船窓夜話ー第24話ーバットと酒と男とサウジ
2003/ 6/ 5 18:14
メッセージ: 4512 / 6027

投稿者: メッセージを送信 ilkuji_99

「海上を飛ぶ首」という題名の絵を見たことがある。文字とおり海上を人間の首が飛んでいるひやっとする絵だった。画家の名前は忘れたが何故こういう絵が生まれたかその事由を調べたらば遠洋漁船に乗って出ていった船員が失足、溺死したのに船は死体を捜し出せなく帰って、一人ぼちの溺死者の霊魂が故郷がこいしくて、首だけ海上を飛んでいくとの話を素材で描いたとのことであった。

私は商船の航海士生活だけやったので漁船の状況はよく知らないが、近海または遠洋漁船ではとんでもないことが度々起こるという。なので、この話は筆者の体験じゃなく漁船出身の商船の普通船員たちの体験談を聴いて移したことである。陸地と遠く離れて孤立した世界で漁労をするのは先ず苦労で苦しい状況を頻繁に接する。何件か思い出すまま移してみる。

釜山の南港で出航する漁船では五六島を曲がって出るとき紐バット儀式がある。当直者以外の全員が甲板上に集合したら船長がバットを持って現れる。そして一等航海士の尻を打つ。そしたら今度は一等が2、3等と甲板長を打ち、甲板長が甲板員たちをバットで殴る。これを「五六島バット」というのだ。苦しい漁労をする中で気合がないと仕事ができないので最初から気合を入れさせてやるとの意味だろう。商船の場合、円筒形上下構造だが漁船は士官以下の船員はみんな同じ職責なので船上反乱など問題が発生する確率が高いから。

カムチャカ半島から遠くない北太平洋上で漁労作業をしていた韓国国籍の漁船が一隻あった。ある日、その水産会社の会長が漁労実態を視察するため、飛行機を数回乗換え、その漁船を訪ねたことがあるけど日が暮れて船で寝ることにして船員たちと酒パーティを開いた。ところが海上で長く浮かんでいたため、出航するとき載せていった焼酎はすぐ払底し、パーティが洒落気がなく割れる状況だった。

このとき、あるボケ船員一人が自分なりの忠誠心を発揮し、一つ提案した。「工業用メチルアルコールを機関室で使ってるけどそれでも持ってきて飲もう」と。誰かが「それは人体に危険だから駄目だ」と止めようとしたが既に酒に酔っていたため、もっと飲みたいとの一念だけだったので大丈夫だから取りあえず持って来るように合意した。結局それを飲んだ後、会長と何名が即死し、残りの船員は重態に落ちてしまった事件が起こった。

酒話になったので思い出したが、筆者が商船で働いたときも酒のために経験したエピソードがある。7月の暑さが猛威を振っていたとき中近東のサウジのダンマン港に入ったけど回教国家なので飲酒はさておき、酒製造自体が禁止されている国なので酒は載せて行ったものの、飲むことができなかった。自国の法律はともかく外国人にさえ飲まないようにするって笑わせる国である。入港したとだん、税関員が来て全ての酒を倉庫に入れ、封してしまった。そして銃を肩にかけた軍人二名が乗船しては一名は廊下で、もう一名は食堂で目を怒らして監視しているので敢えて飲酒はできない状態だった。

上陸もできずに毎日45度を維持する猛暑に酒も飲まさないなんて耐えられなかった。酒好きの一等航海士は「チンポみたいな奴等」と呟いては夜間にサロンを呼んで作戦を立てた。倉庫のある廊下で監視している軍人の奴を一旦誘引し、部屋に入れてはタバコをやりながら話し掛けて時間を稼いでいる間、他のチームが紙で封した倉庫の戸を開けて焼酎を出した後は再び紙を貼っておいた。そのあと皆、秘密裏に一等航海士の事務所に集まり、冷凍マグロをつまみにして酒を飲んだ。まるで戦利品を分けで楽しむような気持ちだった。

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