福岡県におけるホームレスの実態

 

九州大学経済学部経済工学科4

大谷勇治

 

概要

 

福岡県のホームレスの実態は全国的にみて特徴的であると言える。さらに、同じ県内でも、福岡市北九州市では状況がまったく異なる。都道府県別にみた福岡県のホームレスの実態、さらには、県内の市町村別にみたホームレスの実態について調べ、なぜそうした状況になったのかについて考察していく。また、近年の福岡市のホームレス支援の例を紹介し、それが今後どのような影響を与えるのかについても考えていきたい。

 

 

1.福岡県の都道府県別にみたホームレスの実態

 

11.福岡県のホームレス数の推移

 

都道府県別ホームレス数は、東京、大阪をはじめ全国的に減少傾向にあるにもかかわらず、福岡では増加している。また、都道府県別人口に占めるホームレス数の割合を見ても、福岡は、大阪、東京に次いで全国で3番目に高い数値となっている。(表1)

 

(1)なぜ福岡にはホームレスが多く存在するのか?

福岡にホームレスが多い理由のひとつとして、福岡が全国的にみて大都市であることが挙げられる。都市部にホームレスが集まるのは、ホームレスでも雇ってもらえる日雇い労働があるからだと考えられる。実際に、空き缶集めなどをして収入を得ているホームレスが都市部ではよく見かけられる。また、自立支援のための条例、施設、NPOなどの支援団体が充実していることも大きな要因である。

 

(2)全国的に減少傾向にあるホームレスがなぜ福岡では増加しているのか?

これについては、福岡県内の市町村別ホームレスの実態について考える必要がある。なぜなら、北九州市をはじめ、県内の多くの都市ではホームレスは減少傾向にあるが、福岡市では大幅増となっているため。なぜ福岡市でホームレスが増加しているのかについては次節で考察していくことにする。

 

(3)福岡県のホームレスの増加は県内のホームレスの絶対数の増減によるものなのか、県外からの流出入による増減なのか?

2009年の福岡県の完全失業者数は全国7位の153千人で、前年に比べ25千人増えている。

また、福岡県のホームレスの生活実態調査によると、路上生活をするすぐ前に住んでいた地域は、

H19.1)県内73.2%(同一市町村51.6%、他市町村21.6%)、県外26.8

H15.1)県内62.1%、県外37.9

全国平均をみると、

H19)県内69.2%(同一市町村39.9%、他市町村29.3%)、県外30.8

H15)県内68.5%、県外31.5

となっている。

これらのことから、平成15年の時点では県外からの転入が多かったが、平成19年の時点では、県外からの転入による増加の影響は少ないと考えられる。

 

注)生活実態調査の調査方法

H19.1北九州市102人、福岡市96人、久留米市54人の計252人から面接による聴き取り回答を得る(男性233人、女性14人、無回答5人)

H15.1福岡市北九州市において個別面接調査(福岡市88人、北九州市128人)が行われた。福岡市北九州市のホームレスの数(福岡市607人、北九州市421人)の比率を考慮し、無作為抽出した100人(福岡市60人、北九州市40人)の個別調査結果

 

 

12.福岡県のホームレスの特徴

 

ホームレスの実態に関する全国調査(厚生労働省)と福岡県の調査(概数調査)によると、

・ホームレスの生活している場所の割合は、「都市公園」(H20.1全国29.6%、県内39.7%)、「駅舎」(全国4.3%、県内9.3%)、「その他施設」(全国19.6%、県内29.6%)の占める割合が高く、「河川」(全国30.6%、県内15.3%)、「道路」(全国15.9%、県内6.1%)の占める割合が低い。

・女性のホームレスの占める割合が高い(H20.1全国3.3%、県内7.0%)

 

また、福岡県のホームレスの生活実態調査(H19.1)(H15.1)によると、

・県内のホームレスの平均年齢は、57.4歳(H19.1)で全国平均とほぼ同じ

・収入のある仕事をしている者は48.1%(H19.1)、36.7%(H15.1

・仕事の内容は、廃品回収41.3%(H19.1)、建設日雇33.9%(H19.1

・平均的な収入月額は、「510万円未満」21.7%(H19.1)、「35万円未満」19.2%、「13万円未満」17.5%、「50001万円未満」15.0

・野宿生活直前の職業は、建設業関係41.4%(H19.1)、製造業関係11.5%、サービス業関係11.5

・体の不調を訴えている者は60.4%(H19.1)で、このうち治療等を受けていない者は、58.3

・生活保護を受給したことがある者は、18.0%(H19.1)であり、全国集計24.3%に比べて低い

 

 

2.福岡県内の市町村別にみたホームレスの実態

 

北九州市のホームレス数は、421人(H15)→249人(H19)→162人(H20)→149人(H21)と減少傾向にあるのに対し、

福岡市のホームレス数は、607人(H15)→784人(H19)→782人(H20)→969人(H21)と増加傾向にあり、増加数は政令指定都市の中で最も高い数値となっている。また、人口に占めるホームレス数の割合は、大阪市に次いで全国で2番目に高い。(表2)

 

・なぜ同じ県内でも北九州市福岡市とではこれほど状況が異なるのか?

以下、北九州市福岡市のホームレス対策等を比較して考察していくことにする。

 

(1)自治体のホームレス対策の状況(表3)

 

a)予算額

北九州市ではホームレス対策にかける予算額(H20)が福岡市に比べてかなり多い。

 

b)巡回相談

巡回相談員に「会ったことがあり、相談した」者は30.9%(H19.1)、「会ったことはあるが相談したことはない」者は11.6%、「会ったことはない」者は57.4%となっている。(県内)

北九州市においては、「会ったことがある」者が85.3%であるのに対し、福岡市においては2.1%に過ぎない。

 

c)自立支援センター

北九州市には、自立支援センター(H16.9〜)があり、ホームレスの自立に貢献してきたといえる。(北九州市ホームレス自立支援対策を参照)

福岡市200911月に就労自立支援センターを開所するまで自立支援センターが存在していなかった。

 

(2)民間団体のホームレス対策の状況(表4)

 

北九州市と比較して、福岡市には民間ホームレス支援団体が多い。

民間ホームレス支援団体は炊き出しや日用品の配布等の支援を頻繁に行うので、福岡市はホームレスが集まりやすい環境だと考えられる。

実際に、福岡市のホームレスの生活実態調査(H19.1)によると、路上生活をするすぐ前に住んでいた地域は、「福岡市内」が46.6%、「福岡市外」が53.4%であり、過半数は市外からの転入者である。これに対し、北九州市では、路上生活をするすぐ前に住んでいた地域が「北九州市内」の者の比率が相対的に高い。

 

 

3.福岡市のホームレス支援の近況

 

 以下、朝日新聞(平成211231日)より抜粋

福岡市20093月、住所のない人にも積極的に生活保護を適用するよう運用を改めた。3月以降これまでに約1600人に支給を始め、路上にいた人たちが次々に住まいを得た。実際に、2009年末に福岡市博多区の美野島司牧センターであった炊き出しに来たホームレスは2008年末の約半数にとどまった。

市保護課によると、支給対象者が増えすぎて実態をつかみ切れておらず、アフターケアにもっと力を入れたいが今は申請を処理するだけで手いっぱいと嘆く。

ホームレスの人たちの多くは家族間等の人間関係が希薄であり、生活保護を受けて屋根のある生活を得ても、周りに顔なじみがいた路上と違い、寂しく感じることが多いという。そうした人たちが再び路上生活に戻らないようアフターケアが今後ますます重要になってくる。

〈生活保護申請の運用改定〉

額は居住地や家族構成などに応じた基準で決まり、収入や年金、預貯金、親族による援助があれば差し引かれる。財源は国が4分の3、地方自治体が4分の1を負担。ホームレスが申請しても「安定した住居がなければ支給できない」と受理しない自治体が多かったが、福岡市3月から受理と同時にアパートを確保させるようにし、1人月額約11万円を支給している。市によると、生活保護の受給は2008年秋ごろまで毎月400件程度だったが、3月ごろから800件と倍増。保護世帯数は2万世帯から25千世帯に増えた。全国的にも急増しているという。

 

以下、西日本新聞(平成211117日)より抜粋

20091117日、福岡市はホームレスに生活の場を提供した上で就職を支援する施設として、JR博多駅近くの民間ビル内に設置を計画していた「就労自立支援センター」を20日に開所すると発表した。運営は、ホームレス支援に取り組む特定非営利活動法人(NPO法人)「福岡すまいの会」(福岡市)に委託する。暫定的に2年間運営する。60歳未満で就労意欲が高く、規則を守る人を条件に、定員は男性46名、女性4名の合計50名。入所期間は6か月以内となる。専門の生活相談員や警備員、看護師などを配置して24時間体制をとるという。

 

 

4.おわりに

 

前節で紹介したように、今後の福岡市のホームレス問題は大きな転換を遂げることが期待される。しかし、支援すればするほどホームレスが集まってくるという悪循環に悩まされるのではないかという心配もある。2010年の福岡のホームレス数など、今後の調査結果に注目したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表1 都道府県別ホームレス数

都道府県名

21年調査

20年調査

19年調査

15年調査

21年人口

人口に占めるホームレス数の割合

北 海 道

124

145

161

142

5,570,000

0.000022

青 森 県

8

2

7

16

1,410,000

0.000006

岩 手 県

21

23

32

18

1,360,000

0.000015

宮 城 県

140

110

144

222

2,350,000

0.000060

秋 田 県

15

10

8

13

1,120,000

0.000013

山 形 県

18

7

11

24

1,200,000

0.000015

福 島 県

20

27

15

43

2,070,000

0.000010

茨 城 県

62

86

78

130

2,970,000

0.000021

栃 木 県

74

81

79

134

2,010,000

0.000037

群 馬 県

98

97

96

87

2,020,000

0.000049

埼 玉 県

622

597

781

829

7,090,000

0.000088

千 葉 県

503

524

594

668

6,100,000

0.000082

東 京 都

3,428

3,796

4,690

6,361

12,760,000

0.000269

神奈川県

1,804

1,720

2,020

1,928

8,880,000

0.000203

新 潟 県

39

38

51

74

2,400,000

0.000016

富 山 県

32

23

29

24

1,110,000

0.000029

石 川 県

24

21

18

22

1,170,000

0.000021

福 井 県

28

32

41

24

820,000

0.000034

山 梨 県

38

41

42

51

880,000

0.000043

長 野 県

13

13

29

37

2,180,000

0.000006

岐 阜 県

74

67

59

86

2,100,000

0.000035

静 岡 県

297

315

370

465

3,800,000

0.000078

愛 知 県

929

851

1,023

2,121

7,360,000

0.000126

三 重 県

61

68

61

46

1,880,000

0.000032

滋 賀 県

18

20

32

57

1,400,000

0.000013

京 都 府

353

401

407

660

2,640,000

0.000134

大 阪 府

4,302

4,333

4,911

7,757

8,810,000

0.000488

兵 庫 県

533

575

627

947

5,590,000

0.000095

奈 良 県

14

19

22

14

1,410,000

0.000010

和歌山県

56

74

70

90

1,020,000

0.000055

鳥 取 県

3

3

6

13

600,000

0.000005

島 根 県

4

4

7

4

730,000

0.000005

岡 山 県

75

67

85

65

1,950,000

0.000038

広 島 県

154

138

153

231

2,870,000

0.000054

山 口 県

11

21

23

33

1,470,000

0.000007

徳 島 県

8

13

33

14

800,000

0.000010

香 川 県

27

24

34

46

1,010,000

0.000027

愛 媛 県

38

40

25

85

1,450,000

0.000026

高 知 県

14

24

23

23

780,000

0.000018

福 岡 県

1,237

1,082

1,177

1,187

5,060,000

0.000244

佐 賀 県

39

43

41

41

860,000

0.000045

長 崎 県

13

11

30

41

1,450,000

0.000009

熊 本 県

73

111

110

124

1,830,000

0.000040

大 分 県

38

35

45

39

1,200,000

0.000032

宮 崎 県

31

27

35

22

1,140,000

0.000027

鹿児島県

57

59

62

80

1,730,000

0.000033

沖 縄 県

189

200

167

158

1,370,000

0.000138

 

 

 

 

 

 

 

全国

15,759

16,018

18,564

25,296

127,770,000

0.000123

 

都道府県別ホームレス数(出所:厚生労働省)、都道府県別人口(出所:総務省統計局)をもとに作成 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表2 東京都23区及び政令指定都市別ホームレス数

自治体名

21年調査

20年調査

19年調査

15年調査

21年人口

人口に占めるホームレス数の割合

東京23

3,105

3,436

4,213

5,927

8,489,653

0.000366

札幌市

99

109

132

88

1,880,863

0.000053

仙台市

124

100

132

203

1,025,098

0.000121

さいたま市

120

121

179

221

1,176,314

0.000102

千葉市

72

91

103

126

924,319

0.000078

横浜市

697

649

661

470

3,579,628

0.000195

川崎市

691

635

848

829

1,327,011

0.000521

新潟市

24

23

40

53

813,847

0.000029

静岡市

56

61

88

137

713,723

0.000078

浜松市

85

100

115

140

804,032

0.000106

名古屋市

641

608

741

1,788

2,215,062

0.000289

京都市

335

383

387

624

1,474,811

0.000227

大阪市

3,724

3,647

4,069

6,603

2,628,811

0.001417

堺市

92

96

133

280

830,966

0.000111

神戸市

151

149

135

323

1,525,393

0.000099

広島市

111

103

115

156

1,154,391

0.000096

北九州市

149

162

249

421

993,525

0.000150

福岡市

969

782

784

607

1,401,279

0.000692

 

東京都23区及び政令指定都市別ホームレス数(出所:厚生労働省)、市区町村別人口(出所:総務省統計局)をもとに作成 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表3 各自治体のホームレス対策の状況(H20時点)

区分

北九州市

福岡市

実施計画策定

H16.3

H16.7

予算額(千円)

20年度)

113,417

16,731

協議会設置

巡回相談

 

自立支援センター

50名(H16.9〜)

 

就労支援

 

自立支援事業

10室を確保し就労支援)

住宅支援

 

緊急一時保護事業

(福祉的自立支援)

保険・医療

結核検診

結核検診

生活相談

自立生活支援事業

(自立後の支援:生活相談員の配置)

 

福岡県ホームレス自立支援実施計画(第2次)(H21.3)をもとに作成

注)福岡市200911月に就労自立支援センターを開所

 

 

表4 県内の主な民間ホームレス支援団体

地域

団体名

主な活動内容

北九州市

特定非営利活動法人

北九州ホームレス支援機構

基礎的支援(炊き出し等)、

自立支援(自立支援住宅等)、

ホームレスを生まない社会の形成(啓蒙、情報発信等)

福岡市

特定非営利活動法人

ホームレス支援「福岡おにぎりの会」

炊き出し、入院者サポート、

自立者サポート、法律相談会

福岡市

NPO法人

福岡すまいの会

住宅支援、就労相談、健康相談、

歯科相談、衣類等の配布、炊き出し

福岡市

特定非営利活動法人

介護賃貸住宅NPOセンター

住宅支援、緊急一時保護

福岡市

美野島めぐみの家

炊き出し、衣類・日用品・薬等の配布

福岡市

ビッグイシュー福岡サポーターズ

路上の雑誌販売によるホームレスの自立支援

福岡県ホームレス自立支援実施計画(第2次)(H21.3)をもとに作成

 

参考資料

 

・厚生労働省:ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果(平成213月)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/homeless09/index.html

 

・福岡県庁ホームページ>福岡県ホームレス自立支援実施計画(第2次) 平成213

http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/36/36819_1570407_misc.pdf

 

・福岡県庁ホームページ>「福岡県ホームレス自立支援実施計画(第2次)」策定の趣旨

http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/36/36819_1571208_misc.pdf

 

・福岡県庁ホームページ>福岡県ホームレス実態調査分析事業最終報告書 平成20331日 社団法人 福岡県社会福祉士会 ホームレス実態調査分析委員会

http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/26/26872_176189_misc.pdf

 

福岡市福岡市ホームレス自立支援実施計画(第2次)

http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/15494/1/jissikeikaku.pdf

 

・福岡県ホームレス自立支援実施計画 平成163月 福岡県

http://219.99.180.74/uploaded/life/17/17040_20787_misc.pdf

 

BBIQモーニングビジネススクール>ホームレス問題(1)(2)(国際経営・国際ロジティクス/星野裕志)

http://bbiq-mbs.jp/blog/post_496.php

http://bbiq-mbs.jp/blog/post_497.php

 

北九州市>ホームレス自立支援対策

http://www.city.kitakyushu.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=7744

 

・統計局ホームページ/社会生活統計指標-都道府県の指標-2009>人口・世帯

http://www.stat.go.jp/data/ssds/5.htm

 

・朝日新聞(平成211231日)

 

・西日本新聞(平成211117日)