ、戦いの匂いを……!
 私がこの10年で蓄えた力、存分に発揮してくれる!」
ミュウツーは嬉しそうに言うと、額に手をあてる。

「先ずは…… 格闘軍だ。
 手始めにあの目障りな格闘軍を叩き潰してくれる!」
そして…… 洞窟から出た時のように、その場から消えてしまった。


「やれやれ…… 相変わらず血気盛んですね。」
「全くだ…… 取り返しのつかん事にならなければいいが。」
……それを遠くから見守る、ポケモンが二匹……


同時刻、例の森。

……ボクらは、ラグラージさんの知り合いである
ジュカインさんの家に厄介になっていた。

「おいおい…… いくらラグラージの知り合いだっつっても、この数はちょっと……」

……ボク、ロゼリア、エーフィさん、ハッサムさん、クチート、ロズレイドさん……
それと、ジュカインさん。 確かにこの人数が一気に入ると狭い。

「む…… なら私は外に居るよ。 見張りも兼ねてな。」
「それじゃぁオレも行くぜ。 外の方が好きってのもあるが……」
ロズレイドさんとハッサムさんが、家から出て行く。

「それでは、私も…… 大人ですしね。」
それに続いて、エーフィさんも出て行った。

「まだ狭いな。 足の踏み場も無い感じだ。」
ジュカインさんはそう言うと、ボクらの方を見る。
……正直あんたの尻尾が一番場所取ってんですけど。

「えーっと…… うち鋼タイプやし、外はキツい。」
「私も草タイプなんで寒さには弱いです……」
……え? なに? 二人して……

ちょっとまって、ボクの方見ないでよ、ねぇ。


……結局、ボクも大人たちと一緒に外で寝る事になりました。

同時刻、例の森。

……ボクらは、ラグラージさんの知り合いである
ジュカインさんの家に厄介になっていた。

「おいおい…… いくらラグラージの知り合いだっつっても、この数はちょっと……」

……ボク、ロゼリア、エーフィさん、ハッサムさん、クチート、ロズレイドさん……
それと、ジュカインさん。 確かにこの人数が一気に入ると狭い。

「む…… なら私は外に居るよ。 見張りも兼ねてな。」
「それじゃぁオレも行くぜ。 外の方が好きってのもあるが……」
ロズレイドさんとハッサムさんが、家から出て行く。

「それでは、私も…… 大人ですしね。」
それに続いて、エーフィさんも出て行った。

「まだ狭いな。 足の踏み場も無い感じだ。」
ジュカインさんはそう言うと、ボクらの方を見る。
……正直あんたの尻尾が一番場所取ってんですけど。

「えーっと…… うち鋼タイプやし、外はキツい。」
「私も草タイプなんで寒さには弱いです……」
……え? なに? 二人して……

ちょっとまって、ボクの方見ないでよ、ねぇ。


……結局、ボクも大人たちと一緒に外で寝る事になりました。
「はぁ……」
「……さっきからため息ばっかりですね?」
寒さを和らげるためにボクを抱いてくれてるエーフィさんが、心配そうに言う。

「あ…… はい、まぁ……」
……そりゃぁ、二匹がかりであんな事されたら落ち込みもするがな……
今頃、あの二匹が家の中でぬくぬくしてると思うと腹が立ちます。

まぁ、雰囲気に負けて外に出るって言ったボクも悪いんだけど……
……せめてじゃんけんを言い出せばよかったな。 反省。

それにしてもエーフィさんの毛って肌触りいいなぁ。
こう言う布団って言うか、抱き枕とか欲しいなぁ……

あぁ、家が懐かしい。 母さん、会いたいよ……


……あれこれ考えてるうちに、眠くなってきて……
ボクは、そのまま寝てしまった。
ボクが、寝てる間の話……

「さて…… 交代で見張りということだが……」
ロズレイドは眠たそうな顔で他の3匹を見る。

「ハッサムはともかく…… 二匹とも、可愛い寝顔だな……」
微笑ましい光景に、思わず顔が緩む。

……その時だった。 近くの茂みから物音がした。

「むっ……」
ロズレイドは咄嗟に構え、音がした方に注目する。

「……誰だ、隠れてないで出て来い。」
他の三匹を起こすまいと思ったのか、声を抑えて威嚇する。

……しかし、茂みに潜む者は出てくるどころか…… 二匹、三匹とどんどん数が増えていく。

そして…… 十匹に増えたところで、一斉に茂みから飛び出して来た!
「んぅ……」
騒がしい音で、目が覚める。

……暗くてよくわからないけど……
誰かが、戦ってる……?

「くっ…… 何だこいつら、次々と……!」
「数だけだな…… ただの雑魚集団だ!」
「ですが…… これだけ居ると、流石に……!」

ハッサムさんと、ロズレイドさんと、エーフィさんが何かと戦ってるみたいだ。
……どうしよう。 足手まといになっちゃマズいよね……

ボクは、ハシゴを登り…… そそくさと、木の上の家の中に逃げ込んだ。
「ふぅ……」

ボクはとりあえず、家の電気をつける。
外で三匹が必死で戦ってるのに、お前等だけ眠らせとくのもアレだしね。

……しかし、ボクの思惑に反して、中の三匹は一向に起きなかった。


ボクの心の中の悪魔が、動き出した瞬間だった……

……いや、ホントはこんな事してる場合じゃないんだけどね。
一刻も早くジュカインさん起こして、外の人達に加勢してもらわなきゃならないんだけど……

ボクはそんな事を思いつつも、油性ペンを手に取り……キャップを外していた。
くふふ……w

……あぁ、ダメだ…… ボク、完全にバカだ。

先ずはロゼリアの額に“肉”。 定番だ。
それにしても…… 何でこの二匹、いきなり仲良くなってるんだろう。
抱き合って寝やがって。 腹立つ……

……次に、クチートのほっぺにうずまきを書く。 ニンニン。

そして、ジュカインさんの……

「……何やってるんだ?」

……やば。
……これは相当マズい状況だ。
こう言うときは素数を……

「ったく、これだからガキは嫌いなんだ……」
ジュカインさんはそう言うと、ボクを押しのけて入り口まで行く。

「……そこで寝てていいぞ。」

……口は悪いけど、優しい人なのかもしれない。

ボクは…… 外の事も気になったが、
あの三匹の強さを信用してるというのと、足手まといになりたくないと言う事で、
大人しく家の中で寝る事にした。

……さっきまでジュカインさんが寝てたってのもあるけど、
布団は本当にあたたかい…… ボクは、横になって僅か数秒で眠りについてしまった。


……久し振りに、ちゃんとした所で眠れる幸せをかみしめながら……

−第七話 完−

朝……だろうか。

「おい……」
誰かが、ボクを呼んでる……
「おい、いい加減に起きろ。」
ジュカインさんかな……

「ごめん、あと五分……」
ボクは甘えた声で言うが……その直後、ボクの体が少し宙に浮く。
「いい加減に起きろ、ガキっ!」
「ひゃぁっ!?」
いきなりお尻を叩かれる。しかも思いっきり。
お尻なんて、父さんにも叩かれた事ないのに……
……お陰で目が覚めました。

「ったく、これだからガキは……」
あぁ、何度これを言われただろうか。
よっぽど子供が嫌いなんだな、ジュカインさん……

……そういえば、昨日の騒ぎはどうなったんだろう。
昨日の騒ぎについて……
ジュカインさんはちょっと怖いから、エーフィさんに聞いてみた。

……なんでも、野生のコラッタが大群で押し寄せたらしく、
それを三匹で必死に追い返していたらしい。
ジュカインさん曰く、たまに食料を奪いにやって来るが
基本的にこの家までは登って来れないらしい。

……そう言うことは先に言って欲しいです。

「……ガキ、何か言ったか?」
ジュカインさんが後ろからいきなり話し掛けてくる。
心臓が止まりそうになりました。 って言うかまだ何も言ってないです。

「い、いえべつに……むぐっ!?」
否定しようとすると、いきなり口に何かを突っ込まれた。

「……朝メシだ、食っとけ。」
ジュカインさんはボクの口に突っ込んだパンをさらに押し込むと、どこかへ行ってしまった。
やってる事はいじめくさいけど……声のトーンとか、表情とかでわかる。
元々、ボクが相手の気持ちを察知する能力に長けてるって言うのもあるけど……

……きっと、悪い人じゃないよね。
子供の扱い方が解らないだけ、だと思う。
「ぷは……」
いきなり押し込まれたせいで喉に詰まりそうになったパンをミルクで流し込むと、
ボクは何気なく自分の足元を見る。

「なんだろ…… 写真?」
多分ジュカインさんが落としたものだろう。
そこには、ジュカインさんと……

「ちっ……」
ジュカインさんが、後ろから写真を取り上げた。
……ボクは咄嗟に振り向いて、ジュカインさんを見上げる。

「あの、その写真に一緒に写ってるの……」
「オレの……ガキだ。」
ジュカインさんはボクが質問を言い終わる前に答える。
ガキ…… つまり、子供……?

「……生きてれば、お前と同じぐらいかな。」
初めて見た、ジュカインさんの寂しそうな顔……
それにつられて、ボクまで寂しそうな顔をしてしまう。

「ちっ…… シケた顔すんなよ!」
ジュカインさんはボクにデコピンをかますと、写真を持ってどこかに行ってしまった。
……お願いだから体格差考えてください。 結構痛かったです……
ボクはそれから、ただ家の中でごろごろしていた。
相変わらず日差しは強い…… そう言えば、グラードン討伐隊が結成されたらしい。
本当に討伐できるんだろうか…… 犠牲者が出なければいいけど……
……と、色々考えてると……窓からいきなり、何かが投げ入れられる。

「なんだろ、これ……?」
ボクはその投げ入れられた物体を手に取り、まじまじと見つめる。
黒くて、丸くて、ヒモがついてて、ヒモの先には火が……

……いや、どう見ても爆弾だよこれ!?
爆弾! いやボム! いや言い方はこの際どっちでもいいよ!

「う、うわぁぁぁぁっ!!」
ボクは思いっきり振りかぶって爆弾らしきものを窓に向かって投げる。
爆弾らしきものは綺麗な放物線を描き……窓枠に激突する。
そしてそのまま弾性力を利用し……ってうわぁぁぁ! 戻ってきてる! 戻ってきてるってば!


あぁ…… 死を覚悟するの、これで何度目だろう。
……今度こそ、ホントにダメかもしれない……
……それから、数時間後……

「……全く、情けないですね……」
誰だろう…… ボクの横に立って、何か言ってる……

「それでも私の子供ですか……?」
……あなたの、子供……?
つまり、あなたはボクの……

「うわぁぁっ!!」
ボクは咄嗟に飛び起きる。
……確かにボクの近くで爆弾らしきものが爆発したはずなのに、
ボクの身体には傷ひとつついていなかった。

「……ようやく、起きましたか。」
そして、ボクの後ろには……

「と…… 父さんっ!?」
……ボクの父親…… ムウマージが居た。

「どうしてもあなたに会いたくてね……」
父さんは、見下すようにボクを見て言う。

……まさか、こんな所で会うとは……
会って……倒すまで行かなくても、一撃ぐらいお見舞いしてやろうと思ってたけど、
いざ、こうやって顔をあわせると…… 何もできなかった。
「って言うか…… こ、ここ、どこっ!?」
父さんに気を取られていて気付かなかったが……
……ボクは、そこがジュカインさんの家でない事に気がつく。
多分、あの爆弾は殺傷するためのものじゃなくて
気絶させるなり眠らせるなりする為のもので……
……そして、ボクはそれをくらった後に誘拐されたんだろう。

「ここは…… ゴースト軍本拠地にある処刑室です。」
言われてみれば…… すごい血の匂い。
しかも、処刑道具や拷問器具がたくさん置いてある……

……ボク、どうなるんだろう……

「……不安そうな顔をしていますね。」
父さんは、怖がるボクを嘲るように……楽しそうに、言う。

「何のつもりなの? こんなところに連れて来て……」
ボクは…… 怖がってないフリをして、父さんを睨みながら言う。

「フ…… 少しは成長したようですね。
 昔は少し脅かしただけでピーピー泣いてたのに……」
少し嬉しそうに言う父さんに、ボクは戸惑いを隠せない。

「ねぇ…… 父さんは、一体何がしたいの……?」
……心からの、疑問だった。
「何がしたい……? そうですね……」
父さんはそう言うと、壁についているレバーを下げる。

「……今はただ、あなたの憎しみの対象になりたいですね。」
……上から、何かが落ちてくる。
紫色の、太いホースのようなそれは……
落ちてくるや否や、ボクに巻きついてきた。

「な…… なに、これ……っ!
 ……父さん…… ボクを、どうするつもり……っ!?」
必死に抵抗するが……とても敵わない。
ボクは逃れる事を諦め、必死に父さんに問い掛ける。

「どうする…… ですか。
 ……出来ることなら…… あなたを強くしたい、ですね。」
父さんはそれだけ言うと…… 闇に溶けるように、消えてしまった。

「とうさんっ……! 待って…… 待ってよっ!」
ボクの叫びも虚しく…… 父さんが、ここに帰ってくる事は無かった。
落ちてきたもの…… それは、野生のアーボだった。
アーボはボクの身体に巻きつき、締め上げる。

「うぐ…… くる……しいっ……」
苦しい…… そして、熱い。
……今度こそ、本当の本当に死ぬと思った。

「あぐっ……」
ボクが弱ってきたところで、締め上げる力が弱くなる。
……もしかして、ボクを弱らせるだけで殺さないようにしてるのかな……
父さんの僅かに残った“やさしさ”に期待するが……しかし、それは見当違いだった。

……アーボは……あろうことか、ボクの頭にかじりついて来たのだ!

「ま…… まさ、か……」
予感は的中した。
ぬちゃぬちゃと不快な音を立て、ボクの身体はアーボに呑み込まれていく。
首の辺りまで呑みこまれて、息ができなくなる。
必死に足をばたつかせるが……当然、吐き出してくれる筈も無い。

ただ、怖かった。 ……確実に、死の匂いがした。
「んむ……ぅっ……」
アーボは……小さなボクの身体を、ゆっくりゆっくりと丸呑みにしていく。
……まるで、ボクに死の恐怖を存分に味あわせようとしているみたいだった。

呼吸は完全に出来なくなり、足をばたつかせる力も無くなった。
……そして…… ボクの身体は、完全にアーボに呑みこまれてしまった。

ボクは…… 死を目の前にして、もがく事も出来ないで……
……ただ、静かに…… しかし、強く……


生きたいと、思った。


薄れ行く意識の中で…… 生きたいとだけ。
ただそれだけを、強く思った。

……突然、身体が浮くような感じがした。
すると……さっきまでの息苦しさと、生暖かい感じがなくなった。

何が起こったのか、ボクには理解できなかった。
ボクは暫く、横になって考えていた。
体中がべたべたに濡れているのも気にならなかった。

そして…… 考えているうちに、ある結論に達した。

「テレポート……」

……それしかなかった。
アーボの体内からテレポートで脱出したのだ。
ボクは自分の中でそう結論付けると、そこから起き上がる。

「……ここはどこだろう……」
早く、皆の所に帰らないと……
ボクは、額に手を当てて……もう一度、テレポートを試みた。

「……あれ?」
……また、同じ場所に戻ってきていた。
どうやら……ここの外へは、テレポートできないようになってるらしい。

「ズルはだめ……って、ことか……」
ボクはテレポートを諦めると、横に置いてあったタオルで身体を拭いた。
……まずは、なんとしてもここから外に出ないと……

−第八話 完−
「あはは…… どうも、こんばんは……」
……ホントに、そう言うしかなかった。
さっきの部屋にあった唯一の扉を開けると、そこは……
……最初の、処刑部屋だった。
当然、アーボはまだ居るわけで……

「……なんとかして、先に進まないと……!」
次の扉はもう見えているのに、アーボが邪魔をして通れない。
倒すしか無いんだろうけど…… また丸呑みにされたら嫌だなぁ……
テレポートで逃げられるには逃げられるんだけど、
あの感触は二度と味わいたくない……って言うのが、正直なところで……

……あれこれ考えているうちに、アーボがゆっくりと近づいてくる。

「まずい…… と、とりあえず一旦逃げ……」
ボクはドアを開けて、さっきの部屋に逃げようとするが……

「あ…… 開かないっ!?」
押しても引いても、ドアが開かない。
恐らくオートロック式になってるんだろう……

……結局、またしてもアーボに呑まれかける事になってしまった。
「くっそぉ……」
また、さっきの部屋に戻ってきてしまった。
呑まれた後にすぐテレポートしたから、今回はべたべたに濡れずに済んだけど……
……それにしてもどうしよう。 その内体力もPPも尽きるだろう。

「むやみに突っ走るのは危険、ってことだよね……」
ボクは部屋の中をうろうろと歩き回る。
何とかしてアーボを倒さなければ先に進めない。
でも、どう考えても敵う相手じゃない……

「わぅっ!?」
暗かったせいか、考え事をしながら歩き回っていたせいか……ボクは何かに躓いてしまう。

「いたた…… ったく、一体何…… うわっ!?」
ほんとに……気を失いそうになった。
ボクが躓いたのは、恐らく…… 隣の部屋で処刑されたであろう、ポケモンの死体だった。
まだ腐敗は始まっておらず、ごく最近処刑されたものだと思われる。
がっちりとした体格からして、格闘タイプのポケモンだろうか……

……これだけの大きさなら、いくらアーボでも呑みこむのに時間かかるだろうな……

やっちゃいけない事だとは解ってる…… けど、ボクには選択肢が無かった。
「よいしょ……っとぉ……
 ……ごめんね…… ボクに、力を貸して……」

ボクは扉を開け、そこから死体の上半身を出した。
……そして、ボク自身は隠れ……アーボが餌に食いつくのを待った。

死体に対してこんな事をしていいのか、と言う疑問と、
この逞しい体が呑みこまれるのを見てみたいという好奇心で、
ボクの心臓はどくんどくんど大きく鼓動していた。

「あっ……」

引きずる音を聞いてはじめて気がついた。
慌てて死体の方を見ると、ゆっくりと向こうの部屋に引きずられている。
……アーボが餌にかかったのだ。

「よし…… 今の内に。」

ボクは死体を丸呑みしているアーボの横を通り抜け、向こうの扉へ向かった。
……死体さん、ごめんなさい。 そしてありがとう。
ボクは精一杯、あなたの分まで生きます……
……これは予想外だった。
なんと、向こうのドアには鍵がかかっていたのだ。

「ど…… どうしよう……」

ボクはあわてて後ろを見る。
……アーボは、あの死体を腰の辺りまで呑み込んでしまっていた。
中で消化されるまで、ボクが襲われる事は無いと思うけど……

……それでも、できるだけ早く脱出しなくちゃならない。

「えぇっと…… 鍵、鍵……」

鍵を探しながらも……ついつい、アーボの方に目が行く。
あの大きな身体を丸呑みにできる、伸縮自在の身体。
上半身を呑み込んだ分、首の辺りが膨らんでいる。

最終的には、口から出てる下半身も全部呑みこまれて、
あの膨らみがゆっくり下に移動して……

……自分がそうなりかけてたと思うと、考えただけで寒気がした。
このチャンスを逃せば、後はもう……

……ボクは、必死に鍵を探した。
「えっと…… これかな?」

ボクは、2つのレバーを見つけた。
あのドアには鍵がかかっているのに鍵穴が無かった。 
……つまり、何かの仕掛けによって開けると言う事だ。

「でも…… どっちだろう。」
……そう、レバーは“2つ”あるのだ。
全く同じものが2つ…… これはもう、意図的としか思えない。

「……ん……?」
二つのレバーとにらめっこをしていると、少し下に張り紙を見つける。

「当たりのレバーを引くとドアの鍵がはずれ、
 はずれのレバーを引くと、床が抜けます……」
床が抜ける…… つまり、落ちて死ぬ?
要するに、二分の一の確率で……

後ろを振り向いてアーボを見る。
……もう、死体はひざの下辺りまでしか見えていない。

どうやら、ボクに迷ってる時間は無いみたいだ……
大丈夫。 ボクは大丈夫……
昔から、運だけは良かったじゃないか。
根拠は無いけど……きっと、当たりのレバーを引ける。

「……よし。」

ボクは、右のレバーに手をかけた。
心臓はどくんどくんと激しく鼓動し、手はがたがたと震える。
何度も引くのを躊躇ったけど、引かなければ先に進まない。

……ボクは、右のレバーを引いた。
がちゃりと、鍵の外れる音がする……

……床は、抜けてない。

「た…… 助かった……」

自分ではあまり感じてないが…… 相当、迷ったんだろう。
……アーボは、死体を完全に呑み込んでしまっていた。
膨らみが、ゆっくりと下に移動していて……どの辺りに死体があるのか解る。
それが、やたらリアルで……気持ち悪かった。

ボクは……逃げるように、ドアを開けて部屋から出て行った。
「どうなってるんだ、もう……」

廊下は、まるで迷路のように入り組んでいた。
しかも、壁や床に血がべったりとついてたり、
あちこちに骨が転がってたり…… とにかく、怖かった。

「あら…… 処刑部屋から抜け出したのね?」
……うしろから、聞き覚えのある声がする。

「お前は……!」
ボクは咄嗟に振り返り、確認する。
……間違い無い。 あの森で、ボクらを襲ったムウマとか言うヤツだ。

「あの時は邪魔が入ったけど…… ここならその心配も無いわね。」
ムウマが嬉しそうに言うのに合わせて、あの時の他の三匹も現れた。

「流石に一体四は卑怯よね。 ……一人ずつ相手してあげるわ!」
そう叫ぶと、それにあわせて三つの影が消える。

「アハハ…… まずはボクからかな?」
……ボクの近くに残ったのは、カゲボウズだった。

−第九話 完−
それから暫く、ボクはカゲボウズとにらみ合っていた。
ボクがこいつに対抗できる技はシャドーボールのみ。
タイプ的にも、能力的にも……そして技的にも、ボクに勝ち目はなかった。

「あはは…… 安心していいよ。」
カゲボウズは後ろに下がりながら言う。

「ムウマージ様からは、キミに必ず“チャンス”を与えるように……って言われてる。」
そして…… 壁にあるスイッチをツノで押す。
……すると、ボクの目の前に二つのダイスが現れた。
さらに、通路に十三段の階段と壁が現れ…… 壁には、顔のようなものが現れた。

「勝負はフェアに…… ボクが負けたら、ボクが死ぬようになってるよ。」
何でこう言うことをするのかは解らないけど…… とにかく、助かった。
運はいいもんね、ボク……

「……それで、どう言う勝負なのさ?」
「あはは…… うん、ルールは簡単だよ。
 このサイコロには呪いがかかってて…… 出た目の数だけ前に進んじゃうんだ。
 そしてあの壁の顔はね……あそこにピッタリくっつくと丸呑みにされちゃいますっ!」
えーっと、つまりそれは……

「……よーするに、先に13を越えちゃった方が負けだよ。」
なるほど、ルールは理解した……

……とにかく……この勝負を受けるしか、ないって事だね。
それから暫く、ボクはカゲボウズとにらみ合っていた。
ボクがこいつに対抗できる技はシャドーボールのみ。
タイプ的にも、能力的にも……そして技的にも、ボクに勝ち目はなかった。

「あはは…… 安心していいよ。」
カゲボウズは後ろに下がりながら言う。

「ムウマージ様からは、キミに必ず“チャンス”を与えるように……って言われてる。」
そして…… 壁にあるスイッチをツノで押す。
……すると、ボクの目の前に二つのダイスが現れた。
さらに、通路に十三段の階段と壁が現れ…… 壁には、顔のようなものが現れた。

「勝負はフェアに…… ボクが負けたら、ボクが死ぬようになってるよ。」
何でこう言うことをするのかは解らないけど…… とにかく、助かった。
運はいいもんね、ボク……

「……それで、どう言う勝負なのさ?」
「あはは…… うん、ルールは簡単だよ。
 このサイコロには呪いがかかってて…… 出た目の数だけ前に進んじゃうんだ。
 そしてあの壁の顔はね……あそこにピッタリくっつくと丸呑みにされちゃいますっ!」
えーっと、つまりそれは……

「……よーするに、先に13を越えちゃった方が負けだよ。」
なるほど、ルールは理解した……

……とにかく……この勝負を受けるしか、ないって事だね。
「う…… うそだ…… 嘘だぁぁぁっ!」
カゲボウズは、ゆっくりと階段を上がっていく。

……出た目は…… 6だった。

「や、やだ…… やだよ……」
必死に抵抗するが…… それでも、彼の身体は前に進んでいく。

「な……なんでさ! ボクは絶対助かるハズなのに!
 ムウマージ様…… まさか、ボクを騙したっていうの!?
 ボクを…… このボクを、捨て駒として……!」
泣きじゃくりながら喚く。 正直うるさい。
カゲボウズが13段目に来るが……まだ止まらない。

「いやだ…… 嫌だあぁぁぁぁぁっ!!」
当然、壁があっても止まらないから壁に身体をくっつける形になる。
すると……壁についている顔が、口を大きく開け……

……そして…… 一口で、カゲボウズを食べてしまった。
それと同時に、階段と壁は沈んでいき……先に進めるようになった。

……ボクは、勝負に勝ったんだ。
「目には目を、歯には歯を…… 毒をもって毒を制す。 そう言うことだよ。」
多分聞こえる事は無いだろうが、ボクは食べられたまま床に埋まってしまったカゲボウズに言う。


……そう、ボクもイカサマをしてた。


あの時…… カゲボウズがボクに投げてきたダイスを、自分の持っていたダイスと入れ替えたんだ。
そしてカゲボウズのダイスを投げた時…… 念力で操作して、1を出した。

念力で1を出す方法は、2回目に自分のダイスを投げる時にも試したけど……
何か不思議な力で6が出るようにしていたらしく、強い念力を送ってもひっくり返せなかった。

……まぁ、そのおかげであのイカサマに気がついたんだけど……


とりあえず、まずは一匹。
これ以降もガチバトルじゃなくて、こう言う形式でやってもらえるとありがたいんだけどな……
「どうやって勝ったのかは知らねーけど……
 お前がここに居るって事は、カゲボウズに勝ったんだな。」

ゴースト4人組の二番手…… ゴースは、少し驚いた顔で言う。

「まぁいい、まさか来るとは思わなかったが……
 ……オレも、ちょっとしたゲームを用意してる。」
ゴースはそう言うと、横にある壁に入っていく。
少しすると、何かが動く音と共に壁に扉が現れた。

「……入れってことか。」
……ボクは迷わず、その中に入っていった。


「ククッ…… ようこそオレの部屋へ!」
向こう側の壁から声がする。 
そこにゴースが居るのかな……?
とにかく、暗くて何も見えない。

「おっと…… これは失礼。
 客人を招き入れるには不適切だったな!」
ゴースの声のあと、一斉に部屋のロウソクに火が灯りはじめる。

「クケケ…… どうだ、素晴らしいだろ!」
声のした方には…… 1枚の大きな絵があった。
「ど…… どうなってるの……?」

ボクは向こう側の壁に掛かった絵…… 綺麗な風景画に近寄っていく。
……よく見ると、風景画の中にはゴースが居た。

「さぁて……ルール説明しなきゃなんねぇかな?」
ゴースはそう言うと、絵の右の方へ移動する。
どんどん右へ行って…… ついに、絵から出てしまった。

「こっちだ、こっち……」
……と、右の方から声がする。
まさかと思って右を向くと…… そこにも別の絵があった。
……まるで、二つの絵は繋がってるようだった。

「さて…… 周囲を見回せば解ると思うが、
 四方の壁にそれぞれ1つずつ、合計4箇所に絵がある。」
そう言われて周囲を見ると……確かに、4箇所に絵があった。
全てが違うけど……全てが繋がっているように見える。

「これから、一斉にロウソクの火が消えて部屋が真っ暗になり……
 ……そして、暫くするとまた火が灯る。 その間にオレはこの絵の中のどこかに隠れる。
 したら次はお前の番だ。 4つの絵のうちどれか1つに火をつけることを許可してやる。
 その絵の中にオレが居ればオレの負け。 もし居なかった場合は……」

「い…… 居なかった場合は……?」

「……お前を食ってやる!」

もう食べられるのは勘弁です…… これは何としても勝たなくては。
「……さて……」
ロウソクの火が再び灯り、ボクに視界が戻って来る。
確率は四分の一…… なんとしてもゴースの居る絵を見つけなければ。

「火をつけるのはそこにある松明でやれよ。
 ……ちなみに、周りのロウソクは時間とともに一本ずつ消えるからな。
 全部消えて真っ暗になっちまったら…… そん時もお前の負けだからな!」
どこからか、ゴースの声が聞こえる。
その声を頼りに探そうと思ったが…… だめだ。
声がどの方向から聞こえてきているか解らなかった。

「うーむ……」
ボクは松明を手に取り、四つの絵を見比べる。
さっきみたいに、正解の絵の中にはゴース自身が居るはず……
……しかし、どの絵を探してもゴースの姿は見当たらなかった。

「ククッ…… どうした? 諦めてもいいんだぞ?」
また、ゴースの声がする。

「……諦めるもんか…… ボクは、絶対皆の所へ帰るんだ。
 あと、ついでに父さんのあのニヤケ顔をヘコませてやるっ!」
ボクは、自分に言い聞かせるように言うと……もう一度、四つの絵とにらめっこをはじめた。
「くっ…… ダメだ、わからないよ……」
最初……絵の中のゴースが本当に動いたと言う事は、
少なくとも絵の中に居るというのは嘘ではないはずだ。
絵から外に出ていれば解るはずだし……

……だとしたら、今度はどう言うイカサマを仕掛けてきてるんだ……?

どっちにしろ、残された時間は少ない。
周囲にあるロウソクは12本…… 30秒おきに、一本ずつ消えていく。
残っているロウソクの数は5本…… 換算すると150秒、つまり2分半だ。

「ククッ…… 精々悩むがいいさ。」
またあの耳障りな声が聞こえてくる。
本当に、前後左右どこから聞こえてきているか解らない……

「ん……?」
……そこでボクは、あることに気がついた。
前後左右、どこから聞こえてきているかわからない……
……それは、つまり……

「……わかった! お前の居る絵は……これだッ!!」
ボクは…… その“絵”の方に向かって、松明を投げつけた。
「ば…… バカなぁぁぁっ!?」
……どうやら、正解みたいだ……

ボクの上で、天井にあった“空の絵”が燃えている。
……そう…… ゴースは、壁にある四つの絵のどれでもない、
天井に掛かっている絵まで移動していたのだ。

……そりゃ、どこ探しても居ないワケだ……

「あつ…… 熱い……ッ!
 た、助けて…… 助けてくれぇぇぇっ!!」
……ボクは耳を塞いだ。
いくら敵とはいえ…… 自分が助かる為とはいえ、
誰かの命を奪うのは辛い。 だけど……

……ゴースの悲鳴が聞こえなくなった。
それと同時に、入ってきた扉とは別の扉が開く。

……もしかして、ゲームのつもりなのかな……?
だとしたら…… ボクは、ますます父さんを許せない。

どんな事があっても必ず生き残って、父さんを……

−第十話 完−

「ヒヒ…… 何だ何だ、もうここまで来ちまったのか?」
……次の部屋で待ち構えていたのは、ヤミラミだった。
部屋は薄暗く…… ヤミラミの眼が、不気味に光っている。

「お前はよっぽど運が良いみたいだな。
 そして頭も良くて…… 悪知恵も働く。」
「……全部見てたの?」
「いや…… ここに来た時点でそいつは証明された。
 もう気付いてるとは思うが…… オレたちゃみんな、
 “チャンスを与えるフリをしてイカサマするように”仰せつかってんだ。
 にも関わらずここまで来れたって事は…… な?」
ヤミラミは不気味に笑いながら言う。

「……一つだけ、腑に落ちない事があるんだ。」
「んぁ? ……何だ一体。」
「わからないんだ…… イカサマまでしてるのに、
 何でわざわざ全員分の“ゲーム”を用意してるのか。」
当然の疑問だった。 挑戦者……ボクが絶対勝てないよう仕組まれてるなら、
二匹目以降の“ゲーム”は用意する必要なんて無いはずなのに……

「ヒヒヒ…… 絶対聞くと思ってたぜ。
 ……そいつはな…… お前がやってる“ゲーム”っつーのが、
 ゴースト軍が昔からやってる“最も残酷な処刑方法”だからだよ……
 ……この“ゲーム”は、お前のためだけに用意したんじゃねぇんだ。」
……なるほど、納得だ。 “勝てば許す”という名目でこのゲームをさせ、
少しの希望を与えておいて…… そして、絶望の淵に叩き落す。

「……最悪。」
無意識に…… 心の底から、そう言っていた。

「ヒヒヒ、最悪か……まぁそうだろうな。
 そりゃそうだ…最悪と思えるぐらい残酷な方が、
 見せしめの処刑としては効果抜群なんだからな!」

「ヒトの命を、奪うならまだしも……
 オモチャにして……無駄に苦しめて……
 ……そんなの、許せないよ!」

「ヒハハハハッ! ……許せなくて結構!
 そもそもお前ごときに許してもらってどうするんだ?」

「……くっ。」
こいつ…… 本当に性格が悪い。

「ヒヒ…… まぁ、もういいだろ? ゲームにも飽きたろ?
 ……お前がこうしてここまで来てる以上、オレも慎重にならなきゃな!」
ヤミラミはそう言うと、いきなりボクに飛び掛ってきた!

「う…… うわっ!?」
やっぱりボクは非力だ…… いとも簡単に、押し倒されてしまう。

「……な…… なに、するんだ……っ!」
「ヒヒ…… ヒヒヒヒ……
 ……お前を食っちまうのさ。 ゲームすらさせねぇ。
 ムウマージ様にゃぁお前がゲームで負けちまったって言っとくよ!」
……卑怯者……!
これじゃぁ…… これじゃぁ、今まで頑張ってきた意味が無いじゃないか……!

「くそっ…… 
 ……くそっ……!」
相手は悪タイプらしく、念力も効かない。
何か特別な力が働いてるみたいで、テレポートもつかえない。
この距離からじゃ、シャドーボールも撃てない……

「ヒヒヒ…… 嬉しいぜ。
 こんな美味そうな獲物を独り占めするのは久し振りだ……」
もうだめだ…… そう思った瞬間だった。
いきなり凄い音がしたかと思うと…… 壁が崩れ、何かが飛び出して来た。

「な…… 何……うごぉっ!?」
……と…… ヤミラミが妙な悲鳴をあげ、それと同時に身体が軽くなる。

「やれやれ…… 何とか間に合ったみたいだな。」
「そうですな…… しかし、メタグロス殿は本当に無茶をなさる。」
ボクの目の前に現れたのは…… メタグロスさんと、
何か大きな鐘みたいなポケモンだった。

「め…… メタグロスさん! 生きてたんですか!?」
ボクはメタグロスさんに駆け寄る。

「あぁ…… 実は炎軍の捕虜になってたんだが、こいつ……ドータクンに助けてもらってな。」
「それから、二匹で組になって各地で捕虜を解放して回っとると言う訳ですな。」
どう言うことかよくわかんないけど…… ボクは助かったんだ。
最初は実感が湧かなかったけど、恐らくメタグロスさんにぶん殴られて、
地面に突っ伏して痙攣しているヤミラミを見て思った。
「さて…… 情報によると、この辺りにエスパー軍の捕虜が監禁されてるらしいんだが。」
メタグロスさんは辺りをきょろきょろと見回しながら進んでいく。
……なるほど、それで壁を崩しながらあちこち回ってたのか。
弱点がほとんどない二匹だから出来る荒技というか、なんというか……

「……ここはボクに任せてください。」
ボクはそう言うと、メタグロスさんから飛び降りる。
……そして、目を瞑り意識を集中した。

全ての生き物には感情がある。
ボクはその感情をキャッチする能力に長けていた。
捕虜が監禁されているなら、どこかに“感情”が密集する場所があるはず……

ボクはひたすらその“感情”を感じていた。
周囲に意識を張り巡らせ、僅かな感情を辿り……
……そして、“感情”の塊をキャッチした。

「……ここからまっすぐ…… 突き当たりの壁の向こうです!」
ボクはそう言うと、再びメタグロスさんに飛び乗った。

「ふむ…… まぁ、ここはお前さんを信じるか。」
「そうですな。 では行きましょうか。」
そう言うと、メタグロスさんは再び前進をはじめる。
メタグロスさんが一歩進むたびに、たくさんの感情が近づいてくる。
途中にある分岐点を全て無視して進んでいき……
……そして、ついに突き当たりまで辿り付いた。
「よし…… ここを崩せばいいんだな?」
メタグロスさんはボクに確認する。

「……はい、そこです。
 この壁の向こうから、たくさんの“感情”を感じます。」
ボクは壁を触りながら言う。

「よっしゃ…… んじゃ、ちょっとどいててくれ。」
ボクは言われるままメタグロスさんから飛び降り、
そのまま走っていってドータクンさんの後ろに隠れた。

「さて。これで……通算、200枚目だッ!」
メタグロスさんの凄まじいパンチが、壁を粉砕する。
それにしても200枚目って…… どれだけ無茶して来たんだこの人。

「おぉ……」
「な……何だ、一体!?」
「なに!? 何が起こったの!?」
壁の向こうから、沢山の声が聞こえる。
たくさんの……“希望”という感情が、ボクの中に流れ込んでくる。

……そこには、死んでしまったと思っていた
エスパー軍の仲間たちが閉じ込められていた。
「ふふ、お手柄ですな……」
ドータクンさんがボクに向かって言う。

……お手柄、か…… 何て言うか、ちょっとうれしい。

「おっと…… そうだ!」
ボクは……捕虜の中から、母さんを探す。
何度も何度も首を左右に振り、メタグロスさんの上に飛び乗って見渡した。

……でも…… そこに、母さんは居なかった。

それでもボクは、なぜか悲しくなかった。
根拠は無いけど……母さんは必ず生きてる。 そんな気がしたから。

「さぁ、皆さん! 出口は確保しています! 急いで!」

メタグロスさんが叫ぶと、捕虜たちが一斉に飛び出てくる。

そして……ドータクンさんが先導し、メタグロスさんが後ろを守るという形で、
皆で一列になって歩いていった。
「地上だ……」
久し振りの、太陽。
グラードンはまだ退治されてないらしく、日差しは相変わらず強い……
……でも、あの地獄のような監獄と比べると……

「あなたは……どうするのですかな?」
いきなり、ドータクンさんが聞いてくる。
「ど…… どうするって?」
何の事だか解らず、首を傾げる。
「そのまま……ですな。
 わしはこれからメタグロス殿と共に捕虜を解放して回りますぞ。
 そして捕虜達は、テレポートでエスパー軍の本拠地に帰るのですが……」

「ボクは……」
……そうだ、ボクは……
「……ボクには、どうしてもやらなきゃいけない事があるんです。
 ですから、皆さんとはここでお別れです……
 ……本当に、ありがとうございました。」
ボクは深く頭を下げる。

「そうですか…… では、お元気で。」
ドータクンは優しく言うと、メタグロスさんとどこかへ行ってしまった。
さっきまで居た捕虜達も、テレポートが使える人は自分で、
使えない人は使える人にくっついて…… 本拠地までテレポートしてしまった。

……待っててね、みんな…… 今、帰るから。

−第十一話 完−
「お言葉ですが…… 私は“裏切った”のではありません。
 あなたを……“見限った”のですよ。 ……ギラティナ様。」
「私が貴方に何を望んでいるのか…… まだ解りませんか?
 それでも貴方はこのムウマージの子供ですか……?」

――“父”、ムウマージの思惑――

「そう、全てに勝る血筋…… 我々ドラゴン族に敵は無いのだ!」
「……我輩だけではどうしようもない。
 だが…… 我輩以外ではどうしようも無いと言うのも事実だ。」

――ドラゴン族と、“ドラゴンキラー”の存在――

「大変です! 博物館の化石やコハク達が……うわぁぁぁっ!」
「立ち上がれ古の戦士達よ! 古代の力を見せ付けてやるのだ!」

――そして、蘇る“古代軍”――

「ボクは……なんて非力なんだ……
 ……これじゃぁ、誰の力にもなれないじゃないか……!」
「強くなるんだ…… ボクは、強くなるんだッ!」

――彼は幾多の試練を乗り越え、“成長”していく――

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!! ……身体が…… 身体が、熱い……ッ!」
「さすが…… 流石は私の子です!
 私がこの時をどれだけ待ち望んでいたか……!
 ……さぁ! 貴方の中に眠る可能性を解放するのです!」
「……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

――“戦場”は、次のステージへ――

一話〜十一話  十二話〜