海洋手記(第9話)ー毛酒
2002/ 9/25 14:01
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投稿者: メッセージを送信 ilkuji_99

インドの北西端、パキスタンとの国境周りにあるカンドラという小さな
港に寄港することになった。大きな船は本船以外には見当たらないほど
ちいさな田舎だった。(田舎サル弟の里より小さいかな)日本から出港して
東南アジアを通過するうち、持ってきた酒は既に飲み干し、みな酒を
飲みたがっていた。しかしどうしょう。せっかく寄港したところなのに
酒は販売禁止だった。宗教の律法のためらしい。

上陸したら、外国人に興味があるらしく、埠頭の出口で子供達がぞろぞろ
後ろを付きまとう。一人当たり子供10名づつの勘定だ。「ウォンドラー・
ウォンドラー」と子供達は言い続ける。1ドルだけちょうだいとの意味だ。
ある子はタバコを要求する。8才位にしかみえない子にタバコをあげたら、
ポーズを取って吸いはじめる。道路は舗装されてないのでほこりが舞い、
飼い主のいない牛たちが群らがって歩き回る。主人がいないので餌を
取るのにも苦労しているようで、牛たちは皮と骨だけしかないほど痩せている。

市場に行ったら、みな、袋に何かを広げ、売っている。ある商人は竹のかごに
コプラを入れ、コプラが頭を出し、外を眺めている。私が通り過ぎたら
この商人、あのコプラが入ったかごをぬっと突き出す。インド語でなんとか
かんとか喋るけど一言もわからない。私はコプラの頭を見てびっくりして
走って逃げた。そうすると、それをかかげたまま付いて来るのだ。
驚いて肝を潰し、走って逃げた。

酒を売ってる所はなく、困っていた。それで後ろを付いて来る子供達に
聞いたら、「売っている所を知っている、一緒に行こう」と誘う。
ある家に入ると、「ちょっと待て」と言って、少年達は出ていった。
10分ほど経って紙袋に何か筒のようなものを入れて帰ってきた。
開けてみるとウィスキー瓶に入った私製ウィスキーだった。これでも充分だと
思い、お金を払って船に持って帰った。そして同僚航海士たちと実習生も
呼んでパーティを開いた。

味は普通のウィスキーとあまり変わらない。酒のつまみでマグロ刺身を
食べた。ウィスキーが空になりかけ、瓶の底が見えてきたとき、何か糸みたいな
異物がみえた。グラスに移してみると、人間の体毛のようだった。それも多分、
あそこの毛みたいな感じだ。そこで男のか、女のかでしばらくの間、
激論が続いた。結局、形が女のらしいという結論に達した。1等航海士が
その酒を「毛酒」と名づけた。家で作るとき、不注意で入ったのか、それとも
わざと入れて発酵させたのか。未だに分からない。

(著者注;本海洋手記の全編は著者の体験による手記であり、著者権は全て
本著者にあるので著者の許可なしで本文の無断複写、全部もしくは部分引用
などを厳禁しますのでこの点、ご注意ください)

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