桧塚劇場(ヒキウス平)
桧塚奥峰(1,420m)・桧塚(1,402m)

<2007年10月21日晴れ>落王単独

自宅発(AM05:15)→石ダルマ(06:20)→香肌渓の駐車ポイント(06:27)→ヌタハラ出合(06:39)→滝の見える広場(07:31)→山小屋(07:39)→桧塚と奥峰のコル(09:41)→桧塚奥峰(09:53)→桧塚劇場(10:20ー11:07)→桧塚奥峰(12:09)→桧塚(12:30)→P1214(12:58)→林道(13:43)→ヌタハラ出合(14:32)→車(14:49)

 最近、「桧塚劇場」という言葉を目にした。桧塚と言えば県境を除いた三重県の最高峰である桧塚奥峰(1,420m)のこと。ちなみに県境での最高峰は大台ヶ原の日出ヶ岳(1,694.9m)である。いずれも山域は台高に属する。
 桧塚周辺は美しい笹の斜面で知られている。雑木や低木がポツポツあるが、あまり桧は見当たらない。もしかしたら「ヒノキ」は「広い」「広き」と言った意味で桧ではないのかも・・・。塚は古墳のような丸い丘をイメージしたのだろうか?同じ台高には「木ノ実ヤ塚」という山名があるが塚は何を意味するのか分からない。強引な想像で申し訳ないが、個人的には「広き坂」が訛って「ヒロキザカ」→「ヒノキヅカ」となったのではないかと思える。そのようなイメージだ。
 桧塚を例えて「天上のプロムナード」
と呼ぶ人(紀伊ハンター氏)がいるのを知る。他にも薊岳から明神岳の間であったり、明神平から桧塚の間であったりを「美しいプロムナード」と表現しているレポを目にした。横文字に強いヨコチンさんなら分かるだろうけれど、外国語が苦手な落王は首を傾げてしまう。何だか良い意味で使っているのだろうなぁーと思いつつ調べてみた。
 プロムナードはpromenade、フランス語で「散歩」あるいは「散歩の場所」を意味する語。つまり世間一般的には散歩道・遊歩道その他休憩といった意味で使われている。そしてプロムナード・コンサートと言えば野外の広場や庭園などで行われた音楽会のことを指す。
 ここで、冒頭に名前をあげた「桧塚劇場」と繋がってきたのである。自然のリズムが心地よく響いてくるような癒しの空間。今まで桧塚奥峰から眺める桧塚の姿に感動して何度か足を運んでみたが、新たに「桧塚劇場」として眺める楽しみも味わってみたくなった。
 では、その「檜舞台」はどこやねん?
(おいおい、名前まで変わっている)
 それは桧塚奥峰の南に広がる場所、正式にはヒキウス平と呼ばれる所らしい。ヌタハラ谷を遡上して桧塚へ向かうコースが面白そうに感じたので、日曜日の早朝から出かけることにした。途中、まだ明けきらない寒い朝にもかかわらず、水分神社の祭りに出る方が半被で歩いているのを見かけた。昨年は賑やかな祭を見学したが、今年は山の劇場へと出かけていこう!


岩ダルマとヌタハラ出合

 ヌタハラ谷を目指して蓮川沿いを進んだが、ハッキリ言って場所を知らない。舗装が無くなって地道となったので慎重に車を停車した。そして地形から多分、ここがヌタハラ谷だろうと思える所で林道を歩いていく。今回は沢歩きを覚悟して、渓谷に沿って山へ登る計画。だからあまり川から離れないで高度を上げていくという安易な考え。林道から川沿いに少しの踏み跡があったので進むとすぐに途切れて藪になってしまった。歩きにくい斜面を登るがどんどん疲れていく。道を知らない不安も重なって体力だけが失われていった。上の方に先ほどの林道らしき続きが見えたので藪から避難することにした。がむしゃらに斜面を駆け上がって広い林道へ。自分では結構、頑張ったつもりでも実際はほとんど距離を進めていなかったのである。西遊記のようにお釈迦様の手の平で踊らされている孫悟空状態か。

   
駆け上がってきた斜面と寝ころんだ林道

 林道で寝ころんで流れの速い雲を見上げた。何だか登る気力も失せている。道が分からないけれど、とりあえず行けるところまで歩きやすい林道を登ってみることにした。

  
たぶん夫婦滝と思える滝を遠望。道無き植林地帯を駆け上がって振り返る。

暫く歩きにくい斜面を斜めに進めば小屋が見えた。この辺りから登山道の赤・緑・黄のテープが現れる。

やっと歩きやすい道に出てホッとする。植林地帯を抜ければ雑木がとても美しかった。

 獣の足跡や人の足跡も見る。近くで鹿の鳴き声がする。どうも「ピエール、ピエール」とフランス人を呼ぶように甲高い声だ。
 私は歩き始めた頃の藪から抜け出した安心感からか、再び歩きにくい所へ戻りたくないという考えからか、あまりにもテープの案内に頼りすぎてしまった。確かに歩きやすく適度に付けられたテープは有り難い。しかし、突然にテープを見失ってしまった後、自分がどの辺りを歩いているのかサッパリ分からなくなってしまったのだ。これは大いに危険である。本来は川に沿って登っていく予定。しかし、山道を登っていると危険を冒してまで谷へ下っていく気にはなれずにいた。小さな谷を越えて斜面を駆け上がっていく。このまま上の尾根へ出れば何とかなりそうな気がしたからだ。大きな谷を避けるように上へ上へと登っていったことが、結果的に当初の計画と大幅に狂ってしまったのである。下手すれば遭難だ。「Sトレ・ダンス・ナンバー2」、いわゆる「二の舞い」だけは避けねばならない。だが美しい風景に気がゆるんでしまう。


足を置く毎に小石が落下していく斜面をよじ登っていく。等高線ならかなり密集している部分へ。

あれ?桧塚奥峰が見えた。遠くには登る予定だったヒキウス平っぽい景色もある。



早く色づいた葉が鮮やか。シロヤシオの紅葉も美しい。


結局、ヌタハラ谷から大きく離れて桧塚と桧塚奥峰の間のコル(鞍部)へ出てきた。

桧塚周辺は紅葉が始まっていた。緑の草原との色合いが素晴らしい!


桧塚犬ヒッキーが後ろをついて歩く。ここで初めて人に出会った。


定番でもある桧塚奥峰から桧塚を見渡した風景。「塚」だけに前方後円墳のようにも見える。


絶景をバックに記念撮影!紅葉よりも鮮やかに、興奮で顔が紅潮する蜘蛛男。

「劇場」へは明神岳方面へ進んで尾根へ伝いに渡っていく。高低差も少なく歩きやすいコース。

色づく明神岳方面を遠目に眺め、木々の間と笹原をゆっくり歩いていく。

「桧塚劇場」へ入場

 桧塚劇場とは良く名付けたものである。ここからは桧塚奥峰と桧塚を間近で一望できる。まるで観客席から舞台を眺めているような状態だ。桧塚奥峰で食事をしたりお喋りしている人の様子もよく分かる(笑)。声の大きい人は傍でいるかのように聞こえるから面白い。
 先述したが、桧塚劇場は通称で正式にはヒキウス平と言う。他にもこの辺りにタイラ(平)と呼ばれる地名がある。桧塚奥峰の東(赤グラ山)から明神岳へ続くなだらかな平地を判官(ホウガン)平。赤グラ山から南東へ延びる尾根をヒキウス平でその南の谷(千石谷)付近にあるのを千石平と呼ぶようだ。そしてもっと南の赤倉山(国股山)の東方には奥ノ平がある。
 尾根が緩やかな地形となった場所を平と呼んでいるようだ。高見山と明神平を結ぶルートにも馬駆ヶ辻というなだらかな場所があるが、ここには源義経が馬を走らせたという伝説がある。判官平も義経に関連しそうな名前に思える。義経は確か「源九郎判官義経」だった。
 ま、話は大きく脱線したけれど人の多い山頂を避けて、ゆったり風景を眺められるヒキウス平は格好の休憩場所だ。さぁ、昼食のラーメンを作ろう・・・そう思ったが火がつかない。ガスはあるが着火できないのだ。ライターも持参していなかった(>_<)。遭難してたら命はない。
 おにぎりとビールで腹を満たす。とりあえず絶景に乾杯!



観客席は空席が目立つ・・・と言うより貸し切り状態。贅沢な紅葉ショーを堪能。

まさに山上の「楽園」と呼ぶに相応しい。見事なブリッジをする大木もある。


近くの「公園」を散策しているような安心感があり、高い山に登っている感覚はない。



この季節は特に美しい!見るもの全てが愛おしく、立ち止まってばかりで足が進まない。

 いつまでも楽しんでいたい。しかし秋の日は短く、慣れない山道は早めに下山しなければならないのであった。また、近いうちにここへ来たい。


再び尾根筋を戻って桧塚奥峰へ。いつも撮影してしまうねじ曲がった木もある。



何度訪れても飽きない風景。それだけ人気の高い山である。


下山は桧塚を越えてその先の尾根を初めて進み、P1214から南東へ尾根を下る予定。


テープを頼りに進む。「何処に行くつもり?」と不安を煽るような文字が・・・(-_-)

思ったより歩きやすい尾根道。

 この尾根は桧塚から岩屋口山・ナメラ山・入道ヶ塚へと東へ続いていく。P1214から尾根を離れて下らなければならない為、早めに南側へ道から外れて向かったら急斜面になった。慌てて尾根へ合流するように上へ上へと歩いていく。再びプチ遭難する所であった。
 やがてP1214と思われる分岐点に標識が見えた。この北側をSトレ夫妻が下りられて遭難しかかったそうである。自分は違う方面だが、教訓を無駄にしないよう気を引き締める。
 ヌタハラ林道への尾根は歩く人も多いのか目印テープが続いている。登りの時のように見失わないよう進んでいく。それにしても少し歩けば激下りだ。かなりの急勾配でトラロープまで付けてあった。踏ん張るので膝が痛い。逆に登るのも嫌なルートに思える。普段は雑木が良いと思っているけれど、慣れない道では植林地帯になって安心する。人の手が加わっていると里に近いような気がするからだ。「痛ててて・・・」と、足の裏や膝に疲労感を感じながら長く感じられる急降下。道に迷う心配はなかったが大変きつい下りであった。


千秋峰へはこのまま真っ直ぐだが、ヌタハラ林道へは右に折れる。


自然のロープにトラロープ、そして謎の珊瑚。


植林地帯でやや安心。切り株に栗のイガ。まるで妖精のよう。


やっと林道に出た。でも、ここからかなり長い単調な歩きが続く。体力0に近い。


林道では多くの花を楽しめた。それで足の痛みを紛らわせる。


アケボノソウも咲いていた。北海道の木彫りのような岩。


蓮ダム上流のエメラルドグリーン。

 当初に予定していたコースは登れなかったが、予想以上に山頂付近は美しかった。もう少し色づく風景を眺めに再訪したい。
 帰りはクタクタになって車を走らせる。夕刻の菟田野では水分神社の祭りの熱気がまだ冷めていなかった。


ご来場頂きまして有り難うございました。
by 落王