船窓夜話―第13話―瀬戸内海 VII
2002/11/ 1 17:35
メッセージ: 3617 / 6026

投稿者: メッセージを送信 ilkuji_99

週2回なら月に8回往来する内海。船長に苛められながらも少しづつ海路を
憶えはじめた。慣れた航海士は島の灯台の光だけ見てここから何度へ針路変更
するとわかるそうだ。でも未だ自信のないところはやはり海図をみた後、舵手に
操舵号令を下ろす。帰りに四国をクリアしながら「Starboard!」と叫ぶと
舵手が「 Starboard!」と復唱し、舵柄を右へ10度回す。そしたらゆっくり
船首が右へ回る。山口県の宇部の灯台が船首にかかる前、「Midship!」と
号令するとまた「Midship!」と復唱し、 舵柄を正中央にすると、大体船首の
正面にその灯台が来る。そしたら「Steady!」と下ろす。「針路を固定
しろ」との意味だ。そうすると、舵手は「281度 Sir!」と現在の針路を
報告してその針路に固定する。

このSirとは日本語の「です」に相当する舵手の船長および航海士への報告語尾だ。
船長は傍で私の運航ぶりをみてすこしでも間違えたらすぐ起こり「なにそれ?」
と反問する。「未だに海図を頭に入れてないのか」とか叱る。完全に内海航路を
憶えて海図を見ずに運航しろとのことだ。「他の人は部屋に内海地図を貼り
付けて憶えるのに」とかいうから実際、部屋の机の正面壁に内海航路を描いて
関門海峡から神戸までのコースを何枚か繋げて張り付けたのだ。

そしたら今度は「そんなもの張ってやってると誇ってるのか」と今度はひねる。
それこそ「どっちの拍子を取るべきか」である。面白いのは英語にもそれに
相当する言葉があるのだ。「Which music should I dance to ?」 かな。英語
レッスンになってしまったが。たまに速度の遅い船を追越すときとか、衝突予防
規則により向う側が避けるべきなのに針路変更しないから危ないときは警告の
ため汽笛を鳴らす。

何回使ったけど、機関室の部員が怒って「なんで汽笛を使うんですか?」と
抗議する。使うためにあるじゃんか、なんで怒るのかと思ったら、汽笛を使うと
機関部員が毎回、空気をポンプして入れないといけないから面倒くさいとの
ことだ。経験の長い人なら適当に避けていくのに私の当直のときに限って使い
すぎるとの意味だろう。

夜の当直中、高松を左にして走ってるとき、速度の遅く小さな砂運搬船が
本船の進行方向に入っては譲らなくマイ・ぺイスで走る。汽笛を鳴らしたら
また文句いうはずだし、仕方なく、ブリッジの上のライトをつけて警告した
ところ、約5メートル先方から左へ避けた。同じ当直時間の機関士が機関室を
離れて船尾でのんびりしてたとき、そのことを目撃して、エンジンを使うかと
思って機関室へ走りまくったという。だけどいくら待っても私から速度変更の
通知がないからやっと安心したそうだ。(つづき)

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