**CR小説**
初夏
夏の始まりなんてはっきりとわかるものじゃない。
爽やかな気候の春が終わって、暑さが増して、雨が降って。自然とだらだらと暮らしてしまう。新しく始まった生活に馴染んできた?と言った感じなのか張り詰めた緊張感が少し抜ける感じがした。
「加縫。さっきから何探してるんだ?」
今日は1日オフ。久しぶりにのんびりすることができる日。酒希を筆頭に寮の住人も久しぶりの休みに外へと出かけていたようだった。オレはと言うと、別に外に出かける用事もないし、どうせなら同じ寮にいて外に出かける予定のない加縫の部屋に遊びに行った。
すんなり部屋に通されたものの、オレが部屋に来る前から何かを探しているようでひたすらごそごそと部屋を散らかしていた。
「あぁ・・・」
返ってくる返事がいつもと違って曖昧で、それぐらい探し物に夢中になっているようだった。
それにしても、加縫の行動を見ているが・・・。探しているといってもどんどん散らかっていってその散らかした山をまた散らかして・・・と、きりのないような事を繰り返ししていた。一生懸命に探しているので下手に口を出したら絶対に怒るか拗ねるか。とりあえず、邪魔にならないようにベットの上で加縫の観察をした。
加縫の動きは単純。でも、単純だからこそ笑いそうになる変な動きが時々目を惹く。こみ上げてくる笑いを堪えながらじっと見ていると加縫が漸くオレの視線に気が付いた。
「あっ、わりぃ。せっかく遊びに来たのにな」
「いいよ。見てるだけで結構暇つぶしになるし」
・・・
「暇つぶしってなんだよ」
「加縫の観察」
・・・
からかって加縫との会話を交わす。見事に拗ねだした加縫は探しているものじゃない物を手に取っては遠くに投げ取っては遠くに投げを繰り返し始める。
「ごめんって加縫。なっ!何探してるのさっきから?」
ベットから乗り出して加縫を覗き込む。
「あぁ・・・」
オレは加縫の返事を待つ。しかし、なかなか返ってこない返事。
「加縫、もしかして探してるものを忘れたとか言わないよな・・・」
「忘れてなんかねーよ!!」
加縫は、自分が座っていた座布団をオレに向かって投げてきた。オレはそれをキャッチしてさらに加縫を覗き込む。
「だから、何探してるんだよ?」
「うー・・・」
加縫は口をへの字にしてオレを見てくる。
「今は言わない。見つからなかったら面白くないしな」
「気になるな〜」
加縫が投げてきた座布団をベットの下に落としながら加縫が散らかした物を見る。
「ぜってー見つけるから、もうちょっとまってろ」
「見つからないのか絶対なのかどっちだよ」
呆れながら加縫が散らかした物に手を伸ばす。
「こら!さわんなよ!解らなくなるだろ!」
このままだと余計に解らなくなると思うけど・・・と言う言葉を飲み込んでオレは、そのまま加縫の散らかしっぷりを見ていた。
加縫の部屋には色んなものがあった。オレ自身覚えのあるものとかオレが見たことのない物やいろいろ出てきた。見たことのない物を手にとって聞きたいところだが・・・きっとまた邪魔をしているように言われるのだろうと思いベットの上から眺めるだけだった。
「・・・っぽう・・・四方・・・おーい」
優しく体を揺すられて薄っすらと目を開けた。
「見つけたんだよ!!四方!起きろ!!」
「えっ・・・あっ!ごめん!オレ寝てた」
何もすることがなくてついそのまま寝てしまっていた。慌てて起き上がって加縫が持っていた物を見てオレは声を上げた。
「それ・・・花火?」
「へっへへへへ!おう!去年のだけどな!」
「えっ・・・」
オレの上げた声に加縫は思わず自分の持っていた花火を見る。
「なんか、問題があるのか?」
「いや、湿気てない?去年のだろ?」
「湿気るとどうなるんだ?」
まじまじとオレの顔と花火を交互に見る加縫。
「どうするの?今からやるの?」
「湿気るとどうなるんだよ!」
オレの問いかけよりも、湿気た花火がどうなるのかと言うことの方が気になってしかたがない加縫。しかし、今湿気た花火は使えないと言うことを伝えるときっと加縫はあきらめて落ち込むかむきになって花火を買いに行こうとするだろう。まだ、夏に一歩踏み入れたばかりのこの季節に普通に花火が売っているはずがない。
「加縫!やるの?やらないの!」
とりあえず加縫を押してはっきりさせた方がいいと思い加縫を問い詰める。
「・・・やる」
少し、不機嫌そうな加縫の顔を笑顔でごまかしてどこでやろうかと話を進めた。
「加縫、バケツあったか?プラスチックのはダメだからな」
「おう。これでいいんだよな?」
結局、屋上でやりたいと言い出した加縫に同意し、屋上でやるならしっかりと消火準備をしろと言い聞かせて準備をした。そうしている間に・・・と言うよりオレが加縫の部屋で寝ている間に日は見事に傾いていた。
「水は?」
オレが聞くとニカッと笑いバケツの中を見せた。ちゃんとしっかり入った水がもうすぐ落ちる日の光を反射させた。
加縫が見つけた花火は去年の夏の終わりに皆で大量に買った残りだった。その残りは一番よく売っているタイプの手持ち花火のセット。二人でやるのには少し多いぐらいの量に思えたが、きっと加縫が勢いよく何本も一緒に点けて終わるだろうなと思った。
「四方!四方!火!火早く付けてくれよ!」
用意したロウソクを振り回しながら颯爽と開けた花火を3本手に持って嬉しそうにオレをせかす。
「分かったから、ロウソクを貸す!振り回してたら火を付けれないだろ!」
「うが・・・。はい・・・」
おとなしくオレにロウソクを渡し、火をつけようと屈んだオレと同じように目の前に加縫も屈む。
「ほら、加縫いいぞ」
幸い、屋上にはあまり強い風が吹いていなかったため何もしなくてもロウソクが倒れたり火が消えたりする心配はないだろうと思った。
加縫が手に持っていた花火を一本火に近づける。
ぱっと手元が色とりどりに輝き始める。
「四方!点いたぞ!花火!」
ロウソクから離れて持っていたほかの花火にも花火の火を使って火をつけ始める。
内心、湿気で点かないのでは?と思っていたことはなくなったのでほっとしながらオレも一本取って火を点ける。
まだ、少し明るいが花火の光は綺麗だった。
どんどん、暗くなる空。光を増していく花火。それに連れて騒ぎ出す加縫。
まだ、夏と言えるかどうかも分からないこの季節にいち早く夏を感じた気がなんとなく嬉しかった。
「加縫!その辺に終わった花火置くなよ!ちゃんとバケツに入れろ!」
終わった花火をその辺において次の花火に手を出そうとした加縫を怒る。加縫はと言うと小さく分かってると拗ねるように言って慌てて終わった花火をバケツへと入れる。
広げた花火を物色して何本か選び点火していく。
「四方!これ、これ面白いぞ!」
「見てるよ。あっ加縫、この種類色が変るよ」
二人でする花火。二人の会話は花火の話で盛り上がった。
予想通りに加縫がほとんど花火を終わらせていった。
「加縫、あとはこれと線香花火かな?これ・・・」
「おう!じゃぁ、先に線香花火っすか?」
しばらくオレは花火を見ていた。
「線香花火はやっぱり、最後じゃない?」
「そうかぁ?じゃ、これ一本づつな!」
渡された花火に二人で火を点ける。
最後に線香花火があると言うことに、なんとなくあっけなく最後の花火は終わった。
「線香花火ってあんま面白くねぇんだよなぁ・・・」
文句を言いながらも加縫は線香花火を止めてある紐を取った。
「ほい。四方からな!」
渡された線香花火に火を点ける。
小さな光がはじけ始める。
「でも、オレは好きだけどな?線香花火。他の花火と違ってゆっくり楽しめるし」
「でも、終わったあと手臭くなるだろ?」
思わず笑って持っていた線香花火を振ってしまいそうになった。
「あのなぁ・・・そう言う事言うか?というか、問題がちがうだろ」
「なんだよ、臭くならねぇってのか!」
オレは、うなだれてしばらく線香花火に集中した。
「オレも、点ける」
線香花火を3つぐらい束にして加縫は火を点けた。
「加縫、それって一番失敗するぞ」
確かに、大きくはなるだろうが逆に重くなってすぐに落ちてしまう。
「いいんだよ!でかいのができるだろ!」
まぁ、加縫がやるだろうなと思ってたことを素直に実行し始めた加縫がおかしくて小さく笑った。当の加縫は花火を楽しんでいるのか?と思ったかのように満足した笑みをオレに見せた。
「線香花火・・・数少ないね」
オレが3本目を手にしたときには残り4本になっていた。まぁ、少ないというか加縫が立て続けに3本線香花火をやったからだが・・・
「おう。早いな」
少し、寂しそうに花火を見る加縫。花火の最後はこんな感じが普通なんだろうが・・・去年、皆でやった花火はもっと盛大で打ち上げ花火で終わった。だから、あと何本と数えるのがなんだか寂しく感じた。
「そうだね。でも、加縫が花火見つけたおかげで楽しかったよ」
「おう!感謝しろ!」
「はいはい。加縫様様」
笑ながら最後の花火になった。
「加縫が見つけた花火だし、最後に1本だけの線香花火やりなよ」
「いいのか?お前、線香花火好きなんだろ?」
「いいよ、見てるだけでも楽しいし」
加縫に最後の一本を渡した。
加縫はそろそろとロウソクに花火を近づけた。
が
なかなか火が付かない。
もしかして、最後の最後で湿気た花火があったのか・・・と残念そうに花火を見た。
「四方〜。火つかねぇ」
「うん。もしかしたらそれ、湿気ちゃったのかも」
「湿気たらできないのか!!花火!」
先ほどの部屋でのやり取りを思い出したのか花火とロウソクを交互に見る加縫。
「湿気ちゃったら火が付きにくくなるか、花火の火薬がだめになっちゃうんだよ。残念だね・・・最後の花火」
火が、一向に付かない花火をオレは眺めた。
「あーあ・・・終わっちまったな・・・」
加縫はその場に火の点かない線香花火を置いて屋上に寝転んだ。オレは、仕方なく火の点かない線香花火をバケツの中に入れる。
「うん。終わっちゃったね。最後の線香花火見れなかったの・・・残念だね」
オレは、片付けながら加縫に話しかけた。
「なぁ、四方」
起き上がった加縫にオレは腕を引かれて加縫の腕の中に吸い込まれた。
「んっ・・・」
起き上がろうとした途端。加縫に口を塞がれてそのまま加縫の腕の中に納まる。
「きゅ、急に何するんだよ・・・」
ムッとして加縫に言うと加縫は満面の笑みで答えた。
「今の四方の顔。花火みてぇ」
急にされたキスに思わず顔を赤く染めたオレの顔を加縫は花火だと言った。
「お前の顔も花火みたいにしてやろうか?」
しっかりと加縫の首筋に腕を回してもう一度キスをする。
「加縫も花火みたいだな」
笑顔な上に真赤になった加縫の顔にオレは笑ながら擦り寄った。
「また・・・やろうな。花火」
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04,6.9 Ayakaさまより頂きました。
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