
投稿者: ilkuji_99 船舶の一部船員交替により釜山から飛行機で日本の福岡へ、そこで乗換えて大阪へ行き、待っていた代理店のバスに乗り、一晩走って到着した富山の新港というところ。船はそこで荷役をしていた。疲れた体を休めることなく引き続き仕事に入り忙しく一日を過ごした。夜遅くぐったりとなってベッドに入った。
ぐっすりと寝ていたのに誰かが入ってきてライトをつけ“起きろ”言う。目を覚ますと背が高く黒い顔には頬髭がはやした40代なかばの男が立ていた。時計は夜中の3時。多分前からいた船員らしい。始めの言葉が「あなた傾いて駄目だ」だった。酒を飲んでいたようだ。下級船員らしいが酔っているようなので叱るよりやさしく言い行かせようと思って「酔っているから後で話しましょう」と言葉をかけた。軍隊で下士官が新入少尉を手懐けるように新入3等航海士を手懐けに来たようだ。
しかし彼は私の言葉を聴かずに喧嘩を売りはじめてソファに座り無礼な言葉を使いはじめた「お前、何才か?」から始めてぎりがない。いきなり「なにか渋いか?喧嘩しようか」と言ってくる。ここで負けたら下級船員たちに足元を取られ仕事ができなくなると判断した私は「よし、一度やろう」と答え彼が前に立ち船尾へ出ていた。その後ろを付いて行くと彼は先に拳をとってポーズを取る。
年上の人を殴るのは決して愉快なことではない。しかし当時20代なかばの元気旺盛な年に原則で教育を受けた筆者としては許せない下刺上だった。拳は強くはないものの憤怒が破裂したらおさえられなくなり、その船員を殴り倒してしまった。翌日朝、彼がまた来て睨みながら「年上の人をそんなに殴ってもいいんですか?」という。一旦和解しようと握手をして座らせた。「はじめから態度が生意気なので下級船員たちが軍紀を取るようにいうから自分が来た」との答えだった。年の多い人を説得することは易しいことではない。
本来その船は前の会社が人力送出を担当したとき船員たちの給料も払わなく船長が手当を着服するなどの問題が多かったらしい。その為船員間の雰囲気が険悪な状態になったようだ。賃金未払い問題は新たな会社が引き受け解決されたものの、既にめちゃくちゃになった紀律が正常に戻れない状況だった。その夜侵入したその船員は甲板長補として自分の言葉によると下級船員たちの軍紀を取るように会社が送ったそうだ。ところが士官軍紀を取ろうと私の部屋まで突入したって苦笑せざるを得なかった。
本来、釜山の南浦洞で七星組のメンバーとして拳を振るったという。皆自分を南浦洞スヤといえばわかるという。下の名前がミョンスなのでスヤと呼ばれたようだ。その後の航海で、甲板長と甲板上で一戦を開いたときは拳の飛ばし方が未だ生きていた。急所だけ選んで手早く拳を飛ばすのに比べ、甲板長は空殴りばかりだった。結局、甲板長が倒れたらその首を足で踏んで降伏はしてもらったが、下刺上の罪で船内紀律部長の1等航海士の主催で開かれた軍紀委員会で上陸禁止処分を受け、皆の前で公開謝罪する恥辱を経験した。
喧嘩の理由は過度な作業割当てに下級船員たちが反発し、南浦洞スヤが船員を代理して甲板長に反発したのがきっかけだった。処罰は受けたが、男として義理があると思った。しかし1年の乗船契約期間が満了する1ヶ月前から毎日昼間から酒を飲んで作業に出ず怠けてばかりだった。甲板長も諦めた状況だったので一人で休暇をとっていた。義理もいいが下船するまで自分の義務を至って降りたらよかったのに。
南浦洞スヤ。今はどこで軍紀をとっているだろうか。
(INDEXに戻る) (1つ前に戻る) (第17話に進む)
|